表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第三章 ブルーブリッジ伯爵家
36/140

3ー3 学校を創ろう




ーーーオリオンーーー


 結婚相手が決まった。お相手は七歳年下のレオノールちゃん。宰相さんの娘。宰相さんが治める公国の次期女王。仲人(?)である王様たちの口ぶりでは、結婚することで俺が次の公王らしい。ちなみに俺、伯爵。その前、商人。

 ……どうしてこうなった?


ーーーーーー


 色々と疑問は尽きないものの、決まってしまったものは仕方がない。甘んじて受け容れるしかないのだ。どうせ拒否権などないのだから。

 そしてもはや恒例行事となりつつあるシルヴィ、ソフィーナへの報告会。屋敷に集まったのは俺、シルヴィ、ソフィーナ、レオノールちゃん。……どうも、宰相さんが『レオノールをよろしく』と、帰り際に執事のひとりを使者として送り込んできた。……断れなかった。なので今日からレオノールちゃんはこの屋敷に住むことになる。

 かくかくしかじか。二人に事情を説明し終わると、


「……」


「な、な、な……っ」


 シルヴィからは表情が完全に抜け落ち、ソフィーナは驚きのあまり『な』としか言えていない。王族という身分ゆえの反応なのだろうが、俺にはわからない価値観だ。おそらく身分というものにあまり隔絶的なものがない現代社会に生きていたからだろう。


旦那(オリオン)様の婚約者となりました、レオノール・マクレーンです。よろしくお願いしたします」


 レオノールちゃんが優雅に一礼。一方の二人はロボットのようなカクカクとした動きで礼をした。


「そう緊張なさらないでください。これからは身内になるのですから」


「いえ、そういうわけには……」


 普段はブラック経営者なソフィーナとはいえ、王族という存在を前にしては恐縮するだけだった。ちなみにシルヴィは無言。無言でレオノールちゃんをじっと見つめている。


「ふふっ。そんなに警戒なさらないで、楽にしていただいて構いませんよ。わたしは旦那様を利用するつもりなどありませんから」


「えっ。別にこれは、そんなわけでは……」


 レオノールちゃんの指摘に、シルヴィが慌てる。ん? どういうことだ?

 俺がまったく理解できていないことに気づいたレオノールちゃんが解説してくれる。


「旦那様は伯爵に叙任され、王都の開発事業を任されました。これには利権が多く眠っています。加えて現在のブルーブリッジ伯爵家にはこれといった後ろ盾がありません。つまりは手を出し放題なのです。シルヴィアさんは護衛としてーーいえ、旦那様を想えばこそ、わたしを見定めようとしていたのです」


「なるほど。ありがとう、シルヴィ」


「い、いえ。私は護衛として当然のことをしたまでです」


 照れたのか、シルヴィは頰を赤く染めて視線を逸らした。するとその様子を見ていたレオノールちゃんが唐突にこんなことを言った。


「……わたしは別に、旦那様を独占しようとは思っていません。それに現在の伯爵家には一門がソフィーナさんしかいません。家の体制を整えるためには、わたしひとりでは不足でしょう。ですから、是非ともわたしはシルヴィアさんのお力をお貸し願いたいのですが」


「! それは」


「ならわたしも!」


「ソフィーナさんも、よろしいのですか?」


「もちろん」


 レオノールちゃんがシルヴィに助力を求めると、そこにソフィーナまで加わった。……いったい何の話だ?


「何の話をしているんだ?」


「お兄ちゃんは邪魔だから出て行って」


「すみません、オリオン様。三人でお話しをしたいので……」


 ソフィーナには強引に、シルヴィには本当に申し訳なさそうに、それぞれ退出を求めてきた。レオノールちゃんもまた、口では何も言っていないが、いい笑顔で、雰囲気で『出て行け』と言っている。そんな雰囲気には逆らえず、俺はすごすごと退室したのだった。


ーーーーーー


 部屋を出た俺は、さっきレオノールちゃんが口にしていたことについて悩んでいた。


『家の体制を整える』


 彼女が指摘した通り、ブルーブリッジ伯爵家の体制は未だに整っていない。まあつい先日できたばかりなので当たり前といえば当たり前なのだが、だからといってこのままでいいというわけではない。少なくとも、そういった体制を整えるための方策を講じるべきだ。そうなるとまず思い浮かんだのが、


