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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第五章 建国
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5-6 カチン籠城戦Ⅱ 夜の部

拙作『お約束破りの魔王様』の方も是非ご覧下さい!

 



ーーーオリオンーーー


 昼間の総攻撃で圧倒的な勝利を収めたことで、カチンの街はちょっとしたお祭り騒ぎであった。しかしそれは民衆のお話。俺はシルヴィやフレデリックとともに戦後処理に奔走する。


「戦死者を収容しろ! 負傷者はすぐに衛生兵のところへ! 見張りは常に警戒を怠るな! その一瞬の油断が命取りになる! 勝って兜の緒を締めよ、だ!」


 遺体は放置しておくと腐って、疫病の原因になったりする。だから早期に収容する必要があった。そのあとはドッグタグで名前を確認し、担当の将校がカチンに家族がいるかを確認する。いれば葬儀は任せるが、いない場合は軍で合同葬儀を行う。もっとも今回は一方的すぎたため、戦死傷者は百にも満たない。敵兵の死体については、申し訳ないが防疫という観点から魔法で燃やした。補修が必要なほど壊れた場所もなく、戦後処理は早々に終わる。兵士たちには戦勝祝いとして軍が配給するものだけという条件つきで飲酒を認めた。これにはカラクリがあって、配られたのはノンアルコールビールである。騙すようで少し心が痛んだが、この戦争が終われば好きなだけ飲んでもらいたい。

 盛り上がる兵士たちを尻目に、俺はフィオナを呼び出した。


「夜襲をやってほしい」


「わかりました」


「随分とあっさりしてるな」


 少し驚く。もう少しごねるかと思っていたのだが……。


「ご領主様のご命令ですし、ご褒美ももらえますから」


「率いてもらうのはお前のところの信者たちだ。お前たちの魔法で敵の兵糧を焼き払ってこい」


「はい」


 フィオナと信者の男衆百名は、カチンから伸びる秘密の地下道を通って城外へ出て行った。そこから先はある人が案内をする。


ーーーーーー


「ーー敵だ!」


 俺は敵の存在を感知して飛び起きた。なぜわかったのかというと、外の有刺鉄線が壊されたからだ。あれは単なる障害物ではなく、警報装置の役割も担っていた。常時俺の魔力が通っていて、異常があればそれは敵の仕業ーーつまり敵の来襲ということになる。寝室の窓に控えていた兵士を伝令に走らせ、寝間着から外に出てもいい服に着替える。そして剣を片手に戦闘指揮所に入る。ここでは当直の兵士たちが状況の把握に努めていた。


「光魔法で確認したところ、敵兵の存在が明らかになったのは北門のみ!」


「北門は防戦に入りました」


「他の門も警戒を怠らないように徹底させろ! 十分に一度は光魔法での索敵を行え!」


 報告と指示がひっきりなしに飛び交っている。そこに俺と、ほぼ同じタイミングでフレデリックが入ってきた。少し遅れてシルヴィ。男二人は着のみだが、シルヴィは鎧をきっちりと着込んでいる。


「攻められているのは北門だけのようです」


「北門を攻めていたのはーーたしかナルディエーロ伯爵だったな」


「はい。北伐軍の総大将であるウォルトン公王の義兄で、王国随一の軍閥の家系です」


「はたして独断専行か、それとも作戦なのか……」


 判断に迷うところである。夜戦であるから光魔法の使用は免れない。しかしもし翌日も総攻撃が続いた場合、魔法使いの数が不足する恐れがあった。


「とにかく速度優先だ。北門以外から光魔法が使える者を、索敵に必要な数だけ残して北門に集めろ。外を常時照らし、速やかに殲滅する」


 俺が指示を出すと、その命令が迅速に実行された。北門に集結した光魔法使いが周辺を煌々と照らし、昼間のような明るさにする。そして丸見えとなった敵に対して矢と魔法、石が降り注いだ。驚くべきことに敵兵の一部は城壁にとりついて梯子をかけていたようだが、敵が登ってくる前に外した。激しい攻めを見せていた敵だが、あるときを境にして潮が引くように撤退していったそうだ。勘でしかないが、何某かの重要人物にラッキーパンチが当たったのだと思う。しかし原因はどうであれ撃退には成功した。世の中結果がすべてである。


