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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第二章 自立
30/140

2ー10 お披露目、桜離宮

すみません。投稿が遅くなってしまいました。作者が遅筆であり、このところ多忙で、インフルエンザにまでかかってしまったためです。また月末も忙しくまた遅れる予定ですが、暇を見つけて書いていきますので、どうかお待ちください。

閑話『わたしのお兄ちゃん』も投稿しました。そちらも是非、ご覧ください。




ーーーオリオンーーー


 仕事が多すぎて忙しすぎる。だがいくら嘆いたところで仕事が減るわけではない。やれることからやっていって確実に減らさねば。

 まず最初はお姫様のお屋敷造りだ。彼女の意見を聞き出し、クソ忙しい仕事の合間を縫って設計図をかいた。屋敷は日本史でおなじみの寝殿造と西洋建築の折衷様式。正門から建物までの道のりは噴水を備えた中庭を通っている。建物(本館)は『コ』の字型をしており、それに付属して使用人の住処(別館)がある。ここまでは西洋建築。だが建物の裏はガラッと装いを変えて寝殿造となる。まず本館に付属する東屋。建物の裏にある大きな大きな池の上に立つ東屋が起点となり、池に浮かぶ四つの島を橋で連結している。島には季節別の名前がつけられ(春島、夏島、秋島、冬島)、それぞれの季節を代表する植物が植えてあった。また島をつなぐ橋は眼鏡橋になっており、東屋の反対側にある船着場に泊めてある舟が通れるようになっている。屋敷の外周部分は目隠しと防風を兼ねてモミや竹を植えていた。

 そんな自然豊かな屋敷の名前は桜離宮。多種多様な樹木が植えられているにもかかわらず桜の名前を冠したのは、正門から建物へ至る道にソメイヨシノを植え、屋敷のシンボルとしたからだ。なぜそんなことをしたかというと、完全な趣味である。前世の家に桜の木があって、毎年見ていたら好きになってしまったのだ。仕方ない。

 なお離宮の元になった屋敷には広大な池もなく、建物もこじんまりとしてとても地味だった。なので能力を使うために必要となる建物だけを残して更地にし、それから池を掘った(出てきた土は異空間に放り込んでおいた)。その後、建物をベルサイユ宮殿さながらに華美に建て替える。すべて能力を使ったから一分もかからず概形が出来上がったことになる。ついてきた文官や護衛の騎士たちが口をあんぐりと開けて固まっていた。ちょっとやりすぎたかもしれないがーー俺の穏やかな生活のためだ。問題ない。


ーーーーーー


 そしてお披露目。ご依頼者の皆様(お姫様、王様、その他の関係者)を案内して屋敷を回る。今回は説明の都合上、すべての植物が咲き誇っている。その方が美しさが際立つからだ。まずはーーというより初手から必殺技、桜並木を見せる。


「こちらは東方の果てからもたらされた木で、桜といいます」


「綺麗……」


「なんと見事な……」


 平城京、ってね。まあたまたまなんだろうけど。なんとなく乗ってみた。もちろん口に出すとこの世界では変な人扱いなので心の中でだが。

 皆さん桜並木に圧倒されているようだ。桜は本当に美しい。それは世界が変わっても同じなようだ。現にお姫様や王様をはじめ、多くの異世界の人々がその光景に目を奪われている。


「オリオン。頼みがあるのだが……」


 そう言って王様は桜を王城にも提供するように頼んできた。断る理由もないので快諾。ただし苗木だが。取り敢えず百本くらいか。


「ゲイスブルク卿」


「わかりました。宰相様とーー他の皆さんにも、いくらか苗木をお贈りいたします。今日の記念に」


 宰相さんとその周りの人々からの熱視線に応えてそう付け加えておいた。別に金がかかるわけでもないし、いくらでも贈ろう。分配は王様に任せることにして。


「オリオン様。先に行きましょう! さあ、お早く!」


 テンションの高いお姫様に手を引かれて先へ進む。建物の中はロシアのエカテリーナ宮殿にある琥珀の間を真似た絢爛豪華な場所と、皇居のように慎ましやかだが気品のある場所とに分かれている。ーーというのも、その用途が異なるため。豪華な方が来客用で、慎ましやかな方はプライベート空間として使うことを前提としていた。見学者たちは来客スペースの豪華さーー部屋には琥珀以外にも金銀の細工や紫檀、黒檀がふんだんに使われているーーを見てワイワイ騒いでいたが、プライベート空間に入ると急に静かになった。やがて王様がポツリと漏らす。


「ここは先ほどよりも質素だ。だが、なんというか、言葉に言い表せない気品を感じるな。不思議と背筋が伸びる。襟を正さねばならん、という気持ちにさせられるな」


「そうですね……」


 宰相さんが同意する。他の人たちも背筋を伸ばし、服に乱れがないかと気にしたりしている。う〜ん。設計者としては意図通りの反応をしてくれて嬉しいが、少し効果がありすぎたかもしれない。要望があれば手直ししよう。

 今回のお披露目には使用人たちも来ている。彼らにも使用人用の建物(別館)を見せたのだが、とても驚かれた。どうも豪華すぎたらしい。……内装のモデルはビジネスホテルなのだが、直すべきなのか? お姫様たちは何も言ってないし、別にいいと思うんだけど。

 それは保留ということにして庭を巡る。まずは起点となるバルコニー。周りに咲き誇る色とりどりのバラは女性たちの目を釘づけにした。

 眼鏡橋を渡って春島に。入口にもあったソメイヨシノの他にも八重桜やオオシマザクラなど、数種類の桜を用意して飽きさせず、梅やチューリップ、水仙なども植えていた。島には桜や梅の香りが漂い、桜色、赤色、白色、黄色などの色が満ちていた。俺はそれらの植物をひとつひとつ紹介していく。


