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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第七章 平和へ向けて
83/140

【お正月スペシャル】朝賀のお茶会

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。


新年一発目の投稿は【お正月スペシャル】です。本日から7日まで連続投稿いたします。

 



 ーーーオリオンーーー


 どこの世界でも新年を祝うという風習は変わらないらしく、この世界にも新年を祝う文化がある。それを竜帝国では『朝賀儀礼』と称していた。由来は皇帝の国、中国である。新年を祝う行事を、かの国では『朝賀』といって重要視されてきた。なおそれに関連して、春に皇帝と謁見することを『朝見』、秋に謁見することを『請見』という(竜帝国でも採用)。

 この朝賀儀礼は帝国の建国以来必ず行われている。流れとしては早朝ーーまだ陽も登らない時間に専用スペースである『朝日の間』に集まってご来光を一緒に拝む。そして新年を祝い、パーティーへ突入するのだ。こうして聞けば楽な行事に思えるかもしれないが、当事者からすればとんでもない誤解である。なぜか。それは新年を祝う数時間前ーーつまり大晦日ーーには同じように集まり、旧年を惜しむパーティーがあるからだ。そこで飲めや飲めやの大騒ぎ。寝る間なんてない。さらに新年のパーティーだって一日では終わらない。少なくとも三日は行われる(さすがに寝る時間はあるが、会場には必ず誰かがいる)。さて、これでも『楽だ』と言える奴は出てこい。お話をしよう。

 さて、今回はそんな朝賀儀礼のお話である。


 ーーーーーー


「今年もこのイベントがやってきた……」


「ですね……」


 年が明けちゃうね残念パーティーを終えた俺とアリス以下の皇后・皇妃たちは、朝賀儀礼までの休憩時間を城の一室で沈痛な面持ちで過ごしていた。恐らく他の出席者も同じだろう。体力的に限界なのだ。


「うぅ……」


「大丈夫、エリちゃん?」


「はい。ありがとうございます……」


 エリザベスが憔悴しきっており、ソフィーナが介抱していた。皇太女となって久しいエリザベスだが、こういった式典に本格的に参加するのは何気に初めてである。今までは俺が禁止していた。子どものうちから夜更かししては発育に悪いからな。当然の措置である。


「こんなに大変なんて知りませんでした。お父様たちはいつもこのようなことをこなしておられたのですね」


「本当に大丈夫か? キツイなら休んでいてもいいんだぞ?」


「いえ。頑張ります……」


 エリザベスはノロノロと立ち上がった。フラフラしている。おい、マジで大丈夫か?


「やっぱり休んだ方がーー」


「オリオン様。ここはこの子の意思を尊重しましょう」


「シルヴィか。でも……」


「私がついていますから。無理そうなら休ませます」


「……わかった」


 俺は渋々だが頷いた。


「ありがとうございます。お父様」


「あ、ああ。だが本当に無理はするなよ?」


「はい」


 渋々ではあったが、こうして微笑まれると強くは言えない。結局、俺は朝賀への出席を許した。とはいえ心配なので、エリザベスはギリギリまで寝かせることにした。まあ、何度か経験すると慣れるさ。


 ーーーーーー


「遥拝」


 俺の言葉とともに居並ぶ人々が一斉に頭を下げる。その先では新年になって初めて陽が昇っていた。いわゆるご来光というやつだ。ドラゴン信仰では太陽を太陽竜神、月を月光竜神として崇めている。まあ、太陽については宗教ごとに様々な解釈があり、それが衝突の種になったりもする。よってここでは単に遥拝として済ませていた。

 ご来光を拝むと、俺が新年にあたっての挨拶を行う。所信演説のようなものだ。といってもそこまで難しいことは言わない。ただ、俺は平和を願っているだけですよ〜、という無害さアピールだ。


「皆、新年めでとう。ともに新年を祝えることを嬉しく思う。初日から陽光を見ることができたのは実に僥倖。大陸の安寧を象徴するかのようで、実にめでたいことだ。新年にあたり、帝国と諸国の平和と繁栄を心から祈る」


