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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第九章 パクス・ドラゴニア
128/140

9-13 ブレスト条約

 



 ーーーオリオンーーー


 タート目前のファンフー流域にて、俺たち竜帝国と同盟国であるモルゴ、イディア連合軍は華帝国軍を破った。華帝国軍は敗走し、タートに籠城。俺たちはタートを包囲した。

 色々と落ち着くと、まずこの戦いで決定的な役割を果たした人物を褒める。


「カレン。よくやった」


「ありがとうございます、陛下」


 カレンは自身が率いる騎兵旅団に、他師団の騎兵部隊を(必要最低限残した上で)糾合。騎兵単独の快速部隊を作っていた。そして、水路ではなく陸路でウハンからタートまでやってきた。会戦では華帝国軍に横合いから奇襲をかけ、勝利を決定づけた。

 その発想力、実行力ともに素晴らしい。戦後は功績による昇進は確実だな。


「リアナもよくカレンの行動を許したな。それも十分、賞賛に値する」


「恐縮です」


 リアナも戦後は昇進だ。

 さて。俺の正体がバレないよう『今後の行動に関する秘密の話し合い』ということで人払いをしているが、あまりに長いと怪しまれる。そろそろ切り上げるか。

 密談が終わると、俺はモルゴ、イディア軍に表敬訪問するクレアたちと一緒に両軍の陣地を訪問していた。


「おお、久しいな、シゲル殿!」


 ドルジは俺を目にした瞬間、こちらに駆け寄ってきた。いやー、あの、知り合いですけどね? やっぱりそれなりの礼儀があるわけでして……。正体は皇帝だけど、今の俺はいち外交官。お隣にいるのは皇妃殿下。どっちが偉いかは一目瞭然。

 ーーしかし、はっきりとものを言えないのが日本人。そして、なんとなく相手に迎合するのも日本人だ。


「お、お久しぶりです。ドルジ殿」


 一応困惑してるんですよ、という雰囲気を出しつつ言葉を返す。せめてもの抵抗で、ひと言に留めておく。そして自然な流れで隣の貴人を紹介しようと思ったが、それより先にドルジをたしなめる人物がいた。


「ドルジ殿。まずはこちらの方に挨拶するのが先ですよ。ーー失礼いたしました。僕はイディア軍を率いているアニクと申します」


「オレはモルゴの長、ドルジだ」


「アニク様にドルジ様ですか。はじめまして。わたしはクレア・パース。皇帝陛下より、この地への遠征軍を任された者です」


 代表者たちがそれぞれ挨拶する。


「へえ。竜帝国は女も戦うのか」


「数は少ないですが、いますよ」


 ドルジの疑問に、クレアは肯定で返した。


「ところでシゲル殿。あの話はどうなったんだ?」


 あの話? ……………………ああっ!


「皇子殿下にご息女を嫁がせるというお話ですね」


「ああ」


 完全に忘れてた。まあ、本人なんでこの場で適当に考えればいいんだが。


「それでしたら伺っております。ーー陛下は、婚姻とは各人の自由意志に基づくものであり、それはたとえ皇族であっても例外はない。それは帝国憲法および民法に明記されている。よって提案を受け入れることはできない。しかし、皇子殿下とご息女が望まれるのならその限りではない。なので後日、交流会を開催したいとのことです」


 どう言い繕っても政略結婚という側面はなくならない。それでもその度合いをなるべく抑えるために、子どもたちを会わせた上で相性がいいようなら決めようというのだ。完全に断らず余地を残し、ドルジの面子を立てた形だ。


「わかった。オレの娘はどれもいい女だからな。きっと気に入るだろう」


 ドルジは自信満々だ。だが、どうなるかは俺もわからない。娘たちはある程度予想できるが、息子たちは浮いた話ひとつないからな。

 その後、クレアとドルジたちが俺を交えて話した。夜には竜帝国の陣地で、簡単なパーティーが開かれる。幹部は立食形式で、その他の将兵もいつもより豪華な食事が振舞われた。不公平感をなくすために、モルゴやイディアにも同じものが提供されている。また、非番の者にはノンアルコール飲料ビールやワインも許可していた。ノンアルコールなのに非番の者にしか提供しないのは、プラシーボ効果で酔っても問題ないようにするためだ。

