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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第十章 終活
134/140

10-6 再びの戦火

 



 ーーーオリオンーーー


 シルヴィが短いその生涯を終え、どこか空虚な日々が続いていた。しかしながら、カレンたちの存在がそれをいくらか慰めてくれている。おかげで、以前の生活リズムを取り戻しつつあった。これもシルヴィのおかげだ。なぜなら、


「お茶ーー」


「どうぞ」


 求めるより先に、求めるものが出てくる。シルヴィがいたころの日常だ。しかし今はいない。代わりを見事に務め上げているのが、彼女の弟子を自認するカレンである。彼女は戦功により中将に昇進し、陸軍大臣の職に就いていた。なお、前任者のフレデリックは現役を退いている。世代交代、というやつだ。

 また、シルヴィの死により空席となった大本営総長の職は、下克上的な大抜擢でリアナが任じられている。戦時における作戦指揮は見事という他なく、帝国軍の軍令を一手に司る大本営を任せても問題ないという判断からだ。最有力候補はベリンダだったが、本人の希望により近衛師団長のままだった。曰く、政治は肌に合わないらしい。

 貴種の生まれであるカレンやリアナと違い、リャンオクはゼロからのスタートだ。その昇進速度は遅い。しかし、彼女も戦功で少佐となり、姉弟子であるカレンの侍従武官となっていた。中佐になれば皇帝付きの侍従武官になる予定だ。


「ありがとう」


「いえ。当然です」


 お礼を言えば、カレンはそのように返す。いつものやり取りだ。曰く、まだまだ師匠シルヴィには及ばないらしい。俺としてはこれでも十分なのだが……彼女は一体どこを目指しているのだろうか?

 とにもかくにも、平穏な日々というものがようやく戻ってきた感がある。遠回りしたからだ、と言われれば返す言葉もない。


「周辺情勢もかなり落ち着いているようだな」


「そのようです。旧ナッシュ大王国、旧アクロイド王国、旧教国ともに目立った騒乱は起きていません。相変わらずミーポーは騒がしいようですがーー」


「それは内戦が膠着状態に陥ったから、というわけだな」


「はい」


 帝国本土がある大陸からは、反乱の芽はほぼなくなったといっていい。これはつまり新たな権力ーーつまり竜帝国ーーが現地の支配機構を掌握し終えたことを意味する。あとは治安維持に努めればいいし、そのノウハウはソフィーナをはじめとした面子が十分に蓄積していた。

 一方、華帝国の戦乱は一応の落ち着きを見せていた。旧政権にモルゴが味方し、これを見た地方軍閥は潰し合いを止め、連合を組んで対抗した。これでモルゴも軽々には動けず、膠着状態になった。そしてこの奇妙な平和を利用して、人々は安定しているミーポーへと殺到したというわけだ。受け入れが大変なようだが、その大変さも平和だからこそといえる。


「これからもこういう日々が続けばいいのにな」


「そうですね」


 その気持ちに嘘偽りはない。だが、このときの俺は気づかなかった。それが見事なフラグであったことに。


 ーーーーーー


 ある日の昼下がり。昼食をとり終えた俺は、日課である子どもたちとの食休みを兼ねた交流をした。そしていつものように午後の執務に入る。それを待っていたかのように、諜報部の部長が現れた。


「陛下。至急、お耳に入れたいことが」


「どうした?」


「シルヴィア殿下の訃報を受けた華帝国の諸勢力が、一時休戦して連合を組む動きを見せております」


「わざわざその話を絡めるということは……それが原因か?」


「残念ながら」


 部長は遠回しに肯定する。華帝国の動きは、シルヴィが死んだという情報がきっかけとなったものだという。嫌な予感しかしないが、訊ねないわけにはいかない。


「奴らの狙いは何だ?」


「掴んでいる情報によりますと、食糧や武器などを集めております。どこかに軍事行動を始めるのは確定的。兵員の移動も始まっており、そのなかにはモルゴ軍も含まれております」