 というような言葉で結んだ。


「さて、新年を祝うためにささやかながら酒と料理を用意した。存分に楽しんでくれ」


 その言葉とともに、使用人たちが会場に酒や料理を運び込んだ。マナーとして、ホスト役の皇帝に挨拶してから出されたものに手をつけることになっている(待ち時間が長い者もいるため水に関しては自由に飲んでいい)。

 俺への挨拶から始まるため、俺の前にはアイドルの握手会のように長蛇の列ができる。基本的に爵位の順だ。現状、最高位の公爵は妃たちだけ。そのため挨拶は侯爵からとなる。なお、爵位を持たない招待客には事前に相当身分を明示しており、その順に並んでもらう。外国使節には、本国で得ている爵位と同等のところで挨拶してもらっていた。

 まず現れたのは筆頭のボークラーク侯爵。次いでウェズリー侯爵、キャンベル侯爵だ。

 ぶっちゃけこの挨拶もかなり面倒だ。それも、長時間拘束されるというだけではない。それぞれが面倒な案件を持ち込んでくるからである。

 まず侯爵層ーーは大丈夫。彼らはあまりそういったことは言ってこない。この国でも上位にほど近い存在であり、大抵のことは彼ら自身で解決してしまう。そんな彼らが陳情するとなれば、国家として対応しなければならないような重大事。要するに彼らはいい家臣なのである。少し気になるといえばキャンベル侯爵のお子さん事情だ。どうなっているんだろう?


「キャンベル侯。輿入れの件はどうなっている?」


 ストレートに訊いてみた。


「はっ。申し訳ありません。未だ女子は産まれずーー」


「気にするな。男と女、どちらが生まれるかは天の差配なのだから」


 キャンベル侯爵は若い奥さんをもらい、日夜ハッスルしていた。その甲斐もあって新たに五人の子どもができたのだが、女の子がいなかったのだ。レイモンドのところには年ごろの娘さんがいて、それを養女として嫁がせてはどうかと提案した。しかしそれだと格がオーレリアやラナと比べて落ちるらしい。彼女たちは本家の子女、レイモンドの娘は分家の子女として。よっぽどの事情がない限りは、俺に対して失礼なのだそうだ。

 ……女の子ができないというのはその『よっぽどの事情』にならないのか、と思わなくはない。それに本家だ分家だと俺は別に気にしないが、やっぱり外野がうるさい。彼にはもう少し頑張ってもらうしかない。

 その後もキャンベル侯爵は頑張った。ーーが、その頑張りが報われることはなかった。結局、女の子は産まれなかったのだ。しかし侯爵は諦めなかった。その執念に応えたものか、ベリンダが女の子を産んだ。その子ならキャンベル家の本家子女から産まれた子であるためーー家格は子爵ながらーーギリギリセーフとされた。その子が輿入れしたことでひと騒動起こるのだが、それはまた別の話。

 次は伯爵層。……ここからが問題だ。ここには一代貴族が多い。だが歴史ある彼らを抑えて筆頭の地位を勝ち取ったのは、ボークラーク伯爵家。イアンさんが当主となって発足した新興の貴族家だった。俺の側近というだけでなく、正妻は俺の義理の娘ーーウェズリー家からもらいうけたーーであるためその地位は高い。


「陛下。ご家族ともご健勝のこと、心よりお喜び申し上げます」


「ありがとう、イアン。これからも宰相として朕を支えてくれ」


「はっ」


「セリーヌもよく支えてやれ」


「はい。義父様」


 というやりとりをしてイアン夫妻との挨拶を終える。彼らは横にずれて皇妃たちと話をしていた。特にオーレリアやラナとは義理の姉妹だからな。その姿を横目に見つつ、次の相手と話す。