 その宴会の後、俺はドルジやアニクとの時間を設けた。そこで積もる話をしようというのだ。そのなかでも特に二人が一緒に戦った西部戦線での話は面白い。


「なるほど。野戦が得意なモルゴ軍と守備や攻城戦が得意なイディア軍とで役割分担をしたわけですか。よく協調できましたねーーいや、それもお二人の人望あってのこと」


 多国籍軍をまとめるのはなかなか厄介だ。指揮系統が異なり、手柄争いに終始。手を取り合うよりは足を引っ張り合うといったイメージがある。それがなかったのは、ひとえに二人のカリスマによるものだろう。


「止めてください、シゲル殿。僕たちも驚いているんですから」


「ああ。この短期間に内陸のタートまで入ってきたのは驚いた。オレたちより早いじゃないか」


「これは皇帝陛下のご発案でして……少しズルしただけですよ」


「謙遜しないでください」


「そうだぞ。それに、戦地でこんな美味い料理が食えるなんてな」


「二十万人が宴会できるほどの食糧を確保するのは大変だったでしょう」


「そうでもありません。これらはすべて本国から運んできているので」


「なんと!?」


「嘘だろ!?」


 二人は驚いたようだ。まあ、普通に考えてあり得ないわな。驚くのも無理はないが、反応が面白くてつい笑ってしまう。


「本当ですよ。さすがに生ものは運べませんが、小麦や米、干し肉などはすべて本国から運んでいます」


「いったいどうやって?」


「アニク殿はよくご存知のはずですよ。少し時間はかかりますが、一度に多くの荷が運べる手段を。ほら、近くにその“道”があるじゃないですか」


「船!」


 大正解。本国ーーより正確にはブレストに集積した物資を船でミーポーに運び、そこからさらにチャンチアンやファンフーなどの河川を使って運ぶ。もっといえば、ブレストに集めるときにも河川交通網は使われていた。陸を移動するより船を使う方が安上がりだ。自分たちで食糧を賄うことで、作戦に制約もかからない。


「なるほど……。しかし、それではかなりの資金がいるのでは?」


「これくらいなら、我が国は平気ですよ」


 ーーなんて強がりを言ってみる。本当は嘘です。ソフィーナからは手紙で怒られまくってます。こんな大軍を動員した戦争をいつまで続けるつもりだ、早く終わらせろ! と。でも外国にはーーたとえ友好国であってもーー弱みを見せるわけにはいかない。だから平気ですよアピールをするのだ。


「凄えな」


 ドルジはからからと笑っているが、


「ははっ……」


 アニクは笑顔が引き攣っていた。どうやら彼は、うちの恐ろしさに気づいたらしい。さすがは商業国の代表だ。一方、ドルジは気づいていない。こっちは目に見えてわかる強さーー武力(軍事力)でないとわからないか……。クレアに伝えておこう。

