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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第五章 建国
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5-12 面倒事

拙作『お約束破りの魔王様』の方も是非ご覧下さい!

 



ーーーオリオンーーー


 約一ヶ月にもなった裁判も、ついに最後のひとりを迎えた。元王太子であるダンである。レナードを相手していて疲れたので一旦休憩を挟んでから、連れてくるように指示する。


『離せ! 触るな! お前みたいな三下がオレに触れていいとでも思っているのか!?』


 扉越しに怒声が聞こえてくる。ジャラジャラと鎖が激しく動くように音がしていた。かなり暴れているらしい。しばらくして現れたダンは衛兵に引きずられていた。しかし依然として釣り上げられたばかりの魚のようにジタバタと暴れている。……ここまで暴れた奴は珍しい。


「連れてきました」


「ご苦労」


 本当にご苦労様だ。暴れる成人男性を強制的に連行するのは大変だったろうに。あとでポーナスを出そう。衛兵を労ってからダンに向き直る。


「さてダン。そなたには諸貴族を扇動して王国を乗っ取ろうとしたとして、国家反逆罪や公文書偽造などの罪が問われている。これに間違いはないか?」


「違う! オレは王太子だ。国王の代わりに政務を執って何が悪い!?」


「政権を移譲されていないのに政務を執るのは違法行為だ」


 弁解してきたが、一刀両断した。


「さらにこれに関連して新貴族を乱立させたこと、公文書の偽造、王国を内戦に導いたことなどは看過できない。よって重罪として鉱夫が適当とする」


「ま、待て! オレは王太子だ。次の王だぞ?」


「生憎とアリス殿下が王太女に就任され、政権の移譲を受けている。今回の騒乱が終息し次第、譲位される予定だ」


「なに!?」


 ダンは驚く。捕まってからずっと獄中にいたから世間の出来事に疎いのだろうが、それにしてもこいつが自分の地位が安泰だと思えているのはなぜなのだろうか?


「そ、それでは後継者が……」


「俺と王太女殿下、またはレオノール殿下との間にできた子どもが次代の王となるから、安心しろ」


 ま、ぶっちゃけかなり危ない手だが、俺はわざわざ面倒事を背負う気はない。さっさと結婚して、あとはお姫様に任せる。素晴らしいニート生活がようやく実現するのだ。


「わかった。お前がアリスの婿になることを許す。だから命はとらないでくれ!」


「とらないぞ。だから言ったじゃないか。『鉱夫にする』って」


「違う。そんなんじゃない。オレは隠居するんだ。小さな領地だけでーーそうだ! お前のカチンをくれ。それでいいから」


「連行」


「はっ!」


 聞くに耐えないので強制退去させた。これにて裁判終了。王都に戻るぞ。


ーーーーーー


 すべての裁判を終えた俺たちは王都で会合を開いた。内容はお姫様の戴冠について。日程やその後の統治体制を決めるのだ。


「……といっても、一度刷新されたからほとんど変える必要はないんですけどね」


 お姫様ーーもとい、アリス(そう呼ぶように強制された)が苦笑いしながら任命書を書いていく。王国では通例、トップが代わると配下は改めて任命し直される。その際に渡される任命書は、自らの直属の部下へ渡すものだけ上司直筆で書くのが通例である。そして一番書く枚数が多いのが国王ーーつまりアリスだ。今ごろはボークラーク侯爵も奮闘しているだろう。彼は宰相に就任することになっている。なお俺は何もしていない。なぜなら王様の配偶者であるから、実権を持ってはいけない習わしなのだ。万歳。


「う〜。オリオン様だけズルいです」


「恨み言言ってないで早く書いてください。まだまだありますし」


 ドン、と机にリストと清書用紙の追加を置く。アリスの顔が絶望に歪む。


「こうなったら……」


 なにやらぶつぶつと呟いている。ま、仕事してくれるならいいんだけど。


「宰相様! 宰相様!?」


「おーい、ここだ」


「あ、宰相様。殿下もご一緒でしたか」

 

 俺を探していたらしい官吏に存在を報せると、ホッとした様子で駆けてきた。気のせいか、アリスへの対応がぞんざいに感じられる。……気のせい、だよ、ね?


