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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第六章 拡大する帝国
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6-4 お隣の火事

前回の投稿で1300PVを記録いたしました。これも皆様のおかげです。篤く御礼申し上げます。


拙作『お約束破りの魔王様』の方も是非ご覧下さい!

 



ーーーオリオンーーー


 新教国を滅ぼしてから三年が経ち、俺も気づけばーーって、まだ十代か。ほんの数年で商人から皇帝……なんだか感慨深い。しかし俺を取り巻く環境は大きく変化した。まず、奥さんが九人もできました。子どもは十八人。野球チームはおろか、サッカーチームができる。国も大きく発展し、国力でいえばこの大陸で敵うものはいない。そんな俺の最近の悩み。それはーー


「陛下。皇太女殿下のことなのですがーー」


「ウィリアム殿下(アリスの子)の正室にーー」


「レイラ殿下(レオノールの娘)を愚息の正室にーー」


 あるいは、


「皇太后様(母さん)の夫にーー」


 なんていう変化球を投げてくる奴もいた。まあ、要するに婚姻政策を結ぼうと貴族たちがアプローチをかけてきたのだ。特に熱心なのは一代貴族たち。どうも彼らは皇室と婚姻を結べば自動的に永代貴族に格上げ、などという幻想を持っているらしい。もちろんそんなものは却下である。俺がはねつけていると脈なしと悟ったか、今度は公爵家を狙う。こちらも当然ながら却下だ。すると三侯爵家やその他の永代貴族へ矛先を変えた(前回の戦闘でいくつかの永代貴族家が誕生した)。滑稽なのは一代侯爵が永代男爵へ婚姻を申し込んだことだろう。王国時代ならあり得ないことだが、そんなプライドをかなぐり捨てるほど貴族に留まりたいようだ。それが俺の悩み。程なく無駄な足掻きであることを知るだろうが、それまで悩ませ続けられるのだ。勘弁してほしい。


「おとうさま、おつかれさまです」


「ん? エリザベスか。今日も綺麗だな」


「ほんとうですか!?」


「もちろん」


「おとうさまだいすき!」


 褒めてあげるとこうして喜ぶ。娘の言葉ひとつひとつが、汚い政治の世界で荒んだ心を癒してくれる。やっぱり娘は最高だ。


「お稽古は済んだのか?」


「はい。せんせいが、じょうずにできましたね、ってほめてくれました」


「そうか。よかったな」


 娘を膝に乗せ、頭を撫でながら最近の出来事を聞く。なるべく朝晩は一緒にいるようにしているが、皇帝という立場上、都合がつかないことなんて珍しくない。それに上級家庭の子女としてお稽古ごとに忙殺され、あまり自由に遊ばせてやれないことも申し訳なく思う。だからこうして少しでも時間があれば構ってやるようにしていた。これはエリザベスのみならず、子どもたち全員に対してもいえる。まあ、まだ幼いのでそれはそれで大変なのだが。

 娘との団欒を楽しんでいると、執務室の扉がノックされた。


「入れ」


「ーー失礼します。と、これは皇太女殿下」


「むう」


 邪魔されたことに子どもらしく頰を膨らませて不満を表明するエリザベス。報告にやってきた官僚は貴人の機嫌を損ねた、と顔を青くする。


「よしよし。気にしなくていいぞ。子どもの嫉妬だ」


「はっ。ありがとうございます、陛下」


「それで用件は?」


「はっ。大本営より報告です」


 日本人にとっては悪名高い大本営という名前だが、これ以上しっくりくる名前が思い浮かばなかったのだ。これは現在稼働している陸軍と海軍を統合運用するための組織だ。トップは宰相。以下、外相、財務相、陸相、海相とその配下の文武官である。軍事の最高機関だ。報告書によると、西にある国で内乱が始まったらしい。それに介入してはどうか、とのことだ。元々、帝国の西にある王国は後継者問題で揉めていた。血統の第一王子か、実力の第二王子かで、貴族も真っ二つ。やがて断続的に内戦を繰り返している。ちなみにフィラノ王国は北の第一王子を支援していた。理由はバカの方が扱いやすいからだ。帝国はどちらにも肩入れしていない。どうぞご自由に、というスタンスだ。それどころではなかったからな。外務省の報告では、最初は戸惑っていたものの、新教国を併合したあたりから接触が増えたという。協定の打診なんかもあったそうだ。大本営会議で潰されたようだが。利益は少ないと考えられたのだろう。領地は増えるが、体制が整うまでは利益ゼロどころかマイナスだからな。併合した新教国領も最近になってようやく黒字に転じた。


「わかった。検討しておく」


「そう伝えます。ーー殿下。お父君との団欒をお邪魔したこと、お詫び申し上げます」


「ゆるします」


 俺のナデナデに気を良くしたらしいエリザベスは官僚を快く許した。うんうん。素直なことはいいことだ。それに少しでも偉そうにしようと胸を張るのも可愛らしい。今日は無理だが、明日はエリザベスの好きなものを作ってもらおう。一日の仕事を終えた俺はこうして娘と戯れたのだった。


