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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第十章 終活
135/140

10-7 怒髪天

 



 ーーー アンソニー ーーー


 守備隊本部には伝令が次々と現れては去っていく。


「報告! 西部守備隊の第一大隊は損耗激しく、陣地から撤退。後方にて再編成を行っております。同地には代わって第三大隊が入りました」


「北部守備隊より、敵の攻勢猛烈にして救援を請う、と」


「南部守備隊、損耗率が三十パーセントを超えました!」


「ネヴィル少佐。貴隊に北部への救援を命じる。騎兵を速やかに前線へ進出させ、華帝国軍の側面を急襲せよ」


「はっ」


 守備隊司令官からの命令を受け、ボクは返事をして司令部を出る。急ぎ足で自隊に戻った。


「お帰りなさい、少佐」


「うん。早速だけど、出撃だ。北への援護だね」


「はっ。各隊とも既に準備を終えています」


「すぐに出るぞ」


 大隊本部前に繋がれていたボクの愛馬に跨がる。隊員全員がそれに倣った。時刻は日没少し前。敵は夜間にも盛んに攻撃を仕掛けてくる。陣地攻撃に敵が夢中にている隙に、その横腹に一撃を加えるのだ。


「ハミルトン。前線の指揮官から敵情を教えてもらえ。また、偵察分隊も先行して敵情を報告せよ」


「「はっ」」


 命令を受けた部下たちが即座に動く。まずは敵の状況を知らなければ、襲撃の計画も立てられない。また、味方との連携も、場合によっては必要になってくる。遠くなっていく部下たちを、祈るような思いで見送った。


 ーーーーーー


 こちらが陣地を出てくるとは思っていないのか、敵はまったくの無警戒だった。そのため前線指揮官からのものを含め、情報はかなり多く集まる。それらを部下たちと分析した結果、


「……敵が深夜、攻勢を開始したところを叩きます。態勢を整える隙を与えないため、攻撃後はすぐに離脱を。我々の目的は、あくまでも本隊到着までの時間稼ぎなのですから」


「「「はいっ!」」」


 部下たちは一斉に返事をする。その姿を頼もしく思いつつ、ボクは軍刀を抜いた。


「行くぞ!」


 部隊に進撃を命じる。情報を集めている間、ボクたちも準備をしていた。襲撃地点には夜陰に紛れて進む。発見されることがないよう馬に木の板を噛ませ、蹄には麦わらで覆いをかけていた。これで嗎きと蹄の音を隠すのだ。この他に鎧や槍などは泥などで金属光沢を隠している。月明かりは弱いが、金属反射が起こるには十分で、闇夜にはとても目立つ。それを隠すのだ。

 馬を走らせず、そろそろと進む。やがて矢が空気を切り裂く音と、怒号、剣戟の音が聞こえてきた。戦闘が始まったらしい。魔法による照明が行われている。少し高い場所へ行けば、戦場の様子を簡単に見ることができるだろう。

 そんな戦場の喧騒を他所に、ボクたちは進む。敵が前に伸びきり、最も防備が薄くなった箇所を騎兵で突破、隊列を寸断するのだ。しかし、事前に敵の情報を集めても現在の状況はわからない。


「敵の状況を見て攻撃箇所を見定める」


 ということで、ボクはハミルトン以下の護衛を連れてパッと見つけた小さな丘へ登る。そこから戦場を俯瞰することができた。


「やっぱり中央が薄いな」


 それが戦場を見ての感想だった。野営地を出た敵は、味方陣地へと殺到する。しかしながら、陣地の防御力は高く、思ったように進めない。進軍が滞ると、後ろからやってくる者も詰まり、渋滞が起こるのだ。それを見た指揮官が無駄な戦力を出すことを嫌い、進軍を止める。こうして前衛と後衛に戦力が極端に偏ることになる。中央は、大きな被害を受けて撤退する部隊と、それを見て新たに突撃する部隊とが行き交う程度だ。狙うのはそこ。


「楔形隊形で突撃し、敵を分断。前後に騎射を加え、攻撃を防ぐか……ん?」


 どのように攻撃するのかを具体的に考えていたとき、視界の端にあるものが映った。煌々と輝く敵陣の光によって辛うじて浮かび上がっている場所。敵の後方だ。事前の偵察情報によると、そこは敵の補給拠点にあたる。


