10-1 偽りの平和
ーーーオリオンーーー
ブレストで華帝国との平和条約を結んで一年。竜帝国はとても平和だった。
アクロイド王国は、予定通りカレンが王位に就いた。同時に竜帝国の構成国に組み込まれている。ナッシュ王国同様、共同統治(同君連合)を行なっていた。
割譲されたミーポーの治安も安定している。すべてはミーポー総督であるアナスタシアのおかげだ。最初は親の仇でも見るようだったが、積極的な福祉政策のおかげでかなり懐柔できたとのこと。
アナスタシアは報告していないが、秘書官(次期総督)のメアリーによればアナスタシアの人気は高く、ちょっとした宗教になっているという。聖女の面目躍如といったところか。……いや、同姓同名のそっくりさんだったな(公式見解)。
さて、そろそろ現実逃避は止めよう。目の前の人物がヤバい。それは誰かって? 愚問だな。我が愛妹にして愛妻、何より国庫の番人であるソフィーナである。
「ちょっと、お兄ちゃん!」
ガルルル、と猛犬のように唸るソフィーナ。怒り心頭といったご様子である。なぜこんなことになっているのかというと、またもやらかした華帝国。彼らからの賠償金支払いが滞っているのだ。
きっかけはつい最近起こった内乱。敗戦によって皇帝権力はガタ落ち。我も我もと新たな皇帝を名乗る人物が現れ、華帝国は内乱に突入した。この前、『内乱起こって払えません。許して』という手紙が届いた。腹が立ったのでその場で破り捨てた。お粗末というか、幼稚だ。
そして、それに誰よりも怒ったのが財務大臣のソフィーナ。せめて戦費だけでも回収しないと財政がやゔぁい、と瘴気を放っている。お金になると誰よりも厳しいのだ。俺になんとかしてほしいと、毎日やってくる。勘弁してくれ。
「そう言われてもなぁ……」
もういっそ、もう一回戦争やっちゃう? なんてふざけたら、ソフィーナにしこたま怒られた。ついでにオーレリアも呼ばれて、硬派二人にこんこんと説教された。およそ二時間。地獄を見たね。もうふざけない。
とはいえ、それくらいしか解決方法がないのも事実である。いくら催促しても、内乱が収まらなければとてもじゃないが払える額ではない。領地も狭まり、収入も減っているだろう。ない袖は振れないのだ。
「とにかく、お金になればなんだっていいの。せめて戦費だけは回収して!」
ソフィーナは半泣きになって懇願する。彼女はこの戦争に反対していた。押し切ったのは俺たちである。だが、自分も最終的には同意した。だから自分にも責任がある、とソフィーナは言い、こうして解決に向けて動いている。ここで動かねば漢が廃るというものだ。
「……なんとかやってみるよ」
だから落ち着くように、と抱きしめる。
「うん」
と、ソフィーナは幼子のように返事をした。可愛い。これでもアラサーなんだぞ? 信じられるか?
