【クリスマススペシャル】ロイヤルファミリーのクリスマス
同時に本編も投稿しておりますので、そちらも是非ご覧ください!
拙作『お約束破りの魔王様』の方も是非ご覧下さい!(同様に【クリスマススペシャル】を投稿しています)
ーーーオリオンーーー
国家とはどのような存在だろうか? そんな問いを投げかけたのは小学六年生で社会科の授業を担当していた教師だった。平将門はなぜ新皇と号したが容易く敗れたのだろうか。そんな考察をしていたときの話だ。
結論は『支配者』。国内のありとあらゆる事柄を支配するーーそれが国家だと。将門が欠いたのは時空の支配だという。ここでいう時空とはすなわち暦の制定だ。暦を作れなかったことが敗因のひとつであるーーとその先生は言っていた。
建国してからしばらく経ったある日、ふとそんなことを思い出した俺はすぐさま暦の作成に取り掛かった。これまでの経験から、この世界と地球では暦に大差はない。そこで日本の暦をコピペした。とんだ手抜き工事である。とはいえフィラノ王国とはまったく異なるものだ。これで時空の支配はできたことになる。
さて、そんなわけで帝国はグレゴリオ暦を採用している。もっとも完全に同じものではなく、アリスやレオノールたちの協力を得てこの世界の慣習に合わせたものだ。
ただし何点か輸入したり新しく追加したものがある。例えば、
1月1日……新年祭
2月14日……バレンタイン
3月3日……雛祭り
3月14日……ホワイトデー
4月17日……皇帝生誕日
5月5日……こどもの日
7月1日……返年祭
7月7日……七夕
9月1日……収穫祭
10月31日……ハロウィン
11月16日……皇后生誕日
12月24日……国母生誕日
12月25日……竜神降臨日
12月31日……終年祭
と、名前を変えたり新しく追加されたりしてかなり別物になっている。なお宗教に起因するものは神祇官長官のフィオナにこじつけてもらった。帝国とつながることで国内での地位を保っている彼女に拒否権はない。
だがそんな努力の甲斐あって、建国から何年か経つと一般に浸透してきていた。学校での教育も大きい。早婚であるこの世界において、義務教育年齢は結婚適齢期でもある。そのため十五歳前後で結婚して子どもができ、教育を受けたことを実践するというサイクルができていた。おかげで浸透が早い。祝祭日の文化は急速に帝国へと広まった。
ーーーーーー
雪がいよいよ深くなってきた。帝都カチンは大陸の北側にある。そのため他の地域と比べても積雪量は多い。まあ、暦の上ではもう十二月の末なのだから仕方ない。各家庭は新年の用意を始めるかという時期なのだから。
そして直近のイベントとしては地球でいうところのクリスマスーーここでは24日の国母生誕日、25日の竜神降臨祭がある。
前者は俺の母の誕生日を祝う日だ。奇しくもクリスマスイブと被っていた。そのため国を生み出した存在(国母)として祭り上げ、祝う。本来国母とは皇后を指す言葉だが、そこは諸般の都合ということで。
親を宣伝に使う罪悪感はなきにしもあらずだが、そこは全国民が盛大に祝うことでチャラにしてほしい。一応、母には軽く話してみたが『恥ずかしい』とだけ言われた。……否定はされていない。だから問題もない。忖度? なにそれ美味しいの?