「学校、だよなぁ……」


 正確には教育だ。この世界の教育水準は低い。特に庶民はほとんどが読み書きに不自由するといった有様だ。歴史的に考えると近代以前の封建社会では、読み書き算術は支配者階級(王侯貴族)に独占されていた。それは教養こそが支配者を支配者たらしめていたからである。この世界でもその図式は同様であった。

 以上がこの世界の支配体制である。では今度は視点を我々、ブルーブリッジ伯爵家に移して考えてみる。言うまでもなく、ブルーブリッジ伯爵家は新興の貴族家だ。人脈などないに等しい。利権の宝庫であるため他貴族から誼を結ぼうと働きかけ(婚姻の申し込み)があるが、王都開発事業は俺がその根底にある。つまり、俺が建てた建物を俺が管理するというわけだ。そこに他の貴族を入れるわけにはいかない。例えるなら、意見を同じくすることが求められる閣僚に、総理が野党の人間を任命したようなものだ。無論、内閣が回るはずがない。そのため貴族が現在抱えている人材を融通してもらうことはできず、独自に人材を発掘しなければならない。となると一番手っ取り早いのは最初から育てること。そのための学校を開設するのだ。

 そう決めるたとき、タイミングよく部屋に籠っていたシルヴィたちが出てくる。秘密の話は終わったようだ。ソフィーナに学校について相談しようと近づいたのだが、なぜか目が合うと視線を逸らされた。


「何かあったのか、ソフィーナ?」


「な、なんでもない」


 なら、なぜに視線を逸らしたまま会話するのか。問いただしたいところだが、その欲求を押さえ込んで本題に入る。


「学校を作るぞ」


「え?」


 簡潔に決定事項を述べる。するとソフィーナの目は点になった。

 ーーすまない。あまりに簡潔すぎた。というわけで、かくかくしかじかと学校を作るという考えに至った経緯を述べる。


「なんだ。そんなことか」


「そんなことってなんだ。既存の機構を利用できない俺たちの、数少ない解決方法だというに」


「ごめんなさい。でも、そんなことってできるの?」


「大丈夫だろ。あくまで私的な組織だし、対象は平民。貴族は基本的に入学しない。そして特別な場合を除いて、生徒は将来、伯爵家か商会に入ることを確約する」


「特別な場合って?」


「例えばやんごとなき身分で、どうやっても伯爵家や商会に入れないーー王族や貴族の次期当主とかだな。まあ、そんな人間が入学してくるとは思えないけど、そういうことを想定しておくのは悪いことじゃない」


「なるほど」


「さすがはオリオン様です」


 ソフィーナとシルヴィは納得してくれたようだ。……最近、シルヴィの返答が『さすがはオリオン様です』に固定されてもはやボットと化しているのだが、気にしないでおこう。


「レオノールちゃんはどう思う?」


 まだ幼いとはいえ、この世に生まれ落ちてから貴族社会で過ごしてきたレオノールちゃんに意見を求める。


「いい考えですが……やはり、大なり小なり反対はあると思います。旦那様は学校では読み書き算術と、それに付随する知識を教えると言われましたが、そういった知識は商人を除けば貴族の専売特許です。それを流出させるのか、と怒りだす者たちは必ず現れるでしょう」


「やっぱりそうか〜」


 下手するとかなりの数を敵に回すかもしれないってことか。


「ですが、旦那様にはマクレーン公家や、お姉様、国王陛下がついています。これらの勢力が賛成すれば、正当に排除することは不可能です」


 レオノールちゃんはとっても意気込んでいた。幼い子には失礼な表現かもしれないが、鼻息荒く力説していた。


「な、なるほど……」


「わたしは実家(マクレーン公家)に話を通してきます。ですので、旦那様は陛下たちに根回しをお願いします。それと、ソフィーナさんは生徒の確保をお願いします」


「そんな急には用意できないわよ!?」


「あ、初回は平民ではなく奴隷にしましょう。それなら初期は奴隷を教育する施設だと言い訳ができます。彼らも将来、解放されると聞けば必死に勉強してくれるはずです。そして翌年からは平民たちを募集しましょう。既成事実を作れば簡単には覆せないのですから」


 レオノールちゃんが可愛い顔してなかなかえげつない大人の考えを披露する。こういう点は貴族なんだな、と実感させられる。……それにしてもまだ幼いのにこれだけ頭がキレるなら、将来はどうなるんだろう? 彼女の将来にちょっと恐怖したのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