「できなくても勘弁してくれよ」
「それはダメ」
一瞬にしていい空気が台なしになった。ふざけすぎた。反省している。ただし後悔はしていない。
ーーーーーー
結局、俺がとったのは物納への切り替えだった。ミーポーから使者を出し、皇宮の宝物を差し押さえる。それらを売り払って、賠償金の代わりとするのだ。相手の反対は、最後通牒をちらつかせて黙らせた。内乱に他国が攻めてくるなどもはや悪夢でしかない。だから彼らは引き下がった。
滅亡されても困るので、十年分割払いのうち九年分の物品を差し押さえる(初回は払われていたためその分は見逃す)。一年分を払うごとに返却し、滞納すれば売ることにした。すぐに一年分は売っている。その先は敵対する勢力。皇宮ゆかりの品を手にして、己の正当性を高めようとバカみたいな値段で売れた。敵対勢力からも資金を奪い、内戦を泥沼化させる。なぜかって? その方が儲かるからだ。差額は迷惑料。下衆というなかれ。
そのように始末をつけたところで、華帝国の内乱をめぐるゴタゴタはだいたい片づいた。ちゃんと片づいたぞ。モルゴが介入しようとしているらしいが、知らん。そんなことよりも、大事なのは平和を満喫することだ。
平和を満喫しよう、そんなコンセプトの下に始まったのがナハへの慰安旅行。戦争で荒んだ心を癒しましょう、というものだ。さすがに皇族全員となると政務が滞るので、家ごとにわかれて行く。まずは従軍した母子から……と思ったのだが、クレアたちからまず内政組と一緒に行くようにと説得された。影も形も見なかったのだから、そっちからと。正論である。というわけでアリス、レオノール、ソフィーナ、オーレリア、ラナ組で行くことになった。
「オリオン様ぁ」
アリスが腕に抱きついてくる。移動中の馬車でも、ナハの離宮でも。食事でも妙に『あ〜ん』といって食べさせようとし、就寝時も抱き枕のようにむぎゅっと抱きついてくる。とにかく甘えまくるのだ。護衛としている近衛師団の将兵はお腹いっぱいといった表情。うばぁ、と砂糖を吐いてもおかしくない。
「またですか……」
「まったく……」
真面目なレオノールとオーレリアは呆れ顔。
「む〜っ」
「いいな〜」
ソフィーナとラナは羨ましそうにこちらを見ている。やってあげるから助けて。
不満に思っているのは母親組だけではない。子どもたちも最近居なかった俺をアリスに独り占めされて激怒している。その筆頭はアイリス。
「お母さま! お父さまをどくせんするのはよくないと思います!」
両腕を組んでプンスカと怒っていた。
「そうですよ、アリスお母様。アイリスにもお父様とのスキンシップの機会を与えてあげてください」
「教皇としての仕事もあって、しばらく会ず寂しがっていたんですから」
アイリスの背後に立ち、援護するのは異母姉であるレイラとセリーナ。一見、妹思いのいい姉に思えるが、伊達に親はやっていない。あれはブラフ。二人の真の狙いは、アイリスを神輿に担いでアリスを俺から引き離し、三人で構うように要求することだ。やることが黒い。
俺はサヨリのような娘二人の母親を見る。どちらもさっと目を逸らし、その先で目が合った。両者の間に火花が散る。
ソフィーナは、娘がああなったのはレオノールがろくでもないことを吹き込んだからでしょ、と。
対するレオノールは、あなたが子育てをちゃんとできなかったからでしょ、と。
なんとも、頭の痛い問題である。基本的に仲のいい我が家の、唯一といっていい対立だ。もっとも二人ともバカではないし、権力に目が狂っているわけでもない。なので、決定的な対立にまでは至っていないのは幸いだった。
そんな感じであちこちに対立が生まれる。こんなギスギスした空気では折角の慰安旅行が慰安でなくなってしまう。ここは一喝してやろうーーと思っていたのだが、機先を制されてしまう。
「お母様。これ以上はみっともないので止めてください。アイリスも、後でお父様に遊んでくれるように俺も頼んでおくから。レイラとセリーナは後で説教な。それから母様たちも止めてください」
と、ウィリアムが仲裁したのだ。アリスは『みっともない』という言葉が琴線に触れたのか、俺から離れた。アイリスも兄の言うことであり、何よりアリスが俺から離れたことによってとりあえず満足したらしい。いがみ合っていた母親二人も、矛を収めている。ただレイラたちは、
「な、なんでお説教されるの?」
「うちの妹を唆した罰だよ」
「言いがかりだ! 裁判を要求する!」
激しく抵抗していた。産まれた順番的にいうと、レイラたちはウィリアムの妹になる(といってもほんの数ヶ月の差だ)。少しの差だが、どうも腹黒コンビはウィリアムと相性が悪い。普段は他人を手玉にとる二人も、彼の前ではたじたじだった。つか裁判って……。こんなことでしなくていいだろうに。
ともあれ、ようやく本格的なバカンスだ。今は夏だから、湖でのバカンスにバーベキュー。湖から獲れる鮎(っぽい魚)を塩焼きにすると美味い。炭火でじっくり焼くと最高だ。考えただけでも涎が出る。
「食材の用意はできたか?」
「はい。御用牧場で栽培された朝獲れ野菜と、同地で育てられ、適度に熟成された各種のお肉、湖で獲れた鮎をご用意しています」
メイドに訊ねると、パーフェクトな回答が返ってきた。御用牧場とは、皇族が口にする食材を生産させるために各地に設けられた農場のことだ。そこでは野菜や家畜などが飼育栽培されている。
「素晴らしい」
「恐縮です」
俺が褒めると、メイドは恭しく頭を下げた。食材は彼女たちの手によって下ごしらえがされている。 完璧な仕事だ。今度の給料日にはボーナスを弾むようにしよう。
さてさて、ではバーベキュー本番だ。まずは火つけ。木を井桁に組み、紙の代わりに枯れ草を着火剤にして燃やす。簡単なように見えて、テクニックが必要だ。まずは火種の準備をーー、
ーーゴォォォッ!
