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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第四章 動乱の序章
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4-9 本格侵攻

 



ーーーオリオンーーー


 緒戦に勝利した俺たちは最低限の兵士を連れて一度パースへと戻ってきた。そこで今後の打ち合わせを行う。


「今回の戦いでパース氏族の内紛に介入してきた豪族の排除はできた。あとはどうする?」


「ブルーブリッジ侯爵はいかがするおつもりですか?」


「その前に王の意向を確認したい。騎士団長は何か聞いているか?」


「陛下からは『侯爵の自由にしてよい。余裕があれば島を占領して領土に組み込んでも構わない』と仰せつかっております」


 なるほど。やっぱ放任なのな、王様。


「ならクレアはどうだ?」


「わたしは元の領地を取り戻していただけたらそれで構いません」


「だがそれではいつまでも我々が留まらねばならない。いっそ島を平定した方が安全だろう」


 クレアは穏便な方法を提示したのに対し、騎士団長は過激な方法を提示した。俺は騎士団長の意見に賛成だ。パース氏族は弱体化しており、失地回復ができるのも俺たちが後ろ盾としているからだ。もし俺たちがいなくなれば再びこの島から駆逐される。自衛できるだけの戦力を整えるのに、相次ぐ戦乱で荒廃した領地では何年かかることやら……。ならば敵となる存在を一掃すればいいという考えになるのは自然なことだ。しかし現実問題としては戦費がかさむ。無理して兵を動員しているので、戦争が長引けば領地経営が破綻する可能性があった。この辺りで引き上げるのも選択肢としてはありだ。

 どちらもありだ。鶏肋を見て悩んだといわれる曹操もこんな気分だったのかもしれない。悩みに悩んだ末、


「弱体化したホニアラ氏族とヤレン氏族の領地を取る」


 と、日本人らしく玉虫色の決定を下した。両氏族は大打撃を受けたとはいえ領土は荒れていないし、戦力の増強にもなる。クレアたちも少しは楽になるだろう。


「役割分担は前回と同じで。ただ今回は双方にドラゴン部隊を随伴させる。騎士団にはエキドナを隊長にした部隊を、連合軍は俺が直率する部隊をつける」


「「「了解」」」


 と方針が決定したそのとき、兵士がやってきて驚くべき報告をもたらした。


「オリオン様!」


「どうした?」


「今回、捕らえた敵将にヤレン氏族の当主がいました!」


「「「えっ!?」」」


 これには俺たち全員が驚いた。


ーーーーーー


 出発を延期して俺は当主の居場所へと向かった。報告にきた兵士に案内された先はパース氏族の邸宅にある独房。そこにゴロンと転がっているヒゲモジャ親父こそが件のヤレン氏族の当主だ。


