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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第七章 平和へ向けて
91/140

7-10 ウストカ沖海戦

今回は11話も同時投稿しております。是非、そちらもご覧ください。


【謝辞】


前回の投稿で1800PVを突破いたしました。ありがとうございます。これからもよりよき物語を提供できるよう励んでいきますので、よろしくお願いいたします!

 



 ーーーオリオンーーー


 水明園で一夜を過ごした日から一ヶ月が経った。それまでにクレアは大王国南部の切り取りを完了し、防備を固めて万全の態勢をとっていた。俺は第三軍に配していたダグラスを戦時特例で中将にし、南部方面の防衛を担当させた。その一方でクレアを召還して手元に置いている。これらの準備が完了した段階で作戦は発動され、全軍が一斉に大王国へと進発した。


 ーーーセンーーー


 わたしはセン・シルバ。皇帝陛下から史書編纂の命を受けた者である。これはわたしが聴いた、『ウストカ沖海戦』の記録である。


 ーーーーーー


 帝国歴十一年五月二十七日。この日、帝国史を語るにおいて欠かすことのできない戦いが起こった。ウストカ沖海戦である。

 帝国は大王国への大攻勢をかけた。そもそもは初代オリオン帝の寵姫であった第三皇妃と当時皇太女であった二代エリザベス帝が大王国の使者に侮辱されたことが発端である。オリオン帝は外交交渉で事態の収拾を図ったが、大王国側は王国や教国を取り込んで対決姿勢を鮮明にした。事ここに至っては開戦やむなしと判断したオリオン帝は三国に対して宣戦を布告。王国に痛撃を与え、教国を滅ぼした。そしてこの戦争の決着をつけるべく、大軍を大王国に向かわせたのである。最初からドラゴンを投入し、帝国の全戦力をつぎ込んでいた。

 一連の戦いで一番最初に起こったのがウストカ沖海戦である。帝国海軍の一大根拠地であるクレタ島のパース。そこへの抑えとして大王国領の最寄りの港であるウストカに、同国の全海軍戦力が集結していた。帝国海軍はこれを撃滅し、以後の海上航路の安全を確保することを目的として作戦行動を開始した。

(帝国歴十一年)五月二十六日。帝国海軍がパースを出港したとの情報があり、大王国海軍も迎撃のために出港した。初日は会敵できなかったものの、翌二十七日の早朝に両軍は互いを視認した。このときの戦力は、


 《帝国海軍》ガレオン二十四隻、クリッパー四十八隻


 《大王国海軍》ガレオン六十隻、フリゲート十隻


 と大王国軍が優位に立っていた。帝国は数で劣勢に立たされていたものの、艦隊司令官ネルソン海軍中将は冷静に勝利を掴むためにあらゆる努力をした。風上に立ち、太陽を背に進む。そして艦橋の上で指揮をとり続けた。

 しかしここでネルソン提督は奇妙な命令を発した。艦隊を二つに割ったのである。ガレオンのみの艦隊(ネルソン提督直率)と、クリッパーのみの艦隊(バーク海軍大佐指揮)とに。

 さらに奇妙なことは続く。ネルソン提督は距離が近づいても一切攻撃を命じなかったのである。対して大王国海軍は攻撃を開始しており、帝国海軍は一方的に撃たれた。先頭を進む旗艦は特に激しい攻撃を受け、死傷者が続出する。見ていられなくなった士官のひとりがネルソン提督に進言した。


「やられっぱなしではたまりません! 攻撃のご命令を!」


 と。しかしネルソン提督は黙して答えない。旗艦は異様な雰囲気に包まれたという。


「司令官! 各艦が攻撃の命令を催促しております!」


 通信を担当する士官がネルソン提督に伝えた。しかしネルソン提督は、


「不許可だ」


 とだけ答えた。いよいよ場の空気が剣呑なそれに変わる。将兵の間にネルソン提督が裏切ったのではないかという噂が立った。参謀長や艦長は、ネルソン提督を押し込めようかと迷ったという。だがその直後、ネルソン提督が始めて指示を出した。


「魔法兵に連絡。攻撃準備」


「用意できております!」


 士官は即座に答えた。彼らはその命令を今か今かと待ちわびていたのであり、準備に余念がなかった。


「よろしい。では左回頭。敵艦隊の頭を押さえる。攻撃のタイミングは自分が指示する。また、バーク大佐に信号。『全速前進。その優速を活かし、敵艦隊を分断せよ』」


「はっ!」


 将兵は弾かれたように動き出した。帝国ガレオン艦隊は左に急速回頭。これにより反航戦になるかと思われた艦隊戦は、にわかに海戦史上見られない特異な形に持ち込まれた(戦闘詳報を見たオリオン帝は、この戦型を『T字戦』と名づけた)。

