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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第七章 平和へ向けて
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7-11 オーバーロード

今回は10話も同時投稿しております。是非、そちらもご覧ください。

 



 ーーーオリオンーーー


 海軍がウストカ沖で海戦を繰り広げているころ、陸上でも戦闘が起こっていた。ここでの主役は第一軍である。王国を攻めたときも、教国を滅ぼしたときも国境線で大王国軍と相対していた彼らにもようやくスポット当たったのだ。今までの鬱憤ーーここ一年は要塞に籠もったままだったーーを晴らさんと士気は非常に高い。

 東部国境地帯に築かれた要塞線は天然の要害を利用し、巧みに陣地が擬装されているため攻略は至難の業である。事実、大王国は一年近く攻めても第一線陣地すら奪取できず、徒らに将兵の骸を野に晒していた。


「突撃!」


「「「ウオォォォッ!」」」


 大王国の兵たちが要塞に向かって殺到する。丘陵地に造られた要塞に攻め込むためには丘を駆け上らなければならない。それなりの重さがある鎧を着て坂を駆け上がるのはかなりキツい。どう訓練しようとも速度は落ちる。絶好の的であった。


「撃てーッ!」


 矢の雨が降り注ぐ。敵兵は為す術なくバタバタと倒れた。さらに敵の行く手を阻むのは鉄条網。切断するのに時間がかかり、その間は動けない。訓練に近しい感覚で攻撃することが可能で、命中率は飛躍的に上がった。犠牲者は加速度的に増える。


「怯むな! 行けー!」


 指揮官が叱咤するが、実際に突撃させられる兵士からすればたまったものではない。死ぬのは自分たちなのだから。しかも自分たちの行く手を阻む鉄条網はひとつだけではない。二重、三重とあるのだ。これまで何度か攻撃をしてなんとか鉄条網を突破したのだが、一夜にして元どおりになっていて愕然となる。


「しかしよくやるよな」


 俺はそんな大王国軍を呆れて見ていた。敵はこのようなことを一年近く続けているらしい。本当によくやるよ、としか言いようがなかった。


「不謹慎ですよ、オリオン様」


 シルヴィにたしなめられる。でもなぁ……。あまりにもワンパターンすぎるだろ。攻め方は日中の総攻撃、夜襲などと変えているが、正面突破という方針は変えていない。バカ正直に要塞を正面突破しなくても、海路をとるとかさ。ま、これは帝国が制海権を確保したからできなくなったけど。大王国の狙いが要塞を正面突破することによる国威発揚なのはわかるが、これでは発揚するどころかだだ下がりである。死に行く兵隊も哀れだ。

 俺は要塞第三線ーー最終防衛ラインから前線の様子を眺めてそんな感想を抱く。そのような不幸をなくすため、少し手を貸してやろう。俺は諸将を集めて作戦会議を開いた。


「反撃だ」


 開口一番、俺はそう宣言した。


「「「っ!」」」


 場が色めき立つ。声はない。だが、目の輝きが変わった。


「決行は少し先になる」


「なぜですか?」


 ひとりが訊いてきた。俺は勿体ぶらずにその意図を明かす。


「情報部から、大王国が援軍を送ったとの情報が入った」


「ならば、なおさら急ぐべきでは?」


「いや。待つ。なぜならその指揮官は王子のトドリスだからだ」


「なるほど」


 反対意見を上げた幕僚は、俺が理由を述べると引き下がった。何をしようとしているか察したのだろう。俺はやられたらやり返す主義だ。右の頬を打たれたら右の頬を殴り返す。泣き寝入りなどあり得ない。エリザベスを捕らえようとしたのなら、こちらもトドリスを捕らえるのだ。


 ーーートドリスーーー


 まったく不甲斐ない! たかだか要塞ひとつを、一年かけても落とせないとは! 俺は伝令の報告に憤慨した。増援を求めるのはこれで何度目だ!? 無能め!


「父上! 司令官を解任しましょう! 一年かけても要塞ひとつ落とせない無能など、我が軍には不要です!」


 俺は我慢できずに父上にそう進言した。


「その通りです」


「大王様」


「解任すべきです」


 俺の意見に貴族たちが相次いで賛同する。父上もこれだけの貴族の意思を無視することはできないはずだ。


「……レノスはどう思う?」


 父上は弟に話を向けた。余計なことを言うなよ、と睨む。レノスは少し考えたあと、


「解任すべきだと、ボクも思います」


 賛成した。これでこの場にいる全員が司令官の解任に賛成したことになる。どうだ?