 さてそろそろ切り上げようかな、と思っていると、そこにリャンオクが現れた。


「おっ。お前はあのときの」


「ご無沙汰しております」


 ドルジが声をかける。声をかけられたリャンオクは、失礼にならない程度に挨拶した。そして、俺に目を向ける。


「シゲル様。ご報告です」


「どうしました?」


「敵将チャン・ボンギルが皇帝の使者と称して参っております。和睦交渉ということですので、クレア様がシゲル様をお呼びするようにと」


「わかりました。……ところで、それはわたしたちだけですか? それともモルゴとイディアも含めて?」


「モルゴとイディアも含めた和睦だそうです」


「ならばお二人にもご一緒していただきましょう。それぞれの代表者ですから」


「わかりました」


 リャンオクはそのことをクレアに伝える、と言って先に行った。


「それでいいですか?」


「もちろんです」


「ああ」


 二人とも俺の提案に賛成してくれた。そして場所を移動し、クレアのもとに向かう。そこにはリャンオクが言った通り、ボンギルがいた。


「ボンギル殿。こちらが我が国の外交担当のヨシダ殿です。そして、モルゴの長ドルジ殿とイディアの代表アニク殿です」


「外交担当のヨシダです。早速、交渉に移りましょう。それで、そちらの条件はどのようなものなのですか?」


 事前の協議で、話は外交の専門家である俺が進めることになっていた。ドルジたちは条件を呑むかどうかを決めるのだ。

 ボンギルは一拍おいて、太宗から伝え聞いた条件を告げる。


「金と望むままの称号を与えるとのことです」


 聞いた瞬間、俺は突っ込みたかった。特に後者に信長かよ、と。そして随分と太っ腹な話だ。この提案を聞いて、俺の返事は決まった。


「お断りします」


 そう言った瞬間、ボンギルが目を丸くした。この提案を断るなど思ってもいなかった、といわんばかりだ。そして、クレアたちも驚いている。

 だが、考えて欲しい。称号を与えるということは、つまりここで俺が皇帝号を要求したとしても、それは華帝国より与えられた地位に他ならない。つまり実質はともかく、形式的には華帝国の臣下となるわけだ。それを容認するわけにはいかない。


「僕もお断りです。僕たちが求めているのはお金ではありませんから」


 アニクも続いた。彼が求めているのは賠償金として得られる泡銭ではなく、港の使用権を得ることで生まれる商業的な利益である。短期的に見れば前者の方が多いが、中長期的には後者の方が多い。何より、イディアの努力次第で利益は青天井だ。どちらを選ぶかは考えるまでもない。


「お、オレも反対だぞ」


 やや遅れてドルジも反対を表明する。だが、顔にはせっかくなんだからもらっておこうぜ、と書いてあった。反対したのも単に、孤立することを警戒したからだろう。ここが商人的な考えをする俺やアニクと、武人的な考えをするドルジとの差があった。

 取りつく島もない対応に、ボンギルはこの交渉が失敗に終わったことを悟ったようだ。しかし、彼はここで帰ったりはしなかった。


「では、貴殿らが望む和睦の条件は?」


 と訊いてきたのだ。相手に伝言するだけなら子どもにもできる。だからボンギルは子どものおつかいの域からはみ出た行動をとらなければならなかった。そして考えた結果、せめて相手が望む条件を引き出そうとしたらしい。これは交渉の基本であるため、俺も別に隠すことなく応じた。


「この戦争にかかった戦費の補償と、ミーポー周辺の割譲ですね」


 ちなみに戦費は特別会計がとられている。その金額は現在も絶賛膨張中だ。たしか金貨にして一億枚だったか? 陸海軍合わせて二十万以上が動員されているのだから当たり前だといえた。なお、足りない分は他の貴金属貨幣や更なる領土割譲によって補填してもらう。ただその金額を正直に言うと話がこじれそうなので言わないが。


「僕たちも戦費の補償と、領土は要りませんが南部の港の使用権を要求します」


「オレはドウンフアンまでの領土、毎年の貢物、それと女だ」


 それはまた随分と過大な要求を……。本来の要求はどこまでなのか、あるいは本当にそれを獲得できると思っているのか? よくわからない。だが、表面上はこのなかで最も厳しい要求だろう。


「そ、それは……」


 さすがのボンギルも戸惑ったようだ。まあ、俺もそっちの立場だったら同じ反応をしただろう。同情を禁じ得ない。だが華帝国は負けに負け、首都を包囲されているのだ。多少は譲歩できても、大筋で認めてもらわなければこちらも首を縦に振ることはできない。


「こちらはいつでも交渉する準備があります。まずは貴殿の主に、我々の要求を伝えて指示を仰がれるとよいでしょう」


 一見して弱腰の態度だが、穏便な態度ほど外交交渉で怖いことはない。強硬な意見はセンセーショナルな印象を与えるが、それは余裕のなさの現れでもある。だから強気に出て相手をビビらせ、譲歩を引き出すのだ。一方、穏便な態度はその逆である。

