10-2 逝く人たち
ーーーオリオンーーー
アリスたち内政組、シルヴィたち出征組とのバカンスをそれぞれ消化した。楽しい日々はあっという間に過ぎ去り、政務に追われる忙しい日々に戻った。
面白いことに、人間はどこまでいっても隣の芝生は青いらしい。というのも、バカンスで暇を弄んでいると仕事がしたくなるし、仕事が始まると遊びたくなる。つまり、俺は暇をしている人がとてつもなく羨ましいということだ。
穏やかな日が差し込む。中庭に面した執務室には、元気よく遊ぶ子どもたちの声が聞こえてくる。子ども特有の甲高い声に交じって、落ち着いたしゃがれ声も聞こえてきた。
「ほっほっ。アーノルド(アリスの次男)は元気じゃのぉ」
「なんの。シャロン(レオノールの次女)の可愛さに敵う子などおらんわ」
「なんじゃと?」
「ん?」
好々爺然とした和やかな雰囲気から一転、すぐにでも殺し合いが始まりそうな殺伐とした雰囲気になる。年甲斐もないことをしているのは、かつてのフィラノ国王ルドルフ公とカール公だ。
二人は孫が『じーじ』と慕ってくれるのがよほど嬉しいらしく、よく城に顔を出しては孫の相手をしていた。ただ、孫が好きすぎて自分の孫がナンバーワン、と言って憚らない。そして何度も火花を散らしていた。とはいえ、
「じーじ?」
「どうしたのかな、アーノルド?」
孫には敵わない。不穏な空気を感じて声をかけられると、先ほどまでの剣呑な気配はどこへやら。一瞬にして好々爺になる。をい。
ルドルフ公に笑いかけられたアーノルドは、にこーっと屈託のない笑みを浮かべる。釣られてルドルフ公や、いがみ合っていたカール公も笑顔になった。子どもの不思議な魔力である。ほんと不思議。
アーノルドは大人たちの醜い争いを収めると、また遊びへと戻っていった。これでめでたし、とはいかない。大人たちには別の試練が待っていた。
「お父様? おじ様?」
「「っ!?」」
底冷えするような声にビクッとなる大人二人。そこにいたのはレイチェル姉さんだった。
「いつもいつも喧嘩ばかりして! 子どもはみんな可愛いーーそれでいいじゃないですか!」
雷が落ちた。子どもたちに聞こえないように声は抑えられているが、かなりの迫力がある。博愛を謳う金子みすゞのような言葉も、説教となるとこうも怖いのか。
「ち、違うのじゃ、レイチェルよ。これはカールがーー」
「は? 元はといえばルドルフ公がーー」
責任をなすりつけ合う。なんとも醜い大人の闘争。そんな二人にレイチェル姉さんは、
「どっちもどっちです!」
との裁定を下した。まったくの正論である。ぐうの音も出ない。こんな風に、二人の喧嘩をレイチェル姉さんが一喝する、というのが城の恒例行事となっている。
ーーそんな微笑ましい(?)光景を執務室のバルコニー越しに眺めていると、同じ部屋にいたアリスがころころと笑っていた。
「どうした?」
「平和だなぁ、って」
「……そうだな」
アリスの言葉に、俺も同意する。戦時の空気は引きずらずに済んでいた。それも、華帝国の内乱のおかげだ。
動員を解除したことにより、軍の倉庫から物資が溢れているという状況だった。普通ならこの反動で軍の物資の調達が減り、景気が悪くなる。第一次世界大戦後の戦後恐慌がいい例だ。
しかし、今回は事情が異なる。すぐさま華帝国で内乱が起こり、そこに物資を売ることができた。おかげで生産力のはけ口ができ、そこに売り込みつつ、平時の生産量へ少しずつ戻していく軟着陸ができそうである。景気の悪化は避けられないが、深刻なダメージには至っていない。だからこそ、大きな社会不安もない平和な日々が送れていた。
「大陸は戦乱続きのようですね」
「ああ。ミーポーへの流民がかなりいるらしい」
