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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第五章 建国
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5-5 カチン籠城戦Ⅰ 昼の部

拙作『お約束破りの魔王様』の方も是非ご覧下さい!

 



ーーーフィリップーーー


「この大馬鹿者がッ!」


「ひっ!」


 オリオンに負けて命からがら逃げ出したボクは、中軍を率いる征北将軍のアダルバートと合流した。そして事の次第を説明したあとの第一声が叱責だった。耳が痛い。彼は王国の東部を領するウォルトン公家の当主ーーつまり公王だ。その妹は殿下の母親で、殿下からの信任篤い人物である。そして、東部は比較的新しく王国に組み込まれたため反乱が起こる頻度が高く、その都度アダルバート将軍が鎮圧している。つまり一番戦い慣れているのだ。その配下の貴族たちにも百戦錬磨の猛者が揃っている。間違いなく王国で最強の軍団だろう。


「公王様! 落ち着いてください!」


「これが落ち着いていられるか! この甘ったれたクソガキの性根を叩き直してやる!」


 このおっさん怖いよ! 助けて!


「ええい、ともかくこのバカの軍を立て直さねばならん。行軍は一時停止だ。逃げてくる兵士を収容する。それと殿下から援軍を送ってもらわないとな。まったく」


 ボクは一軍を率いることに変わりはなかったけど、その数はずっと減らされて、兵糧の管理なんていう仕事が与えられた。そのときのアダルバート将軍はボクを冷めた目で見ていた。それはさっきまで将軍をなだめていた人たちも一緒だった。誰もが冷めた目でボクを見ている。……劣等人の分際で優秀なボクを見下すなんて許さない。絶対に後悔させてやるからな!


ーーーオリオンーーー


「お兄ちゃん!」


 カチンに戻るとソフィーナが飛びついてきた。俺は彼女を抱きとめる。相変わらず羽のように軽い。


「どうした?」


「無事でよかったぁ」


 そのまま俺の胸でグズグズ泣き始める。心配してくれるのは嬉しいのだが、泣かれるレベルの話なのか?


「ソフィーナさんはオリオン様が敵に討たれないか心配でたまらなかったようですよ」


 と、お姫様が補足してくれる。


「そんなに弱く見えるのか、俺?」


「うん!」


 ソフィーナは元気よく頷いた。心外である。


「私は大丈夫と言っていたのですよ。オリオン様は私を助けてくださったのですから」


「そうですよ、ソフィーナ様。オリオン様は島でもエキドナ様に乗ってご立派に戦っておられましたし」


 と、シルヴィのフォロー。従軍組だから説得力は高い。ちなみにもうひとりの従軍組であるフィオナは信者たちに捕まって不参加である。彼らも心配だったようだ。


「そうなんだ。心配して損した」


「打算で物事を考えるな」


 これだから商人は。そんなんだからブラック経営者になるんだよ。まったく。


「旦那様はとても格好よかったです」


 レオノールちゃんが天使だ。そんな風に俺たちが団欒していると、


「オリオン」


「母さん、ただいま」


「お帰りなさい。あなたが無事で嬉しいわ。エリザベスも喜んでいるわよ」


 エリザベスを抱いた母が出てきた。孫娘にすっかり魅了されているらしく、片時も彼女を手放さない。シルヴィもその溺愛ぶりには苦笑していた。


「さて、状況を説明すると間もなく俺たちは敵に包囲される。これからは厳しい戦いを強いられるだろう」


「なんだ。大丈夫なのね」


「……なぜそうなる」


「だってエリちゃんをあやしながら話してるし」


「違うぞ。これはしばらく離れていたせいで取れなかった親娘の触れ合いの時間を確保するためにだなーー」


「「……」」


 俺が言い訳するとソフィーナと、お姫様までもがジト目を向けてくる。


「娘もいいですが、妻も可愛がってください」


 そこへレオノールちゃんが割り込んでくる。


「「まだ婚約者でしょ!!」」


「婚約者ですが、何か?」


「「まだ妻じゃない!!」」


「妻も同然です」


 三人はなにやら言い争いを始める。


「あらあら」


 母はそんな三人を微笑ましく見守っていた。それでいいのか母よ……。


ーーーーーー


 俺たちがカチンに戻って一ヶ月が経とうとしたころになってようやく敵が姿を現した。その数六万。かなり増えてるぞ? こっちはたしか、一万弱削ったはず。となると他所から二万も動員したのか。これで俺たちが六万を受け持ち、他の貴族が残り三万を受け持つ。穏健派は俺たち二万、その他三万だから、外の兵力はイーブンとなったわけだ。よしよし。

 一ヶ月もあれば準備は完璧に整っている。五万の敵軍に包囲された(一万はマクレーン領に向かった)が、まったく怖くない。むしろこの要塞都市カチンの恐ろしさを骨の髄まで刻み込んでやると息巻いていた。


