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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第五章 建国
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5-7 カチン籠城戦Ⅲ ひもじいよぅ

二話同時投稿となります。


拙作『お約束破りの魔王様』の方も是非ご覧下さい!


今まで細々と投稿してきましたが、前回のPV数が1000を超えているのを見てギョッとしました。とても嬉しいですし、励みになります。

改めて、この『異世界最強の自宅警備員』を読んでくださっている皆様に篤く御礼申し上げます。

 



ーーーアダルバートーーー


 ワシは頭を抱えたくなった。まず、義兄の夜襲は失敗した。それはいい。織り込み済みだ。むしろ城壁にとりついたというのだからすごい。しかしそれは義兄が前線に出ていたからだった。義兄が使う剣は、王国でも屈指の鍛治師が作った名剣だ。それを使って障害物を斬っていったそうだ。これで有効な突破方法が発見されたわけだが、問題はそれくらいの剣でなければあの障害物は突破できないということだ。当然、そんな名剣が何本もあるはずがなく、また持っていても使いたがらないだろう。だから有効ではあるが現実的ではなかった。それだけなら惜しかった、で済んだのだ。ところがこの戦いで夜襲部隊は猛烈な反撃を受け、あろうことか義兄が瀕死の重傷を負ってしまったのだ。医者によると前線に立つことはおろか、指揮をとることさえも難しいという。やむなく軍をその子どもに任せ、義兄は王都に送った。あそこなら腕のいい医者も大勢揃っている。少なくとも戦場にいるよりはマシだ。

 これだけでもかなりの打撃なのに、またあのクソガキがやらかした。商人だというから兵糧の管理くらいできるだろうと任せていれば、敵の奇襲を受けて兵糧をすべて焼かれるとは! 斬り捨ててやろうと思ったが、甥のお気に入りたからそれはできない。忌々しいことだ。このせいで兵糧は各軍の手持ち以外はなくなってしまった。周辺から徴発しようにも、ここまでの村はすべてもぬけの殻だった。さらにこのカチンは農地を含むありとあらゆる施設が城壁の中にあるという。これはつまり、次の補給までは水とわずかな食糧だけで過ごさなければならないということだ。……とりあえず一日一食だな。


ーーーーーー


 腹が減った。一日に一食しか食べていないのだから仕方がない。だがあと数日で次の補給日だ。あと少しの辛抱だと思っていたら、敵が城壁の上で大宴会を始めやがった。空腹の兵士たちはそれを羨ましげに見るしかなかった。こちらはイノシシやシカだけでなくネズミやそこらの雑草でさえも我慢して食べているというのに、あちらはうまそうな肉や魚、酒をたらふく食べて飲んでいる。ついに誰かが痺れを切らして攻め寄せたが、呆気なく撃退されていた。普段なら厳しく罰するが、今回ばかりはワシも同じ気持ちだったから不問にした。まったく忌々しい。


ーーーーーー


 待てど暮らせど補給がこない。なぜだ! 補給日はとっくに過ぎているというのに。ワシは気になって配下に調べさせた。するとひとりの素浪人を連れてきた。どうもその男、補給を担当していた部隊の所属だという。なぜひとりでいるんだ?


「北へ向かう街道の途中で襲われました」


「なんだと!?」


 それでは敵が後方にいるということか。もしかすると挟撃されるかもしれんぞ。


「仕方ない。ここは軍を割いて護衛につけよう」


 こうして五千の兵を使って兵糧を輸送することでようやく飢餓問題は解消した。ついでに街道周辺に敵がいるかを調べさせたが、見つけることはできなかったそうだ。食糧が届くようになったのはよかったが、補給でさらに兵数が減ってしまった。現在動けるのは四万しかいない。これはかなり厳しい状況だった。


ーーーオリオンーーー


 俺発案の敵前宴会作戦は大成功だった。味方からは鬼畜呼ばわりされたが、兵士たちは喜んでいたのだからいいじゃないか。キレて襲ってきた敵は撃退したし。

 そんな感じで突発的に攻められるケースはあったが、戦局は概ね平穏である。カチンの住民も戦争のことなどほとんど忘れ、普段と変わらない生活を送っている。普段と違うところといえば街の外に出られないことくらいだ。何年でも籠っていられる。だがあんまり長引くといけないので、近いうちに決着をつける必要はあるだろう。準備が整うまではあと数ヶ月は要するので、それまではゆっくり構えていればいい。