「皇帝陛下におかれましてはご機嫌麗しく」


「そなたも達者のようで何よりだ、マクドネル伯爵」


 マクドネル伯爵は元王太子派の貴族であった。しかし敗色濃厚となると直前に寝返りを打って俺たちに味方した。そのため領地は安堵。代わりに爵位をひとつ降格としている。つまり実力的には侯爵に匹敵し、伯爵筆頭であったとしてもおかしくない人物なのだ。家の歴史も古い。遡れば王国建国以来の名家だという。そんな人物が新興の貴族家の後塵を拝しているーー当然、面白くなかった。裏切りの前科もあり、地位は高くとも信用はしていない。まして重職に就けるはずもなかった。本人はそれが不満でたまらないようだが。そしてもう一点。


「マーシャ嬢も元気そうだな」


「はい。お陰さまで……」


 伯爵の横に立つのは夫人ではなく、ご令嬢。夫人は既に亡くなっている。二人とも。最初の夫人は単なる病死。次の夫人は殺された。その人の親が反乱に連座した公爵で、裏切る際に彼が殺したという。なんとも酷い話だ。

 そんな伯爵は最近婚活を始めた。彼が望んだ相手は……アイリス。アリスが産んだ娘で、現在三歳。ちなみに伯爵は五三。さすがに無理がないかとは思ったが、彼の論理では新興政権である俺たちには自分のような名門貴族の支えが必要。だからこれくらいーーと本気で思っているらしい。戦慄したね。お前の頭の中はお花畑かと。

 アイリスを嫁にやるつもりはないが、力のある貴族であるため内心はどうあれ親密だということをアピールしておく必要がある。たとえばこのような場で他よりも長く話すことだ。他人に迷惑だから挨拶だけーーというのは貴族の事情。長く話すことは皇帝が引き留めたということであり、つまりはそれなりに気にしているということだ。その意味は大きい。貴族社会における立派なステータスとなる。


「ところで伯よ。マーシャ嬢も年頃だ。そろそろ相手を見つけねばならぬのではないか?」


「そうですな……。マーシャは器量もよく、親の贔屓目かもしれませんが、賢いのです。これほどの娘なのですから、良いところへ嫁がせたいーーそう思うのが親というものです。ただ、なかなかそのようなお相手が見つからず……。マーシャには辛い思いをさせています」


 はぁん。マーシャをやる代わりにアイリスを寄越せと。ああ、殴りたい。立場がなければ今すぐ殴りたい……っ! その衝動を我慢してなんとか会話を続ける。


「ははは。そのような相手がいればよいな」


 暗にアイリスはやらんと言い、しばらく当たり障りのないーーあるいは中身がないーー会話をして別れた。

 子爵階層に突入すると、その手の輩は一気に増える。我が家は代々続く名家であり云々……と、誇るべきは家の歴史しかない。実に悲しいことだ。特にマクドネル伯爵の派閥の者が多い。彼らは門閥貴族の一族だ。

 そんな嫌味ったらしい門閥貴族どものなかにあって一種の清涼剤となっているのがテューダ子爵家。ベリンダのところである。


「新年おめでとうございます、陛下」


「ああ。メドラウトも息災のようだな」


「もったいないお言葉……」


 横にベリンダを伴って現れたのはメドラウト・テューダ子爵。内乱で活躍し、ベリンダ伯爵令嬢とボーイミーツガールしたラッキーボーイである。ついでにいうと、かなりのイケメンだ。少女漫画に登場しても違和感はない。前線の指揮官としては優秀で、現在はベリンダと並んで陸軍大佐をしていた。ただ、ベリンダと違うのは彼が完全な前線指揮官でしかないという点だ。軍司令官は向いていないのである。これでは昇進は見込めない。

 個人的な好き嫌いはともかくとして、昇進の類はドライである。何事も分相応に。大きすぎる肩書きは個人だけでなく、国家をも不幸にすることになる。大佐で留め置くのは本人のため、国のためだ。


