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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第一章 成長
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閑話 私の王子様

零時に2ー12『猫の手プリーズ』も投稿するので是非ご覧ください。





ーーーアリスーーー


 ーーポプン。


 私はベッドに飛び込みました。ふかふかのお布団が私の身体を優しく受け止めてくれます。ああ、幸せ。でも、これ以上の幸せを私は知ってしまったのです。


ーーーーーー


 御用商人の弟さんに不幸があって、その弔問に行かれるお父様に同行した私は退屈していました。顔も存じない方々とお話するーーこの程度のことは苦になりません。日頃のパーティーで慣れていますから。ですが知らない方とほぼ一対一で話すことになるとは思いませんでした。これではいざという時の『他の方々にもご挨拶しなければならないので〜』という、嫌な話からの緊急脱出手段が使えません。困りました。そして今回お話する方々ですがーー正直、すぐにでも逃げ出したいくらい嫌な方々です。

 まず奥様のカトレア様。ふとーーこほん。とてもふくよかでいらっしゃいます。お腹に二の腕に、ともかくありとあらゆる場所に幸せを蓄えておられ、私にはとても真似できそうにありませんし真似したくもありません。貴族家のご出身だそうで、とても気位の高い方でした。

 そしてフィリップ様。弟のオリオン様がとても御聡明で、お父様も褒めておられました。その兄君ということもあって注目しておりました。顔立ちが整っておられ、常に笑顔を絶やさず、とても紳士的な殿方に見えたのですが、それが幻想であったとすぐに知ることになりました。カトレア様に挨拶を促されたフィリップ様は、


『はじめまして。僕はーー(以下略)』


 とても思い出せないような長々とした挨拶をされました。挨拶としては間違っていませんが古典的なもので、現在は式典ぐらいでしかまず目にしないものです。宮廷でこんな挨拶をしようものなら大笑いされること間違いなしなのですが、


『アリス姫殿下。どうですかフィリップちゃんの挨拶は? (わたくし)はすぐにでも貴族になっても恥ずかしくない、素晴らしい挨拶だと思うのだけど』


 いいえ、とても恥ずかしいです。大恥をかきます。宮廷内でのいい笑い者ですーーとは言えません。


『そうですね……』


 と、適当に相槌を打っておきます。おそらくこの方々が貴族になることはないでしょうし。するとカトレア様はお喜びになり、


『オホホッ! やはりそう思われますわよね。よかったわね、フィリップちゃん。これなら上級貴族や大臣にだってなれるそうよ』


 そこまでは言ってないんですけど……。というより、挨拶だけで出世できるほど宮廷闘争というものは甘くありません。はっきり言いましょう、無理です。


『そうなのですか、母上。僕、もっと頑張ります』


 そんなあり得ないような話をフィリップ様は信じてしまいました。いえ、カトレア様の言うことを鵜呑みにしているというのが正しい表現でしょう。なんと愚かな。こんな兄がいたからこそ、オリオン様のようなご聡明な方が生まれたのかもしれません。ーー私がそんな風に思っている間にも、話はどんどん大きくなっていきます。


『フィリップちゃんが貴族になればゲイスブルク家はますます発展するわ。最初は男爵でも、程なく子爵、伯爵ーーもしかすると侯爵になれるかも』


『頑張ります』


 もう一度言います。絶対にあり得ません。

 これ以上はもっと大それたことを言い出しかねないため、別の話題を提供して話を逸らします。


『ところで、フィリップ様はご家業をどう発展させるおつもりなのですか?』


 と、未来への展望を伺ってみます。実はお父様から訊いてくるように言われていたのです。フィリップ様のお人柄を見るおつもりなのでしょう。……正直、期待薄だと思いますが。オリオン様の方がよりよいお答えが伺える気がします。

