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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第七章 平和へ向けて
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7-7 クルセイダーズ

【お詫び】


前回の投稿の後書きに、この話の後書きが挿入されていました(現在は削除しています)。改稿作業中のミスです。申し訳ありません


【注意】


前半は文章になっています。重ね重ね、申し訳ありません。どうかお付き合いください

 



 ーーーアナスタシアーーー


 わたくしが聖女となったのはまだ十にもならないころのことでした。選ばれた理由はよくわかりませんが、両親は喜んでわたくしを教会に預けました。

 中央神殿で生活することになり、そこでわたくしは聖女としての教育を受けました。聖女といっても、伝承にあるように神の声を聞けるわけではありません。神が宿るため、あるいは神へ捧げるための存在です。そのため、教会の指示には逆らわないこと、貴族子女のような優雅な振る舞いをすること、ひと通りの宗教儀礼などを教えられました。

 こうして月日が流れ、わたくしは十五になりました。ひと通り必要な教養を修めたということで、聖女のお披露目として全国を回ることになりました。そこで目にしたのは、中央とはまったく別の極貧生活を送る地方の人々でした。全国行脚を終えて聖都に帰ってきて改めて見ると、教会の腐敗に嫌でも気づかされます。


 地方の痩せた聖職者に対して、でっぷりと肥え太った中央の聖職者。


 信仰の証であるリンゴのペンダントをつけただけの地方聖職者に対して、身体中にアクセサリーを身につけた中央の聖職者。


 教義で謳っている『絶対神様の教えを実践する聖職者は清貧たれ』を平然と破っています。それがわたくしはどうしても許せませんでした。そのときわたくしに宗教改革を起こそうと持ちかけてきたのは、のちの新教国教皇ウーゴでした。わたくしはそれに乗り、支持者の獲得に奔走することになりました。幸いにも地方の聖職者たちは賛成してくれ、その考えに賛同する信者を集めます。そして拠点を南部に置くとして、その中心都市を新たな聖都とすることを決めました。メンバーは少しずつ期間をずらしつつも仕事として南部に集結。わたくしも仕事として南部に行き、そこで絶対神様の教えを実践する正統な教会の樹立を宣言しました。

 ところが程なくしてわたくしはウーゴの手によって都市の一画に幽閉されてしまいました。外出は許されず、自由はありません。そんな生活がしばらく続きました。その間、わたくしは考えました。何が悪かったのだろうと。考え抜いた末に、わたしくしは気づきました。ウーゴが宗教改革の話を持ち込んだタイミングがあまりにもよすぎたことに。わたくしが同意してから、計画はトントン拍子に進んでいったことに。

 ……もうこの世に本人はいないのでわかりませんが、ウーゴはわたくしを改革に賛同する信者を集めるために利用したのでしょう。結局は彼も、中央の腐敗しきった聖職者と変わらなかったのです。わたくしはそれを見抜けず、いいように利用された……。ウーゴからすればさぞかし滑稽だったでしょう。

 この件で思い知ったのは、世の中綺麗事だけでは動かないということです。その点、わたくしはとんだ世間知らずだったのでしょう。わたくしは二度とこのような悔しい思いをしないように、また今度こそ絶対神様の教えを実践できる教会を作ろうと決意しました。そのチャンスは逃さないとも。そのために勉学に励みました。そういったことは特に禁止されなかったので、ひたすら自分磨きに没頭できました。

 チャンスはすぐに訪れました。新教国が戦争に敗れたのです。この混乱で幽閉先の監視も緩み、なんとか脱出の目処が立ちそうでした。ある日の夜。わたくしは夜陰に紛れて幽閉先を脱出しました。噂によると、新教国を破ったのは教国と新興の竜帝国だそうです。

 わたくしはどうにか竜帝国の関係者がいる場所を聞き出し、そちらへ向かいました。国による庇護は欠かせませんが、まさか教国に受け入れられるはずがありませんからね。選択肢はないわけです。

 竜帝国を選んだのにはもうひとつ理由があります。幽閉先の使用人が噂していたことですが、竜帝国は宗教にとても寛容だというのです。わたくしたちは絶対神様以外を信仰することを認めておりません。それはフィラノ王国も同じだったのですが、竜帝国では竜神を祀っているとのことでした。しかし他宗教についても、弾圧などは一切行われていないといいます。使用人たちは竜神を祀るという竜帝国をしきりに批判していましたが、わたくしにとってはこれ以上ない相手です。竜帝国の使者と名乗る人物ーー実際は皇帝オリオン様ーーと面会に成功。わたくし自身をカードに使って、協力に好意的な返答を引き出しました。当初はまた騙されたらどうしようという不安がありましたが、今ではこの判断は間違っていなかったと心から思えます。