「どうした?」


「はっ。実は新教国より使者が参っております」


「新教国? なんでまた」


「それが、姫殿下との婚礼についての打ち合わせにきたと……」


「そんな申し出をした覚えはないが」


 というかアリスの婚約者は俺である。非公式だけど。


「ですが使者はこちらが殿下の婿に教皇猊下のご子息を迎えたいと言ってきたと申しております」


 誰だ。そんなバカみたいなことを言ったのは。新教国といえば敵対国じゃないか。フィラノ王国で最も信者数が多い宗教が聖人教会である。教会が持つ荘園を総称して教国と呼んでいたのだが、近年、宗教対立が原因で南部が独立して新教国と称している。フィラノ王国は教国を支援していたのだが。そこの子息を迎えるーーつまり新教国の血統を入れることは、教国への敵対行為だし、国が簒奪される遠因になりかねない。もちろんそんなことをはいそうですか、と受け入れるわけにはいかず、早急に調査する必要がある。ま、誰がやったのかは想像がつくが。


「なんとかして数日粘れ。そうだな……王太女殿下は軽い病気、俺は外遊中。断りきれなかったら、最近暇になったご隠居組を駆り出せ」


「承知しました」


「同時に人を集めろ。事実関係を調査する」


 かくして文官たち必死の時間稼ぎ作戦を遂行している間、暇な文官を総動員して調査にあたった。結果、やはりダンの仕業だと判明した。劣勢になったため、アリスを供物にして新教国から軍事援助を引き出したようだ。もちろんそんな提案は受け入れられないので却下である。会議ではその方針が満場一致で可決され、のちに開かれた謁見ーー王様は表に出られないのでお姫様が代行ーーで新教国の使者に伝えられた。


「そんなことが許されるとお思いですか!?」


 使者が激昂する。もっともだ。しかしこちらとしてはそうとしか言えないのだ。だって与り知らないんだもの。


「後で厳重に抗議します!」


 使者は怒って帰っていった。だが彼は国に帰らず、ここに居座って本国と連絡をとっているらしい。本国の指示を受けた使者がまたくるまでに対策を考えなくてはならない。というわけで会議を招集。


「ーーというわけで対策を早急に考える必要があります」


「とにかく王太女殿下の即位を早めましょう。王が代われば相手も強くは出られないはずです」


 外務大臣が発言すると、出席者一同が頷いた。たしかに有効な手だと思うけど、結局は同じ国なわけで根本的な解決にはならない気がする。


「ここは大元を断つべきでは?」


「それはどういう?」


「新教国を滅ぼす」


「それは難しくないですか?」


 軍務大臣が反対する。が、はたしてそうだろうか?


「教国と歩調を合わせれば勝機は十分にあるでしょう。主力は我々。領土は折半で」


「教国が乗りますか?」


「幸い、この国は分断国家に囲まれているから問題はないでしょう」


 分断国家はまず祖国の再統一を目指している。よほど隙だらけにしなければ攻められる可能性は低い。事実、内乱が起こってもこちらからアクションを起こさない限り介入してこなかった。


「ですがあまりに不確実です」


「そうだ。内乱で民も疲弊している。進んで戦乱を起こす必要はありますまい」


 軍務大臣と内務大臣が揃って否定してきた。かなり成功率は高いと思うんですけど。教国だって乗ってくるだろうし。この策の肝は新教国を滅亡させるまではいかなくとも、痛手を与えてこちらに口出しさせないようにすることだ。彼らの勢力が削げればそれでいい。


「カチンの兵だけでも十分実現できる。我々はまだ余裕もあるしーー」


「宰相。あなたは今回の騒乱で十分すぎる功績を挙げられた。だからこそ王太女殿下の婿になられ、また我々もなにも言わないのです。これ以上、功を焦る必要はないのですよ」


 まるで血気に逸る若者を諭す老人のように諌める内務大臣。しかし俺は気づいた。気づいてしまった。彼らは俺の勢力がこれ以上拡大するのを恐れているのだ。だからこそ止めた。やはり貴族は貴族だ。それは強硬派も穏健派も関係ない。


「たしかに大臣たちが言うように、民を安んずる必要があるかもしれません。ですがオリオン様が言われた大元を断つという方法も有効です。そこでこういうのはいかがでしょうか?」


 そう切り出したアリスは、この場の誰もが思いつきもしなかった大胆な策を提示した。


「「「!?」」」


 あまりに大胆すぎて俺たち一同困惑する。しかし彼女は本気だった。この件については徹底的に議論される。正直、俺を含む貴族たちは反対だったーーそして会議でも反対したーーが、アリスは頑として譲らず、次第に根負けした。味方がいなくなっては俺も頷かざるを得ず、とんだ面倒事を押しつけられた挙句に、最後まで反対した罰のように詰めの調整を任された。……理不尽だ。




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