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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第一章 成長
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1ー4 本家




ーーーオリオンーーー


 馬車の窓から覗くゲイスブルク家の屋敷をひと言で表すなら、成金趣味溢れる館という表現が適当だろう。あちこちがやたらとキラッキラ光り輝いて目に悪いことこの上ない。荘厳さよりも豪華さを重視した造りになっている。

 馬車が玄関先に停まると、アーロンさんが扉を開けてくれる。俺は母を後ろに従えて馬車を降りた。これが作法なのだという。まだるっこしくてバカバカしいが、あくまでも母はメイド、俺はーー庶子とはいえーー主人の息子だからこうするのだそうだ。縁故よりも身分を重視するこの世界では母が実の子に(かしず)くのは珍しくない(とメリッサさんが言っていた)。内心穏やかではいられないが、ここは我慢だ。

 俺たちを出迎えたのは燕尾服を着た若い執事がひとり、メイドが二人の計三人。この屋敷では執事、あるいは長く仕えている古参のメイドにヒラのメイド二人が付き従う。三人は班と呼ばれ、リーダーの序列がそのまま班の序列となるそうだ。母日く、これまで気にもしていなかった庶子の出迎えに出されるのだから序列はかなり下の方だという。

 その推定序列下位の執事くんは腰を深々と折って挨拶してくる。


「お待ちしておりました。主人より貴方様の案内を仰せつかりました、執事のヘルムと申します。以後、お見知りおきを」


「ご苦労様です。早速ですが、旦那様はどちらに?」


 母は普段とはかけ離れた冷ややかな目をヘルム執事に向ける。美人ゆえか迫力が半端ない。ゾクゾクする。

 ちなみに『ご苦労様』とは目上の人間が目下の人間を労うときに使う言葉で、逆の場合は『お疲れ様』になる。気をつけよう、言葉遣い。……ということは序列でいうと母の方がヘルム執事より上なのか? 別宅とはいえメイド長をやっているんだから、それなりに立場は上なんだろう。そこ、ひとりしかいないから絶対にメイド長になるとか言わない。


「こちらです」


 初対面(?)にもかかわらず高圧的な物言いに俺なら気を悪くしそうだが、さすがはプロ。何か言いたげにしつつも、それを抑えて物腰柔らかく対応した。

 ヘルム執事が白手袋に覆われた手を伸ばし、行き先を示してくれる。俺と母が彼に続いて歩きだしたが、母は他のメイドによって行く手を遮られてしまった。


「ミリエラ様はこちらです」


「道を開けなさい。わたしの邪魔をして、あなたたちではただでは済みませんよ?」


「旦那様のご命令です。『ミリエラ様を別室に案内せよ』と」


「……わかりました」


 メイドの勝手な行動なら押し通ることもできたのだろうが、父の命令とあっては逆らえない。母は渋々、別室に案内されることとなってしまった。

 俺は少しでも母を安心させようと声をかける。


「安心して。大丈夫だから」


 今回は子ども成分を少なめに、ちょっと大人でビターな口調で言葉を紡ぐ。子どもじゃないよ、大人だよ、という主張だ。

 母は一瞬驚いた顔をして、それからゆっくり頭を下げることで答えてくれた。そこにいつものように声を介したやり取りはない。だからこそ少しだけ大人になった気がしたし、母に認められた気がしたのだった。




ーーー???ーーー


 ーーコンコン。

 樫でできた扉が乾いた音を立てる。儂は書類から顔を上げぬまま声だけで答えた。


「入れ」


「失礼いたします」


「ロバートか」


 儂を長年補佐してくれている執事長とあっては無下にできん。儂はキリのいいところまで読み進めてから、書面を置いて顔を上げた。


「旦那様。オリオン様が屋敷にご到着されました」


「そうか。あやつはどうしておる?」


「ヘルムが案内しております。間もなく始まるでしょう」


「ふん。何が神童だ。下賤な血が混ざった輩が神童であるはずがない。必ずや化けの皮を剥がしてくれよう。そしてその暁には……」


 ーーその暁にはミリエラを再び我が手に取り戻す。今度は絶対に逃さぬ。


「“影”の準備は整っております」


「そうか。指図は全て任せる。抜かるな」


「はい。では失礼いたします」


 ロバートは恭しく礼をして部屋を出て行った。

 ひとりになった儂はほくそ笑む。余計な荷物ができたせいで五年も無為な時間を取らされたが、それも今日で終わりだ。宝を眼の前で壊して絶望させ、身も心もすべて儂が支配するのだ。

 明るい未来を想像し、儂はしばらく笑いが止まらなくなるのだった。




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