 その後、オリオン様は旧新教国領の円滑な統治のためにわたくしを統治の責任者である総督に任じてくださいました。その甲斐あって教国領となった隣とは大違いで大きな騒乱もなく、平穏な日々が続きました。政務はとても激務でしたが。

 それだけでもとでありがたいことでしたが、オリオン様は新教国全土を併合するというお考えをお持ちでした。わたくしの名を出し、旧新教国の民たちを集めたのです。こうして集められた民たちは帝国軍の正規の訓練を受け、神の戦士団『クルセイダーズ』として、教国でゲリラ戦を展開しました。

 そして月日は流れ、帝国は大陸の三国と同時に戦争することになりました。わたくしも他人事ではありません。なぜならわたくしはクルセイダーズのリーダーなのですから。


「みなさん、絶対神様の教えを回復するため、悪しき腐敗を正すため、教国を滅ぼすのです!」


「「「オオーッ!」」」


 団員たちが拳を突き上げて応えてくれます。オリオン様の命を受けたわたくしはクルセイダーズ改め、竜帝国陸軍第二旅団を率いて教国南部へと攻め込みました。総勢五千五百の軍勢です。建前上の指揮官はわたくしですが、実質的な指揮官はダグラス・キャンベル陸軍少将。次期キャンベル侯爵です。お父君や叔父君に似て、軍才に秀でているそうです。


「偵察部隊の報告では、敵軍は街ごとに籠っているそうです」


「狙いは何なのでしょう?」


「捨て駒……でしょうね。聖都に迫る敵を少しでも減らすための。推測ですが、大王国から援軍が送られるのでしょう。それを待っていると思われます」


 ダグラス少将は淀みなく答えます。敵が散っているだけでそこまで推測できるなんて、やはり優秀なお方なのですね。


「無視して進みますか、閣下」


「いや。それはまずい。下手をしたら我らの後背を突かれるかもしれない。数は少ないが、まとまればそれなりの数だ」


 指揮官のひとりが提案しましたが、少将は却下しました。たしかに挟み撃ちにされるのはまずいですね。


「閣下」


 その場の人々が思案するなか、よく通る声とともにスッと手が挙げられました。手の主はーー、


「どうした、エリザベス中佐」


 皇太女エリザベス殿下でした。近衛第二大隊を連れての参戦です。この大隊の別名は『バタリオン・オブ・グロリアーナナイツ』。隊員のほとんどがナハ戦役で殿下とともに戦った勇士たちであることから名づけられたそうです。殿下はもちろん、オリオン様の信任篤い帝国軍の最精鋭といえるでしょう。

 前回の戦役で、殿下の才覚は誰もが認めるところとなりました。それゆえに皆が注目します。もちろんわたくしも。しかし殿下は少しも臆した様子はなく、自信をもって提案されます。


「私に考えがあります」


「どのような?」


「クルセイダーズのメンバーは各地に散っていたはず。彼らなら、街への抜け道などを持っているはずです」


「なにっ。そうなのか?」


 少将はこの場にいるクルセイダーズの実働部隊トップに訊きました。


「はい。我らはすべての街に拠点を構え、抜け道を作ってメンバーの出入りに使っていました」


「なぜそれを言わない」


「潰されているかもしれないので」


「残っていればわざわざ城攻めをする必要がなくなる。試してみる価値はあるぞ。今後は、そのようなものも報告するようにしてくれ」


「はっ」


「ではクルセイダーズの案内で抜け道を探し、ある街から攻略することとする」


 このように作戦方針は決まり、それぞれが行動を開始しました。まず攻略対象の街へ、クルセイダーズのメンバーを案内に立てた偵察隊が向かい、抜け道の有無を確認しました。幸いにも、ほとんどの街で抜け道は残っていたそうです。これはのちに捕虜を訊問して聞き出したことですが、教国側はクルセイダーズが野外の森や洞窟に潜んでいると考えていたそうです。まさか自分たちのすぐ近くにいたとは思わないでしょう。

 軍は帝国の国旗である翼を広げたドラゴンを描いた旗と、部隊旗である十字の先端にりんごをあしらった旗の二種類を掲げて進軍します。最初の街は全軍で攻撃しましたが、守備兵があまりにも少なかったので拍子抜けしました。聞けば、街の防衛は住民にやらせ、その監督にわずかな兵が残っていただけだそうです。……考えが卑しいですね。

