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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第一章 成長
8/140

1ー7 ロバート




ーーーオリオンーーー


 七歳になった。

 以前からの約束で、今日から母の(もと)を離れてレナードがいる本宅で暮らすことになる。この日のためにアーロンさんやメリッサさん、そして母もみっちり教育してくれた。時々『辛い時はこの時間を思い出してほしい』と言われるのだが、あの、週一のペースで帰ってくるんですが? そんなことを言われると微妙に帰って来にくくなる。

 母もこれを機会に本宅へ戻ってこないか、と誘われたそうだが断ったらしい。若干の不自由があるとはいえ、気ままに生活できる別宅での暮らしを気に入ったようだ。さらにアーロンさんに加え、メリッサさんも別宅に残るそうだ。彼女の雇用期間は俺が別の場所に行くために終了するわけだが、敬愛する母と一緒に暮らしたい結果、もう離れられないのだそうだ。幸い別宅の部屋も余っているし、なにより俺がいなくなって寂しくなるせいか母も大歓迎。これで俺がいなくなっても辛い思いはさせずに済みそうだ。

 ひとり感慨に耽っていると、母が俺を呼ぶ声がする。


「オリオン。迎えの馬車が来ましたよ」


「はい。今行く!」


 呼び声に従って部屋を出て、玄関へと下りていく。そこでは母が驚いたように固まっていた。気になって訊ねる。


「どうしたの?」


「あ、オリオン……。少し驚いただけよ」


 いや、母よ。俺は何に驚いたのかが気になるのだが。疑問が解決せず改めて問おうと口を開けかけたところで、答えが思わぬ方向から飛んできた。


「それは(わたくし)がいるからでしょう」


 声がした方向を向くと、そこには五十を少し過ぎたような見た目の男がいた。執事服に身を包んではいるが、眼光は鋭くデキる男といった雰囲気を醸し出すダンディーなオジサマだ。そんな彼が俺に向かって深々と一礼してくる。


「私はゲイスブルク家の執事長、使用人の管理を任されておりますロバートと申します。本日は旦那様のご命令でオリオン様をお迎えに上がりました」


「よ、よろしくお願いします」


 ものすごく丁寧な言い方に俺はタジタジになる。日本人はこう下手に出られると戸惑ってしまうのだーーって、それは俺が小市民だからか。


「まさかロバートさんが来られるとは……」


「先の試験の結果を鑑みるに、これくらいは当然でしょう」


 意外な高評価に驚いた。


「旦那様はオリオン様に期待されておりますから」


 ロバートが独り言のように言った言葉は俺の心を見透かしたかのように正鵠を射ているものだった。エスパーか、と背筋に冷たいものが走る。


「それでは参りましょうか」


「はい。じゃあ行ってきます」


「行ってらっしゃい。体を大事にね」


 俺は母と簡単な挨拶をすると馬車へ乗り込み本宅へと向かうのだった。


ーーーーーー


 いつぞやよろしく馬車に揺られて本宅に向かう。前回と違うのは御者がアーロンさんからロバートさんに変わっていることだろう。アーロンの操車が冒険者風のワイルドなものだったのに対し、ロバートさんのそれは貴族風のゆったりとしたものだ。例えるなら荒野を走る軍用オフロードカーと、市街地を走るリムジンのような違い…わかりにくいな、うん。別にどっちがいいというわけではなくーーそれぞれによさがあるーーこれを話しのタネにしようと思ったのだ。


「馬の扱いがお上手ですね。僕も一度乗ったことがありますが、今回はその時よりも揺れが少ないです」


「お褒めいただき光栄です。私も老いたりとはいえ、まだまだ若いものには負けません」


「ロバートさんはまだまだお若いですよ」


「そうでございましょうか? ……いえ、お言葉ありがとうございます。それと、どうか私のことはロバートとお呼びください。オリオン様は旦那様のご養子ーー建前は止めましょうか。妾腹とはいえ、旦那様の実子なのですから」


「母のことをご存知なんですね」


 俺は驚き、つい声が低くなってしまった。


「はい。存じております。見所のある優秀な者でしたが、あんなことになって……。ゲイスブルク家の者としては失格かもしれませんが、個人としては惜しい存在であったと思っています」


 表情を曇らせてロバートさんは言う。表情からしてリップサービスの類にはどうも思えなかった。彼は何かを振り払うように何度か頭を振ると言葉を足した。


「これは私めの推測ですが、オリオン様は旦那様をお恨みかもしれません。しかし旦那様はミリエラを確かに愛していらっしゃいました。彼女が貴方様をご懐妊した際には正式に妾に迎えようとされました。ですが奥様が大変にお怒りになり、結局は別宅に送り込むことになりましたが……。それでも旦那様はできる限りの便宜を図っておいででした」


 その『便宜』とやらが母の言ってた特別に支給されていた養育費というわけか……。金だけだしゃいいっていう、金持ちの典型的な考え方だな。まあ、実際に金持ちなわけだしそうなるか。母からすれば金よりも外出の自由が欲しかったんだろうけど。ロバートさんはフォローのつもりだろうが、俺はレナードの対応に呆れた。

 だがそんなことはおくびにも出さず、理解のあるフリをする。


「そうだったんですか。まあ大商人ともなれば世間体とか色々とあるでしょうし、仕方がないのかもしれませんね」


 あえて断定する表現は避け、少し皮肉っぽく言ってみる。俺はプチ怒りなのだ。これくらいは許してほしい。

 俺の返事に渋い顔をするロバートさん。だが少し後に言葉に含まれた毒に気がついたのか、驚いた顔でこちらを見てきた。


「オリオン様は本当に七歳なのですか……?」


 その疑問はある意味で正解なのだが、わざわざ『実は異世界からの転生者です』とか教える義理はない。俺は不思議そうな顔で、


「七歳ですよ?」


と答えた。


「失礼いたしました。ところで、ひとつご忠告がございます」


 目線で先を促す。副音声を入れるなら『続けろ』というところか。


「奥様にはご注意を。ご聡明であられるオリオン様を失うのは惜しいですから」


「気に留めておきます」


 言いたいことは分かった。

 それきり互いに黙って会話はなく、馬車は粛々と屋敷への道を進んでいった。




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