「敵は攻撃を開始するようです」


 敵は到着して一日で攻撃を始めるらしい。かなり焦ってるな。


「そうか。訓練通りに動くよう、全軍に徹底させろ」


「はっ!」


 かくして第一回総攻撃が始まった。

 カチンは六芒星が複数重なった形をしている。城壁の高さは約十メートル。堀の深さ三メートルも加わることから、十三メートルになる。城に籠るのは正規軍四万。なぜ増えているのかというと、現役や予備役で未召集の者を加えたからだ。規則により特別な場合を除いて軍は三交代制となる。だから普段動員されているのは総兵力の三分の一というわけだ。そして敵の侵攻を受けているようなケースでは先に言った特別な場合に相当し、総兵力の動員が可能となる。なぜそんなことをするのかというと、侵攻時には兵を確実に休ませることができるし、防衛時にはできるだけ兵力を多くするためだ。根拠地を落とされたのでは意味がないからな。この時点で敵軍五万に対して味方四万。城攻めには敵の三倍の兵力が必要とされるから、カチンの攻略は絶望的だろう。敵は攻城兵器ーー門を破壊するための破城槌、城壁を破壊する投石機ーーを持ち出してきた。しかし破城槌が狙う門は星の付け根にあり、そこへ至る道のりは有刺鉄線が張り巡らされ、その行く手を阻んでいる。では投石機はどうなのかというと、城壁が相手から見てほぼ垂直になっているため、この時代の技術では非常に当てにくい。そしてこちらにも投石機はあるし、標的となる面積が広いので圧倒的優位にあった。そんな状況のなか戦端が開かれーー地獄が生まれる。


「破城槌を出せ!」


「隣の奴が倒れても気にするな!」


「苦しいだろうが、ここを抜ければ楽になるぞ! 踏ん張れ!」


 指揮官たちが鼓舞するなか、破城槌ーー先の尖った太い丸太を車輪がついた台車に載せて三角屋根で覆ったものーーを兵士たちが押していく。彼らの前に立ちふさがるのは有刺鉄線。破城槌を防ぐために二メートル以上の高さにしてある。これなら車輪では踏み潰せない。さらに空堀や泥濘もあり、重い破城槌を城門まで運ぶにはかなりの犠牲を覚悟しなくてはならない。敵はまず破城槌の進入路を確保するために歩兵を繰り出した。盾を持った兵士が密集して上下左右の攻撃から身を守っている。そして有刺鉄線までたどり着くと剣で斬ろうとしたのだが、


「斬れない!?」


 当たり前だ。数を打った鋳鉄製の剣なんかじゃ、そうやすやすと斬れはしない。斬れない有刺鉄線と格闘しているうちに矢に当たって倒れるーーという光景があちこちで見られた。この状況に苛立った敵のなかには強引に破城槌を突っ込ませた者もいたが有刺鉄線をひとつなぎ倒すだけに終わった。さらに倒れた破城槌が進入路を狭めるというオマケつきである。この門の防衛を指揮していた指揮官は、最初は肝を冷やしたが結果を見て逆に守りやすくなったと言っていた。歩兵による攻撃は敵がいたずらに兵数を減らすだけに終わった。

 投石機はたまに命中弾があるものの、大きな損害を与えるまでには至っていない。なぜなら距離が離れているからだ。星の先は細いが、付け根は比較的広い。このことに気づいた敵は城壁に近づこうとしたのだが、こちら側の投石機によって妨害される。虎の子の投石機が破壊されはじめると、敵は前進を諦めた。かくして敵は城壁にすら到達できずに一日目の攻撃を終えた。


ーーーアダルバートーーー


 なんなのだあの城は!? 堅牢どころでは済まないぞ! 城がなだらかな丘の上に建っているというのは珍しくない。堀を張り巡らするという手法もありふれているが、とても有効な手だ。だがそれらがあの防御力の理由ではない。最大の要因はあの形だ。正直なところ、星型の城と聞いてバカにしていた。所詮は見かけだおしだと。しかし違った。突き出た腕の部分が相互に援護しあってその防御力を飛躍的に高めている。城門がその奥にあるため、嫌でもそこへ挑まなければならない。厄介な造りだ。それにあの障害物も啓開する必要がある。ただ昼の攻撃ではこれに阻まれて損害が出るばかりであった。六ヶ所ある城門に全軍で攻め寄せたが、結果は五千の死者と一万の負傷者を出すだけで終わった。これだけの損害を出しておきながら城壁にたどり着いた者は皆無だったという。

 これはなんとかしなくてはならない。そう思い、夜に各所の攻撃を担う指揮官たちを呼び出していた。皆、ワシとともに東で戦ってきた信頼の置ける者たちだ。クソガキは呼んでいない。いても邪魔なだけだ。それはともかく、ワシは会議の冒頭で、


「攻め方を変えるぞ」


 と切り出した。


「お待ちください公王様! 今回は我々が想定していたより敵の防備が固かっただけのこと。今一度総攻撃のご命令を!」


「だがあの守りを突破するのは難しいぞ。攻撃する度にこれだけの死傷者を出したのでは続かん」


「しかしここには反乱軍の主力がいる。ここを落としたことによる影響は多数の損害に見合うかと」


 などと、百戦錬磨の指揮官たちをもってしても結論は容易には出なかった。それでも攻め方は変えようとの意見にまとまりつつある。しかしここで頑固に反対する者がいた。


「いや、ここは力攻めに徹するべきだ!」


 ナルディエーロ伯爵。王国でキャンベル伯爵と並ぶ軍閥の名家だ。ワシのもとでも主力となる存在で、さらにいえば姉が彼に嫁いでいる。義兄でもあるため彼の意見は無視するわけにはいかない。


「では義兄上はどう攻める?」


「夜襲だ。夜襲ならば敵も我々を見つけられず、損害は抑えられる」


「たしかに夜陰に乗じてというのはいい考えだが、それだと少数に限られてしまう……」


「構わない。ここは我が責任を持ってやる」


 義兄は自ら兵を率いるという。ワシはこの策を認めた。成功すればよし。失敗すれば持久戦に持ち込めばいいのだ。包囲していればそのうち相手の兵糧は尽きるからな。我慢比べなら包囲する側が有利であるし、自らの策が失敗しているから義兄も反対はしないだろう。夜襲作戦はこの日の夜に実行された。




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