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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第一章 成長
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1ー8 義理の家族




ーーーオリオンーーー


 本宅の玄関には五人の人が待っていた。執事がひとり、メイドが四人である。そのうちの三人は見覚えがある。ヘルム執事以下、前にここに来た時に出迎えてくれた人たちだ。他は知らない。馬車が止まり、ロバートさんが扉を開けてくれる。タラップの前に姿を見せると、ロバートさん以下、その場にいた人たちが一斉に頭を下げた。思わぬVIP待遇に面食らう。それでもここ数年、主にメリッサさんによって施された貴族教育で上位者の振る舞いというものを叩き込まれている。内心の動揺を隠し、平然とした様子で馬車を降りる。地面に足がついたタイミングで全員が一斉に頭を上げた。……この人たち、頭に目でもついているのだろうか? 俺がそんな疑念に囚われている一方で、ロバートさんがヘルム執事に指示を飛ばす。


「オリオン様は私がご案内します。ヘルム、君は馬車をしまいなさい。あなたは先行して旦那様にオリオン様のご到着をお知らせするのです」


「はい」


「承知しました」


 これだけでもロバートの人を使うカリスマと有能さが垣間見れる。彼がくるっとこちらに向き直れば、先程までの上に立つ者としての顔ではなく、優秀な執事としての顔を見せる。


「それでは参りましょう」


 先を促されて本宅に足を踏み入れる。前に来た時よりも装飾品が増えている気がするのだが、気のせいだろうか? それに加えて、すれ違う使用人たちが頭を下げてくるので居心地が悪い。……慣れねば。

 そうこうしているうちに目的地に着いたらしく、ロバートさんの足が止まる。彼の前にある扉はなんとも品がない。木材が磨かれてピカピカになっているのはいい。だがそれを覆い隠さんばかりに施された金細工はいけない。注文した人物のセンスを疑う。どういう感性をしていればこんな下品な細工を注文できるのだろうか?


「立派でございましょう? これは奥様が旦那様のもとに嫁がれた際、王国一の職人に作らせたものです。これだけで庶民が十年余りは働かずに暮らせるだけの値があります」


 犯人は父か! というか、今の言葉は皮肉ですよね? ね? 信頼してますよ、ロバートさん!


「さあどうでしょう?」


 信じてますから!


「この先に皆様お揃いです。ささ、中へーー」


 ロバートさんは明確な答えは返してくれず、話を逸らすように重厚な扉を開けた。ギギッ、と見た目に恥じない重厚な音がした。扉の先にはレナードと知らない二人の男女がいる。片方はお腹といわず二の腕、太ももに顔と、とにかく脂肪をでっぷりと蓄えた中年女性。もうひとりは上等そうな生地でできた服を着た、小学生くらいの少年だ。この三人が義理の家族になる人々だろう。だがご対面してそれから何をすればいいのかさっぱり分からない。というかどうしろと……。しばらく考え、無難に自己紹介をすることにした。


「こんにちは。今日からお世話になるオリオンといいます。よろしくお願いします」


 我ながらハキハキとしていい挨拶だったと思う。中学受験の面接のときのようだ。あの後は地獄だったなぁ。同級生どころか教師にも虐められるし。水筒の中身が泥水とかありえないだろ。それを『知らない』なんてシラを切り、教師は教師で『お前が間違って入れたんじゃないのか?』なんて。お茶と泥水を間違えて入れるなら、普通の学校には通えないからね? そこんとこ理解してたのか、あのクソ教師。

 おっと、ついダークサイドに落ちてしまった。自分でトラウマスイッチ押すの止めよう。不毛だ。

 意識が別方向に向いているうちにもレナードが『よく来たな』と歓迎してくれていた。さらに『これからはーー』とまで言ったところで、隣の女の方が高笑いを始めた。いや、オブラートに包んだ表現は止めよう。女は哄笑した。


「オーッホッホッホ! なんと品のない挨拶か。さすが、下賤な親に育てられただけのことはある。フィリップ。手本を見せて上げなさい」


「はい。母上」


 女の命令で少年が前に進み出た。名前はフィリップというのか……。歳は俺の少し上。獣の顔を持つ父親と不細工が服を着て歩いている母親との間でどうやって生まれたのかは知らないが、彼の顔は整っていて、有り体にいえばイケメンだった。爆発しろ。


