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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第三章 ブルーブリッジ伯爵家
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3ー9 竜王の娘さん

 



ーーーオリオンーーー


 俺は今、王城に隣接する近衛騎士団の演習場にいる。そこには王様をはじめ、王太子、お姫様、宰相さん以下の公王や公爵といった王族がズラリ。一段下がって侯爵、伯爵と各国の使節が。さらに下がって子爵、男爵が。さらにその下には、10×10の百人ごとに整列した近衛騎士団が。その周囲を半円状になって数えきれない民衆が取り囲んでいた。

 そして俺の現在地はーー伯爵ゾーンではなく、最上段の王族ゾーン。なぜお前がここにいるんだ、といわんばかりに王太子から睨まれている。そこまで露骨ではなくとも、王族同士が頻繁にヒソヒソ話していた。正直、下にいたかった。

 伯爵である俺がなぜ最上段にいるかというと、レオノールちゃんと婚約しているということは次のマクレーン公王。つまり立派な王族だ、という理屈がまかり通ってしまったからだ。あとはこの大集会のメインゲストが俺を目当てにしているためでもある。ちなみにそのゲストとは言わずもがな。娘にすべての責任を被せたどこぞの竜王・ファフニールだ。

 ドラゴンがやってくるーー国を挙げて歓待しようと、大物貴族が中心になって盛大な式典を計画。王様がそれに乗っかり、王都滞在中の王侯貴族は全員出席。儀仗兵として近衛騎士団を動員。民衆に知らせて集める。会場は近衛騎士団の演習場。それらのことが即座に決まった。

 そして本日。天気にも恵まれ、盛大な歓迎式典が挙行されたのである。


「来たぞ! ドラゴンだ!」


 民衆のひとりが指さしながら叫んだ。自然、人々の目はそちらへ向く。

 遠目に、ゴマ粒のような黒い点が二つ。やがてどんどん大きくなっていった。

 二体のドラゴンはいずれも色は黒。ただし体の大きさははっきりわかるほど違う。大きい方は言うまでもなくファフニール。となると小さい方がその娘さんか。

 ファフニール親娘は王都上空をゆっくり旋回したあと、人で埋め尽くされている演習場にポッカリ空いた穴ーー着陸地点として空けておいたーーにソフトランディングを決めた。そこに降り立てば、丁度近衛騎士団を後ろに、王侯貴族を前にすることになる。

 ファフニールの全長は目算で15m。それだけの巨体が目の前にいるーー常人ならばかなりの恐怖を覚えるはずだ。現にさっきまで俺を睨みまくっていた王太子はブルブル震えている。間違いなく他にもいるはずだ。意外にお姫様やレオノールちゃんは平気そうだったが。

 そんななか、ファフニールが挨拶を口にした。


『当代の人の王よ。此度はこのような盛大な迎えに感謝する。そして娘の不始末を申し訳なく思う」』


「竜王ファフニール。あなたと見えることが叶ったのは初代様以来。皆、そのために集まったのです。今回の件は、元はこちらが約束を違えたために起こったこと。こちらこそ申し訳なかった」


 両者、挨拶と謝罪を終える。あとは見舞いの品を贈りあって終わりーーかと思いきや、ファフニールが俺に目線を送ってきた。なんだ?


『オリオンーー我が友よ。そなたにも迷惑をかけたな』


 これは……答えるべきだよな。


「いえ。迷惑などまったく。むしろわたしの方がご迷惑をおかけしました」


『謙虚だな。だがお陰でまだまだ未熟であると悟らされたわ。その礼に我が娘・エキドナを騎竜として与えよう』


 ファフニールはそう言うと、横にいる娘さんーーエキドナに目線を送った。彼女は頷き、直後、その体が光に包まれる。それが収まると、そこにドラゴンの姿はなく、代わりにひとりの女の子がいた。見た目からだいたい十四、五歳といったところ。艶やかな黒髪が肩口で切りそろえられており、どこか日本人みたいな容姿をしている。ヨーロッパ系の見た目が多いこの世界では目を引く存在だ。


『このようにエキドナは人の姿をとることができる。大きさの心配は要らぬ』


 まさしくサイズの問題で受け取りを拒否しようとしていたため、先手を打たれた形だ。これで大きすぎて厩舎に入らないから要らない、という言い訳は通用しなくなった。女の子には酷い話ーードラゴンにそんな観念があるのかは知らないーーだが、とにかくドラゴンに乗るという羞恥プレイだけは回避したかったのに。


「よろしくお願いします」


 しかも嫌がるかと思ったエキドナは大人しい。もうちょっと抗議しろよ! じゃないと断れないでしょうが!