モルゴの介入によって、華帝国の内乱は苛烈さを増していた。彼らは傭兵であり、報酬のためなら何だってやる。掠奪や民衆の殺戮、誘拐、婦女子の強姦など。それを避けるため、平和なミーポーへと人が押し寄せている状況だ。
「早く平和になってほしいですね」
アリス。それはフラグである。
「あっ。せっかくお父様もいらしていますし、いいお天気です。お昼はお外でしませんか?」
「いいな。そうしよう」
ということで、昼は外でお弁当となった。
ーーーーーー
午前の仕事が終わり、一時間の昼休憩になる。俺はアリスやレオノールたち、城にいる身内を呼んで外での昼食をとった。
「へーか!」
俺に気づいたシャロンが飛び込んできた。俺は屈んで受け止め、脇に手を入れて持ち上げる。
周りから『陛下』と呼ばれることが多いため、幼い子どもたちは舌足らずな声で『へーか』と呼ぶ。物心がつくと『父上』になり、十五歳前後になると公式の場ではまた『陛下』と呼ぶようになる。
「お久しぶりです、ルドルフ公、カール公」
「ああ。久しいな」
「半年ぶりくらいか?」
「そうですね」
このやりとりからわかる通り、俺と彼らが会うのはおよそ半年ぶりである。孫可愛さにさほど日を開けずに城を訪ねてくるのだが、俺が華帝国に行っていたりしていて、なかなか会えなかったのだ。
「久しぶりに会ったのだ。積もる話もある。ゆっくり話そうではないか」
「はい。そう、です……ね」
カール公が肩にポンと手を置く。それだけならフレンドリーなやりとりに見えるが、実際は万力のように強い力が加わっている。痛い。その身体のどこからそんな力が出るんだ? 彼がこのようなことをする理由はわかっている。シャロンをとられているからだ。
「よしよし。ほらシャロン。じーじだぞ?」
そう言って俺はカール公にパスしようとする。が、
「やー! へーかがいい!」
真正面から拒否された。目に見えてへこむカール公。よくよく考えれば、しょっちゅうきて遊んでくれる彼らより、滅多に遊ばない俺を選ぶのはある意味必然。それをすっかり失念していた。
「だがな、シャロン。他の子たちもいるしーー」
「いや!」
なんとか離そうとするが、小さなお姫様は頑として聞き入れない。
「シャロン。じーじがいい物を買ってあげるからーー」
「お、じ、さ、ま?」
なおも食い下がろうとしたカール公だったが、監視役としていたレイチェル姉さんが止めた。すったもんだの末、シャロンの説得は諦めることにした。レイチェル姉さんありがとう。そしてカール公。子どもを物で釣るのはやめましょう。
「今日のメニューは、サンドイッチか」
手軽で食べやすい。グッドチョイスだ。しかし、ランチボックスを運んできたメイドは申し訳なさそうだ。
「どうした?」
「いえ、その、このような貧相なものしかご用意できず申し訳ございません」
「はははっ。そんなことを気にしていたのか。問題ないよ。急なことだったしな。むしろ、よく対応できた。感謝しているよ」
「あ、ありがたいお言葉!」
メイドたちは直角の礼を披露してくれた。そんな大袈裟な。
「へーか、へーか!」
「ん? ああ。ほらシャロン。あーん」
「あーん」
シャロンが盛んに呼ぶので何事かと思ったが、どうも食べさせてほしいようだ。俺は拒否する理由もなく、快く応じる。食べやすいよう一口大に切ってから、口許へ運ぶ。シャロンは小さな口を精一杯広げて食べた。
「美味しいか?」
「うん!」
向日葵のような笑顔とはこのことだ、といわんばかりに嬉しそうな顔をするシャロン。ひとつのサンドイッチを、およそ十回に分けて食べきった。
「全部食べたな。偉いぞ、シャロン」
「えへへ」
頭を撫でると、シャロンは嬉しそうにはにかんだ。……カール公。いい歳した大人なんだから、孫が他人に微笑んでいるのを見て、そんな悔しそうな顔しないでほしい。