「はじめまして。僕は大商人の父、レナード・ゲイスブルクと、フィラノ王国建国時の功により子爵に列せられたマルゴ家の十四女たる母、カトレア・ゲイスブルクの息子であるフィリップ・ゲイスブルク。穏やかな陽の光が降り注ぐ今日の佳き日に貴殿に出会えたことを嬉しく思う」


 大げさな身振り手振りを伴った長口上はフィリップの小ささもあってヒトラーの演説を想起させた。こんな人間、友人の友人のそのまた友人のでも即お断り。アニメならワン切りでクソアニメ枠にホールインワンは必至である。つまり言動が痛々しい。顔はいいのに言動が残念という、二次元世界に棲息する残念イケメンを見事に体現していた。

 もしひとりならあちゃー、と言いたくなる振る舞いだが、世の中には様々な感性をお持ちの人がいらっしゃる。故人日く、『(たで)食う虫も好き好き』である。


「素晴らしい! 素晴らしいわ! なんてよくできた子なんでしょう、フィリップちゃんは。さすが、(わたくし)の生家、マルゴ子爵家の血が流れているだけあるわ。これなら将来、王宮で大臣を務める上級貴族になるのも夢じゃないわね。もしかすると、お嫁さんは王女様で、王族の仲間入りかもしれないわ!」


 ベタ褒めである。手を叩いて大声で愛しい(?)息子・フィリップを大絶賛しているが、アンタ感性おかしいよ! ストッパーとしての役割を期待したレナードは苦い顔をして黙っている。ははーん。尻に敷かれてるわけね、可哀想に。つーか、あの物言い、下手したら王族に対する不敬罪じゃないの? 王女様が嫁とか、王族の仲間入りとか。せめて心の中で言ってほしい。

 しかしこれで分かったことがある。あのグラマラスオバサンーーええい、面倒くさい。もう豚でいいわ! その豚は貴族至上主義なのだ。何の根拠もなしに貴族が偉いとか思ってるバカ。で、商家に嫁ぐことになって貴族という身分を失い、それを取り戻そうと躍起になっている、と。フィリップに教え込んだ高貴な挨拶(笑)がやたらと貴族の血を引いていることを強調しているのも貴族に返り咲くための布石なのだ。栄光の日々をもう一度、というところか。ただ十四女がそんないい暮らしができていたとも思えないんだけど。いずれにせよ下らない。

 それに母をバカにしたことも気に食わない。発言を訂正させたり撤回させないレナードにも失望した。ロバートさんはレナードが母を愛していたと言っていたが、本当にそうなら愛する人を貶されて黙っていられるわけがない。愛はあったのかもしれない。だが、所詮は時間とともに冷める愛だったのだ。こいつらは絶対に許さない。忘れないうちに秘密の『絶対に許さない奴リスト』に載せておく。豚よおめでとう。君がレナードを抜いて一位だよ。

 豚嫁の尻に敷かれている父。かかあ天下の豚。豚の言いなりロボットの義兄。義理の家族との出会いは、ひたすら俺が不快な思いをするだけに終わった。




フィラノ王国では貴族(あるいはそれに準ずる特権階級)は王族、上級貴族、下級貴族があります。


・王族……本家と分家に分かれます。本家は現在の王を輩出する家のこと。分家は王国内にある公国に公王として即位している初代国王の血を引く家で、四家あります。


・上級貴族……公爵、侯爵、伯爵が該当します(公爵>侯爵>伯爵の順)。国の運営に携わる層です。このうち公爵は王族の血縁者のみしかなれません。


・下級貴族……子爵、男爵、騎士、名誉貴族が該当します(子爵>男爵>騎士、名誉貴族の順)。騎士、名誉貴族は一代限りの貴族位で、世襲は不可能です。騎士以上の者は上級貴族に従属し、街の代官や執政官として生活しています。名誉貴族は本当に名前だけの存在で、特権といえば王城への出入りがしやすくなることくらいでしかありません。

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