「ということは西(モルゴの支配領域)に行くことはないな。南か北か、あるいは東か……」


「港で船が集まっている、という情報は得ていません。行軍は陸路かと」


「となるとミーポーが危ないな。一応、警報を発しておこう。臨戦態勢をとるように命じよ。また海兵師団、西部の各師団も出動準備だ」


 何かあってからでは遅い。即応態勢を整えるよう指示を出す。


「諸外国には如何いたしますか?」


「イディアもこの動きは掴んでいるだろうが、念のため通報だ。モルゴには、この動きの説明を求めよう」


 と、俺は矢継ぎ早に指示した。

 華帝国が南に向かえば山を越えてイディアに侵攻することとなる。だから彼らも警戒はしているし、対応もしているだろう。だが、通報することに意味がある。友好的な姿勢をアピールし、ポイントを稼ぐわけだ。

 東にはミーポー(竜帝国領)に加え、イディアが利権を持つ港湾都市もある。華帝国を刺激しないように駐屯させている軍隊は必要最小限だ。この防衛のためには、互いの協調が重要になってくる。通報にかこつけて、共同戦線の準備会議に持ち込むことができれば最高だ。

 理想的なのは華帝国が北に向かうこと。そこには竜帝国もイディアも利権を持っていない上、その地を支配しているのはモルゴと敵対している部族だ。であるならば、モルゴの存在も納得がいく。


「カレン。リアナを呼んでくれ」


「会議ですね。海軍の方はいかがなされますか?」


「そっちは俺が声をかけよう」


「承知いたしました」


 そんなわけで、華帝国の怪しい動きを受けての会議が開かれた。まだ本格的な軍事行動をとると決めたわけではないので、職掌にないイアンやソフィーナは呼んでいない。集まったのは純粋に軍の面子だ。


「状況は聞いているな?」


 俺の問いかけに、参加者たちは一斉に頷く。情報部長から既に話は行っているようだ。なお、情報部には華帝国の動向ーー特にヒトやモノの移動状況ーーを注視するよう伝えた。報告を終え、新たな仕事の指揮をするために部長は不在。この会議には代わりの部員が参加している。


「陛下。陸軍の西部軍集団に出動準備を整えるよう命令を発しました。先日の定期報告によれば、海兵師団は規定に定める大隊が即応可能。師団全体では、およそ一週間とのことです」


 リアナが陸軍の状況について予め纏め、冒頭で報告してくれる。確定的な情報がないのは、この時代の通信技術ゆえのことなので仕方がない。それを考慮すれば、彼女の対応は満点といえる。


「海軍はどうか?」


 次はエリックに訊ねた。


「はっ。艦隊の出航準備は数日のうちに整う予定です。海兵隊の即応部隊を輸送するための輸送船は、手配できる見込みです」


「なるほど。では、さほど時をかけずにできるということか。素晴らしい」


 どれも規定に定めてあることだが、案外と守られないものだ。『これでいいだろ』的な現場の雰囲気や判断によって。そういう事態が起こらないよう、これからも適宜引き締めを行なってほしい。


「カレン。費用の方は、当面は予備費で何とかなるか?」


 これが懸案事項だ。今回のことはあくまでも純軍事的な行為であり、ソフィーナには事態を説明しているに過ぎない。つまり、財務の力を借りなくても軍でなんとかできますよ、というわけだ。

 しかし、いかな国家的組織とはいえない袖は振れないのであって、そのときには素直に頭を下げなければならない。またぐちぐちと小言を言われるんだろうな〜、それは嫌だな〜、と思いつつ、訊ねないわけにはいかないので訊ねてみた。すると、


「大丈夫です。予備費は有り余っていますから」


「本当か? 無理してないか?」


「はい。問題ありません」


 子どもが友達と遊びに行くと聞いて、お小遣いは足りているのか心配する親のようにしつこく訊ねる。だが、カレンは変わらずしっかりと頷いた。後から聞いた話では、シルヴィが余った予備費を機密費に充てていたらしい。その機密費で金を買い込み、必要になれば売っていたとか。賢いというか、ちゃっかりしているというか。もちろん倫理的には褒められたことではない。

 しかし、綺麗事ばかりでは通用しない。役所にとって予算は重要なことで、財務省からいかに多く引き出すか、どれだけ多く獲得できるかということが大事だ。そういう意味では必要悪といえる。