「わぁ。桜も、表のソメイヨシノだけではないのですね。八重桜は大きくて、オオシマザクラは白くて素敵……」


「余はこの梅かの。この匂い……たまらん」


 どの植物も好評だ。

 次は夏島。アジサイやヒマワリといったメジャーなものから、サルスベリ、ユーカリのような日本人的に少し馴染みのない樹木も植えてある。花だけだと季節から外れると寂しくなるのでこういった樹木を植えたのだ。さらにこの島の近くには睡蓮もあり、池に浮かぶ緑の葉の上に色とりどりの花を咲かせている。


「睡蓮の花がいいですね。池の上に浮かんでいる姿は、夏に見るととても涼やかで、心地いいでしょう」


「ヒマワリは茎も太く雄々しいの。見ていると元気をくれるようじゃ」


 こちらも好評。

 秋島はメインにモミジとカエデを配し、足下のアクセントにコスモスやパンジーを植えている。


「まあ。このモミジの葉っぱ、赤ちゃんの手みたいで可愛い」


「アリスよ。こちらのカエデの方が大きくてよいではないか」


「モミジです!」


「カエデじゃ!」


 お姫様と王様がモミジとカエデのどちらがいいかで喧嘩を始めた。別にどっちでもいいでしょうに……。

 二人を宰相さんに止めてもらって冬島に移動。こちらはツバキ、ナンテン、アザレア、ノースポールといった植物を植えている。


「このツバキ、見た目が美しくて、それだけでも楽しませてくれるのに、種から絞る油が美容にいいなんて……貴族との贈答にも使えて一石二鳥ですね」


 そんなことを考えつくのは王族ゆえか。お姫様がちょっと斜め上の感想を述べる横で王様は、


「ナンテンーー『難』を『転』ずるからナンテンか。上手いことを考える」


 と、俺が豆知識として披露したナンテンの名前の意味にいたく感心していた。そこは感心するところなのか? 俺からすると理解に苦しむところだ。

 舟遊び用の船着場と目隠しと防風林を兼ねて屋敷の外周に植えたモミの木と竹を紹介したところでお披露目は終了。本館に戻って感想を聞く。さすがに人数が多いので使用人たちの相手は店員に任せ、俺はお姫様たちVIP組から話を聞く。


「これほど広大な屋敷をたった一日で造成するとは……」


「さすがです、オリオン様」


「ありがとうございます、王女殿下。何かご意見などありませんか?」


 王様をそっちのけでお姫様の相手に集中する。あの人、なんか危ない感じがする。わざわざ危ない橋を渡る必要もないから、お姫様に水を向けた。依頼主はお姫様だから別におかしくない。


「ありません。とても素晴らしいお屋敷で、住むのが今からとても楽しみです」


「それはよかったです」


 と、一瞬会話が途切れた隙に王様が話に割って入ってくる。


「そなたがどのようにしてこの屋敷を造ったのかは、同行していた者たちからの報告で知っておる」


 あの時は能力を隠す気ゼロだったし、王様が知っていてもおかしくない。むしろ知らなかった方が問題だと俺は思う。だが王様に知られてもまず大丈夫だ。彼は俺を抱き込もうとしているし、敵対しようとはしないはずだ。お姫様とのパイプもかなり太いし、この国での立場はかなり安定したものになるだろう。が、それは別として、


「規模は大きいですが、いつもとやっていることは大差ありません。普通ですよ、普通」


 日本人らしく謙遜しつつ、『普通』というフレーズを強調しておく。能力を悪用されるのは勘弁だから、あまり特別なものに思わせる必要はない。


「そうか。普通か」


「はい」


「これほどのこと、いったいどれだけの魔力がいるのか……」


「測ったことはありませんが、他人より少し多い程度では?」


「ほう。その『他人より多い』魔力の持ち主が宮廷魔術師ーーその筆頭にこの話を聞かせると、『不可能だ』と答えた挙句に卒倒したが?」


 それは暗に俺を人外認定しているのか? 非常に遺憾だ。渋い顔をする俺に対し王様は笑って、


「はっはっは。すまん。悪気はないのだ。むしろ褒めておる。我が国にこれほどの大魔法使いが現れたのは大変喜ばしいことだ。オリオンよ、宮廷魔術師になってみないか? 将来は長になれること間違いなしじゃぞ?」


「ありがたいですが、私には今の気楽な商人という立場が向いているので」


「そうか。じゃが前に交わした約定のことは忘れておらぬな?」


 ああ。あの俺氏強制貴族化計画のことね。もちろん覚えていますとも。


「忘れてはいません。が、十五までは自由なので」


 それに貴族になってもニートする手段は考えてある。例えば養子をとって隠居することだろうか。


「隠居など余は認めぬぞ」


 むっ。先回りされてしまった。ならば国外逃亡ーー


「逃げることも許さぬ」


 くそう。全部考えが読まれてる。こうなったら転移魔法でーー


「ご主人様」


 不意に呼ばれたと思えば護衛として控えていたシルヴィが俺の服の袖を掴んでいた。


「私は偉くなったご主人様のところで働きたいです」


 彼女のくりくりした目が俺を捉えて離さない。くそう。可愛いじゃねえか。袖をちょっと摘むあたりも高得点だ。


「むっ」


 それになぜかお姫様が反応。対抗するように身体を腕に密着させてくる。


「私もオリオン様が貴族として辣腕を振るわれるお姿を見たいです」


 ウルウルとした目でこちらを見つめるお姫様。あざとい。だが可愛い。少女二人の思いを知って少し、ほんの少し、貴族をやってみてもいいかな、と思った。




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