 今日は街の視察だ。あちこちを見て回って領民たちに不自由はないかを訊いて回る。籠城戦をしている以上、少しく制限はあるし、不満もある。それを聞き、打てる手は打ってガス抜きをするのだ。ーーなどと言いつつ、実質は気晴らしでしかない。この時代、兵役や夫役を除けば農民や職人が居住地から離れることはまずない。商人たちについてはオリオン商会が買い占めた物品を戦時特例ということで無償供与している。この損失分は戦後賠償として実家からせしめるつもりだ。ソフィーナへの度重なるちょっかいに対する迷惑料も兼ねて、ゲイスブルク家の総資産を請求するつもりだ。


「お兄ちゃん、悪い顔してる」


 ソフィーナに指摘されてしまった。そんな顔してたか?


「してた」


「していました」


 左右にいるソフィーナとお姫様に揃って断言された。ちなみになぜこの犬猿の仲である二人を一緒にしているのかというと、従軍組シルヴィとフィオナが俺と一緒にいる時間が長いと抗議し、その埋め合わせとして領内視察に同行してきたのだ。なお抗議したのは二人だが、ついてきたのは三人。お姫様、ソフィーナとレオノールちゃんだ。俺は最後の希望であるレオノールちゃんを見る。


「してませんよ」


「ほら見ろ!」


「こういうのは多数決でしょ!」


「俺はしてない側だからイーブンだ」


「本人の投票なんて無効よ!」


「引き分けだ、引き分け。いいか、いつでも奇数で採決をとるとは限らないんだからな」


 などと俺とソフィーナが言い合っている横ではお姫様とレオノールちゃんが笑顔で睨み合っていた。


「レオノール。嘘はいけないわよ?」


「嘘ではありませんよ、アリスお姉様。妻ですから。旦那様に嘘はつきません」


「暫定でしょう?」


「この戦争が終われば結婚します」


 おいこら。フラグ立てるなよ。死ぬだろ、俺が。

 そんな調子で視察を続けていると、ある農家で最近引っ越してきたばかりだというおじいさんに声をかけられた。


「領主様? 領主様ですか?」


「そうだが……」


「おお、なんと……。ありがたや、ありがたや」


 急に拝まれた。いや、まだ死んでないから。


「急にどうした?」


「申し訳ございません、ご領主様。父はカチンの統治をとても気に入ったようで、このようにお役人様に感謝を伝えていたのですが、今日はご領主様がいらっしゃったということで、感極まったようでございます」


「そ、そうなのか……」


 案外、本人が知らないところで宗教というものは生まれているのかもしれない。そういえばフィオナも似たようなものだったし。


「親父、もう止めてくれよ」


「何を言うか! お前は半年前までの苦しみを忘れたのか!?」


「忘れたわけじゃないけどーー」


「いいや、忘れておる!」


 それからおじいさんは息子(?)に対して熱弁をふるった。……おじいさんの熱弁を要約すると、半年前まで王国東部に住んでいたおじいさんたち一家は、何度も戦火に見舞われてきた。特に籠城して兵糧が尽きた兵士が、都市へ逃げ込んだ自分たち農民の食糧を目当てに襲ってくるようなこともあった。それがカチンではそのようなことが一切ない。これがどれだけ素晴らしいことか。おじいさんはそんなことを熱く、熱〜く語った。すると息子の方も、


「そうだ。俺の妻も娘も、東部の奴らに襲われていなくなったんだ。すまん親父! 俺が間違ってた!」


 なんて感化(教化?)された。暗いエピソードをどうもありがとう。そろそろ帰っていいですか?

 もしあのおじいさん名前がピーター、息子の名前がポールと知っていれば、ともすると歴史は変わっていたかもしれないーーと俺が思うのは、このしばらく後のことである。




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