 私の問いにフィリップ様はしばし悩まれた後、


『貴族になってーー』


 待ってください。まず前提が貴族になることですか? どうしてそんな自信満々に貴族になれると思えるのか……不思議です。


『お嫁さんは貴族のご令嬢でーー』


 そうですね。貴族なのですから正妻は貴族のご令嬢ですよね。ーー家族構成なんかはどうでもいいんです。ご家業ーー商売の話をしてください。


『子どもは男二人と女はいくらでもよくてーー』


 だから家族構成はーーもう頭が痛くなってきました。


『少しお花を摘みに行ってきます』


 フィリップ様のお話をぶった切って席を立ちます。少々失礼ですが、構わないでしょう。訊いたことに答えてくれないーーそんな話を聞く価値なんてありません。扉の前で待機していたメイドをひとり伴って部屋を出ました。


ーーーーーー


 私は庭に出ていました。庭を警備していたゲイスブルク家の私兵二人がお供に追加されています。はぁ、草木の香りは心を穏やかにしてくれます。頭痛も治りました。これならフィリップ様たちとのお話も頑張って聞くことができそうです。

 よし、と気合を入れた矢先に草むらが揺れました。猫かしら、と思って見ていると、現れたのは猫ではなく人でした。黒ずくめの男が三人。見るからに怪しい風態。私は目を細めました。明らかに下手人です。王宮の警備兵ならすぐに臨戦態勢に移りますが、ここの私兵はこういった事態に備えた訓練をしていないのか、未だに後ろに控えたままです。どうにか彼らを動かさないとーーそれが冷静でいられた最後の瞬間でした。下手人たちが腰から抜いた短剣ーーその白刃を見るとほとんど本能で叫びました。


『きゃあっ!』


 もはや白刃しか目に入りません。私を守るために飛び出した私兵はあっという間に下手人にやられてしまいました。あとは私とメイドだけ。恐怖のあまり腰が抜けてしまいました。下手人はこちらの恐怖心を煽るかのようにゆっくりと歩いてきます。もうダメだーーそう思ったとき、彼が現れました。


『何をしている!』


 颯爽と現れたオリオン様は下手人たちを容易く打ち倒してしまわれました。あまり詳しくは覚えていませんが、体捌き、剣術、魔法ーーそのどれもが私と同年代とは思えないほど冴え渡っていました。まるで世界に敵はいないようにも思わせます。しかも下手人の始末を終えると、オリオン様は魔法でさりげなくつい緩んでしまった小股の後始末までしてくださったのです。紳士です。その時肩にかけていただいたジャケットは私の宝物です。

 私はオリオン様に一生をかけても返せないご恩を受けました。すべては返しきれないけれど、できるだけのお返しはしていきたいと思います。


ーーーーーーおまけーーーーーー


「殿下。お持ちしました」


 私のお世話をしてくれている侍女からジャケットを受け取ります。このジャケットはオリオン様のものです。私を暗殺者から救ってくださった後、私の肩にかけてくださったもの。一生の宝物です。


「ありがとう。下がっていいわ」


「失礼いたします」


 侍女は一例して退室していった。ここにいるのは私ひとり……のはず。念のために部屋を歩いて隅から隅まで人がいないことを調べます。窓際よし。棚の後ろよし。机の下よし。ベッドの下もよし。完璧です。……それでは始めましょう。


 ーーはすはす。はすはす。


 ーーくんか、くんか。


 ジャケットを鼻に押しつけて匂いを胸いっぱいに吸い込みます。鼻腔を通り抜ける芳しい香りーー至福です。これがオリオン様の匂い……。思わずうっとりしてしまいます。ええ。すごいです。うっかり天に昇ってしまいそうになるくらい、すごいです。特に脇の辺りがいいですね。次点で胸のあたりでしょうか。でも背中も捨てがたい……。それに少し空気を含ませるとより香りが立ちます。はぁ……。頭の中にオリオン様がいっぱいいらっしゃいます。しあわしぇ……。

 その後、私はあまりの快感に気を失ってしまいます。反省し、以後は一日十くんかに抑えました。断腸の思いです。ただそれからジャケットを嗅ぐことは日課になり、成長してからは自らを慰めるようにもなったことは、誰にも言えない秘密です。


ーーーーーーおまけのおまけーーーーーー


「オリオン様、オリオン様、オリオン様……」


「殿下……」


 壁にわずかに開いた隙間から、侍女は悶える王女を見守っていた……。




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