 しかし本人は既に騎竜という役目を受け入れる気満々のようだ。こんな風にOKされているのに、受け入れないのはなんか悪い気がしてきた。それに周りからの視線も痛い。いや、あんたたち俺が報告したらめっちゃ否定してたよね? 不敬だとかなんとか。それがなんで急に『受け入れないなんて酷い奴』みたいに責めるような目を向けてんの? おかしくない?

 そうは思ってみたものの、場は既に断れるような雰囲気ではなくなってしまった。さらに断る口実も思いつかない。

 結論、オワタ。


「こちらこそ、よろしく」


 そう言う以外に道はなかった。


ーーーーーー


 かくして式典は無事に終了。ファフニールは俺に娘を預けて帰っていった。別れ際、


『たまにはエキドナに里帰りをさせてやってくれ。そなたも訪ねてくるといい。歓迎しよう。そしてその折には手合わせを頼むぞ』


「あはは」


 むしろずっと里帰りしていてくれていいですよ。あと、訪問はともかくとして手合わせについては遠慮しますーーと言ってやりたかったが他人の目もあるので全力の愛想笑いを返しておいた。日本人の愛想笑い=やりませんという拒否である(場合が多い)。

 王族や侯爵を見送ってから屋敷へ戻る。道中はシルヴィは護衛を束ねる立場であるため外で指揮を執らなければならず、馬車の中には俺とエキドナの二人だけだった。丁度いい機会なので、今回の件について訊ねてみる。


「エキドナ」


「はい。主様」


「あ、主様……?」


「お嫌ですか? ならご主人様と」


「大して変わってない……。そうじゃなくて、名前で呼ぶとか、爵位で呼ぶとかあるだろ?」


「そんな他人行儀な。わたくしは今日をもって主様の騎竜となったのです。騎竜とはすなわち、戦場で命を預けあうパートナーであり、また使役し使役される主従でもあります。そのようなお方を爵位でお呼びするなんてできません!」


 名前呼びは他人行儀な呼び方なのか。そこのところを訊ねると、


「それは個人的に嫌なので」


 実に私的な答えが返ってきた。結局どう呼ぶのかと様々に議論した末、最初の主様になった。

 と、話が逸れてしまったが、今回俺のところへ来ることになったことへの感想を訊く。……まあ、これまでのやりとりでだいたい察しはついていたが。


「今回、俺のところに来ることになったけど、どう思ってるんだ?」


「……それを申し上げよ、と? そんな……酷い」


 おっと斜め上すぎる反応きましたよ。なぜ感想を求められただけで頬を染め、足をモゾモゾと擦り合わせ、挙句に『酷い』と詰られなければならないのか。

 俺が戸惑っているうちにエキドナは決意を固めたらしく、決然とした面持ちーーただしまだ顔は赤いーーで話し始めた。


「わたくしは父上ーー竜王ファフニールの娘です。ドラゴンに求められるのは強さです。竜王の称号も、最も強いドラゴンに与えられます。ですが、父上が竜王の称号を長年にわたって独占してきたことで、縁故を重視する傾向に変わりました。父上が家族を大切にすることは有名で、ならば自分たちも縁戚になれば将来は安泰だろう、と。兄上たちには早々と番が送り込まれてきました。ですが、父上にはなかなか娘が産まれなかったのです」


「あー、だいたい読めた。娘が生まれると、なんとしても自分なり自分の子どもなりの嫁にしようと必死にアプローチをかけてきたんだな」


「はい。父上はわたくしの意思を尊重したいと断ってきたのですが、最近は断り辛くなって……。そんなときに領域の山を吹き飛ばすような超級魔法が放たれたのです。父上は即座に『この超級魔法の使い手を倒せた者に娘を嫁がせる』と仰りました。ですが勝てないと悟ったのか誰も手を挙げず、やむなく父上が自ら出られたのです。帰ってきて話を聞かせていただいたときには驚きました。父上を手加減してのす方がいらっしゃるなんて」