そして後者の竜神降臨祭は年に一度、天にいる竜神が地上に降りてきて皇帝の統治を見る。それを盛大に祝おうという趣旨で行われる。なお、その際にたくさんの土産を持ってきてくれ、親が竜神の代わりに子どもに与えるーークリスマスプレゼントについてはこのようにこじつけた。我ながら悪くないと思っている。
自分で広めた風習を自分でやらないのはどうよ、ということで毎年のように皇族でも行なっている。もっとも似たようなことは幼いころからやっている。だから古参組ーーシルヴィ、ソフィーナ、レオノールーーにとってはもはや恒例となっていた。ちなみに古参とはいえ、アリスは直系の王族である。年末の忙しい時期にはいくら親しくても会う時間は限られてしまう。そんな事情もあって、こういう行事での彼女は慣れていない新参者的な立場であった。
「さあみんな。竜神からのお土産だ」
「「「わーい!」」」
俺が呼びかけると子どもたちーー特に年少組ーーがわらわらと寄ってきた。プレゼントをひとりひとりに手渡ししていくーー俺が。一応、プレゼントを渡す役は『親』であって『父親』とは限定していない。だがなぜか子どもたちは俺に渡してほしいとせがむのだ。前に数が多いのでそれぞれの母親に渡してもらうことにしたのだが、嫌だ嫌だと大合唱。困り果てた母親たちは、俺に丸投げしたのである。……おい。
正直なところ面倒なのだが、それでも、
「お父様。ありがとうございます」
「ありがとうございます。父上」
「おとひゃま。ありがと〜」
子どもたちの感謝の言葉を聞くとやってよかったと思える。我ながら現金な性格だ。
一応、皇族といえども贅沢は厳禁。その約束を守るためにも、私的な行事かつ生活に必要のない竜神降臨祭のプレゼントは、すべて俺のポケットマネーで買っている。その内容もあまり豪華なものではない。武器や防具、小物やアクセサリーに玩具といったものだ。一部は俺のお手製だったりするし、外野からもあまり文句は言われない。むしろイアンからは『もう少し豪華でもいいのでは?』と言われる。でもこれでいいのだ。子どもたちの笑顔が見られればそれで。
「どういたしまして。みんなが喜んでくれて嬉しいよ」
子どもたちには砕けた口調で話す。公の場でもない限り、子どもたちに仰々しく話すことはない。むしろそれが溝を感じさせることになりかねず、子どもたちの成長によくないーーというのが持論だった。ただ、それが甘やかすことと同義かといわれれば否だ。それとこれとはまた別の話である。
「お父様! 遊んできてもいいですか!?」
俺の手を掴んでブラブラと振り、興奮した様子で訊いてくるのはレイラ。彼女に渡したのはニット帽、イヤーマフ、コート、手袋、マフラーの『雪遊び』セット。渡すときにそう言っている。成長期の子どもらしく、数年でサイズが合わなくなってしまう。だがそれはとても喜ばしいことだ。
「おとしゃま。あたひも〜」
「アイリス(アリスの娘)もか。よしっ、じゃあみんなで庭へ行こうか」
「「「わ〜いっ!」」」
俺がそう言うと、子どもたちは堰を切ったように駆け出した。特に動きが速いのはエリザベスをはじめとした年長組。自分もやりたいけど、年下の手前、素直に言い出せないアレである。
「殿下方、お待ちください!」
その後を執事やメイドの使用人たちが追う。
「おとしゃまも〜」
「はいはい。ーーよいしょ」
「わ〜」
足にしがみついて急かしてくるアイリスを抱き上げる。抱っこされて嬉しいのか、手足をパタパタさせる。可愛い。俺や母親たちはそうやって年少組を抱き、子どもたちに続いた。ちなみに本日はお休みです。
ーーーーーー
先ほど俺は『庭』と言ったが、その表現は適切ではない。正しくは屋内庭園である。なぜか? それは防犯上の理由からだ。
伯爵あるいは侯爵だった時代、王都の屋敷には侵入者が相次いだ。それらはプレデターも真っ青になるほど強い使用人に捕らえられたわけだが、問題はそこではない。侵入した理由が俺やシルヴィ、ソフィーナ、エリザベスの暗殺ないし誘拐であったことだ。このことを知ったイアンがカチンに居を移すにあたって防犯を第一に考えるように言ってきた。使用人たちがいれば万が一はないとは思うが、家臣の心配はなるべく減らすのがいい上司である。そこで近くに通っていた龍脈ーーいわば魔力の水道管ーーを使い、宮殿の設備を動かすように設計した。
この『設備』とは宮殿を覆う結界やインフラのみならず、宮殿で働く使用人など俺が能力で生み出した存在についても適用される。存在の維持に俺が介在しなくなることで、俺が死んだら能力で生み出したものも消えるーーなんて事態にならないようにしたのだ。俺が能力で生み出し、なくなると困るものがあるところにも同様のカラクリを施している。
俺の能力ありきで発展した商会も、ソフィーナの手によって安定した地位を手にした。今では不動産業についても建築部門がインチキなしで建て、それを営業部門が売るという普通の形態になっている。まあ、皇帝が全国を回って土木工事というわけにもいかないから当然だが。