「あなたがヤレン氏族の当主か?」


「いかにも。我はファビウス・ヤレン。ヤレン氏族の当主である」


「わたしはフィラノ王国の侯爵、オリオン・ブルーブリッジだ。まず訊くが、あなたが助けていたパース氏族の者はどこにいる?」


「いない。奴は死んだ」


「殺したのか?」


「戦死だ。先日の戦いで敵に討たれていた」


「ならばなぜ即時に戦闘を停止しなかった? パース氏族の者が死ねば、あなたがたは内紛に介入する理由がなくなるはずだ」


「……」


 ここでだんまりか。ま、人間生きていれば言いたくないことのひとつや二つはあるわな。しかしそれは許さない。


「《読取リーディング》」


 ファビウスの頭に手を当てて読心の魔法を使う。様々な情報が流れてきたが、そのなかで『密約』という単語が気になった。


「……なるほど。ヤレン氏族とホニアラ氏族は裏で結託していたのか」


「っ!?」


 ファビウスの肩がビクッと震える。当たりのようだ。

 パース氏族のある男から内紛への介入を請われたファビウスは、ホニアラ氏族の介入を恐れた。そこでホニアラ氏族に使者を送り、敵対されないように工作を試みる。同じ時期に別の人物から助けを求められたホニアラ氏族はある条件でそれを認めて密約を結んだ。密約の内容は『ヤレン氏族がパース氏族の領地の西を、ホニアラ氏族は東を統治する』というものである。ただもし戦えばヤレン氏族はホニアラ氏族に敵わない。そのため条件が追加された。それはファビウスの娘をホニアラ氏族の当主に差し出すというものだ。彼にとっては大事なひとり娘。しかし一族の勢力伸長のチャンスだと泣く泣く送り出した。ところがホニアラ氏族は事前の取り決めに従わず、西に属するパースの街を併合したのだ。ファビウスは抗議したが、それへの回答は娘の命がどうなってもいいのか、という脅しだった。娘の命を盾にされては泣き寝入りするしかなく、ファビウスは引き下がる。それからは事あるごとに娘の命を盾に様々な要求が突きつけられた。今回の出兵もホニアラ氏族からの要求だったという。


「なるほど。なかなか酷い目に遭っているな」


「愚かな当主だ。笑え」


 ファビウスは自嘲する。


「まあ互いの力関係を見誤ってはいるけれど、考え方としては悪くない」


 遠交近攻ともいうし。


「事情は理解した。こちからの要求はひとつ。ヤレン氏族の降伏だ。もちろん娘は解放しよう」


「それはホニアラ氏族を討つということか?」


「ああ。既に決定している」


「無理だ。たしかに貴軍は強い。だがホニアラ氏族は多くの弱小豪族を従えている。奴らは他の犠牲など顧みない。やられるだけだ」


「ご忠告どうもありがとう」


 俺は手をひらひら振って生返事を返した。


ーーーーーー


 ヤレン氏族は当主一族が蒸発したせいでまともな行動がとれないだろう。それに攻め込めば損害も出る。ここは孫子に倣って「戦わずに勝つ」ことにした。娘が戻ればファビウスは降伏するだろうからヤレン氏族は放置。念のために騎士団を置いておくに止める。そちらへ配置予定だったドラゴン部隊は連合軍に随伴させることとした。

 パース氏族の軍(増強されて二千になっている)を先頭にホニアラ氏族の領地へ雪崩れ込む。降伏してきたホニアラ氏族の捕虜を案内役にしているため、進軍はとてもスムーズだ。途中に村落があれば占領しておく。一部からは進軍速度が鈍るという指摘があったが、それこそが狙いだ。敵がきたという情報はすぐに伝わるだろう。そして確実に勝つため、ファビウスが言っていた配下の豪族を動員するはずだ。彼らが集まったところを叩き、その領地を占領。それらを一括でクレアたちパース氏族に管理させる。それが島の統治に関する方針だ。

 ゆっくり進軍していると、先行させていた偵察部隊からの報告が入る。報告によれば敵が動きだしたという。旗の種類は複数あり、兵数は一万五千。予想通り配下の豪族を呼び寄せたようだ。


「よし。ならばこちらも行動開始だ」


 敵がこちらに向かってくるということで、俺たちも移動する。目指すは山に囲まれた盆地。事前に捕虜から得た情報をもとに、予め決戦の地と定めておいた場所だ。そこで雌雄を決する。

 戦端はその地ではなく敵の拠点に近い場所で開かれた。少数部隊を敢えて突出させておいたのだ。数は百。敵からすれば吹けば飛ぶような相手だ。彼らは戦っては逃げるを繰り返す。陣を築き、敗れて逃げる。敵は物資などが蓄えられた陣地を占領し、居座る。何度か同じことが続くと味を占めて追撃の手を強めた。かくして敵の陣形は長く伸びる。そして逃げる味方を追って盆地へ侵入してきたところを、味方の全軍で相手をした。追撃の兵は二千ほどと予想より少なかったが、これを壊滅させる。無論、味方の士気は上がった。さらには逆に追撃をかけ、奪われた陣地の多くを奪還。そこに運び込まれていた敵の物資を逆に奪った。いわゆる驕兵の計である。攻め込んだ軍は築いた陣地を破壊すると再び盆地に戻っている。もちろん途中には罠が山ほど仕掛けられている。落とし穴などのベターなものから、魔法による地雷まで。迂回路はないため相当数の犠牲を覚悟しなければならない。なかには柵のすぐ後ろに罠を仕掛け、撤去していざ進もうとなった瞬間に発動するなどという意地の悪いものもある。ここを疲労困憊になりながら越えてきてようやく俺たちに当たるのだ。数的不利も少しは緩和できるだろう。そんなわけで嬉々として罠を設置していたところ、味方から引かれた。なぜ?