「ほっほっ。カールは孫にそっぽ向かれとるわい」
一方、ルドルフ公は余裕の表情。その傍らにはアーノルドが、母親のアリスに抱えられている。なるほど。母親とセットにすることで身近にいる権利を獲得したか。時折、アーノルドにサンドイッチを与えている。
「ぐぬぬ……」
「カールよ。そんな顔をするでない。ますます孫に嫌われるぞ」
「嫌われてはない!」
ルドルフ公は孫と接することができて気が大きくなったか、カール公を煽りに煽る。今にも掴みかからんばかりだ。どうどう。それ以上はよくないぞ。レイチェル姉さんが立ち上がった。
「シャロン〜。好きなものを買ってあげるから」
だからそのネタはやめろと言うに。
「お父様?」
そのときカール公に声をかけたのは、娘のレオノール。父親に静々と近づいていくが、一歩一歩に妙な迫力があった。
「わたしのときは、欲しいものがあっても買ってくれなかったのに、孫娘には買うのですか?」
痛いとこ突くな。
「ち、違うぞレオノール。これはーー」
言い訳をしているが、レオノールは高級閣僚として培ってきたノウハウを存分に活かしている。何を言おうが、片っ端から完膚なきまでに論破されていた。元々、言い訳自体も苦しいところがあるのだから無理もない。
「ほっほっ。カールも情けなーーゴホッ、ゴホッ!」
「「お父様!?」」
突如、ルドルフ公が咳き込む。娘二人が驚いて呼びかけるが、彼は大丈夫だと言った。しかし、気持ち悪そうに顔をしかめ、何度も小さく咳き込んでいる。唾液が気管に入ったか?
「じーじ、だいじょうぶ?」
「ああ。アーノルド。コホッ……心配ないぞ」
とは言うが、はいそうですかと納得できるほど元気そうには見えない。
「バチが当たったな」
「そんな縁起でもない……」
「おじ様……」
俺とレイチェル姉さんは、そんなカール公の言葉に非難の意味も込めてコメントした。そういうのマジでよくないから。世の中には言霊という概念がありましてね……なんて説教したいくらいだ。
「な、なんじゃーーうぐっ!」
カール公が白い目で見られてたじろいでいると、急に腹部を押さえて蹲る。
「傷ですか?」
「ああ」
俺の問いかけに、小さく頷くカール公。かつてダンに刺されたときの傷だ。今もときどき痛むらしい。このタイミングでぶり返したのは、それこそバチが当たったからだろう、と俺たちは笑った。ルドルフ公やカール公も一緒に。
結局、その日は二人とも体調不良でそれぞれの邸宅へと帰って行った。ルドルフ公はまだ子どもたちと遊ぼうとしていたが、無理をしているのは明らかだったので体調を戻す方が先と強引に帰らせた。カール公は、ひとりだけ遊ぶのはズルい、というルドルフ公に無理矢理帰らされている。
「まったく、あの二人は……」
自邸に戻れば、もはやレイチェル姉さんの関知するところではない。二人が離れたのをいいことに、彼女はそんな愚痴を漏らした。
「まあまあ。元気なんだからいいじゃないか」
ヨボヨボで寝たっきりよりは、ある程度やんちゃであった方がいい。色々と苦労するだろうが、許してあげてほしいとなだめた。
「……そう、ですね」
レイチェル姉さんも、なんだかんだ言いつつ二人が元気なのは嬉しいらしく、困ったなあという言葉とは裏腹に笑っていた。
ルドルフ公が倒れたと聞かされたのは、その翌日のことだった。
ーーーーーー
「お父様!?」
「……おお、アリスか」
ダンッ、と扉を開け放ったアリスがルドルフ公の寝室へ飛び込む。そんな娘の姿に、ルドルフ公は目を丸くしている。だが、その声はとても弱々しい。
「……アリス」
側にいたレイチェル姉さんは、目を赤くしている。その様子から、かなり泣いていたようだ。それがなぜかは、説明されるまでもなく明らかだった。
「〜っ!」
