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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第一章 成長
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1ー3 神童

ブルーな気持ちで投稿。理由は投稿日から推察のほどを……。




ーーーオリオンーーー


翌日。俺は日本で生きていればまず経験しないであろう、貴重な体験をしていた。所々に金糸や銀糸を織り込んだ豪華な服を着て、お伽話や歴史の授業で知識として知っていた馬車に乗り込んで移動する。さすがは異世界。

御者をしているのはアーロンさん。警備も兼ねているという。元高ランク冒険者の彼が護衛してくれるのは安心だ。

馬車は車とは比べものにならないくらいの低速でゆっくりのんびり進む。その時間を利用して母は基礎的なことを教えてくれた。

父の名前はレナード・ゲイスブルク。フィラノ王国でも屈指の大商人だという。一方、母は貧しい農家ーー地球でいえば小作農あるいは農奴に相当するーーの娘(五人兄妹の次女)。

そんな二人の馴れ初めはというと、母がゲイスブルク家の屋敷にメイドとして出仕したことだ。出稼ぎ&口減らしとして近くの町にあった父の商会の支店に奉公へ出ていた。働きぶりが優秀だったのでゲイスブルク家の屋敷にメイドとして雇われることになったそうだ。このとき母は十四歳。父には屋敷で会ったときに見初められて関係を強引に迫られたそうだ。何度断っても諦めてくれず、挙句に屋敷を追い出すと脅されたという。母としてはこんなところなどさっさと出ていきたかったのだが、両親と手紙をやりとりするなかで、母の仕送りによって暮らしが楽になったと書かれてあった。給料は支店にいた頃とは比べものにならないほどによく、仕送りの額は実家の年収に匹敵するほどだったらしい。家族に貧しい思いをさせたくないーーその思いが母に自己犠牲を選ばせた。彼女は父の求めに応じて関係をもち、時間があれば求められ、結果俺を身ごもったと。

……クズだな。

しかもそのことが父の本当の奥さんにバレ、母は追放同然に屋敷を追い出されて離れ幽閉されたそうだ。

この世界では日本のような一夫一妻制ではない。むしろ多くの妻を持つことが男の甲斐性とされている。だから母に手を出したことはーー日本の倫理観を無視すればーー責められることではない。直接の関係はないが、かくいう俺もゲームに出てくるヒロインたちを『全員俺の嫁』などとのたまっていた。他人(ひと)のことはいえない。

話が逸れた。倫理上、複数の女性と関係をもつことは問題ないのになぜ母は追い出されたのか。それは本妻の嫉妬心に加え、母の出自もある。

先にも述べた通り、母は農奴といって差し支えないほどに貧しい農民。一方、父は王家の覚えもめでたい大商人。両者とも大きなくくりでは同じ平民だが、実際の社会的地位は天と地ほどの差があった。

大商人ともなればそこらの零細貴族よりも権力は上だし、それなりの世間体というものもある。それが農奴の娘を手籠めにして孕ませたなど大スキャンダルだ。それを恐れた父の正妻は母を離れに幽閉したのだ。

世間体を気にするくらいなら最初から手を出すなよ。その方が互いに幸せだったんだから……。

父に対する恨み言はいくらでも出てきた。さらに俺の神経を逆撫でしたのは、これまで俺のことを一切気にかけなかったことだ。おい、自分のやったことにくらい責任もてよ。ってーーん?


「ねえママ。どうしてパパにあうの?」


そう、それだ。俺が感じた素朴な疑問。今の今まで放置してきた子どもに突然会おうとするなんてちゃんちゃらおかしい話だ。何か理由があるはず。

その疑問に母は慈愛に満ちた笑みとともに答えた。


「賢いわね、オリオンは……。実はアーロンさんがオリオンの様子をパパに報告していたの」


スパイか、と思ったがどうも違うらしい。

アーロンさんは母ではなく父に雇われた警備員なのだそうだ。離れにいるのは配属先がそこだったから。彼は月に一度、父に離れの様子を報告することになっていて、その報告で俺のことを“神童”と呼んでいたという。

……そりゃ三〜五歳児が文字を書いたり、数学を易々と解いたりしていればそうなるわな。その辺の意識がすっかり抜けてしまっていた。

一度聞いただけでは“神童”という表現はどうしても誇張に思えてしまう。だから父も初めは信じていなかったそうだが、毎回同じように、回を追うごとに熱っぽく語るので会ってみることになったらしい。要するに根負けしたのだ。

聞くところによるとアーロンさんの言葉ーー演説?ーーはだんだんと芝居がかってきたらしく、


『オリオン様は御年三つにして文字をお書きになられ、四つにして算術をお修めになられ、五つにして剣と魔法の才は留まるところをしらずーー』


といった言葉で俺の凄さを強調するという。ヒトラーも真っ青な口達者ぶりだ。つうか絶対わざとだろ! 作為をひしひしと感じる。

後日、演説の内容はメリッサさんが考えていたことが判明。説教したら猛烈に反論された。なんでも『こんな逸材が野に埋もれているのはともったいない』という。議論は平行線のまま決着つかず、放置することになった。というか怖い。二人はもはや狂信者の域にある。手遅れだ。

しかし離れて暮らしていた父親と面会ねぇ……。


「はぁ……」


面倒なことになる。そんな確信があった。なぜならーーラノベのテンプレ的にそうなるからだ。

俺は襲い来る(であろう)トラブルを思って気を重くしつつ馬車に揺られる。屋敷はすぐそこだった。




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