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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第五章 建国
65/140

5-11 決着

拙作『お約束破りの魔王様』の方も是非ご覧下さい!

 



ーーーオリオンーーー


 王都へ入城した俺はお姫様やカールさんとともに王様のところへ急いだ。色々とお世話になったから病状が心配だった。


「お父様!」


 衛兵が扉を開けると、開ききらないうちに生まれたわずかな隙間からお姫様が部屋に入っていく。ちょ、心配なのはわかるけどそれはダメだから。


「ん? アリスか。それにオリオンにカールも」


 しかしさすがは王様。突然の闖入者にも慌てず動じもしなかった。


「お父様、大丈夫なのですか!?」


「うむ。だいぶよくなった。これも名医ベルショールのおかげよ」


「そのようなことは」


 枕元に控えていたベルショールが苦笑気味に応じる。こいつ、ついに典医になったか。


「どうだった?」


「毒が盛られていました」


「っ!?」


「なんと!?」


 俺が報告を求めると、ベルショールはひと言で表した。それを聞いたお姫様とカールさんが息を呑む。しかし俺は驚かない。予想の範囲内だったからだ。突発的な病気である可能性もなくはなかったが、毒という可能性は捨てきれない。むしろ王太子がスムーズに動いたことから、後者の可能性が高いだろう。命じたのは王太子ではないだろうが。その辺りも今後、洗い出さなくてはならない。


「皆には心配をかけたな。だが余はもう大丈夫だ。ただーー」


「陛下は毒に侵されて身体が弱っております。お年を召していますし、以前のように働くのは困難です。それはカール様も同じです」


「というわけだ」


「最近、体調が優れないのはそのためか」


 王様はあっけらかんとしていて、カールさんも納得顔だ。いや、これからなのにこの二人に抜けられるとかなりきついのだが。


「そこでダンの暴走で流れていたアリスの王太女就任を行う。ダンの件をアリスとオリオンの責任でもって処理せよ」


「わかりました」


「はい」


 まあそうなるよね。俺たちだけじゃ手が回らないところもあるだろうから、ボークラーク侯爵にも手伝ってもらおう。


「そしてカール。不義理を働くぞ」


「構いません」


 王様たちが唐突にそんな会話をした。なんのことだ?


「アリス」


「はい。なんですか?」


「オリオンは好きか?」


「え? え? なぜそんなお話に!?」


「好きなのか?」


 お姫様はパニックに陥っている。そこに詰め寄る王様。すげープレッシャー。目からビームが出ていそうだ。お姫様はその気迫に呑まれてしまっている。目を逸らせない。逸らせば殺られるーーと本能が警鐘を鳴らしているのだ。


「……はい」


 たっぷり数分間見つめ合ったあと、お姫様は蚊の鳴くような声で肯定の返事をした。


「それはよかった。ならばオリオンに嫁ぐといい」


「へ?」


「は?」


 この展開は予想外。というかおかしい。なぜ俺が結婚相手になる?


「待ってください。別に俺じゃなくても他にいるでしょう? 公王とか公爵とか」


「カールを除けば皆ダンの味方をした。よって国家反逆罪で処刑だ」


 そういえばそうだった。


「それにアリスがいなくなれば、跡を継ぐのはそなたとレオノールの子だろう。王家の血が流れる正当な後継者なのだからな。アリスも、オリオンが好きだがレオノールと婚約しているから言い出せなかっただろうし、かといって諦めることもできず、結婚するつもりなど微塵もなかったはずだ」


「はい」


 な、なるほど……。


「ですがそれだと他の貴族が反発しませんか?」


「問題ない。今のそなたに逆らえる者などおらん」


「なぜです?」


「今回の件で、そなたは五万もの兵を単独で動員した。さらにはドラゴンまで味方している。そんな者に誰が勝てる?」


「要するに力をつけすぎたわけですか」


「そういうことだな。だから諦めろ」


 うわー、ちょっとやりすぎたかもしれない。


「余からつける条件は、アリスを正室としてレオノールを二番目の妻とすることだけだ。それさえ守るのなら何も言わん」


「……わかりました」


 これだけ言われたらもう受け入れるしかない。


「ほらアリス。挨拶しないか」


「あ、はい。オリオン様。私は今、天にも昇る心地です。夢が叶いました。末永くよろしくお願いいたします」


「こちらこそ」


 困惑しているのは確かだけど、嬉しいのもまた確かだった。


 なお、このことをレオノールちゃんに伝えたところ、『やっぱり』という随分とあっさりとした回答が得られた。彼女はどうもこうなることを予測していたらしい。その件については快諾を得られた。だが、最後に『でも一番はわたしですよ』と言われた。本当にちゃっかりした子だ。


