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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第四章 動乱の序章
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4-8 パース上陸戦

 



ーーークレアーーー


 交渉が成立したものの、出陣は一ヶ月ほど待たなければなりませんでした。それはブルーブリッジ侯爵が集められた軍勢が整うのを待つ必要があったからです。そして今、港町にほど近い場所で今回の遠征軍が勢ぞろいしていました。

 ブルーブリッジ侯爵家軍は歩兵五〇〇と騎兵一〇〇。王都から派遣されたという騎士団が一五〇〇。わたしたちパース軍が四〇〇。合計二五〇〇です。それだけではありません。なんとドラゴンが参加するのです! 飛行するドラゴンがおよそ五〇体、飛べないドラゴンーーラプトルというそうですーーは五〇〇体も! これなら勝てます。

 全員が整列するなか、ブルーブリッジ侯爵が演壇を登ります。その姿は異様でした。集まった兵士は鎧を着ているのに、侯爵はこれからパーティーにでも出るようなスーツ姿なのです。しかも黄土色。兵士たちは困惑してざわつきます。侯爵は喧騒が止むのを待ってから演説を始めました。


「勇猛果敢なる全軍有志諸君! 我々はクレア・パース嬢の要請で海を渡る。地に空に、それぞれが鋼の意志を持ち、己の責務を自覚し、果たすことで我々は勝利できると確信するものである! わたしは常に諸君らの先頭にある」


 瞬間、場が沸きました。侯爵の出で立ちのことなど忘れて、全員が奮い立って声を上げています。かくいうわたしも胸が熱くなりました。これなら勝てる、そう思わせてくれます。ブルーブリッジ侯爵はとてもすごいお方です。


ーーーオリオンーーー


 出征の準備は整った。軍はすべて集まったし、渡海のための船も能力を使って用意した。すべてガレオン船である。大和は参加しない。あれはモニュメントだ。

 島までは二日の航海だった。兵士には船酔いで苦しめられた者もいる。ちなみに俺は船酔いとは無縁だ。なぜなら空を飛んでいるから。セコイと言われるかもしれないが、ドラゴン軍団を統率するには必要なのだ(言い訳)。船団についてはクレア嬢を大将に戴き、シルヴィと騎士団長が副将として実質的な指揮にあたっている。俺はドラゴンに跨っての社長出勤だ。でも先陣を切るんだからいいじゃないか。

 上陸作戦の構想はとてもシンプルだ。ドラゴン軍団で上陸地点を確保する。そこへ船団を招き入れ、兵士を上陸させれば作戦成功だ。


「ひっ! ド、ドラゴンた!」


「逃げろ!」


「こんなのと戦えるかよ!」


 港町を守る敵軍はドラゴンが姿を現わすなり蜘蛛の子を散らすように逃げ散った。そのため上陸作戦はあっさりと成功する。拍子抜けとはこのことだ。


「随分とあっさり占領できたな」


「そりゃ、ドラゴンが現れたら逃げますよ」


 騎士団長が苦笑しながら答えた。


「しかしインパクトがありすぎて住民まで逃げてますね」


「仕方ない。パース軍を派遣して呼び戻してもらおう。その間に状況の偵察だ」


 住民の慰撫に出たパース軍を道案内にして斥候が各地に放たれた。本隊はパース氏族の邸宅を本部に休養をとる。そして数日後、住民がぼちほちと戻ってきているなかで敵の使者がやってきた。俺は連合軍の首脳を集めた場で使者と面会する。


「私はパース氏族の真の当主、ヘンリー様の使者だ。単刀直入に訊く。なぜこの島にきた?」


「パース氏族の領地をクレア嬢に取り戻させるためだ」


 隠すことでもないので正直に答えた。


「ならばこちらに味方されるがいい。なにせヘンリー様は正当なパース氏族の当主なのだから」


 は? この使者は人の話を聞いていないのか?


「ヘンリーなどに味方するつもりはない。これ以上の言葉は不要。次は戦場で見えよう」


「なっ!? こちらには東方の雄・ホニアラ氏族がーー」


「知ったことではない。帰られよ」


 一顧だにせず使者を追い返した。この島には多くの豪族が割拠しているが、そのなかでもホニアラ氏族とアバルア氏族が特に強いとされている。パース氏族は中堅豪族だ。彼らの常識では勝てない。だから使者は強気だったのだ。自分が軽く見られたことをあの使者はヘンリーなる主人に報告するだろう。そしてさらにホニアラ氏族に伝わり、プライドを傷つけられて出兵する。そんなシナリオが容易に浮かんだ。


ーーーーーー


「東西から?」


「はい。島の者に確認させたところ、東から迫るのはホニアラ氏族。西から迫るはヤレン氏族です」


 どちらもパース氏族の内紛に介入してきたという氏族だ。昨日の敵は今日の友とばかりに手を組んだらしい。


「兵力は?」


「東が五千、西は二千になります」


 戦力差……。


「西は騎士団に任せたいが、いいか?」


「はい。守勢に回って時間を稼ぎます」


「頼む。連合軍は東進し、ホニアラ氏族を叩くぞ」


 方針は早々に決まり、行動を開始した。

 俺たちとホニアラ氏族は平原で対峙し、正面から激突する。この世界での戦争は魔法戦、弓戦からはじまり、白兵戦に移るという作法がある。それはこの島でも変わらなかった。

 ということで魔法と弓矢の応酬が始まる。ただし、ホニアラ氏族は一部なのに対し、連合軍はほぼ全員だ。数が違う。


「と、突撃!」


 前座での損害が意外に多いことに戸惑った敵の指揮官が突撃を指示する。だが俺たちは魔法、弓矢を撃ち続けた。近づいた方が命中率は上がるからだ。ギリギリまで引きつけーー、