そんな音がした。見ると、メイドがバーベキューコンロに炭をぶち込み、魔法の火で燃やしていた。高火力で強引に火をつけている。……その発想はなかったわ。
「陛下。準備が整いました」
「う、うむ」
俺はさっと木材や枯れ草の類を隠した。ちょっとバツが悪い。そして何事もなかったかのようにバーベキューを開始した。トングを持ち、肉や野菜を焼いていく。本来はこれもメイドたちの仕事だが、久しぶりの子どもたちとの交流ということで、今回はサポートに回ってもらっている。そもそも俺が料理することもあるので、抵抗感もあまりない(慣れているともいう)。
網が十分温まった頃合いを見計らって肉を置けば、ジューッという音とともに芳しい香りが立つ。そうなると必然、人を引き寄せるわけで……
「お肉だ!」
「おいしそー!」
と、ちびっ子を中心に寄ってきた。俺はメイドたちに指示して、くれぐれもコンロに触れさせないようにする。子どもたちが苦しむ様子を見るのは辛いからな。魔法で治せるとはいえ、やはり苦しまないのが一番だ。
「ほら、できたぞ」
焼き上がり次第、子どもたちに与えていく。熱々のやつだ。子どもたちは勢いよく食べ、熱くて冷まそうと口のなかではふはふと必死に空気を取り込んでいる。微笑ましい。
だが、バーベキューだからといって肉だけ食べるのはよくない。栄養バランスが偏ることは問題がある。だから肉ばっかり食べている子には、持ってきた皿に野菜を入れてやるのだ。
「父上! 野菜じゃなくて肉が食べたいです」
「はははっ。偏食はよくないぞ。ちゃんと野菜も食べないとな」
「食べるから肉!」
「言ったな? じゃあ、ちゃんと食べてから持ってきなさい」
言質はとった。それを盾に、約束の履行を求める。……ズルイと言うな。子どものことを考えた愛の鞭だ。もちろん、ちゃんと食べたなら約束通り肉をやる。そこはズルしない。
「お父様! 遊びましょ〜!」
小一時間もすると、子どもたちの多くは満腹になる。ここからは二手に分かれる。満腹で眠くなる小さい子どもと、元気になる大きな子どもとに。前者は母親やメイドに収容され、パラソルの下で寝かされる。一方の後者は、元気に湖で遊んでいた。俺を呼んだのは、そんな元気組のレイラたちだった。大きく手を振っている。早くこいと急かしていた。
「今行くよ!」
この場にいる子どもたちのなかでも年長組だろうに、と苦笑しつつも親の前ではいつまでも子どもかと嬉しくもある。俺は娘たちの声に返事をして、そこへと向かう。が、その途中で足が地面にはまった。
「うわっ!?」
体勢を崩し、バシャンと転倒した。うーむ、歳かな……なんて思っていると、娘たちが大きな笑い声を上げた。
「あははっ! お父様、引っかかりましたね!?」
「騙された〜」
どうも、彼女たちの仕業らしい。足下を見れば、湖底に壺が埋まっている。これに足をとられたようだ。
……この野郎。
「「「陛下!?」」」
「大丈夫だ。問題ない」
駆け寄ろうとするメイドや妻たちを制止する。俺はぬらりと起き上がり、愉快そうに笑う愛娘たちを見据えた。
「お前たち、覚悟はいいな?」
ちょっと凄んでみる。子どもたちにはまだ使ったことのない皇帝ーー支配者としての顔だ。すると、レイラたちがビクッと肩を震わせる。
「お父様? 違うんです。これはセリーナがーー」
「ちょ、責任を押しつけないでよ。お父様、レイラも共犯です!」
早速、仲違いを始めた。儚い関係である。が、どちらが下手人かなど関係ない。どちらも共犯だ。悪い子には当然、
「お仕置きだ」
……最近は極力使わないようにしていたが、レジャーで披露するくらいはいいだろう。というわけで、久しぶりに能力【亭主関白】を使用する。帝国はもはや全土が俺のもの。帝国でできないことはない!