ーーーーーー


 お姫様は早々に王太女となり、王様から政務の移譲を受けた。俺はカールさんに代わって宰相となって彼女を補佐した。まず行ったのは国境線の封鎖。そして謀反人たちの逮捕だ。強硬派貴族の家族を捕らえ、順次牢屋に入れる。王都にあるものでは足りなかったので、一部をカチンに移送する。王都はカールさんやボークラーク侯爵の補佐を受けたお姫様が、カチンでは俺がスピード裁判で裁く。穏健派貴族たちはもろとも処刑でいいではないかと主張したが、俺が突っぱねた。いくら罪人でも、一度は弁明の機会を与えてもいいと思うのだ。お姫様も反対していない。なにせお姫様に移った政権はまるまる俺が握っているからだ。彼女の『お任せします』のひと言でそうなった。俺は何もしていない。

 とはいえ強権を発動するだけなのもあれなので、少し妥協した。裁判とはいえほぼシナリオが決まっている。被告人の陳述、吟味、判決の言い渡しという流れだが、判決は事前におおよそ決められていた。首謀者(重罪)は一族男子が鉱山労働、女子は開拓使になる。開拓使の仕事は文字通り未開の原野を開拓すること。ただ普通の開拓団と異なるのは、開拓が終わっても役目は終わらないことだ。開拓が終われば土地を王国に差し出し、別の場所を開拓する。それが死ぬまで続くのだ。重罪とも軽罪ともいえない中罪の一族は男女ともに開拓使に。軽罪の者は爵位や財産の没収に留める。そんな風に予め決められていたのだ。どこの家がどの罪に該当するかも含めて。陳述でどのような経緯で罪を犯したかを知り、予め定めた刑が妥当かを吟味で判断する。もちろん陳述を拒否すれば即行で判決だ。こうして極限まで効率化している。だって多いんだもん。なお、グレーな者については保留となる。死刑がないのは貴族の柵というやつだ。あと、貴重な労働力をみすみす減らす理由もない。鉱夫など格好の役割だろう。死んでも惜しくないのだから。老いも若きも関係なくこき使われる。下手に殺すよりもこの方が有益だ。

 カチンでの裁判には面倒な人間が集められた。強硬派のなかでも中心的な者たちだ。代表例はダン(王族の籍は剥奪された)、アダルバート、レナードである。……元王族は王族で裁けよ、と抗議したのだが、お姫様からは『身内だと不公平な結果になりかねないので』と押しつけられた。レナードは俺の身内だと伝えたら『絶縁関係にあるので問題ありません』とのことだった。なんだよその滅茶苦茶な論理は。絶対に面倒な人間を押しつけるためだろ。ーーとは思うが、喚いてばかりでは一向に仕事は減らないので、やらなくてはならない。

 裁判にあたっては順番を気にしなければならない。わざわざ裁判をするのはもちろん妥当な量刑を定めるためでもあるが、同時に事件の全容を解明するという目的もある。これを例えるなら料理でメインから食べるか、副菜から食べるのかの難しい判断なのだ。そして俺は副菜からーーつまり下っ端から調べることにした。なにせ首謀者のダンやレナードはクズだ。言い逃れのためにーーまあ無理だがーー嘘をつく可能性が高い。だから下っ端から先に話を聞いてクズどもの発言と違う部分があるかを照らし合わせる。下っ端を訊問していくとクズどもが最初から色々とやらかしていたことが判明した。カールさんを刺した件を除けば、すべてダンやレナードがなんらかの形で関わっていた。驚いたのは以前にお姫様がゲイスブルク邸で襲われたことも、ダンやレナードの差し金だったことだ。成功した暁には侯爵として広大な領地とフィリップにあるいはその子に王女を娶らせるということになっていたらしい。話を総合すると、ダンは王女との婚姻をエサに味方を増やしていたようだ。たしかに王女との婚姻は名誉なことであるが、それは稀だからこそ名誉なのだ。ソシャゲで最高レアがジャバジャバ出てきたら面白くない。クソゲー認定されるのと同じである。こうして外堀を埋めてから本丸にかかる。まずはアダルバートからだ。