「よし。情報部は華帝国の動向を注視せよ」


 改めて情報部に伝え、本日は解散となった。

 動きがあったのは翌週のこと。魔力タービン式鉄甲船が全速で帰ってきて情報をもたらした。曰く、華帝国軍が進軍を開始。総勢二十万。進軍先はーー


「東! ミーポーに侵攻する公算大!」


 情報部員の言葉に会議室の人間がざわめく。緊急会議で集められ、既に少なからぬ喧騒があった。この情報は、その小さな火種を燃え上がらせるのには十分だった。


「陛下! 直ちに軍を派遣しましょう!」


「待て待て。まだミーポーが目標だと判明したわけではない。ーーリアナ。ミーポーの防衛体制は整っているのか?」


「整っております。ただ、ミーポーに展開している兵力が少ないので、郊外は諦めて都市のみを防衛する計画です。陣地の構築計画、物資の蓄積は済んでいます」


「どれくらい耐えられる?」


「半月は」


「わかった。現地の部隊に連絡だ。まず華帝国軍に軍使を派遣し、事の次第を訊ねよ。相手が非協力的ならば、陣地構築に移れ。念のため、海兵隊の即応部隊を増援として送る」


 軟弱という誹りを受けるだろうが、やはり戦争を回避するための手段はできる限り講じるべきだ。リアナもその意図を理解してくれたのか、頷く。


「承知しました」


「海軍は、艦隊と輸送艦の手配を」


「了解しました」


 エリックは快諾した。

 次に、ようやく今回出席することになったソフィーナに水を向ける。


「もし開戦となれば、特別会計の予算組みを頼む」


「わかってるわ。降りかかる火の粉は払わないとね」


 ソフィーナはいつになく協力的だ。それにはいくつかの理由がある。

 まず第一に、華帝国の動きを見逃していたこと。食糧の買い込みは把握していたのだが、それは華帝国の穀倉地帯が不作で、不足分の補充だろうと結論づけていたのだ。その結果、軍部にはもたらされず、俺の元にも緊急の案件ではなく通常の案件で回ってきた。だからあまり注目されず、てんやわんやの大騒ぎになっている。それに少なからず罪悪感を抱いているようだ。

 第二に、これが純粋な防衛戦争であること。彼女の言葉通り、相手が仕掛けてきた戦争ならば受けて立たねばならない。当たり前だが、金よりも国の方が大事。国庫の番人たるソフィーナも、こればかりは了承せざるを得ない。

 第三に、彼女もまた少なからず憤っていることだ。今回、華帝国における諸勢力の大連合はシルヴィの死を、ミーポー奪回の好機と捉えたから実現した。ソフィーナにとって、シルヴィは同じ俺の妻であるとともに、義理の姉でもあった。そんな相手の死が利用されたのだ。憤らないはずがない。

 会議の決定はすぐに各地に伝えられた。西部のみならず、帝国全土の軍が即応態勢をとる。海兵隊は即応部隊が出撃した。ミーポーに駐屯する部隊は決定通りに軍使を派遣したものの、にべもなく追い払われたという。理由は聞けず。そのため現地指揮官は自身の裁量で計画の実施を決めた。

 イディアからは情報提供に感謝する旨と、帝国と協調するという返答があった。その一環としてモルゴに送った共同の使者は、ドルジの『各部族がどう動こうと、オレは知らん』という返事を持って帰るに留まった。よく言ったものだ。部族を掌握、糾合しようと躍起になっている癖に。

 これではっきりしたのは今回の件でモルゴが事実上、敵に回ったことだ。まあそれはいい。万が一に備えて、モルゴやイディアが敵になったときのことも考えてある。同盟を反故にした裏切り、見捨てられは当然、想定される事態だからな。

 この間にも、情報部からは続報がもたらされた。


「華帝国軍がミーポーの西、五キロ地点に陣を張っています!」


「現地軍は撤退を要請したものの、華帝国軍は拒否。逆に現地軍に対し、ミーポーの明け渡しを求めています!」


「華帝国軍はさらに前進。ミーポーを包囲しました!」


「……陛下」


 情報部の報告がある度に開かれている会議。そこでミーポーが包囲された、という決定的な報告を聞かされた後、会議室はしばし沈黙が支配した。それを破ったのはイアン。俺も頷く。


