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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第四章 動乱の序章
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4-4 街づくり

先日、数ヶ所の矛盾を発見して修正しました。今後、矛盾を発見された場合は是非とも教えてください。お願いします。

 



ーーーオリオンーーー


 カチンの住民たちを傘下に収めた俺はその日から仕事に励むーーはずがなく、旧領主邸を住める程度に治してシルヴィたち王都のお留守番組を連れてきた。彼女はフィオナを見て対抗意識を燃やしたため、なだめるのに苦労した。

 街づくりの案を立てるためという名目で引きこもり生活を続けること約一週間。ようやくイアンさん率いる引越し部隊が到着した。


「ようこそ、カチンへ」


「お出迎えしてくださり恐縮です。……見送られた方々に目的地で出迎えられるというのは不思議な感覚ですね」


 もっともな感想だがそこには突っ込まない方向で。

 カチンにいる宗教団体の掌握に成功したことをイアンさんに伝えると、彼は苦笑いして見せた。


「名だたる貴族たちが治められなかった領地を即日掌握してしまうとは……やはりエキドナ殿のお力でしょうか」


「ドラゴンたちがいてくれたのは大きいな。武力行使して根絶やしにするわけにはいかないし」


 したところで人が寄りつかない。領地持ちの貴族にとって無人の街というのは致命的だ。


「それに現地の有力者の娘を娶るというのもありがちな手法ですしね。この場合は有力者本人ですか」


「言うなよ。シルヴィをなだめるの大変だったんだぞ」


「シルヴィア様もそうですが、レオノール殿下のことも考えた方がよろしいですよ」


「レオノールちゃんなら大丈夫だろ」


 あの子はそんなに嫉妬深くないーーはずだ。なにより貴族的な価値観で動く子だから、フィオナの件は許してくれるはずだ。


「公人としては大丈夫でしょうが、私人としてはどうなのでしょう。女性というのはデリケートなのですよ」


「イアンは未婚なのに、なんでそんなわかったようなことを言えるんだ?」


「これでも侯爵家の子どもでしたから。非嫡子でも縁を繋ぎたい貴族家のご令嬢から、社交界のたびにダンスに誘われましたよ」


 チッ。リア充め。


「ところで街の整備の目処はついたので?」


「もちろん」


 俺は紙を取り出してイアンさんに見せる。そこには街の区割りなどが描かれてある。一週間、ダラダラ過ごしながらも頭の中で案を練り、ほんの一時間で紙に描き出したのだ。はいそこ、サボりって言わないように。

 街の構想としては中国などに見られる都城にあたる。日本風にいえば総構え。街ごと城壁で囲まれた城だ。この世界ではさほど珍しくない。設計した街は防御力を重視している。平野部にある小高い丘を利用しており、丘の上に陣取ることで高地の優位を利用できる。さらに五稜郭に見られるような星形の城郭で防御力を増す。それを二重、三重に重ねる。星形の窪みの入り口に小さな出城を築き、城郭本体に容易に取りつかせないようにした。各陣地は地下道で連結させてある。近くの川から水を引いて水堀を張り巡らせる。敵に包囲されても城郭内に農地を取り込んでいるし、近くに山があるため地下水も豊富。農業用水は川の水を使えばいい。結果、直径二十キロ。収容人数(人口)は百万人を想定した超巨大都市になっていた。

 この説明を聞いたイアンさんは顔を青くする。


「これほど大規模な街は聞いたことがありません。というより、そもそもこの辺境の街にそこまで人が集まるのですか?」


 イアンさんの指摘はもっともだ。普通ならカチンのような辺境の地に人が集まるはずがない。だがそこは逆転の発想。集まらないなら集めればいいのだ。


「まあ半月もすればわかる。それより街を造るぞ」


 というわけで俺が先頭に立った大開発が始まった。まず一番時間がかかる森の木を一部を残して切り倒す。第一区画(城と貴族街)が森の手前で止めてあるのは、これを開発している間に切り株なんかを撤去してもらうためだ。第一区画の開発を終えると整地が終わった第二区画(商工業地)を、次いで第三区画(庶民街と農地)を造る。工期は半月。人員は俺を含めた三百人足らず。サボっている暇はない。しかもイアンさんを含めた文官には戸籍の作成も命じていた。統治に戸籍の作成は必須だ。ゼロから始めるために作業量は圧倒的に少ないので勘弁してほしい。頑張れ。


ーーーーーー


 かくして半月後。あばら屋と広大な森としかなかったカチンは、三重の城郭と水堀とに囲まれた堅牢な都市へと変貌していた。エキドナに乗って空から見ると星形の綺麗な街になっている。夜に見れば夜空に浮かぶ星になるだろう。そしてそのさらに北には海が見える。山ひとつ越えなければならないが……海へ繰り出すためのいい拠点になりそうだ。

 脳内メモに次なる狙いを書き込みつつ待ち人を待つ。しばらく飛んでいると甲冑を着込んだ騎士たちに護られた一団を見かけた。騎士たちが掲げる旗はお隣のマクレーン公国のもの。待ち人来たる。

 俺はエキドナに地上に降りるように言う。彼らを出迎えなければならない。


ーーーイアンーーー


 見回りをしていた兵士から『マクレーン公国の旗を掲げた一団が現れました』と報告を受けたときには困惑した。公国といいつつもフィラノ王国の臣下。つまり王国のいち貴族だ。それなのに他貴族の領地に兵を入れるなど宣戦布告に等しい。それにマクレーン公国は、わたしの主人であるオリオン様の婚約者であるレオノール殿下の出身地だ。ますます意味がわからない。

