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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第二章 自立
27/140

2ー7 大盛況





ーーーオリオンーーー


 少し考えればわかることだったんだ。初日はアリア以外の契約者はなし。レナードには契約者がひとりいたんだからいいじゃないか、と慰められた。王都の人口は増加を続けているらしい。なんでも海を隔てた隣国が内戦状態にあり、そこへの物資供給で国は大きな利益を挙げているのだとか。まあ皮肉なことに戦争ほど儲かるものはないからね。それによって経済が活性化し、王国ーー特に王都は空前の好景気を迎えているのだ。他国からも一攫千金を狙った人々が集まっているという。アメリカンドリームならぬフィラ二アンドリームだ。そしてその一翼を担っているのが我がゲイスブルク家だと自慢してきた。結局そこかよ。だが利益率はかなり高いそうだ。近々貴族になれそうだ、などとほざいている。最近はレナードも豚に毒されているようだ。フィリップはいわゆる“いい子ちゃん”なので親の言う通りに行動するロボットーーそれはわかっていた。だが気弱ながらもどこか一本芯の通った印象があったレナードまでもが毒されるとは思わなかった。俺は王族と近いからいいとしてソフィーナが取り込まれないように注意しなければ。それからーー


「お兄ちゃん!」


 大声でトリップしていた意識が戻る。声がした方を見るとソフィーナがいた。


「おお。無事だったか義妹(いもうと)よ……」


「寝ぼけてないで仕事して。忙しいんだから、ひとりだけ逃げないでよね」


 ソフィーナが腕を組んで仁王立ちという姿でプンスカ怒る。義妹が俺に対して厳しい。だがそう言われるのも仕方がないだろう。たしかに今日は忙しい。開店二日目。初日の様子から閑古鳥が鳴くことも覚悟していたのだがーー結果はいい意味で裏切られた。店の出入口から続く行列は初日並みーーいや、それ以上の行列ができている。多くの客が押し寄せたのだ。ひと晩経って冷静に考えてみればとても魅力的な提案だと気づいたのだろう。値段設定についてはかなり気を遣った。変な値段をつけて客がこないなんてことになれば元も子もないからだ。その結果、小金稼ぎの労働者でも少し余裕をもって払える銀貨五枚という値段になったのだ(労働者の賃金は好景気の後押しもあって銀貨八枚ほどになっている)。人口増加に好景気と追い風が吹いている。初日は誤解によって不本意な結果に終わったが、今日にも挽回できそうだ。


「次の契約が取れると十五人になるから、また連れて行って」


「了解」


 ひとりひとり案内していたのでは効率が悪いので、マンションひと棟(十五人)が揃ってからまとめて案内するというシステムを採用した。客はたくさんいるから揃うまでそれほど時間はかからない。部屋を各個人に合わせてカスタマイズするというコンセプトを採用しているため、仕事を終えるとまた次の組が待っているのだ。かくいう今も別の組を案内してきたばかりである。


「それが終わったらその次ね。次の次でマンションは一杯になるから」


 あれ? もう後が決まってるの?


「ちょ、それハード。もうちょっと兄を気遣ってだな……」


「お兄ちゃん頑張って」


 ウインク付きのエール。可愛い! これなら頑張れーーるわけねえよ! それとこれとは話が別じゃい!


「なあソフィーー」


「部長」


 労働条件緩和の交渉をしようとしたところで、受付嬢のひとりがソフィーナに話しかけてきた。


「ん? どうしたの?」


「貸家の契約件数が五件になりました」


「ありゃ。意外と早かったわね……」


 その報告を受けて黙考するソフィーナ。ここで声をかけて考えを邪魔するほど俺は無粋ではない。喉元まで出てきていた言葉を呑み込む。彼女にはフロア責任者ーー接客部長ーーの肩書きを与えている。俺と一緒にいると強請(ねだ)ってきたソフィーナに与えた名ばかりの役職だった。店員たちも俺の義妹ーーそれも九歳ーーということで、お飾りの部長だと認識していた。だが今日、その評価はひっくり返される。殺到する客に慌てる店員たちを一喝して見事にまとめ上げたのは誰あろう、ソフィーナであった。そのカリスマに魅せられ、たった数時間でお飾りから真のリーダーになってみせた。とんでもない九歳児だ。思い悩む姿も様になっているように見える……身贔屓だろうか? そんなことを思っている間にソフィーナは結論を出したようだ。


「ならその人たちは午後に回しましょう。手配しておいて」


「わかりました」


「ーーということでお兄ちゃん。午前はマンションに入居する人たちの案内。それが終わったら新しい物件の確保と改築より先に、貸家へ入居する人たちの案内をしておいて」


「ちょっと待て。それじゃあ夜までに帰れないーー」


「お仕事頑張ってね、お兄ちゃん」


 ウインク付きの応援を贈ってくれた可愛い義妹は店の奥へ颯爽と去っていった。その姿はバリバリのキャリアウーマンみたいで、抗議の言葉も忘れて見入ってしまう。


「オリオン様。お客様がお待ちです。急いでください」


 シルヴィのそんな声に意識を呼び戻されるまで、ソフィーナの姿を追っていた。


「今行く」


 この後めちゃくちゃ働いた。働きたくないから不動産屋を始めたのに、なぜ俺は馬車馬のように働いているのだろう。……解せぬ。




PV数が300を突破。本当にありがたいことです。

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