話が逸れた。まあとにかく宮殿にある設備は龍脈を通る魔力を使って動いていて、この屋内庭園もそのひとつだということだ。室温は管理され、中央にある広い庭ーー通称『四季の間』から、各気候帯ごとに分けられた庭園へとつながっている。なおアマゾンみたいな未開の地を再現していても変な病気はなく、また毒があるものについても無毒化してある。だから子どもたちがひとりで入っても限りなく危険はないように工夫していた。
そして俺たちがやってきたのは『四季の間』。ここについてはその名の通り日本の四季を感じられるようになっている。春には桜が咲き乱れ、夏は青葉が生い茂り、秋は葉が色づき、冬は一面の雪景色となる。
「それっ!」
「やったなー」
「お返し」
到着すると、もう年長組は遊び始めていた。種目は冬の風物詩・雪合戦。声だけなら和気藹々としたものに聞こえるが、絵面はまったく和気藹々としていない。むしろ殺伐としていた。
魔法で大量生産した雪玉を、これまた魔法で飛ばす。マシンガンもかくやというスピードで。撃ち出された雪玉はこんもりと盛られた雪を一発で吹き飛ばすほどの威力がある。防護手段もまた魔法。驚異的な威力が込められた雪玉が何発当たろうが、決して砕けることはない。プロも真っ青な雪合戦を年端もいかない子どもがやっていた。さすがは異世界。……念のため俺も防護魔法を張ろう。流れ弾が心配だ。誤字ではないぞ。あれは『雪玉』なんて可愛いもんじゃない。『雪弾』だ。
「よーし。アイリスたちはあっちで雪だるまを作ろうか」
「えーっ! あたひもねねしゃまたちとあしょびたい!」
今行っても犬死にするだけだ。やめておけーーと言っても幼い彼女には通じない。さてどうしたものかと悩んでいると、
「どうしたんだい、アイリス?」
「あ、おーちゃんだ」
ごねるアイリスに声をかけたのは『おーちゃん』ことオスカー。オスカー・ボークラーク。オーレリアの子である。アイリスよりも二歳年上。どこかわがままなところがあるアイリスに対し、真面目。奔放なアイリスをたしなめることもしばしば。その呼び名もまた……。おや、デジャヴが。どこぞの母親たちそっくりだ。二人の実母に目を向ければ、揃って明後日の方向へ目を逸らす。自覚はあるようだ。
そんな親たちの無言のやりとりがあるなかで、アイリスは舌足らずながらもオスカーへとかくかくしかじか事情を説明していた。彼はふむふむと頷き、
「でも今は姉さんたちが先に始めちゃっているし、終わるまで待っていようよ」
と提案した。ナイス。
「え〜。ねねしゃまたちとあしょびたい!」
「途中から入るのは難しいと思うよ」
「でも! でもぉ〜!」
「それよりもあっちでセリーナがお城を作っているよ。あれで遊んだら? エリ姉さんには僕から話しておくから」
「……おわったらあしょべるの?」
「うん」
「じゃあ、それまでセリねえしゃまとあしょぶ!」
アイリスはそう言ってセリーナ(ソフィーナの娘)のところへ駆けて行った。
「ありがとう、オスカー」
「いえ。兄弟が多いですから、父上や母上だけでは手が回らないでしょうし、そこは僕たちに任せてください。……それができていない人たちもいるのでお恥ずかしいですが」
無論、超人的雪合戦を展開している兄や姉に対するものである。母親であるオーレリアもそうだが、真面目でありながら恨み言を平然と吐く。本当に我が家の子どもは母親に似る。俺の血はいったいどこへ行ったのやら……。
上の子としてはかなり理知的なオスカー。兄弟のまとめ役として機能する彼は特にアイリスをはじめとした一部の管理人的な立ち位置にいる。そして彼が管理すべきはアイリスだけではない。
「……できた」
むふん、と得意気に鼻を鳴らすのはリナ。リナ・ウェズリー。ラナの娘である。おそらく家族のなかで最も似た者親娘だろう。そして、俺の血が一番色濃く出ている子でもある。なぜなら、こと怠惰さでいえば兄弟屈指だからだ。
「リナ。またなの?」
オスカーが呆れたように言う。まあわからなくもない。兄弟が元気に雪で遊ぶのを尻目に、雪を盛って穴を掘り、かまくらを作っていたのだから。挙句、そのなかにヤドカリのようにこもってしまう。顔だけ出して至福の表情だ。
「寒くないの?」
「……魔法を使ってるから大丈夫」
「芸の細かい……」
今度こそ本気で呆れた様子だ。先ほどまでの忠告の色は消えてしまっている。だが、二桁にも乗っていない子どもが魔法陣を使えるということは驚嘆に値する。大人でも扱える人間は少ないというのに。やはり遺伝がなせるのか。
「……入る?」
「いや、いいよ。というより、リナこそ遊ばなくていいの?」
「……うん。こうしてる方が楽しい」
「そっか。じゃあ、僕はこれで」
「……楽しんで」
リナはそう言ってオスカーを見送った。その隣では、
「おい、ラナ……」
「どうしたの〜?」
「いい大人がかまくらに引きこもるんじゃない」
「ええ〜。でも〜、リナちゃんだって〜、引きこもってるよ〜?」
「『いい大人』って言ったよな!?」
俺がラナをかまくらから引きずり出すのに苦労していた。昔からマイペースだったが、最近はそれに拍車がかかっている。普段から部屋にこもっているからいい機会だと連れ出してみればこれである。この性格はなんとかならんものか、と割と真剣に悩まされた。