アリスもそんな姉の姿を見て、察するものがあったらしい。途端に目尻に涙を溜める。そんな娘を見て、ルドルフ公はふっと弱々しく笑った。
「そんな顔をするでない。アリス。いつかはこうなるのだ」
そんなルドルフ公の発言から、彼はもう死期を悟っていることがわかった。
「レイチェルには、もう話を済ませてある。はぁ、はぁ……。お前にも、少し、話をしよう」
始まったのは、ルドルフ公の昔話。アリスとの思い出話だ。
「アリスは大人しい子だったよ。成長して少しお転婆もあったが、ダンに比べれば可愛いものだ」
たしかに。あのバカより手がかかる子どもなどいるのだろうか? あれの幼少期は知らないが、ジャ○アンのような粗暴さとス○夫のような小狡さを足して二で割ったような性格だったのだろう。
「そしてオリオンに出会ってからは、いつもその話をしていたな」
「お、お父様!」
アリスが赤面する。子ども時代のことを暴露されるのは恥ずかしい。その気持ちはよくわかる。俺も母さんがアリスたちに子どもの頃の話を色々バラされて大変だった。まあ俺は転生者なので、他人よりは傷は浅かったが。
「アリスの人を見る目は確かだ。オリオンもまた、驚くほど優秀だった。商人としては斬新な手法を打ち出し、数年で莫大な富を築き、領主としてはカチンの民をよくまとめ、瞬く間に巨大都市を作り上げた。そして軍人としては、単独で数万という軍勢を動員する……王配とするには惜しい才能だった」
こう真正面から褒められると、なんだかむず痒い。
「もしかして、オリオン様をレオノールの婚約者にしたのは……」
「そう。公爵家の人間にすることで、王位が継承できるようにしたのだ。かなり危ない手だが、ダンや他の王族が王になるよりはマシだ。ーーそう思っていたのだが、まさかアリスがそれ以上のことをしてくるとはな」
ルドルフ公は苦笑する。政務の多さに嫌気がさしたアリスが、皇帝という地位に俺を祭り上げてフィラノ王国を潰すとは考えていなかったのだろう。しかし、それは非難するものではない。
「ごめんなさい」
「何を謝る。街を見てみろ。民は笑顔で満ち溢れている。余は隠居してよく街に出向いたが、誰もが暮らしやすいと言っていた。これもすべて、オリオンの優れた統治があってこそだ。民の幸せが、王族にとって何よりの幸せ。アリスの決断は正しかった。英断を行った賢君として、後世に名を残すだろう」
ルドルフ公は若干の悔しさを滲ませつつ、そう語った。自身の国がなくなったことは惜しいが、内乱が起きた時点でそれも覚悟していたらしい。それに王国の血統は、竜帝国の皇帝にとり重要な要素だ。というよりフィラノ王国の後継政権であるため、蔑ろにはできない。
「孫はいいな。アリスの子が一番可愛いが、他の子もまた可愛い。そして何より、賢い。国を滅ぼすようなバカはいないだろう」
それは褒め言葉であり、自嘲でもあった。国を滅ぼした自分に対しての。
「……お父様。ご病気を治して、また子どもたちと遊んであげてください。あの子たち、お父様と遊ぶのを楽しみにしていたんですから」
「そうだな」
アリスの呼びかけに、ルドルフ公は頷いた。それから疲れたという彼を休ませるべく、俺たちは退室した。
「……アリス。覚悟はしておけよ」
「はい」
もちろん、ルドルフ公の死だ。できることはやるが、あの様子だともう長くはない。その覚悟を求めた。非情だが、俺は無駄に期待を持たせない方がいいと思っている。だから言うべきことは言う。長い付き合いであるから、アリスもそれはわかっていたようだ。
「ーーところでカール公がいなかったが……」
「おじ様はまた古傷が痛むみたいで、治ったら見舞いに行くそうです」
俺の疑問にレイチェル姉さんが答えてくれた。
「そうだったのか」
こちらはいつものことなのでスルーする。気になるのは頻度が高いことだが、身体にガタがきているということで納得した。