「ガラードは元気かな?」


「ええ。とても元気に過ごしております。少し元気すぎるかもしれませんが」


「陛下より名を賜った、我が家の家宝でございます。必ずや立派な騎士に育てます」


 ベリンダとメドラウトの二人は決然とした様子で答えた。ガラードとは二人の子どもであり、依頼されて俺が名前を考えた。出典はアーサー王伝説である。


「楽しみにしている。……だが、親の大きな期待は子の大きな負担になることもある。宝というならその辺りも考えて大切にせよ」


「「はっ」」


 こうして二人は下がった。ーーいや、ベリンダはアリスやオーレリア、ラナと談笑している。お互い忙しくてなかなか会えないが、未だに親交は続いているようだ。

 このような調子で挨拶タイムは終わり、各々が談笑タイムに入る。とはいえ初日の朝はあまり盛り上がらないのが通例である。全員が前日の疲れを引きずっているからだ。だから多くの者は用意された食事ーー朝食に向いたあっさりしたものが中心ーーを食べ、話もそこそこに帰っていく。屋敷で寝て充電をし、夜や二日目の朝の本戦に臨むのだ。俺も疲れた。ここに残るという者を残し、俺も奥へ引っ込んだ。


 ーーーーーー


 たっぷり睡眠をとって元気になった元旦の夜。パーティーは盛り上がっていた。朝の静けさはどこへやら。そこかしこでワイワイガヤガヤと声が上がっている。その喧騒を尻目に、俺はアリス、オーレリア、ラナ、ベリンダとともにテラス席で談笑していた。アリスたちに『久しぶりにお茶会をしようということになりまして、オリオン様もどうですか?』と誘われたのだ。朝、話しているとそういう話になったという。俺は即座に乗った。こういう機会でもないと、昔のようにはできないからな。時々は過去を振り返るのもいいものだ。


「そういえば、メドラウトとの馴れ初めはどんな感じだったの?」


 ふとアリスがそんなことを言った。そういえば結婚するという話になったとき、戦後のゴタゴタで忙しく、詳しい話は聞いていなかった。


「興味ありますね」


「おもしろそ〜」


 オーレリアとラナはとても興味深そうだ。アリスは言わずもがな。俺? もちろん興味津々ですとも。


「あ、あたしのことなんてどうでもいいだろ」


 とは言うものの、四人の視線には耐えきれずにベリンダは口を割ることになった。

 曰く、武芸に自信のあった彼女は前線に出て戦っていた。彼女の強さは武闘派揃いであるキャンベル家にあっても見劣りせず、敵なしであった。その日も敵を散々に打ち破り、勢いに乗って追撃をかけていた。ところが敵が咄嗟に仕掛けた罠にはまり、絶体絶命のピンチに陥ってしまう。そこへ颯爽と登場したのがメドラウト。彼の率いる一団が突撃をしかけ、包囲の輪を破った。そうしてベリンダは助け出されたのだという。


「あのときのメドラウトはとってもカッコよかった。馬に引き上げられたとき、背中がとっても頼もしくて安心したんだ。そして胸がキュン、ってなるんだ。そのとき気づいたんだ。これは恋なんだ、って……」


 などと、馴れ初めを熱く語ってくれた。女性陣はうっとりとしている。俺もカッコいいと思った。メドラウトは容姿だけでなく行動もイケメンだ。


「それにしても、戦いのことしか頭になかったベリンダさんが恋だ愛だと言うようになるなんて思いもしませんでした」


 アリスが言うと、ラナとオーレリアも頷いた。俺はノーコメントだ。口は災いの元というしね。これに反発したのはベリンダ。


「どういうこと!?」


「どういうことってーーねえ」


 アリスは意味ありげにオーレリアを見やる。すると彼女も不敵に笑って応えた。


「ベリンダさん。あなた、自分が昔どのようなことを言っていたか覚えておられますか?」


「もちろん」


「具体的には?」


「そりゃ、オヤジに訓練に駆り出されたとか……」


「ですね。そのどこに恋や愛といった単語があるのですか?」


「うっ……」


 ベリンダは言葉に詰まる。何も反論できなかった。


「あ、あたしが言ったんだから三人も言えよな!」


「馴れ初めを?」


「ああ」


 求められた三人は目を見合わせる。


「私は下手人に襲われたときですね。あのとき颯爽と登場して容易く返り討ちにされたオリオン様はとても素敵でした……」


 アリスは陶然とした様子で語る。その瞳はどこか遠くを見ていた。そのときのことを思い返しているのだろうか。そんな彼女は物憂げで美しい。二十歳を超えて美少女ではなく美女という年齢になったアリスには、美姫という形容が似合う。


