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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第四章 動乱の序章
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4-5 港と島人

 



ーーーオリオンーーー


「え? 今度は港町の出身者を集めるの?」


「ああ。カチンの北にリアス式海岸のいい場所があるから、そこに港町を造りたいんだ」


「なるほど……。つまりお兄ちゃんは船を使って交易がしたいんだ」


「その通り」


 さすがはソフィーナだ。港町というフレーズだけでそこまで考えつくとは。


「うーん。難しいかなぁ。海沿いに住む人はだいたい囲われてるし。奴隷から仕入れるにしても少数だよ?」


「だよなぁ……」


 そう。そこが問題なのだ。

 海辺の人は海に関する職を生業にしている。大半が漁師。他に水夫としての需要が多い。俺たちの実家であるゲイスブルク家が国でトップクラスの大商家となったのも、レナードが海外貿易を始めたからだ。交易が儲けるための有効な手段であることは周知の事実。ゆえに既にその手段を持つ大店(おおだな)はノウハウ(もちろん人も)の流失を恐れ、港町を支配する。そこに食い込むのはほぼ不可能だ。オリオン商会も陸地では無敵だが、港町は残念ながら海の領域だった。……なんかペルシア帝国みたいだな。


「とりあえず集めてみてくれ。あ、例によって犯罪奴隷はなしだからな」


「わかってる。頑張ってみるわ。足りない分は?」


「能力を使うしかないよなぁ……」


 だが正直この方法はあまり多用したくないのだ。俺がいなくなれば能力によるインチキはできなくなる。なのに港町の開発が上手くいったという事実だけが残ってしまうと、将来的に失敗のタネになりかねない。それが赤の他人ならいいが、俺の子孫であれば最悪だ。そういった事態を避けるため、商会だって今や俺が関わる部分は存在しておらず、あくまでパトロンに徹している。カチンの街だって時間をかければ同じことができてしまう。人も集められた。しかしこの港町計画は長いスパンを見込んでおらず、即時使用可能な状態で造るのだ。俺のインチキ能力がなければ逆立ちしても不可能である。その危険性はソフィーナも意見を同じくしていた。


「ともかく頑張ってみるわ」


「頼む」


 なんとも情けない話だが、俺は彼女に縋るしかなかった。


ーーーーーー


 やむなく見切り発車で始まった港町開発計画は、施設面だけ順調に進んでいた。既に桟橋をはじめとした港湾設備、住居にカチンから続く道などは完成している。

 だがやはり人集めは難航していた。ソフィーナによるとツテの及ぶ範囲でかき集めた結果、海で働ける人材はたった五人ほどしか集まっていない。覚悟はしていたが、それ以上に集まりが悪い。やはり能力を使うしかないのか……諦めかけたとき、それは現れた。


「ご領主様! 海をご覧ください!」


 兵士が焦燥を隠しもせずに俺を呼ぶ。


「どうした、何があった」


「船です! 大量の船がこちらに向かってきます!」


 そんなバカな話があるかと思ったが、もしかすると近くを通りかかった船が港を見つけて寄ってきたのかもしれない。……だが大量の船というのが気になる。

 兵士に案内されるままに向かうと海岸線に至った。そして水平線を見てみれば、そこにはざっと三十隻ほどの中型船が並んでいた。フィラノ王国の法律では、王国の船は必ず王国旗を掲げていなければならない。もし掲げていない場合は迎撃態勢を整える。そして相手の目的を訊くのだ。件の船の檣楼(マスト)に掲げられている旗はーーフィラノ王国のものではない!


「緊急伝令! 全軍戦闘態勢をとれ!」


「はっ!」


 軍規に忠実に従い、兵士は仲間たちに戦闘用意の命令を伝達しに行った。ブルーブリッジ侯爵家軍では伝令と緊急伝令の間には大きな違いがある。伝令はただの伝達事項を表し、内容を復唱して語弊がないようにする。対する緊急伝令は緊急事態の発生を伝えることが目的であり、復唱はなし。そんなことをしている暇があったらさっさと伝えろ、というスタンスだ。

 全軍に通達が行き渡り、五分もしないうちに集合した。これだけ速いのはあまり兵力を連れてきていないからだ。全軍(三〇〇名)のうち一部隊一〇〇名でしかない。なお程なく大幅に増員され、三千になる予定である。またカチンのみならず周辺地域にある町村も続々とこちらの統治下に入っており、すべてを掌握した場合は平時七五〇〇。戦時三万を動員する。

 そんな将来の姿はさておき、現在。敵(推定)の船が沖合に三十隻ほど出現している。予想される兵数は一隻あたり五十。それが三十隻で計一五〇〇。……状況は絶望的だ。

 さてどうしたものかと考えていると、一艘の小舟が近づいてきた。舳先に立っている人物は白旗を振っている。なお、白旗を振っているからといって必ずしも降伏を意味するわけではない。白旗が表すのはあくまでも戦闘の意思がないということだけだ。この場合は軍使として考えるのが適当だろう。俺は兵たちに矢は射らないように言い含める。あくまでもやられたらやり返すだ。それがブルーブリッジ侯爵家軍のドクトリンである。


「おーい! この港の代表者はいるか!? 話がしたい!」


 小舟から人が叫ぶ。やはり軍使ーー交渉が目的のようだ。呼ばれたからといってほいほいと代表者が出るわけにはいかない。俺は近くにいた大柄強面の兵士を指名して事情を訊かせる。