「……やってみる価値はありそうだな」


 上手くいけば、敵の行動を大きく阻害することも可能だ。警戒すべきはモルゴ騎兵だが、彼らは前線にいることが確認されている。いかに馬の扱いに長けた彼らでも、戦場となっている最前線から後方まで駆け戻ってくるなんていう芸当はできないだろう。そうなれば、腹は決まった。


「伝令! 第一中隊は敵後方にある補給拠点を急襲。物資を焼き討ちせよ」


「はっ!」


 すぐに護衛の騎兵がひとり、第一中隊へと伝令に走った。さらにもうひとり、伝令を走らせる。内容は本部小隊の呼集と、突撃のタイミングは鏑矢で指示するというもの。それを見極めるために、ボクはこの丘の上にいる。その護衛として、本部小隊を呼ぶのだ。

 丘の上から戦況の推移を見守っていると、存外、華帝国軍の士気が低いことに気がついた。前線での消耗が激しいらしく、部隊の移動が盛んに起こっている。しかし兵士たちの動きは緩慢で、とても士気が高いとは思えなかった。


「まあ、こちらからすれば好都合なんだけど」


 そう言いつつ、ボクは手を掲げる。


「構え!」


 すぐにハミルトンが号令。担当の部下たちは一斉に弓を引く。ボクはそれを見ることなく、自分が感じたここぞというタイミングで振り下ろす。


「放て!」


 再びハミルトンの号令。と同時に、鏑矢が飛んでいった。ヒョロロロ、という甲高くも独特な音が響く。その直後、丘の麓に待機していた部隊が一斉に動き、馬蹄を轟かせながら突撃した。既に馬に噛ませた板や蹄、武器の覆いも外している。戦場の喧騒が側にあれば、馬の嗎など気になりもしない。

 突撃の隊形は、指示通りの楔形。その外側を重騎兵小隊、内側を軽騎兵小隊が進む。前者は、鎧による防御力と騎兵槍による突破力で敵の攻撃から味方を守るとともに敵を突破、蹂躙する。後者は手に持つ弓で騎射を仕掛け、敵の反撃を防ぐ。重騎と軽騎では馬足に違いが生まれてしまうのだが、日ごろの弛まない訓練が本来ならあり得ない両者の共同運用を可能にした。

 横から突っ込んでくるボクの騎兵隊に、華帝国軍は成す術なく蹂躙された。ただ一枚の紙を剣で刺すように、敵はあっさりと騎兵隊に突破を許す。反撃の動きは軽騎兵の騎射が潰した。分断されて右往左往する敵。そこへ矢が絶え間なく降り注ぐ。効果的な反撃もできず、被害は拡大した。

 しかし、やがて混乱も落ち着きを見せ始める。ちらほらと反撃の動きが見られるようになったところで、指揮官は撤退を開始した。華帝国軍は追撃に移ろうとしたが、それは叶わなかった。彼らの後方でにわかに騒乱が起こったためだ。犯人は別行動をとっていた第三中隊。彼らが後方で破壊活動を開始したのだ。これで敵は前方と後方、どちらの敵に対処するか迷いが生じる。それだけでも、すべての兵科で最高の機動力を誇る騎兵隊が離脱する時間としては十分だった。


「……よし。ボクたちも引き上げよう」


 長居は無用、と本部小隊を率いてボクは味方陣地へと戻った。この攻撃により敵軍は一時的に活動を停止。その間に味方は戦力の再配置などを行なうことができた。しかし、それで戦闘が楽になったかといえばそうではない。むしろ、苛烈さを増していた。

 攻撃は数日中断したものの、華帝国軍は程なく攻撃を再開した。その間に戦力の補充が行われたらしく、真新しい武具をつけた兵士たちが毎日のように突撃してくる。対するこちらは武器や食糧こそ潤沢にあるものの、兵員の補充はまったくない。減る一方である。覚悟していたとはいえ、かなりきつい。各所で兵力が足りないという悲鳴が聞こえ、守備隊司令官は傷病兵についても軽傷であれば前線に送るという措置をとった。状況は末期的だ。

 そんなときだった。


「あ、あれを見ろ!」


 早朝。今日も今日とて戦闘かと少しばかり陰鬱な気分になっていたとき、兵士のひとりが空を指さす。朝から元気な奴だ、と迷惑そうにしながらも多くの人間がその方向を見た。そして、固まる。