ルドルフ公にはベルショールを派遣してできる限りの処置をさせたが、その甲斐なく、面会の三日後に没した。治療にあたったベルショールによれば、肺炎とのことだ。
そして何よりも驚いたのは、ルドルフ公が没したと報せを受けた夜、カール公が突如として肉体痙攣を起こし、危篤に陥ったという情報だった。
「すぐにレオノールを呼べ!」
使者は旧王都から早馬でカチンまでやってきた。タイムロスがあって間に合うかは不透明だが、そんなことは後でいい。レオノールを連れてカール公の邸宅がある旧王都へ魔法で移動する。転移先では、このことを予測していたらしい使用人が待っていた。
「お待ちしておりました、皇帝陛下」
「挨拶はいい! カール公は!?」
「……既に」
俺の問いに、使用人は力なく首を振った。フラッとよろめいたレオノールを支える。そりゃショックだよな。家族の死に立ち会えなかったんだから。
「兆候はなかったのか?」
「……」
「沈黙は肯定と受け取るぞ?」
そう言うと、使用人は諦めたように頷いた。
「ございました。お医者様によれば、破傷風だと」
カール公の医者となれば、ベルショール! あいつ、わざと報告を上げなかったな! だが今になって発症するとは。
「申し訳ございません! 大旦那様からは、皆さまには絶対に漏らさぬようにと口止めをされていたのです」
「だからといって、報告しなかったことを正当化できるわけでもあるまいに」
「……」
使用人は押し黙った。なおも俺は叱責するため口を開くーーそれを、レオノールが止めた。
「旦那様……」
彼女は首を左右に振る。いいのか、と訊けば、しっかりと頷いた。
「それが父の意志なら」
「わかった」
彼女がそう言うなら、俺が責める筋合いはない。むしろ、少しやり過ぎた感さえある。俺は使用人に謝罪した。
「すまなかった」
「いえ。滅相もございません」
「父のところへ案内していただけますか?」
「もちろんでございます、奥様」
使用人は奥の寝室に案内する。そこでは、カール公が安らかな顔で眠っていた。
「いつになく柔らかいです」
ピクリとも動かない父親の手を握りながら、レオノールは気丈にも笑った。
「そうだな」
と、俺はただ同意することしかできなかった。二人の死は、俺も悲しい。この世界でお世話になった人々だからだ。無茶振りをされることもあったけれど、今の俺があるのは間違いなく二人のおかげである。
しかし、いつまでも悲しんでばかりはいられない。邸宅にレオノールを残し、俺は皇城へ舞い戻る。そこで二人の死と国葬を行うことを発表した。
そして一週間後。カチン郊外の演習場で大規模な国葬が営まれた。参加者は俺以下の帝都在住の皇族、貴族、外国使節に民衆など。特に旧王国の貴族は、爵位を剥奪した者も含めて全員呼んだ(参加の義務は負わせていない)。
二人の棺を前に、俺は誄詞を読み上げた。普通の葬儀なら勅使を遣わせるが、今回は先王の死である。次代の俺がやるのが適当だ。
「両公、共に天寿を全うす。なんと悲しきことかーー」
そう切り出した誄詞は五分ほどになった。簡単にいえば、これまでお二人にはお世話になりましたが、そんな二人が亡くなって悲しいです、ということを小難しい言葉を使って述べる。
「ーー両公の功績は未来永劫、語り継がれることになるだろう。そのような人物を送ることは、なんと悲しいことか」
最後にそう結んだ。その後、貴族代表、平民代表と弔辞を読んでいき、最後に喪主であるアリスとレオノールが謝辞を述べた。
二人の遺体は荼毘に付される。その後、遺骨は歴代のフィラノ国王が、マクレーン公爵が葬られている墓地に納められる。二人の死は、アリスたちだけでなく俺にも己の『死』について考えさせられるものだった。




