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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第一章 成長
6/140

1ー5 父との再開




ーーーオリオンーーー


 母と別れた後、俺が何をしていたかというと試験を受けていた。内容は語学や歴史、算術などの筆記試験と、剣や魔法の実技試験である。高校や大学の入試を受けているような気分だ。しかもテストはその場で採点される。意地の悪そうな顔をした学者がニタニタと気味の悪い笑みとともにやって来るとおもむろに採点を始めーー青い顔をして去っていく。はて。満点なのになぜ青い顔をするのだろう。ボク、ヨクワカラナーイ。まあ失点させるために難しくしたつもりなのだろうが、生憎とこちらは地球のより進んだ学問を学んでいる。学校に行かない引きこもりだったが、親が参考書なんかを買ってきて高校を卒業できるレベルの勉強はしている。難易度的には中堅高校の入試問題程度か。まるで話にならない。

 他方、実技試験は悪意に満ち満ちていた。相手は明らかに手練れと分かる大人。見た目は三十代といったところで、アーロンさん日く、『冒険者として一番脂が乗った時期』ーー要するに最盛期ということだ。とても五歳児に課す試験とは思えない。ほら、そこはかとなく悪意を感じる。さらに彼らは本気でかかってくるのだ。殺気を撒き散らし(普通の子どもならこの時点で泣く)、本気の剣(鋭い)と魔法(上級)を繰り出すのだ。普通の子どもならこの時点で死んでいる。ここまでされると悪意ーーというよりもはや害意を感じざるをえない。

 ……まあ倒したんだけどね。

 アーロンさんは剣を教えてくれるとき、幼い俺でも勝てるようにと、力に対して力で対抗するのではなく、いなす対抗法を教えてくれる。だからこれまで修めてきたのは攻撃をいなし、一瞬の隙に乗じてカウンターの一撃を打ち込む返しの剣。子どもと侮って力でねじ伏せようとする相手に負けるはずがない。魔法は母の直伝だ。たとえ相手が上級魔法を使ってこようとも、俺のプライドとして負けるなんてことは容認できない。ーーというわけで、相手が質ならこちらは数で勝負だ。一の上級魔法に対して初級魔法を百、二百としこたま撃ち込む。魔法は難易度が上がればより多くの魔力はもちろん、それらを御す繊細な魔力コントロールを要求される。少しでもしくじれば魔法は失敗する。俺はその性質を利用して、初級魔法を撃ち込むことで相手の周囲に魔力を拡散。コントロールを乱した。さすがは手練れ。少々乱されたところで魔法は維持し続けたが、ついに耐えきれずに暴走。魔法の暴発により自滅した。

 周りで実技試験を見物していた人々は剣術で閉口し、魔法が終わると大いに慌てていた。五歳児が大人二人を()したんだから当然か。見た目は子ども、中身は大人なコ○ンくんなわけだが、それを彼らが知るはずもない。

 なにはともあれ筆記試験は全科目満点。実技試験は用意された試験官を倒してみせた。これが入学試験ならぬ入家試験ならどうする?


ーーーーーー


 試験の後、なぜか怯えた様子のヘルム執事に案内されて部屋に案内された。面接試験か、と思えばそこには母がいた。

 ヘルム執事はそそくさと退室し、メイドたちも一礼して彼に続く。部屋に残されたのは俺と母の二人……。


「オリオン!」


 誰もいなくなった途端に母に抱きしめられる。そして、


「大丈夫?」「ケガはない?」「何をしていたの?」「酷いことされなかった?」


 と、嵐のように質問を浴びせられた。興奮する母をとりあえず落ち着かせ、それから順に何をやっていたかをざっくりと説明した。


「ーーというわけです」


「無事でよかった…」


 そう言って今度は優しく抱きしめてくれる。優しくされるのに慣れていない俺は未だにドギマギしてどういった反応を返せばいいのか分からなくなる。前世、こうして抱きしめられたのはいつだったか。思い出せないほど昔のことなのは確かだ。俺は迷った末に、普通に抱きしめ返した。中身は外見不相応(精神年齢二三歳)だから過保護に思える。けれどとても温かく、確かな愛を感じた。

 体を離すと、なんとなく気恥ずかしくて目を逸らす。母はそんな俺の頭を撫でてくる。絶対ニヤニヤしてるよ、この人。だから恥ずいっちゅうねん! 乱雑にその手を払いのけると残念そうで、そして悲しそうな顔をされた。そんなことされると罪悪感が募って仕方がなかった。……やりにくい。

 両者の間に微妙な空気が流れる。それを吹き飛ばしたのは、何の前触れもなく開いた扉が立てた音だった。


「……」


 扉の前に立っていたのは仏頂面をした男。顔はスマホみたいな縦長の長方形。その周りを茶色の髪と髭が覆っていて、なんとなくライオンを連想させる。顔は厳つい。だが、なんともいえない微妙な表情をしているせいで笑いを誘う。さすがに初対面の相手に対して大爆笑するわけにもいかないので、俺は笑いを噛み殺すのに必死だった。

 だが母は表情を動かさず、音もなく静かに立ち上がると深々と一礼した。


「ご無沙汰しておりました、旦那様」


「ああ……久しいな、ミリエラ」


 母が『旦那様』と呼ぶ人物ということはつまり、母の雇い主であってーー俺の父親。

 そうか。俺の親父はライオンだったのか……。




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[気になる点] サブタイトル、再会ではないでしょうか。
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