「何者だ!」


「我々は隣の島の者だ! 代表者と話がしたい!」


 兵士の野太い声は迫力満点。だが対峙する島人も負けていない。なんだか獣同士の威嚇合戦でも見ているようだ。

 俺は密かに会談を受け入れることを示す丸を応対している兵士に見せた。場所はこの港町の象徴。岸壁に係留されている世界最大の巨大戦艦・大和だ。


「承知した! ならば会談場所はあそこだ!」


 兵士が大和を指させば、相手の男もその方向を見る。そして黒鉄の城の威容を目にして息を呑んだのがわかった。


ーーー???ーーー


 わたしは島に割拠する豪族の当主です。でも今は流浪の身。こんなことになってしまったのも、わたしが弱いせいです。

 お父様とお母様は一ヶ月前に亡くなりました。侍医の見立てでは毒殺だそうです。島は平和で、幼いわたしでも簡単に治められるーーその認識が間違いでした。

 わたしが当主になって最初に起こった問題は婿取りです。一族は本家と三つの分家で構成されています。ひとり娘であるわたし以外に本家を継げる者はいません。ですがわたしの婿になることで本家の人間になれるーー途端に婿の座を巡って争いが起こりました。最有力候補はお母様の甥。ですが彼は何者かによって暗殺されてしまいます。すると分家の者が次々と婿に立候補しました。その争いは今までの政治闘争から私兵を用いた武力衝突に発展します。しかも敗れた者が他の豪族の支援を受けてーーと、事態は収拾ができなくなってしまいます。最終的に婿の座をかけた戦争を建前とした他の豪族の武力侵攻に変化し、中心都市は呆気なく陥落。わたしは命からがら海へと逃げ出したのです。

 島を追われたのはひとえにわたしの未熟さ、あるいは甘さが原因です。結婚相手は他人が決めるものーーすべてを他人任せにしたわたしが悪いのです。だからわたしは分家の者たちがしたように、領外から別勢力を引き入れることにしました。その力で他の豪族を駆逐し、領土を取り戻していただくのです。対価はその戦いで得られた捕虜と一族の外戚という地位です。わたしの婿はわたしが決めます。もう誰の干渉も受けません!


「お嬢様、緊張しているので?」


「……よくわかりますね」


「そりゃ、生まれた頃から見ていますから」


 わたしに話しかけてきたのはエリック。大きな体躯にこんがり日焼けした肌、そして顔立ちからよく誤解を受けますが、根は優しく頼りになります。多くの者たちが裏切った今でも近衛の隊長としてわたしを守ってくれています。


「それにしても大きな船ですな」


「ええ……」


 遠目に見るだけでも巨大な船であることは一目瞭然でしたが、近づくとより存在感が増します。表面は鉄でしょうか?


「まさか鉄でできた船が浮かぶとは……。これは期待できるかもしれません」


「はい。これほどの技術を持つのです。ぜひとも味方していただかないと」


「そう……ですな」


「どうかしましたか?」

 

「いえ」


 エリックが難しい顔をしていたのが気になって訊いてみましたが、答えてはくれませんでした。


「こっちだ。ここから上がってくれ!」


 船の上から男性が誘導してくださいます。舷側から階段が伸びていました。これで甲板に上がるようです。


「お嬢様、自分が先に行きます」


 エリックが先に行ってしまい、わたしが後に続く形になってしまいました。この先は敵地。危険が伴う以上はわがままをしているわたしが先に行くつもりでしたのに。彼にはそんな考えなどお見通しだったのかもしれません。

 甲板に上がると二十名ほどの船員が出迎えてくれました。彼らは一様に白い服と帽子をかぶり、手には筒を持っています。わたしたちの正面に立っている方だけ、金の装飾がついた帽子や紐を身につけています。彼らよりも高い地位にいるのでしょう。


「島の代表に敬礼ッ!」


 そのひと言で船員が一糸乱れぬ動きで筒を掲げ、


 ーーターン、ターン!


 爆音が二度響きました。……怖いです。


「何のつもりだ!?」


「失礼。これが我が軍で賓客を迎える際の儀礼なのです。どうかご容赦を」


 偉い人が丁寧に説明してくださいましたが、これは迎えるための儀礼というよりも相手を脅すためのものなのでは? と疑わざるを得ません。


ーーーーーー


 わたしたちを迎えてくださった偉い人は船内に案内してくださいました。中はとても無骨です。塗装はされていますが、金属であることはわかりました。こうして中に入ると本当に鉄でできた船なのだと実感します。また仕切りが細かく、同じ風景が続くので自分がどこにいるのかわからなくなってしまいます。


「かなり細かく仕切られていますが、迷わないのですか?」


「迷いますよ」


 偉い人はあっさり言ってしまいました。


「なので訓練で覚えるのです」


 船の構造を把握するためだけに訓練をするなんて。わたしたちには信じられません。

 はてしなく長く狭い廊下を歩くと、急に開けた空間に出ました。そこはこれまでとは違い、扉が木製になっていました。


「ここが会談の場所になります」


 示されたのは豪華な区画の最奥ーーより少し手前の扉でした。中はこれまでとは比較にならないくらい豪華です。ふかふかの赤い絨毯は間違いなくわたしが暮らしていた領主館にあったものより高いですし、調度品も高級感があります。この部屋だけでいったいいくらするのでしょうか?


「間もなくこちらの代表が参ります」


 港の代表ーーあの強面の人ですか。少し怖いですが、これから当主としてやっていくならもっと恐ろしいーードラゴンを相手するような気持ちにさせられるーー人と出会うのでしょう。この程度で音を上げてはいられません!




カチンの街


人口:30000(戸籍調査をしていないため詳細な数字は不明)


規模:中規模都市


備考:人口増加中

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