俺の周囲にある湖水が動き、津波のように二人へと押し寄せた。二人は魔法で防ごうとするがーー
「あれっ?」
「魔法が!?」
発動しない。まあ、妨害しているのだから当然だ。大波は二人を容赦なく呑み込む。まあ、下手すると溺死するので救済手段は用意してある。両手両足を氷の枷で拘束された娘二人が、水でできた触手に絡めとられて現れた。
「お父様! ズルイです!」
「大人気ないですよ!」
プンスカプンスカ、と世のお父さんたちの精神に必殺の攻撃力を秘めた非難が飛ぶ。
「……娘と遊ぼうとしていた俺の心を踏みにじった悪い娘にはお仕置きだ」
しかし俺は意に介さず、二人にお仕置きを開始した。とはいえ叩くとかそういう暴力行為ではない。くすぐる。二人とも、これにとても弱いのだ。手をわしゃわしゃさせていると、二人とも俺の狙いに気づいたらしい。整った顔が引き攣る。
「お、お父様……?」
「ゆ、許して……」
「ダメだ」
というわけで、刑執行。
「あはははっ、あははっ! お父様、許しーーあははは……っ!」
「っ〜〜〜もうダメ! ははは……っ!」
レイラは最初から笑う。セリーナは少し耐えていたが、堪えきれず笑った。古代ローマではこれも拷問の一種だったらしいが、親娘のスキンシップとして許される範囲だろう。
一分ほどのくすぐりを終えるころには、二人とも息も絶え絶えといった様子だった。
「これに懲りたら、もうやるんじゃないぞ」
不意打ちはいけない。山本五十六曰く、『やるならせめて、相手の枕を蹴ってからやれ』の精神だ。
「「ひゃい……」」
笑いすぎて表情が戻らなくなったか、二人は引き攣った笑みで応えてくれた。
「よし、じゃあ遊ぶか」
そう言って俺は子どもたちと日が暮れるまで遊んだ。
ーーーーーー
夜。子どもたちはその長幼にかかわらず、遊び疲れて眠っている。起きているのは、俺とアリスたち親だけだ。
「ふう。疲れたぞ、さすがに」
ソファーに座ると、無意識にそんな声が出た。これにアリスたちは苦笑する。
「お兄ちゃん、はしゃいでいたからね」
ソフィーナが揶揄するように言う。年甲斐もなくはしゃいだのは事実なので、否定しにくい。戦乱から解放されて、久しぶりに子どもたちと会ったからということで許してほしい。
「でもこれで平和になりそうですし、よかったです」
と微笑むアリス。しかし、俺やオーレリアたちは難しい表情になる。
「……それはどうでしょう?」
なんとなく否定できずにいると、オーレリアがスパッと否定した。相変わらず遠慮がない……。
「平和にならないんですか?」
「そうと決まったわけではありません。華帝国は現在、内乱状態にあります。これが続く限り、我が国は平穏でしょう」
「でも、これにモルゴが介入しようとしてる。そうなると内乱の終息が早まって、帝国に再度の戦争を仕掛けてくるかもしれない」
モルゴは野戦で負け知らず。攻城戦も補給にさえ気をつければ攻撃側が有利であり、そうなれば戦乱の収束は加速するだろう。いついかなるときも戦争の準備は欠かしてはならない。平和とは次の戦争への準備期間である、といわれるが、帝国の現状はまさしくそれだった。戦争の足音は既に聞こえている。
「そうなのですか……。頑張ってください。私は何もできませんがーー」
アリスはそう言って笑う。ただ、その笑顔はどこか儚げで、無理をしていることがありありとわかった。そんな彼女を、俺は後ろから抱きしめる。
「あっ……」
「アリス。そんなことを言うな。俺が色々なところーーというか大半が戦地だが、とにかくそこへ行って、帰ってくると笑顔のお前が出迎えてくれる。話しかけてくれる。それで癒されるんだ。国がまとまっているのも、お前がいるからだ。だから、そんな風に自分を卑下するな」
