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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第五章 建国
64/140

5-10 王都攻略戦

少し差別的な表現があります。ご注意ください。


拙作『お約束破りの魔王様』の方も是非ご覧下さい!

 



ーーーダンーーー


『王太子殿下。至急、お耳に入れたいことが……』


「うるさい! 今日の政務は終わった! 明日にしろ! オレは忙しいんだ!」


 オレは無粋な男を追い返した。初めに政務とそれ以外の仕事は分けると言っておいたのに、使えん奴だ。後で処刑するように言っておこう。劣等人の血を残しておく道理はないし、三代までの直系縁者をまとめて。

 そう遠くない将来、王となるーーいや、親父はあのままくたばるからもう王であるオレには二つの責務がある。国を動かす政務はもちろん大事だ。たがこれくらいはオレ以外の低脳な者たちに任せられる。真に大事なのはもう一方。こちらは低脳どもにはできない。オレ以外には不可能な仕事ーー子作りだ。国を動かすことも大事だが、次代につなげることこそが最も大切。要は子がいなければ国を動かす意味がない。我がフィラノ王国には三つの公家を筆頭に公爵家も数家ある。万が一宗家に世継ぎがいない時にはこれらから王を出すが、できれば直系の子に継いでほしい。オレは結婚が遅れたせいで子はひとりもいないから、世継ぎについては急務である。だから昼は政務に励み、夜は子作りに勤しんでいるのだ。妻はもちろん、貴族たちから送られてきた女たちも抱いている。公家から伯爵以上の出自の女は側室、それ以下の家柄の出自の女は妾として。今、後宮には百以上いたはずだ。日夜身を削って仕事に励むオレは、歴史書に稀代の賢王として書かれることは間違いない。

 オレの努力は実り、政治では政敵のアリスを口うるさいジジイ(カール)たち穏健派の貴族たちもろとも排除することに成功しつつあった。敵の主力は北に押し込められている。これを殲滅すれば各地で抵抗する奴らも諦めるだろう。アリスはフィリップにでも与えればいい。ゲイスブルクの財力は味方につけておいて損はないからな。オレはソフィーナとその商会を丸ごといただくから、奴らとオレの勢力が伯仲することはない。

 子作りも妻をはじめ数人が孕んだ。理想としては男三人。女は何人でも。男は世継ぎとその代えが二人要るから三人。女は婚姻の道具に使えるから何人いても困らない。だから一日も欠かさず女を抱く。王も大変だ。


ーーーーーー


 翌朝。オレは執務室に入る。そこでまず昨日の男を処刑するように命じた。その場にいた男は衛兵たちに捕縛され、地下牢へ連行される。司法を司る貴族は男の縁者を調べるために退出した。うむ。仕事熱心でいいことだ。ん? 妾のひとりが男の娘で、孕んでいるがどうするか? 構うか、殺せ。いくらでも代えがきくのだから、関係ない。


「さて、では報告を聞こうか」


「はっ。ではまず財務大臣からご報告させていただきます。年貢の徴収と計算が終了いたしました。結果はーー」


 大臣たちが次々と報告する。細かくは聞かないが、概ね問題ないのだろう。


「最後は軍務大臣からご報告させていただきます。北部戦線ですが、味方が大敗いたしました」


 なにっ!?


「叔父御が負けたのか!?」


「はい。敵の城を攻めあぐねていたところ、背後から敵の奇襲を受けた模様です。城兵も乱入し、かなりの犠牲を出したようです。公王は無事ですが、フィリップ殿は生死不明とのこと」


 なんということだ。カチンに領土を持つオリオンは実戦経験がある。だから警戒して実戦経験豊富な叔父御たち東部の貴族を当てたのだが。


「仕方ない。レナード。王都にいる兵たちを率い、フィリップの捜索も兼ねて叔父御の援軍に向かえ」


「お待ちください。報告は他にもございます」


「そんなことよりも迅速に兵を送らねば北が危ないではーー」


「穏健派の貴族を攻めていた軍が軒並み壊滅しました」


「はぁ!?」


 なんだよそれ。なんで綺麗に全軍が壊滅するんだよ!?


「ドラゴンの襲撃を受けた模様です」


「デタラメだ! そんな都合よく各地にドラゴンが現れるわけーー」


「お忘れですか? 逆賊オリオンのことを」


 あいつか! 竜王に娘を贈られた!


「おそらくかの者がドラゴンをけしかけたものと思われます」


「ぐぬぬ。勝てないからといってドラゴンに頼るとはなんという卑怯者だ」


「殿下! それよりも早急に王都の防備を固めるべきです! この王都は要害の地に築かれており、劣勢でもそう簡単には落ちません」


 貴族のひとりが進言してきた。なるほど。それはもっともだ。


「待て。籠城策は援軍の見込みがあるから採れるんだ。各所の軍が敗れ、残すは王都にいるわずかばかりの兵になった今、どこから援軍がくるのだ?」


 そう言ったのはレナード。うむ。たしかにその通りだ。


「国外にいくらでもいるでしょう。特に動かしやすいのは教国ですな。北方のカチンはドラゴンを崇めている者がいるという。ならば『異教徒どもがーー』とそそのかせばすぐさまやってくるはずです」


