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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第二章 自立
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2ー11 桜離宮落成式




ーーーオリオンーーー


 離宮が完成してからおよそひと月。諸々の準備を終えたお姫様はようやく、王城から離宮へと移った。そして今日、転居祝いと離宮の落成式とがまとめて執り行われる。そのように仕向けたのは俺。いちいち式典に出るのが面倒くさい。本当は出席したくないのだが、さすがにそれはダメらしい。それでも粘り強く交渉してなるべく数を減らしてもらった。……マンションの建設など、本来の事業に若干の支障がでているが。若干で済んでいるのは俺の夜勤の成果である。あと辣腕を振るうソフィーナのおかげ。休日ゼロなんていうブラック経営者だが、彼女の商才は本物だ。事実、俺がでっち上げたなんちゃって不動産の概念を今や完璧に理解し、事業を完全に統括しているのだから。この調子ならもう彼女に任せて俺は引退をーー


「お兄ちゃんがいるから今のやり方が成り立っているんだから、 辞めたらダメだよ?」


 くっ。俺の悠々自適の隠棲ライフを人質に取るとは。やりおる。

 ーーなんて現実逃避はもう止めよう。現実と戦うのだ。頑張れ、俺。


「オリオン様。そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ」


 隣に座るお姫様が励ましてくれる。だがそう言われても……というのが正直な感想だ。俺は主賓であるお姫様の横に座らされている。これでは俺までも主賓であるかのようだ。お姫様に言わせると立派な主賓らしいが、全然実感がない。そんな俺に、やはり隣に座る王様が声をかけてくる。


「アリスの言う通りじゃ。男ならもっと堂々とせんか」


 いや、そう言われましても……。王族に挟まれてめっちゃ注目されてるんですけど!? 特に貴族からの視線が厳しい。すみません。望んでないのにこうなったんです。マジ、代わっていただけるなら是非とも代わってほしい。金貨を積んでも譲る。実は式典の直前に仮病を使ってソフィーナを代役にしようとしたのだが、ソフィーナやお姫様、さらには護衛のシルヴィにまで反対された。なぜだ……? そのせいで俺は今、針の筵の上で踊らされている。だがそんな俺の内心を他所に式は粛々と進行していく。


「それではアリス・マリア・フィラノ第二王女殿下のご転居祝いに先立ちまして、新たな邸宅ーー桜離宮の落成式を執り行います」


 司会が宣言すると盛大な拍手がわき起こる。最初は建物が無事に完成したことを神に感謝する神楽。見目麗しい少女たちが舞台の上で優雅に舞う。……おや。あれは宰相さんの娘さんのレオノールちゃんだ。それにオーレリアさん、ラナさん、ベリンダさんもいる。へえ。あの子たち巫女だったのか。


「どうじゃ? 気に入った娘はおったかの?」


 王様が話しかけてくる。気に入った娘って……。何言ってんだこの人は、と呆れるが、同時にオタク心を刺激された俺は何の気なしに答える。


「知り合いだというのもありますが、レオノール嬢やオーレリア嬢ですかね。レオノール嬢は可愛らしく、オーレリア嬢は典雅です」


 中身は三十近いのでまだ十代やそれ未満の少女・幼女に見惚れたわけではない。気分的には子どものお遊戯会を見守る父親のそれだ。


「ふむ……公女に侯爵令嬢か。無欲なくせに女子となると欲深いの、オリオンは」


「いや、そういう意味ではなくてですねーー」


 何やら王様からあらぬ誤解を受けてしまったようなので訂正を試みるも、そこへお姫様が割って入ってくる。


「オリオン様! レオノールやオーレリアさんをそんな風に思われていたのですか!?」


「誤解ですって! 私はただ愛らしいと思っただけでーー」


「やっぱり愛でています!」


「父性的な意味で! ほら、幼い子が何かしていると愛らしいと思うじゃないですか!」


 王様に話題を振る。この場で唯一、俺の気持ちを理解してくれるはずだ。


「たしかにそうじゃが……」


「そうなのですか、お父様?」


「ああ。じゃがちと早くないか、オリオン?」


「いや、そうですけど……そこは信じてもらうしか。それに、そもそも歴史と伝統と格式ある上級貴族や、ましてや王族のご令嬢を、私みたいなぽっと出の下っ端の木っ端貴族が嫁にもらえるわけがないでしょう?」


