盗んだものは売ってはいけません
もうちょっとイヴ姉とレイヴンのほわほわを書こうか迷って、結局やめてしまいました…。
時間飛びます。
三ヶ月前から今日に至るまで、俺はあることにハマっていた。
スリだ。
貧民街のお隣、市民街まで出れば色々な層の人々が行き交う。今日も今日とて、お隣の家のババアにほったらかされている俺は、暇なので街をほっつき歩いている。
最近気づいたのだが、俺は気配を消す能力に長けているらしい。消したいと思うと誰の意識からも外れてしまうようなのだ。
と言うのも、少し前に、お金の詰まった袋を持ってはしゃいでいた子ども数人にすれ違って、なんだオイ見せびらかしてんのかア″ア″と思って戯れに強奪してやったら、
「あれっ袋がない!?」
「おい、どこやったんだよ!さっきまで持ってただろ!?」
「え?あれ?落としたのかな」
などという愉快な喜劇を繰り広げてくれたのだ。
やばい、これ使えんじゃね?
ちなみに貰ったお金は家に持ち帰ってへそくりとした。
今日はリンゴ体型のおじさんの、ジャケットに繋がれていた懐中時計に通り過ぎざま手を伸ばした。
繊細な細い鎖がひやりと手に触れて、心臓がどくどくと跳ねた。
外れろ、壊れたら売れないし。
するりと、手のひらに時計が滑り込んできた。まるで俺の言うことを聞くみたいに思い通りに手に入る。
「…くふっ」
おっと、思わず悪人笑いをしてしまった。
街中でも、裏路地になんか入ってしまえば貧民街とそう変わらない環境だ。
裏稼業の大人たちはこういうところで店を出している。
懐中時計を売れないかなーと思って足を踏み入れると、怖い顔の大人達にギロりと睨まれた。
コワっ
額から、顔の中央に傷の走るおじさん手前くらいの男がにやりと笑った。
「小僧、こんなところに何しに来たんだ?あんまり背伸びをすると痛い目見るぞ」
他の男たちががはがはと笑った。
うわ、めっちゃ悪い大人だなー。
懐中時計をちらりと見せるとまた笑う。
「ああ、なるほど!小物を売りに来たってわけだ!んなの金にならねーよバーカ」
え、マジで。
こういうのって高いのかと思ってた。
がっかりして踵を返したら、男の一人に肩を掴まれた。
「…あ?」
何事かと思ってアホっぽい声を出してしまった。恥ずかしい。
男は汗をかいて、何やら慌てたように手を離した。
「…あっ、いや、あの、その時計を見せて貰えないだろうか」
「…これ?」
「……!こちらへ」
他の男は困惑して男を訝しげに睨むが、男はずんずん奥へ進んでいくし、俺が立ち止まっていると手招いた。
なんだなんだ。
実は高く売れるのかな。
……まさか裏世界のすごい人のものだったとか?それだと死ぬな。どうしよう。
でも男たちはどういうわけか、急にきちんと接してくるようになったし、死ぬことはないだう。
うん。なんか面白そう。
ついて行こう。