 なるほど。外の国を動かすのか。


「他国を迎え入れるなど言語道断! 国が滅びる原因だ!」


 そういった故事はよくあるな。周りの貴族たちも反対の者が多い。


「ゲイスブルク侯爵! あなたはさっきから反対ばかり言っていますが、元はといえばあなたのご子息がこの窮地を招いているのですぞ!?」


「そうだ! その通りだ!」


「責任をとれ!」


 今度はレナードへの批判が多く上がった。


「オリオンと儂はもう親子ではない! 戯言を吐いている暇があったら少しでもマシな策を考えるのだな!」


「なんだその言い草は!」


「そんな言い訳が通用するわけないだろうが!」


 喧嘩が始まった。議論を尽くすのはいいことだ。きっと素晴らしい解決策が出るだろう。


ーーーオリオンーーー


 俺たち穏健派は軍を王都のほど近くまで進めていた。四方から王都を包囲するわけだが、攻撃するのは北ーーつまり俺たち本軍のみである。やはり数がまったく違うからだ。東西と南の三方の軍を合わせても一万ほど。一方の本軍は五万。下手に全方向から攻めるよりも本軍で攻めた方が安全である。

 王都へと進撃するなかで情報を収集していた。敵がどのような配置で臨むかによって作戦も違ってくるからだ。兵力が多いとはいえ、油断すれば呆気なく負けるかもしれない。物事には万全を期すべきだ。そして諜報活動によって得た情報によれば、ろくな備えは何もないらしい。というのも、貴族たちが伝統的な貴族と新貴族の二派に分かれて激しい抗争を繰り広げているそうだ。いわゆる宮廷闘争というやつである。日々激論が交わされるも結論は出ない。会議は踊る、されど決まらずという言葉通りの有様だそうだ。逃げ戻ったウォルトン公王が方針を決めようと働きかけるも、両派閥は敗者が何を言うか、と相手にしなかった。王太子は沈黙しているだけだという。面倒だからって結論を出すのを嫌がったようだ。とんだクズである。そして合議制による政治運営の愚かしさを集めて数倍に濃縮したような醜態だった。

 どのような結論が出されるのか興味はあったが、孫子曰く『兵法は神速を尊ぶ』である。全軍を王都へ急がせた。敵はとりあえず防備を固めたようだが、周辺の砦などに手を加えた様子はない。それがどういうことかというと、丸裸も同然ということだ。なにせ俺たちはつい最近まで味方だったのだから。申し訳程度の兵力しかいない砦はたったの一日で陥落した。驚いた敵はなけなしの兵を繰り出す。その数三千。大将はウォルトン公王。副将にレナードである。完全な死兵だった。これが後に『ウォルトン公、死の騎行』として有名になるのだが、それはさておき。俺たちは王都の手前で睨み合った。


「オリオン! オリオン出てこい!」


 レナードが呼んでいる。はぁ。面倒だけど出るしかないか。


「何か用か?」


「お前、王女殿下を誑かして貴族になったと思えばソフィーナを引き抜き、挙句に商売でも邪魔をする! さらにフィリップを殺すとはなんという恩知らずだ!」


 何言ってんだ、こいつ?


「あのさ、何恩着せがましいこと言ってんの? あんたが関わったのは俺が生まれることだけだ。それ以外はすべて母さんがやってくれた。そんなことを言われる筋合いはないんだけど」


「なんという言い草だ! お前だけは殺してやる」


「かかってこい。一騎討ちといこうじゃないか」


「望むところだ!」


 レナードが馬に乗り、剣を片手に迫る。俺もエキドナに乗って進み出た。なにやら背後がざわついているが、何かあったのだろうか?


『主様。馬とわたくしでは致し方ないことかと』


 エキドナが暗に批判してきた。なるほど。ドラゴンに乗っての一騎討ちはセコイと。バカめ。なぜ手を抜く必要がある。生死がかかっているのだ。持ち物を問題にするなら、そもそも一騎討ちなど成立しない。なぜなら武器や防具にだって差はあるし、裸になっても筋力にも違いがある。世の中に公平など存在しないのだ。さすがにブレスで消し飛ばすのは可哀想なので魔法でとどめを刺す。氷の礫が俺の頭上に無数に浮かぶ。レナードは咄嗟に手に持つ剣を投げた。しかし剣は礫に砕かれ、レナードには特大の礫が腹部に命中する。彼は倒れた。威力は調整したので、死んではいないはずだ。


「むう、レナードの仇をとれ! 突撃!」


「一気に踏み潰します。突撃!」


 敵のウォルトン公王と、俺の副将であるシルヴィが同時に突撃の命令を下す。これで両軍は激突しーー勝敗は一瞬にしてついた。中央を驀進する重装騎兵が紙を錐で突き刺すように敵陣を易々と中央突破。敵陣をから竹割りにした上で包囲殲滅した。この戦いでウォルトン公王をはじめ、貴族は粗方捕らえられるか討ち取られた。王都の前で見せた公開リンチみたいなものだ。王都の人々は戦慄しただろう。同じ王国民にここまでやるのか、と。答えはイエスだ。これは為政者への警告である。容赦はしない、という。

 戦死者の埋葬を指示する一方で王都を包囲させる。夜襲を警戒しつつ、戦いの疲れを癒すために三日ほどゆっくり休ませた。その三日目の夜に俺は動く。転移を使って王都内部に侵入。お供は信頼できる精鋭十名だ。俺が特別に要請した特殊部隊(五百名)のうちの一個分隊である。彼らは敵地への潜入と工作のエキスパート。先行しているハンゾーと合流し、門のひとつを密かに奪取した。ハンゾーの調べで夜最後の交代が終わってからの襲撃だ。そして翌朝。開門して外の味方を招き入れる。こうして王都は呆気なく陥落した。強硬派貴族の多くが捕らえられ、王族のための秘密の抜け道で逃亡を計った王太子も、事前にその存在をお姫様に教えてもらって待ち伏せしていた特殊部隊が確保している。王様も無事に保護され、ここにフィラノ王国史上最大規模の内乱は終息した。




ちなみにダンの後世における評価は言うまでもなく暗君です。

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