 釈然としない思いを抱えつつ、遠くから聞こえる悲鳴や怒号や断末魔を聞きながら過ごすこと三日。ついに敵軍が姿を見せた。……武器や鎧兜はボロボロになっており、疲労からか頰は痩せこけていて、心なしか顔色も青い気がする。まさに満身創痍。予想以上の効き目だった。

 疲れを取るために今夜はゆっくりお休みーーなんて甘いことはいわない。俺は自軍から五〇〇ほどの精鋭を選び、夜襲をかけた。疲労困憊で泥のように眠っていたーー歩哨もほとんどが眠っていたーー敵は夜襲に対する備えがないに等しく、結果は大成功。さらに同士討ちまで始まり、俺は笑いが止まらなかった。夜襲による混乱が収まって敵が再び眠りについたころ、今度は敵陣の周囲で楽器を打ち鳴らした。それもトランペットやシンバルといったとびきりうるさいものばかり。今夜は寝かせないぜ。……なぜか味方から敵が可哀想なので止めてあげてください、と懇願された。いや、止めないけどね。

 夜中の夜襲にドンチャン騒ぎを引き起こされて寝不足の渦中にある敵は、もうフラフラだった。はたして彼らは戦えるのか? まったくの疑問である。

 そんな敵に残念なお知らせ。ここでドラゴン部隊投入! 盆地に入るまで温存していた切り札の投入だ。

 敵はドラゴンを見て明らかに浮き足立っていたが果敢に突撃してくる。しかし無策の突撃はブレスの格好の標的でしかなく、灼熱の炎に焼かれて約半数が黒コゲになって斃れた。その光景はただえさえ低かった敵の士気を刈り取った。我先にと逃げ出す敵。だがその先にある例の一本道には災厄が待っていた。漆黒の鱗を持つドラゴンーーエキドナ(+俺)が。繰り返すがここは一本道。ブレスからは逃れられない。他のドラゴンたちもグルリと彼らを取り囲んだ。


「うっ、うわぁぁぁッ!」


 ひとりの兵士がエキドナに挑んでいくが、彼女が少し腕を振っただけでミンチになる。ある者たちは包囲の隙間を狙って駆けだしたが、ドラゴンたちの尻尾の一撃で全身骨折や内臓破裂で死ぬか動けないほどの重症を負った。


「降伏しろ」


 エキドナに乗った俺が降伏を勧告すると、


「あの男がドラゴン使いだ! 撃ち殺せ!」


 鉄製の甲冑を身につけた男が俺を殺せばどうにかなると射撃を命じた。それによって矢が数多と降り注ぐ。だがしかし、俺だってドラゴンの背に乗っていれば絶対安全とは考えていない。だから防御くらいはしている。数瞬ほど耐えるとエキドナが翼で守ってくれる。ありがとう。さらにエキドナは弓兵を極小ブレスで倒した。


「もう一度だけ言う。降伏しろ。さもなくば全員がここで黒コゲだ」


 俺が脅しを込めて急かすと、多くが武器を捨てた。彼らは味方によって捕縛され、盆地にある陣地まで連れ帰った。そこで一般兵は解放する。たかだか数千の兵しかいない俺たちに万単位の兵を養う余裕はないからだ。

 対して豪族の当主には俺とクレアへの忠誠を誓わせる。もし反乱でも起こせばドラゴンが飛んでくると脅しておいたから、滅多なことでは逆らわないだろう。

 戦後処理を終え、俺たちはまずホニアラ氏族が治める街に行き、そこでファビウスの娘を引き取った。すぐさまパースへとんぼ返りしてファビウスと引き合わせる。かくしてヤレン氏族もこちらに帰順し、島の南半分が支配地に組み込まれたのだった。




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