「「「へ?」」」


 そんな気の抜けた声があちこちで上がった。目にした光景はそれほど衝撃的だったのだ。朝焼けの空に、文字が書かれた紙がヒラヒラと浮かんでいる。そこにはこう書かれてあった。


『救援到来。竜軍百万』


 と。援軍の到着であるということはひと目でわかった。途端に、歓喜の輪が広がる。場の雰囲気は一気に明るくなった。ボクも、この苦しい抗戦が報われたとわかってほっとする。やってきたことは無駄ではなかった、と。


「よし、来援までミーポーは絶対に守るぞ!」


「「「おうっ!」」」


 自然とそう兵士たちを鼓舞し、彼らも応えてくれた。さらに本部には、前線から来援を確定させる報告が上がってくる。南北の戦線で剣戟の音が聞こえてきたというのだ。敵の攻撃は未だにないらしい。ここにきて、守備隊司令官が決断した。


「南北守備隊に伝令。部隊方針を、これより積極攻勢に変更する。ただにに準備に取りかかれ、と」


「はっ!」


 守備隊司令官はその後も次々と命令を発する。彼の構想は簡単だ。まずミーポーの南北に上陸した味方と合同して、同方面の敵勢力を一掃。その後、南北の部隊を西進させて西部陣地に攻撃を仕掛けている敵軍を包囲する動きを見せる。形勢不利と見て撤退してくれればよし。最上は、包囲殲滅することだ。そしてその先鋒を担うのが、機動力に優れる騎兵隊ーーつまりボクたちだった。

 タイミングは完全に任されている。ボクは中隊ごとに個別の突撃を指示した。それぞれが弱点らしき箇所を見定め、騎兵突撃の基本形である楔形隊形で突入。一瞬も止まることなく、敵陣を駆け抜ける。こうして大きく開いた穴をぐいぐいと押し広げるのが後続の歩兵。彼らが連絡を断ち、一部の敵を包囲して孤立させる。敵の分断、包囲、殲滅。戦闘とはその繰り返しである。

 背後から攻めていた味方も呼応し、戦闘はあっという間に集結した。今は彼らと合流し、部隊の再編成を行なっている。そんななか、ボクは守備隊司令官からの伝言を、相手の司令官に伝えるために司令部を訪れた。


「第一騎兵大隊大隊長のアンソニー・ネヴィル少佐です。ミーポー守備隊司令官よりの伝言を、軍司令官にお伝えしたい」


「ご苦労」


 そう言ってボクを迎えたのは、アダムス・アクロイド大将。皇帝陛下の妃であるカレン殿下の実父にして、西部軍集団の総司令官だった。メロディーが皇族となったことで、少し付き合いがあった。


「それで伝言は?」


「はっ。我が軍は現在、華帝国軍に対する反攻作戦を実施中です。ついては、その協力をお願いしたい」


「具体的には?」


「南北に対しては、援軍の動きに呼応して攻勢を仕掛け、敵勢力の打破に成功しました。計画では、騎兵を先頭に南北の軍はそれぞれ西進。西部の敵側面、できれば後方へと進出して圧力を加えることになっています」


「それはいいが、包囲の動きを見せれば敵が後退する可能性があるぞ」


 その指摘にボクは頷く。元より、その可能性については計画段階から指摘されて対策をとっていた。


「はい。ですので西部守備隊は攻勢に転じます。しかし、既に我が軍の戦力は乏しく、南北の軍が運動を終えるまで活動を継続できるかは難しいところでしょう。そこで司令官には最低一個旅団、できれば師団規模の増援を送っていただきたいのです」


「計画を承認しよう。ネヴィル少佐。第一軍司令官の権限を以って、当該作戦計画の実施を許可する」


 アダムス大将は、皇帝陛下の任命書を見せながら言った。それを読むと、ミーポー守備隊は西部軍集団改め、第一軍に臨時で編入されるという。つまり、今この時を以って従うべき現場の最高指揮官はアダムス大将になったということだ。