「わたくしは最初のお茶会のときですかね。ようやくまとめ役をお任せできる方が現れたと思いました。……まさか、殿方とは思いませんでしたが」


 オーレリアは俺にジト目を向けてきた。本当の性別をカミングアウトした際、彼女には恨みがましく思われたものだ。あのときは同性だと思われていたためーーアリス以外は知らなかったーー、異性には聞かせられないような赤裸々な話もしていたのだ。それをバッチリ聞かれていたとなれば恥ずかしさもあるだろう。外向きは温厚で人当たりのいい人物を演じているが、本当は容赦のない毒舌を吐くのだから。まあ、乙女の秘密というやつだ。


「ですが、そのおかげで本当の意味でわたくしのすべてをお預けできる方と添い遂げられました。その点はアリスに感謝しています」


 おお。いい話っぽくまとめた。アリスは嬉しいのかクネクネしている。


「オーレリアに感謝されるなんて初めてかもしれません」


 前は言い負かされて泣いてたしな。


「ラナはどうなんだ?」


「わたしは〜、ん〜、お金持ちだから〜?」


「「「「……」」」」


 ラナの返答に全員が固まった。本当に身も蓋もないな! 本当に反応に困る。


「はは。それ、本当だったんだ……」


 アリスも苦笑いしかないようだ。


「でもさ、もう少しないのか?」


 ベリンダは何かあるだろうと問いかける。ラナはしばらく唸っていたが、やがて何か思い当たったらしく口を開いた。


「あとね〜、面白いから〜」


「……どこが面白いのですか?」


 ぐっ。オーレリア。その言い方だと、解釈の仕方によっては俺が面白くない人になるからやめてくれ。


「アイデアとか〜、わたしが〜、考えつかないことを〜、へいかは〜、思いつくから〜」


「「「……なるほど」」」


「え? それで納得するの?」


 心外だ。


「だってオリオン様はいつもそうですもん」


「『皇帝』という称号は王の王という意味ですが、これほど他国に喧嘩を売っているものはありません」


「この帝都も農地や工場を取り込んであるけど、そんなこと普通は考えないしな」


 アリス、オーレリア、ベリンダの順に次々と指摘される。き、傷つくな……。そりゃ、自分が特殊な存在である自覚はあるけど、面と向かって言われるとダメージが。

 こんな感じでお茶会は終始姦しく行われた。久しぶりに昔に戻った感じがする。このところ忙しかったからな。ずっとこんな時間が過ぎればいいのに……なんて思うが、そうはいかない。自宅警備員を目指して商売を始めたら、雪だるま式に事が大きくなって貴族に。内乱に勝利して皇帝になってしまった。君主として、民の安寧を守る責務がある。それを放棄することはできない。

 結局、人の関係は変わっていく。昔はいて当たり前だったベリンダも、今は子爵夫人としての立場がある。こうして皇族とお茶会ができるのは本当に限られていた。その代わりといってはなんだが、彼女の席にはレオノールやシルヴィ、クレアなどが座っている。だがふとしたときにベリンダのいないもの寂しさを感じるのだ。

 それを残念に思いつつも、年月が経った証として受け止めなければならないだろう。同時に終わりも近づいているのだと。人生は後戻りできない障害物競走ーーというのはいつだったか担任が言った言葉だ。終わり(ゴール)はたしかに迫っている。ならば、その終わりまでに平和を実現させなければならない。次の時代を生きる子どもたちのために。俺の知り得る限り、できる限りの対策を講じるのだ。

 お茶会を楽しみながら、俺はそんなことを考えていた。




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