「アダルバート。そなたは逆賊ダンに与し、王国に対する反逆を行った。これに間違いはないな?」


「間違いありません」


「では何か申し開きをすることは?」


「ありません」


 彼は一切の申し開きをしなかった。他の連中はあれこれ言い訳してはこちらが集めた証拠や証言、あるいははったりで論破されていったのとは違う。非常に潔く好感が持てる人物だった。彼らは例外的に中罪として生かしておこう。

 アダルバートが立派な人格者だったことに気をよくしてレナードの裁判に臨んだ。


「レナード。そなたは逆賊ダンに与し、王国に対する反逆を行った。これに間違いはないか?」


「オリオン! 父親に対して呼び捨てとはなんだ!?」


「罪人は訊かれたことに答えなさい」


 最初から噛みついてきた。先行きがとてつもなく不安だ。


「ふん。親の情けで答えてやろう。礼儀知らずなお前に、父が自らあるべき姿を示そうではないか」


「御託はいいので早く答えなさい」


「答えは否だ。なぜならダン殿下は逆賊ではないからな。むしろお前が逆賊だ、オリオン」


 ちょっとこの人何言ってるかわからないんですけど。まさかの罪の意識ゼロだ。


「あなたにはこれまでの調査で、国家反逆罪が確定しており、さらに王太女殿下の暗殺、公文書偽造、贈収賄の他、複数の嫌疑がかけられている」


「証拠はあるのか!?」


「既に複数の証言と無数の証拠品と書類が見つかっている。特に貴族になってからの不正会計は酷かったな」


 各種の補助金を不正受給して、贅沢品に費やしていた。押収品から推察すると、その七割がブタの装飾品に消えていた。ゲイスブルク邸からの押収品に各地の希少な品々があったのを見たときには、間違ってどこかの博物館の展示品を押収してきたのかと思った。ま、そのあと担当者から話を聞いて、これをやるのはブタくらいだろうとは確信していた。ゲイスブルクの本家に女はブタしかいないからな。それを粉飾決算していたのだ。似たようなことは商人時代にもやっていたようで、数件見つかっている。余罪を含めるとこいつが一番重罪かもしれない。


「……」


 官吏に指示していくつかの証拠品を並べてやればレナードは大人しくなった。さすがに自分のサインと印が押されたものを前にしては何も言えないようだ。


「お、オリオン。儂らは親子ではないか。な? 赦せ。今まではカトレアがいるからできなかったが、これからは大切に扱う。だからーー」


「自分の立場が悪くなると途端に血縁関係を主張するなんて、度し難いほどのクズだな」


 まったく呆れたものだ。俺が能力を持って乗り移ったからよかったものの、そうでなければこのオリオンという男の子はどのような生涯を送ったのか。……五歳のときに死んでいそうだ。使用人たちによると、五歳のときに暗殺計画があったらしいし。


「それは謝る。謝るからーー」


「謝る? それは俺個人に対する謝罪か?」


「? 当たり前だろう。他に誰に謝るというんだ?」


「はぁ……」


 もうほんとにこいつは……。呆れてため息をついてしまった。


「いいか。俺個人に謝っても意味ないんだよ。俺だけに赦してもらってはいおしまい、なんてことにはならないからな? 王太女殿下を含め、あんたが不幸にしてきた人たち全員に謝って赦してもらえ。話はそれからだ。ーーそういえば、何件も殺人教唆していたな。死者の世界にまず謝りに行くか?」


 俺はそう言っておもむろに剣を抜いた。そしてレナードに近寄る。


「ひっ。儂を殺すというのか!? 父親を!? そんなことをすればミリエラが悲しむぞ!?」


「おっと。そういえば忘れてた」


 俺は慌てて席に戻る。そうだ。すっかり忘れてたが、


「レナードには強姦と脅迫の罪も確定している。今日はその証人を招いている」


 官吏に目配せして証人たちを入室させる。そこには母さんを筆頭に複数の女性たちがいた。誰もがレナードに強姦された人々だ。


「み、ミリエラ……」


「さて、あなたがたはここにいるレナードに脅迫された上に強姦されたというのは事実ですか?」


「はい。間違いありません。ここにいる被害者を代表し、ミリエラ・ブルーブリッジが証言いたします」


 母さんが代表して答えた。まるで三文芝居のようだが、間違いない。


「レナードは申し開きはあるか?」


「……」


 訊いてみたが、肩を落としていて反応がない。完璧に心を折られたようだ。


「ではレナードは重罪。鉱山における無期懲役を命じる。妻のカトレアについては開拓使としての無期懲役に処する」


 こうしてレナードの裁判も終わった。残るはダンひとりだけである。




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