 熱っぽい眼差しを送ってくるエキドナ。彼女は知っているのだ。単に倒すことよりも、死なない程度に手加減してのすことの難しさが。彼我の間に存在する力の隔絶が。


「出かける際に『最近ムシャクシャしているから、魔法ぶっ放しているバカに八つ当たりしてくる』なんて仰っていた父上が、一転して主様の素晴らしさを語っておられる姿は、見ていてとても面白かったです」


 はぁん。そんな裏話があったのな。ファフニールは出会ったときに適当な嘘をついたわけだ。まあほとんど真実ではあるけれども。……これは一度里帰りについていって三途の川を見せてやる必要があるな。


「すみません。話が逸れてしまいましたね。主様の騎竜になることについてですが、わたくしは嬉しいです。父上に匹敵ーーいえ、はるかに凌駕する力をお持ちの主様……。ドラゴンの血が騒いで仕方ありませんわ!」


「どういうこと?」


 意味がわからない。


「わたくしに言わせないでください。いえ、敢えて言わせるおつもりなのですね。なんという鬼畜。でもそこがいい!」


 エキドナのテンションがセルフで上がっていく。あれ? 俺変なこと言った?


「では申し上げます」


 突如として厳粛な空気を醸しだされ、俺は思わず背筋が伸びる。そして、


「ーー稚児ややこです」


「はい?」


「主様の稚児が欲しくてたまらないのです!」


 言い切った。恥ずかしがっていた割には大声で言い切った。

 稚児=子ども。……ドラゴンと人の間にできた子ども? 想像できない。というか不可能だろ。生物学的に。

 そう伝えてみたのだが、


「可能です。前例もあります」


 あるの!?

 聞けば悠久の昔に人とドラゴンの間に子どもができたことがあるそうだ。ちなみに子どもはドラゴンの姿をしており、その子どもは番を持ったが子は成せず、二頭は失意のうちに自殺したそうだ。さらにその子どもの親も、絶望して海へ入って出てこなくなったらしい。現在では悲劇の題材として用いられることも多いそうだ。


「子を成したドラゴンは人の姿になれたといいます。つまりわたくしは主様と子を成す条件を満たしているのです。しかし、どうしてドラゴンは子を成せなかったのでしょうか。稀に何度やっても子ができないものもいるにはいますが……」


「後者はほぼ間違いなく不妊症。前者は……そもそも種族が違うから子どもはできない」


「理由がおわかりになるのですか。主様はすごいです。お強いだけでなく、そのような知識までお持ちなんて。ーーところでその不妊症というのはなんでしょう。それに種族が違うと子ができないことなどあるのですか? 人とエルフとの間に子が生まれるという話はよく聞きますが……」


「不妊症は、簡単に言えば何らかの原因で受精が起こらないことだ。その原因は男にある場合、女にある場合、あるいはその両方にある場合とがある。そして他種族との間に子どもはできないという話だが、たぶん人とエルフは系譜が近いんだ」


「系譜?」


「そう。進化の系譜だ。人間はーーいや、ありとあらゆる生物は、元々単一の生物で、それが進化して人間、魚、ドラゴンなんかに分かれていったんだ。そして子どもは、系譜が近しい生物としかできない。系譜の近い遠いは、例外もあるけどおおよそ生物の姿形で判断していい。人とエルフの場合は似ているけど、人とドラゴンは似ていないだろ? だから子どもはできないんだ」


「なるほど。主様はすごいです。そんなこと長く生きているドラゴンさえ知りません」


 俺に尊敬の眼差しを送るエキドナ。そんな彼女に俺は苦笑いしかできなかった。なにせこの知識はこの世界よりも文明レベルが上の地球で知ったことで、正しいかどうかも定かでない。褒められて嬉しくないわけではないが、心境としては複雑なものがあった。


「とりあえず思いの丈は理解できた。俺としては是非とも我が家に迎えたい」


「ではーー」


「が、すべては家族会議で決まる」


 そう。我がブルーブリッジ伯爵家では基本的に家族会議で方針が決定される。その構成メンバーは俺、ソフィーナの血族に加えて武官のトップであるシルヴィ、文官のトップであるイアンさんを加えた四名だ。数年後にはレオノールちゃんも加入予定である。この会議では多数決制を採用しており、過半数の賛成で可決となる。俺は貴族家の当主であるにもかかわらず、独裁権はないに等しいのだ!

 気づけば馬車は屋敷の敷地に入っていた。さて、どうなることやら。




補足:ドラゴンには寿命がありません

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