「……わかった。司令官を呼び戻すことにしよう。ならば、後任は誰が適当か?」


 それは俺だーーと言う前にレノスが待っていたかのような絶妙なタイミングで言った。


「それは兄上以外におられないでしょう」


「いいだろう。初陣を飾るにはちょうどいい機会だ」


 その進言に、父上は予想以上にあっさりと認めた。俺は肩透かしを食らった気がした。もう少し揉めると思っていたからだ。


「では準備を進めよ。トドリスは余について参れ」


 父上の言葉で評定は終わった。俺は別室に呼び出されて様々な注意を受ける。


「そなたには精鋭三万を与えよう。副将にも経験豊富な者をつける。その者の意見をよく聞き、軽挙妄動は控えよ」


「もちろんです」


「それと、帝国で内乱を起こさせる。混乱した隙をつけ」


「反乱、ですか?」


 俺は目を丸くする。父上はいつの間にそのような手配をしていたのか。


「この前、あのコムラとかいう外交官がきた際に寝返らせたのだ。あやつめ、あれから定期的に連絡を寄越してくる。マクドネル伯爵を筆頭に、不満を持っている帝国貴族が寝返りを決めたようだ。そやつらに帝国内で反乱を起こすように伝える」


「ありがとうございます。必ずや勝利を掴んで見せます」


「うむ。余の後継者に相応しいことを示してくれ」


「っ! はい!」


 そういうことか。これは俺が後継者に相応しいか試しているんだ。ふふふっ。やってやるぞ。そうだ。一日で陥落させたら驚かれるな。よし、そうしよう。


 ーーーーーー


 戦場に着いた俺は出迎えた司令官を首にした。


「なっ、なぜです!?」


「黙れ、無能が!」


 狼狽した様子だったが、俺からすれば自業自得だ。恨むなら俺ではなく、自分の無能ぶりを恨むんだな。納得いかないと抗議をしていなかったが、俺は一切取り合わなかった。やがて諦めたらしく、数人の従者とともにすごすごと帰っていった。


「殿下。戦場ではくれぐれも油断なされずーー」


「うるさい! 副将風情が俺に指図するな!」


 父上がつけた副将を怒鳴りつける。大将である俺の命令に黙って従っておけばいいのだ。主だった者を集めて会議を行う。そこで俺は作戦を説明する。


「明日、全軍で総攻撃を行う。兵士たちには十分な休養をとらせろ」


「お待ちください。戦場での油断はーー」


「黙れ! くどい! 誰か、この者をどこかへ閉じ込めておけ!」


「はっ」


 俺の命令通りに、部下が副将を連行すべく腕を掴む。


「お、お待ちください! わたしは大王様から副将に任じられーー」


「黙れ! 戯れ言に耳を貸すな! 連れて行け!」


「殿下! お考え直しを! 殿下ァ!」


 副将は叫び続けていたが、やがて聞こえなくなった。清々したな。


「まったく愚かしいことですな。殿下のご命令に逆らうなど」


「まったくですな」


「所詮、時流の読めぬ暗愚な輩なのですよ」


 部下たちが口々に言う。まったくだ。


「殿下。明日の勝利は確実ですな」


「何を言うか。まだ早いぞ」


「いえいえ。大王国には名将と呼ばれる人物は多くいますが、殿下はそれ以上です。そんな殿下が指揮なさるのですから、勝利は確実といえましょう」


 なかなか上手いことを言うじゃないか。副将の愚図とは違って、こいつはなかなかわかる人物のようだ。


「そうだ! 少し気は早いですが、戦勝の前祝いをしませんか?」


「待て待て。それはいかんぞ。酒に溺れては戦えん」


「一杯だけですよ」


「む……」


 それならいいのか……?