ーーーーーー


 毎月恒例の定例会議。そこにはすべての閣僚が集まっていた。一応、この会議はルールとしては毎月開催。各省庁から幹部を出さなくてはならないが、必ずしもトップが出席しなくてはならないわけではない。ただ年始の会議だけはトップの出席を義務づけている。もちろん例外はあるのだが。そして今回集まったのはすべて閣僚だった。多忙なのにご苦労なことである。この会議では各々が持ち寄った議題について論じ、多数決で決定を下す。司会進行は、可哀想なことに新人官僚である。毎度、南極に夏服でやってきて凍えた人のように震えている。別に取って食おうというのではないのだから、もう少し平常心でいてほしい。そんな新人の司会で話が進んでいく。処理する案件が大したことなければ数時間で終わるし、多かったり重大であったりすると数日かかることもある。この日は軽めだった。そして、


「最後に隣国の内乱について、です」


「皇帝陛下。事前にお伝えしていますが、どうお考えですか?」


「その前に確認したい。今回の内乱は大きいのか?」


「はい。小競り合いではなく、かなり本格的なものです」


「ふむ。何かあったのか? 特に大きな変化があったという報告は受けていないが……」


「それですが、わたしからご報告が」


「どうした、ソフィーナ」


「はい。商会を通じて手に入れた情報ですが、東の大王国が第二王子を援助しているようです」


「なるほど。そういうわけか」


 俺はすぐさまカラクリを理解した。膨張する帝国を抑えるため、大王国は西の安定を求めたわけだ。前回、新教国に憂いなく攻め込めたのも西の情勢が不安定でそれほど神経質になる必要はなかったからだ。ゆえに大王国は優秀な方を支援して西の混乱を鎮め、帝国に対する牽制にーーいや、両国で包囲するつもりだ。もしかすると教国にも話がいっているかもしれない。大王国にはアリスの姉が嫁いでいるから飛躍しすぎかもしれない。たがこの場にいる者たちのなかに、これが帝国への牽制だという考えに及ばなかった者はいないはずだ。


「陛下。事は急を争います。すぐに第一王子派を支援しましょう」


「ただちに軍の編制にあたります!」


「待て」


 イアンさんとフレデリックさんを制止する。そこまで焦らなくてもいいのに。


「ソフィーナ。敵は物資を提供しているだけだろう?」


「はい」


「ならこちらもそうしてやれ。これは軍の仕事じゃない。ソフィーナの領分だ」


「わかってる。武器と防具、兵糧を用意して、少し安く販売するわ」


「頼む」


 ソフィーナは即座に了承する。やはり彼女は経済観念がずば抜けているな。しかし未だに理解していない古参二人は俺に詰め寄ってくる。


「なぜ軍を動かさないのです!? 第一王子の愚鈍さはご存知でしょう?」


「そうです。我らが軍を動かさねばーー」


「落ち着け。そして考えろ。大王国は物資のみ提供したんだ。ということは、彼らが保有する軍は無傷で残っている。今も虎視眈々と帝国を伺っているぞ」


「「あ……」」


 二人とも、挟撃されるのを恐れるあまり眠れる獅子の存在を忘れていたようだ。でなければこんな『完全に忘れてた』みたいな表情はしない。


「物資を売るのは、少しでもかの国の経済力を削ぐためだ。どうせ叩く敵だ。遠慮はいらない」


「ですが強制徴収に遭った場合は……」


「そのときは軍を進めるだけだ。ま、さすがのバカでも敵を増やすような真似はしないだろう」


 もし暴走すれば、報復として第二王子に味方してダメ押しをすればいい。部隊を編制し、ドラゴンをつけて送り出せばいい。軽く王都を廃墟に変えられるだろう。帝国までも敵に回そうとするバカはいないはずだ。なんなら外交官に、第二王子に大王国が援助している、とリークさせればいい。そうすれば、もし帝国系列の店に手を出すとーーこの大陸すべての国家と敵対することになると否が応でも気づくはずだ。こうして王国への軍事介入は先送りされ、代わりにオリオン商会ーー現在は私企業ではなく帝国政府の国策会社になっているーーから武器や防具、食料品が安価に販売された。これらは第一王子派がこぞって買い集めた。お陰でボロ儲けである。売ったのは新米の職人が作った鋳鉄製の武器や防具なのに。第一王子派はそれを使って軍を編制し、第二王子派に当てた。結果、数の第一王子と質の第二王子という状況になり、戦況は膠着状態に陥った。双方とも有効な手を打つことができず、決着がつかない。戦況は泥沼化し、その間に帝国は莫大な利益を上げたのだった。




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