「突撃!」


 弓隊の後ろにいた白兵戦部隊が斬り込む。先頭が敵と激突したため後方で渋滞が生じる。そこへ横合いからラプトル部隊を突入させた。


「な、なんだ!?」


「トカゲ?」


「ま、魔物だ!」


「落ち着け。落ち着いて迎撃するんだ!」


 兵士たちの混乱を指揮官が鎮めようとするが、


「おい、邪魔だ!」


「そんなに近いと槍が振れないだろ!」


 渋滞のせいでスムーズな動きができない。兵士たちは互いを罵倒し、結果、混乱を加速させる。敵は何もできないままラプトルたちに倒されていった。ラプトルたちは端から端へと抜ける。開いた大穴を埋めるべく後続の兵士が前進するが、今度は魔法が着弾した。


「なっ!?」


「ま、魔法!?」


 敵が混乱するのはもっともだ。白兵戦闘の最中に魔法を撃つなんてありえない。魔法使いの魔力は限られているが、その役割は開幕攻撃、追撃の支援、負傷者の治療と多い。魔法使いの数も少ないことから節約を心がけるのが常だ。なのにその貴重な魔法を戦闘中に使ってきた。その心理的影響は無視できない。

 この魔法のカラクリを説明すると、味方の魔法使いの魔力量が多く、戦後の治療には専門の魔法使いを手配しているからだ。なぜ味方に魔力量の多い優秀な魔法使いがいるのかというと、フィオナたちを領民に迎え入れたからだ。ドラゴン信仰団体の教祖をやっていたフィオナ以外にも数人ほど吸血鬼などの魔族がいた。彼らを軍に雇い入れ、部隊を編成している。魔族の魔力量は人間の数倍から数十倍にもなる。その豊富な魔力にものをいわせて積極的に魔法を使わせていたのだ。

 絶え間ない魔法攻撃によって最初に突撃してきた敵と後続とが分断される。前方の敵は孤立し、そこへラプトルたちが襲いかかった。


「て、撤退だ!」


「撤退しろ!」


 敵の指揮官たちが撤退を指示すると、敵は我先に逃げ出す。しかし前方の敵には逃げ場が残されていない。彼らは殲滅を待たずに降伏した。

 では後ろにいた敵はまんまと逃げおおせたのかというと、残念ながらできなかった。無傷で帰ってもらっては困るということで、最強の刺客を用意してある。

 列を作って整然と退却する様子は素晴らしい。まるで敗戦などしていないように見える。よく鍛えられており、最強氏族というのも伊達ではないようだ。しかしそんな彼らでもドラゴンの相手は荷が重い。ーーというわけでドラゴン部隊に襲撃をかけてもらいました。


「ドラゴンだ!」


「なんであんなに!?」


「いいから逃げろ!」


 兵士たちは逃げ惑った。そこにさっきまでの秩序はない。しかしドラゴンたちは関係ないと、俺に指示された通りに動く。彼らは立派な鎧を身につけた偉そうな者を捕まえていった。そして残った雑兵はブレスの一撃で薙ぎ払う。それをやり終えるとドラゴンたちは引き上げていった。

 この戦いで俺たちは戦死傷者を三〇〇名ほど出したのに対し、敵は戦死二〇〇〇、捕虜一五〇〇という壊滅的打撃を受けた。


ーーーーーー


 一方の騎士団はヤレン氏族と対峙していた。こちらは攻め寄せる敵を、騎士団が陣形を組んでどっしりと構えて撃退している。彼らにはドラゴンやラプトルといった反則級の戦力がないため、セオリー通りの展開になっていた。


(ま、それももうすぐ終わりだがな)


 騎士団長は夜、団員たちに一杯だけ許した酒を飲みながら独りごちる。数に勝る敵の攻撃に耐えること三日。本隊の接敵予測が三日であったから、もう決着はついている頃だ。となると援軍が駆けつけてくる。

 そして翌朝。今日も今日とて合戦に臨もうとしているときにそれは現れた。


「見ろ! ドラゴンだ!」


 団員のひとりが空を見上げながら叫ぶ。団員たちは釣られて次々と空を見上げ、一様に十体ほどのドラゴンを見た。楔形(逆V字型)に並んだドラゴンの先頭を飛ぶのは、特徴的な漆黒のドラゴンーーつまり俺の騎竜であるエキドナだ。突如来襲したドラゴンに味方は沸き、敵は混乱する。空に矢を、魔法を放って必死の防戦を展開するも、ホニアラ氏族と同様に偉い人を攫われ、ブレスに焼かれた。彼らの悲劇はそれだけに止まらなかったことだ。この展開を予想していた騎士団長は騎士団に対して追撃を命じる。完全に統率を失った敵にはなす術なく、討たれるか降伏した。戦死者は千、捕虜は八〇〇を数えた。




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