 そしてこの訳がわからない事態をわたしが対応しなければならない。本来このような場面では武官長のシルヴィア様が判断されるはずだが、子育てのために事実上その職から離れてしまっている。次官のフレデリックは王都だ。判断できない。しかもオリオン様はエキドナ殿に乗って領地の視察をされている。まさか兵士に判断させる訳にもいかずーーわたしが判断を下すのだ。とにかく目的を訊ねよう。その間にオリオン様が戻ってきてくださるはずだ。

 配下の文官に兵士をつけて送り出す。彼が戻ってきて言うところには、オリオン様が作られたオリオン商会の隊商を護衛しているそうだ。大商会とはいえ騎士クラスの精鋭を護衛につけるのは問題ではないかと思ったが、今やマクレーン公国の経済の大半はオリオン商会に握られているらしい。彼らが扇動するだけで公都の民衆は蜂起するという。……それでいいのだろうか? 潰そうとすれば後ろ盾のオリオン様が敵に回るのは間違いないですけど。

 さて、商会が連れてきた隊商ですが、その内容は実に雑多でした。何も持たない奴隷たち、身なりのあまりよくない農民たち、聞いたこともないような名の零細商人たち。他に一癖も二癖もありそうな職人に、カチンの街で営業するためにオリオン商会から派遣されてきた従業員。それと、軍隊の輜重部隊でも見ないような大量の物資。これだけの物資を用意しようとすれば国の財政は軽く傾くはず。それをこんな辺境の地に送り込める財力、公国の騎士を護衛につけさせる政治力。そんな商会を傘下に収めているオリオン様は、ともすると国王陛下よりも力は上かもしれない。だから陛下も花を持たせるような行動があるのだろうか?

 ……もしかするとわたしはとんでもないところに就職したのかもしれない。


ーーーオリオンーーー


 騎士たちに発見されないように少し遠い場所に降りたせいで街へ戻るのに時間がかかってしまった。やっぱり馬を手に入れた方がいいかもしれない。要検討の課題だが、優先すべきものは商会から送られてきた人と物資だ。彼らがカチンの街を支える基幹人員になるのだから。

 隊商のところへたどり着くと、そこには多数の人、物資をテキパキと捌くイアンさんの姿があった。


「任せきりにしてすまない」


「大丈夫です。一応、人は広場に集めて炊き出しをさせています。物資は第三区画の蔵に集めていますが……」


「それでいい。俺も手伝うからーー」


「それよりもマクレーン公国より騎士の皆様が隊商を護衛して来ております。オリオン様はそちらの応対を」


「わかった」


 人や物資を捌くのはイアンさんに任せ、俺はマクレーン公国の騎士たちを労った。料理長のトクゾー特製、フランス料理のフルコースだ。もちろん美味い。味に感動した騎士たちがレシピを教えてくれと懇願されたが断った。地球の知識は俺の重要な手札だ。おいそれと渡すことはできない。その代わりに似たようなものならカチンの街でも食べられるようになる、と教えると休暇になれば来る! と言っていた。そして数ヶ月後、カチンにオープンしたフレンチレストランにはマクレーン公国の騎士たちが家族を連れて殺到した。カチンにはフレンチという美味い料理があるーーその噂は瞬く間に拡散され、王国中から人が集まるようになるのだった。


ーーーーーー


 騎士たちは翌朝には帰っていった。俺は彼らを見送ると、その足で移民たちの許を訪ねた。

 彼らはソフィーナに頼んで王国全土から集めた移民である。地主の下で働いていた小作人や、不遇な目に遭っていた職人、才能はあれど金がない商人、そして奴隷たち(解放済)。彼らには早速生活を始めてもらわなければならない。そのためにまず、この街を案内する必要がある。

 彼らには第三区画のアパートに泊まってもらった。なぜここかというと、ほとんどの者たちにとってこれから生活する場所になるからだ。

 そして農民志望の者には第二、第三区画を。商人志望と職人志望の者にはすべての区画を案内する。然るのちに農地や店舗を割り振っていく。少しでも楽になるよう農民には農具や種を支給し、商人や職人にはオリオン商会から資本金を提供した(無利子無担保)。もちろんタダではなく、五年以内に返すことが条件だ。俺の見込みが正しければ苦もなく返せるだろう。あとはギルドなんかが作られないように監視することか。カチンでは楽市楽座が基本だ。守らない場合は叩き出す。その辺は容赦しない。

 移民たちはあまりの好条件に戸惑っているようだった。もちろんこちらが損するようにはなっていない。義務はきっちりこなしてもらう。住民の義務としては納税と兵役だ。税に関しては金銭のみ。物納はこれを認めない。ただ農民には関しては作物の出来不出来を考慮する。兵役は満十八歳以上二十五歳以下の者に二年間を課す。なお、現役を退いても五十歳までは予備役として登録される。戸籍を作ってあるから逃れられない。もちろん逃亡すれば話は別だが、しても元の酷い生活に戻るだけだ。彼らもそれくらいはわかっているだろう。

 心配なのは元々住んでいたドラゴン信仰団体の信者たちとトラブルにならないかだが、その点はフィオナに丸投げしている。ご褒美(夜)のために頑張ってほしい。

 と、ここまでやることはやった。あとはなんとか軌道に乗ってくれることを願うばかりだ。




書き溜めがかなりあるので、これから四章が終わるまで水、日の週二回のペースで投稿します。


ーーーーーー


カチンの街


人口:約3000(戸籍調査をしていないため詳細な数字は不明)


規模:小規模都市


備考:移民によって人口が増えた。

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