と、日ごろの感謝を口にした。本当にアリスには感謝している。優しく包み込む包容力とでもいうのだろうか。それがずば抜けて優れているように思える。
たしかにアリスはソフィーナやシルヴィのように、特筆した活躍はない。妻のなかでは目立たない存在だ。だが俺は彼女こそ皇帝の正妃たる皇后に、「国母」に相応しいと思っている。たとえイアンたちがアリスを皇后の座から下ろすように言ってきても、断固として拒否するつもりだ。
戦史では有名な将軍の名前が持て囃される。古くはハンニバルやカエサル、近くは東郷平八郎やロンメル。もちろん彼らの貢献が大きいことは否定しない。だが、真に賞賛されるべきは彼らの下で勇敢に戦った無名の戦士(兵士)たちである。そして彼らを支えたのは、これまた名もない家族や恋人だ。アリスはそんな存在なのだと思う。
「嬉しいです。とても……」
アリスは嬉し涙を流しながらぎゅっ、と抱きついてきた。そしてありがとうございます、とキスをしてくる。
「わたしも〜」
いい雰囲気で見つめあっていると、そこにラナが乱入してきた。そして言葉通り、俺にキスをしてくる。いきなりだな、おい。
「ラナーー」
と文句を言おうとしたが、そうはいかない。
「二人ともずるい! わたしも!」
ラナに触発されてソフィーナも参戦。
「旦那様ぁ〜」
甘ったるい声を出してレオノールともキス。そして残るは……
「……」
プルプルと震えているオーレリア。やばい。起こったか? 恐る恐る様子を伺うと、キッと俺を睨んできた。ひいっ! オーレリア恐い。ーーなんて目を瞑った直後、柔らかさを感じた。唇に。犯人? そりゃひとりでしょ。目を開ければやっぱりオーレリアの顔が間近にあった。いい香りがする。俺の好きな柑橘系の香りだ。
一番最後にやったからか、これまでの誰よりも長い。時間にして一分以上。飽きないよう、舌を使うなど変化している。……よく息が保つな。俺は不意打ちだったこともあり、切れそうである。情けないことに。
「ぷはぁっ」
ようやく解放された。ゼーゼーと空気を求める。ちょっとやり過ぎではと抗議の視線を送れば、そこには顔を上気させたオーレリアが。……あー、これは完全に出来上がってますね。
「お兄ちゃん……」
「おーちゃん……」
ソフィーナとラナもジリジリと迫ってくる。
「オリオン様っ!」
「わっ!? ちょ、アリス! 落ち着け!」
「ごめんなさい! でも治まらないんです。私、私ーーっ!」
暴走したアリスにはソファーに押し倒された。って、力強いなおい!
「ちょ、レオノールさん? 傍観してないで助けていただいても!?」
愛しの旦那様の貞操の危機ですよ? 今さらすぎる発言だと思うが、そんな細かいことはどうでもいい。が、
「はむっ」
レオノールは何かを飲み込んだ。しばらくして色気が爆発的に増す。押し倒された俺にしなだれかかってくる。やばい。なんか俺も身体が熱くなってきた。
「ようやく薬が効いてきましたね」
「盛ったのか!?」
「はい」
いや、はいじゃないから。ということはアリスたちがおかしいのもーー
「わたしのせいですよ」
うぉい! 抗議の声を上げるが、スイッチが入った彼女たちは止められない。俺にできたのは、せめてリビングではなくベッドルームに場所を移すことだけだった。
あ、レオノールにはお仕置きとして足腰立たなくなるまで激しくしました。この後遺症でレオノールはバカンスを完全には楽しめなかった。ザマァ。




