イヴ姉
家に着いたら、暗いのに家の前に姉キャラ、ならぬイヴ姉が立って心配そうに背伸びをしていた。
「おーい、イヴ!」
「あ、キャロル!今日もありがとう!レイヴン、ちゃんと食べた?」
「それよりもイヴ!大変なことがあったの!」
「え?」
キャロルに向ける顔が、不安そうにかげる。
俺をちらりと見たが何も言わずにキャロルに視線を戻す。
「大変なことって?」
「ほら、レイヴンちゃん、お夕飯の報告は自分でしなさい、ね?」
「ちょ、ちょっとキャロル、どうしたって言うのよ」
「まあまあ見ててよ」
今度はキャロルに期待のこもった目を向けられる。
イヴ姉に話しかけて欲しいらしい。
「……なんかの、肉、食べた」
夕飯の報告って言われても、俺には料理なんてこれっぽっちもわかんないし、何の肉かも正直考えて食べてないから覚えてないし、そもそも味のしない塊だったし。
美味しくはないよね。
それでもイヴ姉は口を手で覆って感動してくれた。俺の食レポにそんなに感動してくれるなんて本当に優しいな。大げさ過ぎて怒るよ。
「レイヴン…っ!!」
「ね?言ったでしょ。大変なことって」
「ええ!ええ!キャロルこれは大変だわ!お祝いしなくちゃ!ベチャ芋のパテを作らなくちゃ!」
これは一体なんの茶番なんだろう。
新手のサプライズ?嫌がらせ?
うっかり気分上げちゃったら「え、馬鹿じゃないの、そんなこと祝わないよ(鼻笑い)」とかされるんだ、そうに決まってる。
うぐ、堪えるな、それはキツい。
耳塞ごうかな。
「…レイヴン?」
「あら、はしゃぎすぎて嫌になっちゃったみたい」
「ごめんね、お姉ちゃんあんまり嬉しかったものだからつい大きな声出しちゃって」
あーあー何も聞こえない。
嫌になっちゃったとか聞いてないー。
「レイヴン、聞いてレイヴン」
イヴ姉が俺の両耳を塞いでいた手をどかして優しく握った。
イヴ姉の手はがさがさで荒れていた。
「レイヴン、私の声、聞こえてる?」
「…うん」
「ああ、レイヴン!本当に、本当なのね!喋れる日がくるなんて、本当に、嬉しかったんだから……もう大丈夫よ。怯えなくて大丈夫。お姉ちゃんがきっと守るから」
と、とりあえずハメられて笑いもの、ってことはなさそうだ。
どうしたらいいのかわからなくて身を固くしていると、またイヴ姉はごめんねと言って俺を抱きしめた。そしてそのまま抱き上げる。
「わ、わ」
「ふふっ」
「じゃあね。イヴ」
じたばたする俺の頭をなでなでしながらイヴ姉は家の中へ入って、その後しばらく下ろしてくれなかった。