「はっ。すぐに伝えます」


「うむ。そして少佐には右軍の先鋒として、敵後方への進出の先導役となってもらいたい」


「必ずや」


 司令部を辞すと、伝令を守備隊本部へと走らせる。そして伝えられたことを報告させた。ボクは再編成を終えた部隊に、アダムス大将が率いていた騎兵大隊を数個隷下に加え、右軍の先鋒として西進を開始した。それと同時に中軍も限定攻勢をかける。当初は軽くあしらっていた華帝国軍だったが、援軍が到着して攻勢が本格化すると各所で綻びが生まれ、その対応に追われることとなった。その結果、ボクたちの動きに気づかない。


「突撃!」


 指揮刀を振れば、部下たちが一斉に突撃していく。側面から不意に攻められた敵は狼狽し、ロクな反撃もできない。分断され包囲、殲滅された味方を見た華帝国軍の士気は目に見えて下がり、やがて敗走を始めた。惜しむらくは左軍の進出が遅く、取り逃しが多かったことだろう。だが、いずれにせよミーポーを守るという目標は達成された。

 ミーポーでの戦闘が集結してから二週間。戦場の後処理や本格的な損害調査などを終えていた。あとは補充兵力と第二軍(中部軍集団)の到着を待ち、華帝国に侵攻することとなっている。

 現在の華帝国は一枚岩ではなく、権力の中心が各所に分散している状況だ。だからこそ、緻密な侵攻計画が必要となってくる。指揮官も慎重かつ大胆な用兵ができる『名将』でなくてはならない。そのような分析が広まるにつれて、ボクたち将校は任務の傍ら、軍司令官や総司令官には誰が任命されるのかという話をしていた。とはいえ、


「やはりクレア殿下だろう」


「だな」


 というのが大半の意見だった。複雑な情勢を巧みに指揮できるのはあの方以外にいない。少数意見として、初期から軍勢を任されているレイモンド閣下やダグラス閣下、近年取り立てられているリアナ殿下やカレン殿下などの名前も上がっていた。

 ミーポーにやってきた敵を排除したとはいえ、ここが戦地であることに変わりはない。いつ、どこから攻撃を受けてもおかしくはないのだ。最近の仕事は、各隊とも専ら哨戒任務。特にボクたち騎兵隊は行動範囲が広いことから、遠隔地での哨戒活動を行なっている。敵は遠くからやってくるので、非常に重要な役回りだ。

 今日はボクの部隊が当番だった。見回りを終え、任務を他の隊に引き継いでから司令部に出頭し、結果を報告した。


「報告します。周辺に異常ありません。第八騎兵大隊に任務は引き継ぎました」


「ご苦労。……ところでネヴィル少佐。先刻、通報艦からの連絡があった。明日には第二軍と軍の総司令部が到着するとのことだ」


「総司令部もですか。早いですね」


「ああ。やはり準備はしていたということだろう。迎える準備をするとしよう」


 そんなわけで、慌てて受け入れ準備が行われた。野営地はミーポー郊外に造ればいいので、やるべきは総司令部および第二軍司令部が入る建物の確保。こういうとき、普通はまとめて野営地に造る。しかし、せっかく都市があるからそこに造っている。もちろん対価は支払って。財務官僚が聞けば無駄遣いと激怒されそうだ。

 なんとか準備を終えて、翌日を迎える。味方が到着するという話は既に知れ渡っていたらしく、港には非番の兵士が多く詰めかけていた。そこへ、竜帝国の国旗を掲げた艦隊がやってくる。そしてボクたちは、一斉に口を噤むことになった。

 艦隊の先頭を進む艦には、金の房がついた旗が掲げられている。すなわち近衛師団が乗っているということだ。さらに、別の船には紫の生地に竜が金糸で描かれた旗が掲げられていた。帝国でこの側を掲げることができるのは、ただひとり。


「皇帝陛下……」


 まさか軍の最高司令官が自らやってきたのだった。


 ーーーオリオンーーー


 俺は怒っていた。華帝国がシルヴィの死に乗じて内戦を止め、侵攻してきたーーというのは開戦した時点では、単なる憶測に過ぎない。膠着した状況に何らかの変化を加え、主導権を握るために失地回復に乗り出した勢力に乗っかり、侵攻してきた。それがたまたまシルヴィの死に重なった、とも考えられなくもない。だからあくまで冷静に対応した。

 しかし、ミーポーで捕虜にした者の話を聞けば実際は異なっていたことが明らかになった。華帝国は俺の寵愛一番で国民の人気も高いシルヴィの死によって、俺たちが混乱しているだろうと考えて侵攻したのだという。