ーーーフィオナーーー


 私はご領主様から城外に出て敵の兵糧を焼き払うよう、ご命令を受けました。与えられたのは信者の方々、およそ百名です。彼らとともに地下通路を通ります。とても広いーーというわけではありませんが、それでも人ひとりが余裕で通れるだけの広さがあり、壁面は石で覆われています。こんな立派な地下通路をほんの半月で造ってしまうご領主様は凄いです。でも一番はエキドナ様に乗って空を駆けるお姿。今回はそれが見られないのでとても残念です。

 そんなことを思っているうちに地上へと出てきました。ご領主様のお話だとここで案内役の方が待っているとのことですが……。


「お待ちしておりました」


「ひゃっ!?」


 突然声をかけられて驚いてしまいます。声の主人を探すと、暗闇から男の人が出てこられました。


「オリオン様より皆様のご案内を任されたました、ハンゾーと申します」


「フィ、フィオナです」


 まだ衝撃から立ち直っていないため、少したどたどしい挨拶になってしまいました。


「伺っています。ではご案内いたします」


 ハンゾーさんは歩き出しました。足音をまったく立てずに歩くのがすごいです。それにとっても自然で、前にいなければ彼と一緒に歩いていることに気づけないでしょう。


「ハンゾーさんは隠形の魔法が得意なのですね。先程からまったく魔法の気配を感じません」


「いえ、これは魔法ではなく身体的な技術です」


「そうなのですか?」


「ええ。我々は幼少のころから修行を続け、こうした技術を会得するのです。これはその成果ですよ」


「そうなのですか」


 私も不死身の吸血鬼としてかれこれ数百年は生きていますが、まだまだ知らないことがあるようです。こんな思わぬ出会いをもたらしてくれることも、ご領主様の魅力のひとつです。もちろん一番はエキドナ様に乗って空を駆けるお姿ですが。


「着きました」


 そう言ってハンゾーさんは足を止めました。茂みから少し顔を出すと、そこには大量の兵糧がありました。ソフィーナさんが王国全土から買い集めたという小麦がすべて保管されているカチンの倉庫と比べると大した量ではありませんが、それでも六万人の兵糧ともなればかなりの量があります。そして意外にも警備の兵は少なかったです。概算で五百人程度でしょうか? とはいえ私たちよりははるかに多いので、どんな作戦でいくかが鍵になるでしょう。


「どうしますか?」


「どうするも、強襲するしかないのでは?」


 ひとりの言葉に信者たちは頷きます。私もそれしか思いつきません。夜でこちらの姿は見えにくいので、頑張って声を出せば人数を誤認してくれるかもーーなんていう一縷の望みに縋るしかありません。ご領主様、お知恵をお貸しください! 敵が目の前にいるのに思わず叫びたくなります。


「少し待ってください」


 ここでハンゾーさんが待ったをかけました。


「どうしましたか?」


「この奇襲を支援するために、オリオン様から陽動作戦をするように命令されているのです。間もなく始まります」


 ハンゾーさんがそう言った直後、別の場所から火の手が上がりました。兵糧を守る兵士たちは動揺しています。しばらく経つとひとりの男が近づいてきて大声で叫びます。


「この先の陣が敵の奇襲を受けた! 隊長がやられて俺たちじゃどうしようもない。助けてくれ!」


「どこに兵がーー」


「隊長! 今はそんなことよりも味方を救援しましょう!」


「そうだな。よし、俺に続け!」


「「「オオオッッッ!!!」」」


 そんなやりとりがあって、兵士たちはみんなどこかへ行ってしまいました。


「かなり楽になりましたね。では早速火を放っていきましょう」


「陽動は効果覿面でしたね」


「正直、驚いています」


 クールなハンゾーさんもまさか全員いなくなるとは思わなかったのか、少し当惑していました。聞けばあの伝令はハンゾーさんの仲間なのだそうです。敵がいないので私たちはやり放題でした。何度も漏れはないか入念に確認してから火を放ちます。たちまち小麦は燃え上がりました。仕事が終わると元きた道を引き返してお城に戻ります。ハンゾーさんは外でのお仕事があるということで、地下通路の入口で別れました。

 お城へ帰るとご領主様に結果を報告します。


「よくやった!」


 お褒めの言葉をたくさんいただきました。でも、お言葉よりもちゃんと行為で示してほしいです。そうおねだりしたら、たくさんしてくれました。次も頑張ります。




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