「やりましょう、殿下!」


「そうです。景気づけに」


「兵士たちにも特別に一杯許可しましょう」


「待て待て。我らのような貴族が兵士と同じというのはおかしい。兵士が一杯飲むなら、我らは二杯だ」


「それもそうだ。ならば平民一杯、貴族二杯といたしましょう」


「そう……だな。よし、飲もう!」


 そうして宴会が始まった。一杯目はひと息で飲む。それが大王国男子の心意気だ。


「さすが殿下。いい飲みっぷりでございますな! ささ、もう一杯」


「うむ。すまんな」


「お前、一杯目で赤くなりおって。下戸か?」


「そんらこふぉ、ありまひぇん」


「……こりゃダメだな。しかしせっかくの酒がもったいない。ーーというわけで某が代わりに」


「あっ! ズルいですぞ!」


「はははっ。そう言うな!」


「ぐぬぬ……」


 一瞬だが険悪な雰囲気になる。まったく。酒が不味くなるではないか。


「まあ待て。たしかにそれは不公平だ。しかし飲んだ分は仕方ない。よって二人とも、何か芸を見せよ。その褒美として酒をやることにしよう」


「「はっ!」」


 そう言って二人は芸を披露した。これが意外に面白く、俺は喜んで酒を振る舞った。


「では儂もーー」


「いや拙者がーー」


 などと次々と貴族たちが名乗りを上げる。そうやって酒を飲もうというのだ。まあ一回くらいは許してやろうかと思ったのだが、これがいけなかった。


「殿下。ひとつお願いが」


「なんだ?」


「芸のための小道具をご用意いただきたいのです」


「ほう。俺にしか用意できぬのか」


「はい」


「よかろう。酒の席だ。うるさくは言わん。それで、何が欲しい?」


「甕一杯の酒を。酒の強さには自信があります」


「面白い。よかろう」


 俺は要望通り酒甕を用意してやる。男は見事、甕一杯の酒を飲み干した。


「「「おおっ!」」」


 歓声が上がる。ふむ。俺より目立つのはなかなか腹立たしいな。だがここで罰するなどは漢の名折れ。正々堂々、同じことをして勝負だ。


「よし! 俺もやろう。甕を持て!」


 運ばれてきた酒甕を持ち上げ、口をつける。そして俺もすべて飲み干してみせた。


「「「おおっ!」」」


 再び歓声。今度は先ほどより少し大きい気がした。


「どうだ!?」


「さすが殿下です!」


「素晴らしい飲みっぷり」


「我らには到底真似できません」


 皆、口々に俺を讃える。どうだ!?


「殿下もなかなかですな。ならば二杯目といきましょう!」


「望むところ!」


 俺たちは飲み比べをした。そこからの記憶がない。覚えているのは、酒が進んで騒ぎ始めた部下たちと、矢のようなものが胸に何本も突き刺さったことだけだったーー。


 ーーーオリオンーーー


 奇襲は大成功だった。攻撃を仕掛けたとき、大王国軍は酒盛りをしていた。完全に油断していたため、奇襲を受けて大混乱に陥る。まともな抵抗もできずに打ち破られ、大王国軍は呆気なく壊滅した。捕虜にした敵幹部の話だと、トドリスは戦勝の前祝いと称して宴会を開いたそうだ。最初は二杯だけのはずだったが、トドリスたちは飲み比べを始めて泥酔してしまったという。そこへ帝国が奇襲をかけたというわけだ。なんとも呆気ない。

 そのトドリスは戦死していた。幹部用の天幕で、心臓に矢が刺さった状態で見つかっている。副将に率いられた一団こそ取り逃がしたものの、あくまでも一部。主力は壊滅したため、大勝利といっていいだろう。


「シルヴィ。戦果と損害は?」


「敵の戦死者二万、捕虜八千。味方は戦死五百、戦傷二千ほどです」


「よし。負傷者と要塞にいた者たちは後詰めとして残れ。戦後処理を任せる。その他には十分な休息をとらせ、明日の出立に備えよ」


「はい」


 シルヴィはそうして去っていった。入れ替わりで幕僚が入ってくる。


「ご報告します。マクドネル伯爵率いる反乱軍がバスチーユ鉱山を襲撃。内乱に参加して鉱山で無期懲役に服していた旧フィラノ王国元第一王子ダンを解放しました。これに対してウィリアム第一皇子殿下率いる特殊戦闘隊が出動。鎮圧しています。反乱に加担した貴族屋敷も、警察によって接収済みです」


「自滅したか……」


 マクドネル伯爵が反乱を企てていたことは知っていた。というより、唆したのは俺である。コムラ子爵として大王国で受けた仕事を果たした。国内の反乱分子一掃セールの起爆剤にもなってもらったが。これに参加した者は貴族位などを剥奪されることになるだろう。ま、それは司法府の判断に任せよう。

 報告は続く。


「また、クレア元帥率いる海兵師団はウェバへ上陸。王都へ向けて進撃中とのことです」


「よし」


 第一軍、第三軍といった巨大な軍勢に注目を集め、攻撃箇所を二箇所だと思わせる。防御のために戦力が集中するように仕向けるのだ。そうして手薄になった大王国の北東部の港町であるウェバに海兵師団を上陸させ、一帯を占領させる。予想外の手に大王国側は混乱。対応が後手に回っている間に第一軍も侵入して北部を占領するーーこれが対大王国戦用に策定された『オーバーロード作戦』の概要だ。不利な状況でも海戦から入ったのは、この作戦を成功させるためであった。作戦の第一段階は完了し、次は第二段階ーー王都の包囲にさしかかる。

 翌日、俺は全軍に進撃を命じた。




次回も2話同時投稿となります。よろしくお願いいたします。

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