 帝国ガレオン艦隊は左回頭のあと、大王国艦隊を右手に捉えた。瞬間、ネルソン提督が吼える。


「魔法攻撃ッ! 続けて艦隊前列の六隻は面舵いっぱい! 敵艦隊に白兵戦をしかける! 後続も倣うように!」


 ネルソン提督の指示に乗員はよく従った。順次行われた魔法攻撃により、大王国艦隊の旗艦ほか数隻の戦闘能力を一時的に奪うことに成功した。両艦隊の距離はぐんぐん縮まり、白兵戦に移る。大王国艦隊は数の優位を活かしたいところだったが、それはできなかった。邪魔をしたのが、途中で分離した帝国クリッパー艦隊。ガレオンの比ではない快速を誇る彼らは、大胆にも大王国艦隊の戦列に割り込んだのである。すれ違いざまに攻撃を加え、疾風のごとく離脱するーーと思えば舞い戻ってきて再び割り込み、戦列を大混乱に陥れた。このクリッパー艦隊の活躍により、大王国艦隊は艦隊を分断されてしまった。一度崩れた戦列を戻すことは容易ではなく、まごついている間にネルソン提督率いる帝国ガレオン艦隊が、孤立した大王国艦隊のガレオン八隻を鹵獲してしまった。実に鮮やかな手際である。が、ネルソン提督はそれだけでは終わらない。


「艦隊は敵艦隊を挟撃するように二列縦陣を組め。左右どちらの列につくかは各自の判断に任せる」


 という指示を出し、自らは先んじて大王国艦隊に向かっていく。他の帝国ガレオンも見事な艦隊行動を見せ、瞬く間に二列縦陣を組み上げる。クリッパー艦隊は味方ガレオン艦隊の動きを見るや、サッとその場を離脱していった。大王国艦隊はクリッパー艦隊の脅威が去ったと安堵したのもつかの間、今度はガレオン艦隊に挟撃される羽目になった。未だに数こそ優っているが、戦列は崩されてその戦力を大きく削がれていた。注意して攻撃しないと味方に当たってしまうからである。


「パンのようだった」


 というのは、ある士官が丸くまとまった大王国艦隊を揶揄した言葉である。

 このように混乱の極みにあった大王国艦隊に対し、帝国艦隊は整然と行動した。間に大王国艦隊がいるために誤射の危険性は極めて低く、思う存分攻撃を加えることができた。大王国艦隊の被害は加速度的に増え、特に外縁部にいた各艦は深刻であった。魔法、投石、矢などありとあらゆる遠距離攻撃によって破壊し尽くされていたのである。

 猛烈な攻撃を加えた帝国ガレオン艦隊は徐々に距離を詰め、白兵戦に移行した。ネルソン提督の旗艦も接舷し、白兵戦を展開。五隻を鹵獲する大戦果を挙げた。

 大勢が決すると、帝国艦隊は仕上げにかかった。遁走を図る大王国艦隊に対し、待機していたクリッパー艦隊をはじめとして追撃をかけた。彼らは快速かつ数が多かったため、逃げ切れた大王国艦隊の船は一隻のフリゲートを除いていなかったという。

 では、その一隻はどのようにして離脱に成功したのか。それは、この海戦を帝国の華々しい勝利に導いたひとりの英雄の死に起因していた。そう。ネルソン提督の戦死である。帝国クリッパーに追われたフリゲートがすれ違いざまに矢で攻撃したところ、偶然にもネルソン提督に命中。それが致命傷となったのだった。これはすぐさま近くの味方にも伝わり追撃していたクリッパーが救援に従事した結果、フリゲートは難を逃れたのだ。

 オリオン帝は勝利を喜ぶ一方でネルソン提督の死を惜しんだ。葬儀はカチンで国葬され、参列者は十万人を超えたという。また葬いとしてネルソン提督は海軍大将に特別昇進。子爵位を遺贈された。遺児(女子)はオリオン帝に引き取られている。また皇族を除いた史上初の一等勲章を贈られた人物となった。

 帝国はネルソン提督を失った。しかしこのウストカ沖海戦に勝利し、制海権を手中に収めたことは帝国に計り知れない利益を与えた。戦略的な意義はとても大きかったといえる。




今回の話はセンの語りで進行しましたが、モデルは司馬遷です。オリオンが生み出した歴史家ということでご理解を


誤字を訂正いたしました。


次回も2話同時投稿となります。よろしくお願いいたします。

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