「そうなのですか」


「そうなのか?」


「そうなんです」


 お姫様は納得したようだったが、王様は懐疑的な表情だ。しばらく唸っていたかと思うと、突然得心といった表情に変わる。


「なるほど。そういうことか」


「どうしたのですか、お父様?」


「いやなに。オリオンは神楽の本当の意味を知らぬのだと気づいたのだ」


「本当の意味?」


 なんじゃそりゃ。


「うむ。神楽は神への感謝を示すために行うーーというのは建前で、本来は娘の披露会なのだ。未婚の娘を他の貴族たちに見せ、男は見初めた相手に婚姻を申し込む。相手が承知すれば成立する。神楽やパーティーなんかでもそうだが、気に入った相手を訊ねられたら誰を見初められたかを探られておるのだ」


「そうなのですか。知りませんでした」


「オリオンは貴族になって間もないから仕方あるまい。しかしこれでは……もう少し早めるか」


「何を早めるのですか?」


「いや、こちらの話だ」


「そうですか」


 あまり聞かれたくないことなのだろう。あまり深く立ち入らないようにしよう。それ以後、王様は考え込んでしまったのでお姫様と雑談して暇を潰す。神楽が終わると建物の紹介となる。話し手は俺だ。


「続きまして施工者による建物紹介です。話者は桜離宮の一切を設計、施工されたオリオン・ゲイスブルク卿です」


 うん。司会者。余計な修飾語をつけるな。緊張するから。目線で抗議するも司会者はどこ吹く風。一方の俺は超注目されている。視線の圧に耐えながら俺は必死に離宮のことを紹介した。そのときのことはあまり覚えていない。夢中だったんだな、俺。うん。頑張った。やりきったぞ!


ーーーーーー


 式典は主賓であるお姫様のスピーチが終わるとパーティーに移行する。立食形式なのでこれ幸いと王様たちとは別行動をとった。危うく挨拶回りにつき合わされるところだった。セーフ。ホッとひと息ついていると、会場にドレス姿の少女・幼女が入ってくる。レオノールちゃんやオーレリアさん、ラナさん、ベリンダさんもいる。ということは神楽を舞っていた子たちか。あ、目が合った。途端、四人がこちらへ一目散に走ってくる。逃げられそうにない。一番手はレオノールちゃん。


「ゲイスブルク卿! わたしの舞はいかがでしたか!?」


「とてもお上手でしたよ、レオノール嬢」


「そうですか! それはよかったです」


 嬉しそうにニッコリ笑うレオノールちゃん。こうも純真な反応をされると、ロクに見ておらず無難なリップサービスをしていることに罪悪感を禁じえない。だが同時にほっこりりさせられた。ああ、さっきまで王様とお姫様にサンドイッチされて疲れていた心が洗われるようだ。


「あの……わたくしたちはどうでしたか?」


「お三方とも優雅で美しかったです。思わず見とれてしまいました。それは他の貴公子たちも同じでしょう」


「そうですか」


「よかった〜」


「練習したかいがあったな!」


 俺が褒め言葉を口にするとラナさんとベリンダさんが喜びの声を上げる。おっとオーレリアさん。『そうですか』なんてクールぶっても小さな『よかった』という安堵した声を俺の地獄イヤーは聞き逃さなかったよ。薄々思ってはいたが、オーレリアさんはクーデレ属性のようだ。しばらく話をしていると、周りに貴族たちが寄ってくる。代われ、と言外に言っている。はいはい。喜んで代わりますよ。群がってきた貴公子たちに紛れてエスケープ。……さて、体調不良ということで退場しますか。これなら角も立たないだろうし。


「ゲイスブルク卿。いかがなさいましたか?」


 出口付近で声をかけてきたのはお姫様の専属メイドのテレサさん。お姫様によると桜離宮のメイド長も兼ねるらしい。まだ二十三歳なのに凄いなぁ、と思う。このパーティーを仕切るためにここで待機して全体を見ているのだろう。そうだ。彼女に言伝を頼めばお姫様にも確実に伝わるはずだ。


「少し体調が悪いので本日はお暇させていただこうかと……」


「それは大変です。ささ、こちらへ。客間の準備は整っております」


「え? いや俺はーー」


「ゲイスブルク卿は王国にとって大事な存在。そのうえ、アリス殿下がお心を許されているお方です。万が一があっては大変です。本日はこちらでお休みください」


 なんだか事が大きくなってしまった。家に帰らせてもらえるように言葉を尽くしたが、テレサさんは頑なに譲らず、押し切られる形で泊まることになった。そのせいでパーティー後にはお姫様の来訪を受け、あの貴族はなんだかんだと愚痴を聞かされる羽目になった。一晩中。翌日は寝不足と疲労でフラフラになってしまった。体調が悪いと言っていたのに……テレサさんには仮病だということがバレていたのか? 今度からパーティーを抜け出すときには散歩を理由にしよう。そう心に決めた。




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