「止むを得ないか。現地軍に交戦を許可すると伝えよ。ただし、寡兵であることを念頭に、戦闘正面幅をできるだけ限定するように。また来援あるまでは積極攻勢を禁じる」


「はっ」


「陸海軍はよく協力して事に当たれ。まずはミーポーの安全を確保する」


「「承知しました」」


 こうして、華帝国と二度目の戦争が発生した。


 ーーー アンソニー ーーー


 士官学校では陸軍の騎兵科コースを選択した。なぜそれを選んだかといえば、他の兵科よりも在学期間が短いからだ。

 ボクの父親はアーロン、母親はメリッサ・ネヴィル。母親が貴族の血を引いており、また両親が皇帝陛下と親しいことから色々とよくしてもらっていた。生まれたときから水明園(離宮)に住み、皇太后陛下と一緒に暮らしていた。

 ちなみに、最初は一緒に遊んでくれるおばさんだと思っていたので、失礼なこともたくさんしている。正体を知ったのは五歳のときだった。距離感を掴むまで、どう接していいかわからずギクシャクしていたことを思い出す。もちろん、今はそんなことはない。皇帝陛下にも似たような感じだった。

 そんなボクは、皇帝陛下の計らいで母親の実家であるネヴィル家の名跡を継承し、新たに伯爵家を建てることを許された。それでもなお、離宮に住むことを許されている。皇族でもないのに離宮に住んでいる貴族はボクたちくらいのものだ。

 これだけでも恵まれているのに、さらに妹のメロディーが皇太弟殿下の妃になった。三代目皇帝の配偶者ーーすなわち未来の皇后である。この日から、ネヴィル伯爵家の格は一気に上がった。現宰相のイアン様を当主とするボークラーク家に次ぐ、序列第二位。竜帝国の爵位は、公侯伯子男ーー公爵は皇族しかなれないので、伯爵は上位の家柄だ。

 親と仲がいいからといってそこまでされると申し訳なくなる。だからボクは、一刻も早く独立しようと決めた。離宮を出て、自活する。そのために目をつけたのが軍隊だ。士官学校に入り、頑張って勉強した。その甲斐あって士官学校は成績上位で卒業。一年ほどの部隊勤務を経て、エリートコースの最短ルートである陸軍大学校にも合格。次席で卒業し、現在は旧王都で編成された第一師団隷下の第一騎兵大隊の隊長になっている。

 帝国軍は各部隊が持ち回りでミーポー守備隊に編入されており、ボクの部隊も組み込まれた。それと、華帝国軍の来襲が重なった。


「少佐! ここにいらっしゃいましたか!」


「ん? ああ、ハミルトンですか」


「『ハミルトンですか』じゃありません! こんなところで昼寝をしている場合ではないんですよ! お戻りください!」


 従兵であるハミルトンがそう注意してくる。ボクはそれに生返事をしつつ、姿勢を変えることはなかった。それに痺れを切らしたのか、ハミルトンが声のトーンを上げる。


「もう! 少佐はいつもそうです! もっとキリッと、指揮官としての威厳を持ってください!」


「そうは言ってもね。ここの陽射しは丁度いいんだよ。ハミルトンも寝転べばわかるさ」


「わかりたくありません、そんなもの!」


 どうやら彼には不評らしい。気持ちいいんだけどなぁ……。陽光に照らされつつ、背中に感じる草の温もりと、鼻をくすぐる香りが最高だ。自然に生きているという感じがする。寝るだけでなく、本を読んでもいい。とにかく、ここを一歩も動きたくはなかった。

 そんなボクを見て、ハミルトンはことさら大きなため息を吐く。


「はぁ……。少佐。敵がミーポーを包囲いたしました。本国からの連絡では、先日到着した海兵一個大隊の他、海兵師団が先遣隊として。西部軍集団も程なく到着するとのことです」


