3-5 貴族からの苦情
前回の投稿で800PVを記録しました。ありがとうございます。
ーーーオリオンーーー
学校が始まって数日が経った。ここで少し学校のシステムについて説明する。計画では初等教育が中心で、一部に中等教育か混ざることになっていたのだが、教員を集めているうちに分野が雑多になってしまった。高校までのようにこちら側でカリキュラムを組んでいたのでは、すべてをやりきるまで何年かかることか……。結果、自分でカリキュラムを組んでこなしていくという、大学のスタイルを取ることにした。単位を取得して一定の数を超えたら卒業ーーというあれだ。もちろん、こちら側でカリキュラムのモデルは作っているーー武官、文官などで受ける授業は異なるーーが、卒業要件さえ満たしてくれればどう取ろうが自由である。必要単位は少な目、授業内容は詰め込みと、個人的には不安なのだが、それ以上に今は人が足りていない。早ければ半年ほどで卒業可能。卒業し次第、職場に送り込む予定だ。
さて。入学初日に問題を起こして即刻退学になった生徒がいることは記憶に新しいと思う。今日はその親が面会にくることになっていた。ただの面談ではなく抗議であることは言うまでもない。にべもなく断りたいのが本音だが、相手は貴族や大商会のトップ。そういうわけにもいかなかった。
来校者三人が応接室へ入る。俺は彼らから数分遅れて入った。途端に集まる怒りの視線。
「遅い! 客人を待たせるとはなんたることか!」
「まったくですな」
「部屋も貧相で、庶民平民どもがいるに相応しい」
好き勝手に言いやがって。ちなみに応接室の内装は小さなガラス張りの机を中心に、革張りの黒いソファーがコの字型に配置された、ごく一般的なものとなっている。ちなみにソファーはイタリアはカッシーナ。お値段は日本円でおよそ百万円だ。ソファーとしては最高級品。それを貧相とは……あなたの目は節穴ですか? 本当ならここで大笑いして小馬鹿にしてやりたいのだが、なんとかその衝動を抑え込み、
「失礼。仕事が山積しているもので」
と、謝罪する。すると今度は、
「なんと。陛下から任せられた仕事も満足にこなせぬとは」
「所詮は成り上がり者の餓鬼ということか」
「まったくですな」
という具合に馬鹿にしてきた。ちなみに貴族たちは無役、大商会のトップは実務を側近に丸投げし、自身は半ば楽隠居状態なのだそうだ。そんな奴らにとやかく言われる筋合いはない。こちとら貴族としての仕事に王都開発事業、さらにはほとんどをソフィーナに任せたとはいえ、俺がやらなければならない商会の仕事を抱え込んでいるのだ。おかげで睡眠時間は三時間を割り込んでいる。よく生きてるな、俺!
男たちの理不尽な物言いに、思わずこの面談を止めようかな、と考えてしまう。だが母さん(理事長)とメリッサさん(理事兼教頭)から絶対にやるように言われているので、そうするわけにはいかないのだ。メラメラと燃え盛る怒りの炎を抑え、もう一度謝罪の言葉(不本意)を挟み、本題に入る。
「失礼した。……それで、本日はどのようなご用件でしょう?」
「決まっている。ワシらの息子のことだ」
「なぜ退学に?」
「息子の話だと、いきなり退学にされたそうですが?」
「なるほど。つまりは、ご子息が退学になったことがご不満なのですね?」
「その通り」
「理不尽な処置だとご理解いただけたなら、息子は復学させていただきますね? もちろん、相応の賠償もいただけるものと確信しておりますが?」
「わたしとしましては金銭よりも、オリオン商会が行なっている事業を分けていただくだけでよろしいですよ。そうですね……例えば不動産業など」
「ワシはソフィーナ殿を妾に迎えることで勘弁してやる」
「なるほど……」
彼らは尊大な口調で吹っかけてきた。復学の要求はあるだろうなと確信していたが、まさか賠償まで求められるとは思わなかった。しかもその内容が王都開発事業の利権、商会の主力事業である不動産業、果てはソフィーナを妾にすること。そんなことになれば伯爵家も商会もガタガタだ。下手をするとソフィーナごと商会が俺の手を離れてしまう。もちろんそんなことは断じて呑めない。
……ところで、俺は母さんたちから面談をするようにとは言われているが、要求を呑むのか否かについては指示されていない。つまり、俺の裁量ということだ。もちろん、答えは決まっている。
「お話はわかりました。では、学校としての正式な回答をさせていただきます。今回、退学処分となった三名は、校則を守らなかったために退学となりました。違反したのは第一条『学生は校内において、社会的身分および門地またはその他の理由で差別されない』というものです。第一条に記されるものですから、学校で特別に大事にしている理念です。ではあなた方のご子息がどうなされたかというと、平民や奴隷に対して差別的な言動をしました。これは校則で禁止されている事項ーーつまり、校則違反にあたります。ゆえに退学処分としたのです」
「それはーー」
「それに」
何かを言おうとした貴族の機先を制した。ここまでは学校としての見解と回答で、本番はここから。ブルーブリッジ伯爵としての回答は、
「言いたいことはそれだけか?」
「「「へ?」」」
豹変した俺の態度、雰囲気に三人は呆気にとられてアホ面をさらす。こっちは我慢の限界だ。そろそろぶちまけさせてもらおう。
「さっきから黙っていれば、好き放題言うな、おい。ルールを破ったのはあんたたちだ。なのに子どもを復学させろだ賠償しろだ。ふざけるのもいい加減にしろよ」
そこまで言ったところでアホ三人は現実を認識したらしく、顔を真っ赤にして怒りだす。
「ふざけるのはそちらだ! そもそも、平民や奴隷どもが教育を受けることが間違っているんだ!」
「そうだ! 教育は貴族にだけ許された崇高なものなんだ!」
「商人のやり方を無闇に広めるのはよくない!」
「はぁ。御託を並べるのは結構だが、あんまりバカにするなよ。こっちがお前らの狙いを分かってないとでも思ってんのか? だとしたら相当舐められてるな」
俺の言葉にギャンギャン騒いでた三人が静まる。図星突かれたからってあからさますぎるだろ。
ひとりが震え声で訊いてくる。
「ね、狙い? そんなものあるわけーー」
「ならどうして子どもをうちの学校に入れた?」
「それは新しい学校に興味があってーー」
「嘘だな。貴族には王立のアカデミーがある。学校ならそちらへ行けばいいだろう。現にほとんどの貴族はアカデミーに通っている。商人はそれに当てはまらないわけだが、それもさっきの賠償の話ではっきりした。この学校を卒業すれば、伯爵家か商会に就職することは約束されている。そこへ身内を送り込んで利権を回すつもりだったんだろ?」
「「「……」」」
三人揃って沈黙。ぐうの音も出ないようだ。やがて三人は、
「覚えてろ!」
「今日の日のことは忘れんからな!」
「後悔させてやる!」
捨て台詞を残して去っていった。まったく、余計な時間をとらせやがって。
よく考えると当初予定していた剣と魔法の異世界生活! という要素がなくなってしまっている……。もう少しで話も大きく動くので、それまでどうかおつきあいのほどをお願いします。
毎週日曜日を固定の更新日にしようと思います。多分守りません。




