2ー9 プリンセスオーダー
閑話『シルヴィアの思い出』も投稿しています。非常に拙い出来ですが、是非こちらもご覧ください。
ーーーオリオンーーー
図らずも俺は国営事業の委託、王女の住処の改築という大事業を請け負ってしまった。後者の方はお姫様からのデザイン要求がなければ進まないので事業の方へ傾注することになる。やることはボロ屋や土地を確保してマンションを建てて貸し出すーーと、やることは変わらない。違うのは助成金をどう使ったのかを別紙にまとめて報告しなければならないことだ。やることは確定申告と同じなのだろうが、こちとら前世は引き籠り。最終学歴は中学一年(の一学期途中まで)。お小遣い帳ならともかく、正式な帳簿などつけたことないからやり方もわからない。不動産屋の店員ーー客が多いのでだんだん増えていったーーのなかにネヴィル男爵家(メリッサさんの実家)で財産管理をしていた人がいる。彼ならやってくれるだろうが、そうなると皆にこのことを報告しなければならなくなる。人の口に戸は立てられない。いずれはバレることなのだが、なかなか言い出せず悶々と夜を過ごした。しかし翌日にはその悩みはあっさり解決した。朝。開店準備をしていると、勅使が二つの件の依頼書と助成金を持って現れたのだ。
「名誉貴族のオリオン・ゲイスブルク。卿を王女殿下のお屋敷の造営、および王都開発事業の責任者に任じる。国王陛下のご期待に応えるよう励まれよ」
勅使はそんな言葉と金を残して帰っていった。それから突然の出来事にフリーズしていたシルヴィとソフィーナに問い詰められ、洗いざらい白状させられた。ひと晩悩んだ自分はなんだったんだろう。疑問に思いながらもあったことをありのままに話した。特に伯爵までの爵位が保障されていることには驚いていた。
「オリオン様すごいです!」
「お兄ちゃんすごい! お嫁さんにして〜」
シルヴィはともかく、アホなことをぬかすソフィーナにはチョップを落とす。義妹はいらん。ぶーたれるんじゃない。その後、店員たちの意見を聞くための会議を行い、事業規模のあまりの大きさに急遽、さらなる増員が決定された。……開店からほんの一ヶ月足らずの日のことである。
ーーーーーー
メリッサさんやアーロンさんに声をかけて人を集め、金の力にものをいわせて土地を買い集め、改築し、終わったらすぐに客を案内ーーと忙しい日々を送るなか、さらに忙しくさせることが起きた。お姫様のデザイン案ができたという。まだ三日と経っていないのに仕事が早い。しかも昼は忙しいだろうから夜の登城でいいという。ご配慮ありがとうございます。王女殿下のお慈悲に感謝感激のゲリラ豪雨でございますです。え? 感謝しているようには聞こえない? そんなはずはありません。ええ。例えーーこのクソ忙しいときに睡眠時間を削ることになってもね! あまりの忙しさにプチ怒りで登城した俺を待っていたのは、なんとネグリジェを着たお姫様だった。スケスケーーを飛び越してほぼ半裸のお姫様。一瞬、押し倒してやろうと思ってしまう。……はっ。いかん。俺はロリコンではない。だがそんな考えが浮かんでしまうほどに心が荒んでいたようだ。意識を仕事に戻さねば。まずは挨拶。
「夜分遅くにすみません」
「気にしないでください。オリオン様がお忙しいことは存じておりますから」
忙しくさせた元凶は誰だ、と問い詰めたいところだが、ここはぐっと堪える。
「夜も遅いですし、早速本題に入りましょう。お屋敷へのご要望がまとまったそうですが、見せていただいても?」
「こちらです」
お姫様が差し出してきたのは羊皮紙。なんとも異世界感溢れる品ではあるが、俺個人としては白くない紙は紙ではない。あまり介入したくはないが、紙だけは現代の製法を用いるつもりだ。実際、家で使っているのは能力で生み出した上質紙である。大っぴらに使うと騒ぎになるーー白い紙などこの世界には存在しないーーので、接客には泣く泣く羊皮紙を使っていた。お姫様から渡された羊皮紙を一瞥して、俺は眉をひそめる。それは羊皮紙への嫌悪感からではなく、その文面だ。図がない。そこには言葉だけがあった。そしてその言葉もただのひと言。
『お任せします』
である。
「あの、これって……」
「お屋敷のことはオリオン様にすべてお任せします。オリオン様がお雇いの設計士様なら必ずよいものを造ってくださると確信しておりますので」
すごい信頼だ。すべてを丸投げしてくれるのは嬉しいのだが、ここではいそうですかとは言えない。
「陛下は何か言っておられましたか?」
「お父様はわたしにすべて任せてくださるそうです」
さいですか。王様が言うなら口出しできない。だが本当にこのままでは困るのだ。
「せめて何か要望をください。でないと上手く設計できません」
「そうなのですか?」
「はい。設計する上でイメージを頭のなかで思い浮かべます。イメージを固める上で大切なのはコンセプトです。これがしっかりしていないと出来上がりがちぐはぐなものになってしまうのです」
「そうなのですか。知りませんでした」
と、お姫様を説得し、
「では四季が感じられる、自然豊かなお屋敷がいいですね」
との要望を聞き出すことに成功した。四季を活かした建築は日本人の得意とするところ。任せなさい。
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余談。
「さて、お話も終わったことですし、夜のお茶会でもーー」
「すみません仕事が溜まっているので帰ります!」
ネグリジェ姿でそんなことをのたまいながらにじり寄ってくるお姫様。このままでは肉欲に流されそうで、慌てて逃げた。胸は歳相応だからともなくとして脚がエロい。子ども同士だからいけるかな、なんて邪な考えがちらついてしまう。屈辱だ。