「そうですか」


 対応が早い。さすが陛下だ。


「さて、それじゃあお仕事をしますか」


 ボクもちゃんとやらないとな、と思って立ち上がる。


「やる気になってくださいましたか、少佐……」


 ハミルトンが、子どもが初めて立ったときの親のような反応をする。感動、といった様子だ。一度、彼のボクに対する認識を問い質す必要があるね。ま、今はいいけれど。


「ハミルトン一等兵。伝令だ。総員、戦闘準備」


「はっ。……は?」


 命令すると、ハミルトンは間抜けな声を上げた。なぜそのような命令を出されるのかわからないといった様子だ。そんな彼に、答えを教える。


「敵が来るぞ」


 そうしてボクが指差した先には、地平線に砂埃が上がっていた。大勢の“何か”が動いている証拠だ。今のミーポー周辺で大移動するのは、華帝国軍ーーすなわち敵しかいない。


「ほら、急げ」


 ヒラリと側に繋いでいた馬に跨り、走りだす。


「え? あっ! 少佐、待ってください!」


 置いていかれたハミルトンが慌ててついてくる。伝令が命令者本人よりも遅いとはどういうことなのか。


「少佐。物見櫓から報告ですーー」


「敵が来たのだろう。知っている。総員、戦闘準備だ」


「既に配置についています」


「パーフェクトだ」


 報告を上げた別の兵を褒めた。ハミルトンも優秀だが、少し抜けているところがある。ボクは馬に乗ったまま、防御陣地の最前線に出た。


「よく見えるな」


 馬に乗っているから、他の者よりも視線が高くなっている。だから遠くにいる敵も見つけることができた。


「少佐! 危険です。お下がりください!」


「なぜだ?」


「敵の攻撃が来るからです」


「まだ遠いじゃないか」


「前線では何が起こるかわかりません! もしどうしてもというならば、せめて武器は持ってください!」


「持っているよ。ほら」


「短刀じゃないですか! それじゃなくて、軍刀とか槍とか……」


「指揮官には必要ない」


 指揮官が戦う部隊は終わっている。皇帝陛下がよく仰られることだ。まったくその通りだと思う。だからボクも武器は持たない。護身のために短刀は携帯しているものの、ハミルトンの言うような武器は持っていなかった。式典などで必要な場合は、軍の在庫から少し拝借している。


「……ざっと見て、敵は一万ほどか」


「敵は二十万だそうですから、先遣隊ですね」


「援軍があるとはいえ、先が思いやられる」


 敵はミーポーを包囲している。海上封鎖は行われていないので敵は三方向から。均等に兵力が割り振られたとして、一方面につき六万強となる。対するミーポー守備隊は、わずかに四千。単純な兵数は二十分の一でしかない。


「南北方向が比較的優位に進展することが救いか……」


「艦隊からの支援が受けられますからね。羨ましい」


「そう言うな」


 立場が違えば誰しも同じことを言う。だからぼやきは止めるように言った。

 ハミルトンが言ったように、南北の部隊はミーポーに駐留していた艦隊からの支援攻撃を受けられる。それを見越して、守備隊の主力は支援の見込めない西に展開していた。ボクの部隊ーー第一騎兵大隊は西部防衛線に配置され、遊撃を担うことになっている。防備にあたっては歩兵中隊が指揮下に置かれていた。こちらで陣地防御。その隙に騎兵で横腹を殴り、敵に打撃を与えるという戦術だ。

 その後、華帝国からは無血開城を求める使者が訪れたが、指揮官は一顧だにせず拒否した。既に援軍が出ているというのに撤退するなどあり得ない。


「さて、いよいよ最強といわれるモルゴ騎兵との戦いか……」


「少佐。お気持ちはわかりますが、くれぐれも訓令はお忘れなく」


「防御に徹しろというやつのことでしょう? わかってる」


「少佐の『わかってる』は信用なりません。この前だってーー」


「おっと、ハミルトン一等兵。無駄話もここまでのようだ。敵さんがいらっしゃった」


「……ですね」


 敵が前進を始めたので警告を発する。ハミルトンは疑っていたのか、前線を一瞥をして確かめてからボクの言葉に頷いた。そこまで信用がないとは、地味にショックだ。まあいいや。


「下がりましょう」


「当然」


 指揮官が最初にやられては元も子もない。ハミルトンの言うことに素直に従った。予想外だったか狐につままれたような表情をしている。失礼な。やはりボクの認識について話し合う必要がありそうだ。


「まずは援軍が来るまで。一週間、耐え抜く」


「「「はいっ!」」」


 それは自分に言い聞かせるための独り言だったが、周りにも聞こえていたらしくいい返事が返ってきた。ボクは苦笑しつつ、兵士たちを励ます。


「いい返事だ。やるぞ? ーー総員、戦闘配置」


 こうしてミーポー防衛戦が始まった。




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