 しかしそれがわかればこちらのもの。以後は三手に分かれ、それぞれが街を陥落させていきます。わたくしはただそれについて行くだけだったのですが、


「アナスタシアさん」


「エリザベス殿下」


 なぜか、わたくしのところにエリザベス殿下がやってきました。


「殿下はやめてください。今の私はいち中佐です」


「それを言うなら、殿下もわたくしを『さん』づけで呼ぶ必要などありません。わたくしはいち臣下なのですから」


「お父様のご寵愛を賜っているのですから、フィオナさんと同じですよ」


 うっ。なかなか痛いところを突かれたわ。たしかにオリオン様にはこの身を差し出し、さらには子どもがいます(これは秘中の秘です)。立場的には公式の妻(正室や側室)ではなく妾ーーつまり神祇官長官のフィオナさんと同じといえるでしょう。それにわたくしは反論できませんでした。

 ……というよりこの子、まさか嫉妬してるの? まさかね。


「ーーと、そんなことを言っている場合ではなかったです。今回はアナスタシアさんにお願いがありまして」


 エリザベス殿下のお願いとは、民心掌握のために街を回ってほしいというものでした。新たな指導者であるわたくしがいるということで、信者たちを安心させるためだそうです。


「それは構いませんけど……いいのですか? 今なら強制的に改宗させることもできますけど」


「ええ。問題ありません。強制的に改宗させたところで、反対勢力が大なり小なり反抗しますから。かつてのクルセイダーズのように。それにこれは、お父様も賛成されています」


 なるほど。いかにもオリオン様が考えそうな突飛な案ですね。


「わかりました。お手伝いしましょう」


 わたくしは街村を巡り、エリザベス殿下の話を人々に話しました。竜帝国はあなたがたの信仰を変えようとはしていない。彼らの敵は信仰ではなく、腐敗しきった教会なのだと。そしてこう求めました。


「このように、ドラゴンを崇められる皇帝陛下は、異なる存在を信奉するわたくしたちを許容してくださっています。ならばわたくしたちも、異なる存在を信奉することを許容すべきではないでしょうか?」


 と、思ったことをありのままに伝えました。わたくしたちは絶対神様を信仰しない人々を邪教徒として忌み嫌っていました。フィオナさんはドラゴンを崇拝していたといいますが、それもわたくしたちが邪教とみなしていたものです。

 ですが、オリオン様はどうでしょう。あの方は自身と何かが違うからといってそれを変えようとはされません。むしろそれを許容されます。許容され、自身に非があればすぐにそれを改めます。そのような姿を何度も見てきました。わたくしはなぜそのようなことができるのかと訊ねると、オリオン様はこのようにお答えになられました。


『例えば威力は高いけど魔力がたくさん必要な魔法を使う人と、威力は低いけど魔力をあまり必要としない魔法を使う人がいるとする。そして互いに自分が使う魔法を推すんだ。どうなると思う?』


『ずっと互いに相容れないのでは?』


『そういうケースもあるな。だが、俺が考えたのは白熱した議論の結果、威力が高くて魔力をあまり必要としない魔法ができる、だ』


『? どういうことですか?』


『つまり、互いの長所を折り込んだ魔法ができるというわけだ。もちろんアナスタシアが言ったように、折り合わない場合だってある。でも、互いに協力した方がよりよい結果になる可能性があるんだ。この場合、折り合わなければ何も生まれなかったーー違うか?』


『たしかに……』


『俺はそう思うからこそ、自分と異なる存在を受け入れるのさ』


 もちろんこのやりとりを人々に語って聞かせることはできません。ですが、異なる存在を受け入れたことでオリオン様が言う『よりよい結果』になることをわたくしは願うばかりです。

 わたくしの民心掌握は、とりあえず成功したといえるでしょう。あの演説がきっかけだったのかはわかりませんが、信者たちはあまり騒がなくなったといいます。


「す、凄いですねアナスタシアさん……」


 エリザベス殿下からはこのように言われました。わたくし、何も特別なことをした覚えはないのですけど……。

 ただ後方に憂いがなくなったため、進軍スピードは上がりました。後世に名高い『十字軍クルセイダーズの騎行』です。




【補足】


エリザベスが驚いているのは、アナスタシアが聖職者(地域の顔)を抱き込んで慰撫するのではなく、民衆ひとりひとりから支持を集めたからです。ぶっちゃけ、アナスタシアはソフィーナ級の優秀な人材(人心掌握の天才。三国志の劉備的な人)

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