 これを聞いて、俺はキレた。いや、俺だけではない。竜帝国の人間誰もがキレた。ふざけるな、と。いつもは戦争反対のソフィーナさえ、このときばかりは開戦を支持した。こうして不届き者を成敗するという大義名分の下に軍を発し、俺が久方ぶりに軍を直接指揮する。さすがにこれには反対があったが、押し切った。こんなことをされて黙っていられるほど俺は温厚ではない。


「これより作戦会議を始めます」


 到着して早々に作戦会議を開き、進行役のリャンオクが開会を宣言する。参加メンバーは第一軍の司令官、師団長ならびに参謀。第二軍の司令官、師団長ならびに参謀。そして、総司令部の総司令官ならびに参謀である。ちなみに第二軍司令官はカレン。総参謀長はリアナだ。カレンの後任の陸軍大臣はフレデリック、リアナの後任の参謀総長はクレアがそれぞれ務めている。


「総司令部で案を作成いたしました。まずはそちらをご覧いただきたく思います」


 そう言うと、若い参謀が地図と駒を引っ張り出してきて並べる。こういうときに若い人間がこき使われるのはどこの世界でも一緒だ。準備が完了すると、リアナが指揮棒を持って説明を始める。


「具体的な行動をお話しする前に、戦力について説明します。我が軍は、第一軍に五個師団、第二軍に四個師団が集結しています。また現在、ブレストにて東部軍集団を改組した第三軍を編成中。予定の部隊数は三個師団。完結は一週間後の予定です。これが完了後、東部、中部の二線級部隊を集めた第四軍を編成予定。部隊数は、独立混成旅団三個。以上、総兵力は約三十万です」


 その数字にどよめきが上がる。前線に出される部隊でもこれだけの数だ。本国に存在する留守部隊も合わせると、総兵力は四十万ーー下手をすると五十万に届くかもしれない。この場に集まっているのは、現場の兵員の数からお金の計算ができる人物ばかり。頭のなかで算盤を弾き、よくこれだけのことができたと感嘆したのだろう。俺もそう思う。

 聴衆の反応を他所に、リアナは説明を続ける。


「対する華帝国軍は、動員兵力八十万と予想されます。内訳は図に示した通りです。これは手許の資料にも載せてあります」


 それを聞いて、参加者は用意されていた資料をめくって目を通していく。


「皆さま、資料をお持ちのようですから、そちらもご覧になりながらお聞きください。華帝国軍の動員兵力予想の次のページになります。今後の作戦計画について、概要です」


 リアナが言うと、大きな紙音がする。参加者たちが一斉に紙をめくったためだ。妙な一体感があって面白い。


「まず、海兵師団を擁する第一軍は前回の戦争と同じ行程をたどってタートを目指します。第二軍は南部の軍閥を平定。第三軍は北部を平定します。第四軍は、ミーポーを中心とした占領地域の治安維持に努めます」


 指揮棒で駒を器用に動かしつつ、つらつらと説明していくリアナ。だいたいの作戦説明が終わったところで、質疑応答に入る。ダイジェストで紹介すると、


 Q,イディアの参戦はあるのか?

 A,ない。ただし沿岸部の治安維持や、本国との国境地帯に軍勢を集めることはする。それらに攻撃があった場合、当然、参戦する。


 Q,前回の侵攻路は守備を固められている恐れはないか?

 A,終戦後、程なく内乱が始まったため頑強な防御施設の存在は確認されていない。兵数の多い拠点は迂回して攻略していく。


 Q,西のモルゴ、あるいは北の民族と戦闘になる可能性はないか?

 A,ある。まず使者を派遣して平和的解決を図り、それでも相手が戦闘する意思を崩さないなら戦闘を許可する。ただし、深追いはしないこと。


 といったところだ。既に予想されていたものばかりであり、リアナは詰まることなく答えていく。およそ質問が出切ったところで、何らかの意見なども求める。しかし、特に異論はないようだった。最後に俺が言葉をかけて、会議は終了する。


「我が国を舐めたらどうなるか、彼らはよくわからなかったようだ。他人の死を利用しようなどという姑息な手を考える輩に、今度こそ思い知らせてやろうじゃないか」


「「「はいっ!」」」


 俺の声に、出席者たちは威勢良く応える。それがとても頼もしく、心強かった。




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