 俺たちは戦争が長引こうが、あまり困らない。戦時動員こそ行って師団を戦時編制に拡充しているが、根本的な師団数は変わっていなかった。つまり、無理のない動員であり、生産力の低下も許容範囲内。ゆえに潤沢な物資が港に集積され、定期的に戦地へと輸送されている。お望みなら十年でもここに居座ろう(ソフィーナには間違いなく怒られるが)。

 しかしそうはならない。なぜかというと、華帝国は深刻な状況にあるからだ。まともな準備期間もなく籠城することになり、物資はほぼないに等しい。十年はおろか、一年さえも籠城できないだろう。決断のタイムリミットはそれまで。一秒たりとも無駄にはできない。


「……失礼する」


 ボンギルは足早に城へと戻って行った。


「あ〜あ。せっかくだからもらっておけばよこったのによぉ」


 相手がいなくなったことで、ドルジがそう愚痴った。気持ちはわかるが、目先のニンジンに釣られて掌の金塊を失うわけにはいかない。


「いいじゃないですか。このままなら、提示された条件よりはるかにいい条件を呑ませることができますよ?」


「マジか!?」


「ええ。タートは、遅くても半年後には陥落していますから。ですよね、クレア様?」


「急な籠城なので、用意はほとんどできていないと思われます」


 俺の問いに、クレアははっきりと頷いた。それに、タートが落ちれば要求は先ほど提示したものよりも跳ね上がる。勝敗が言い訳もつかないほどに明らかになったのだから当然といえる。この点はアニクも計算しているようなので、あとはドルジが目の前のニンジンに釣られないようにしておけばいい。

 それからボンギルが何度となく使者として訪れ、和平交渉をしている。しかしその要求は当初からほとんど変わらず、交渉が進展することはなかった。さらにボンギルは日々やつれており、彼にかかる心労と城内の食糧事情とが偲ばれる。だからといって容赦するつもりは毛頭ないが。

 和平交渉をする傍ら、俺たちは華帝国に圧力をかけるよう行動していた。まずモルゴ、イディア軍の主力を呼び寄せるべく、騎兵を中心とした部隊を進発させた。モルゴ軍はドルジが率い、竜帝国軍はカレンが率いる。およそ半月後、ドウンフアン付近の華帝国軍を壊滅させ、対峙していた軍を引き連れて戻ってきた。これによりタートを包囲する軍勢はさらに増える。

 タートを救援しようと近寄ってくる軍勢は、モルゴ軍が中心となって撃退する。各所に点在する陣地で敵を受け止め、突出した部隊をモルゴ騎兵が叩くーーいわゆる機動防御だ。これで華帝国の増援を完璧にシャットアウトしている。……これで大規模な軍勢に対する防御方法は確立されたな。

 そして半年が経過したころ、華帝国はついに無条件降伏を申し出たのだった。


 ーーーーーー


 俺たちは降伏の使者となったボンギルを連れてタートへと入城する。前に来たときは露店が並んで賑わっていた大通りも、今や人っ子ひとりいない。

 そんなシャッター商店街のような通りを、タート接収のために選ばれた精鋭三万は整然と行軍する。臨時の最高統治者には経験と実績からクレアが選ばれた。そして彼女がまず手をつけたのは、住民に対する食糧配給であった。


「押さないで! 一列に並んでください!」


「食糧は十分にあります! 落ち着いて!」


「そこ! 割り込むな!」


 兵士たちの怒号が飛ぶ。それに倍する罵声も飛んでいた。城の各地に設けられた食糧配給所には住民が押しかけて大混乱に陥っていた。予想して兵士を多く配置していたのだが、まったく役に立っていない。食欲という三大欲求の前には無力だった。震災に遭った日本人のような、整然とした秩序は望むべくもない。

 食糧がまったくないだろうことを見越して、事前に本国から大量の物資を輸送させていた。そのすべてが、華帝国に対して有償供与される。儲けが出てウハウハだ。

 さて、そんななかで俺はボンギルを引き連れてブレストにいた。講和会議(竜帝国と華帝国と間)のためである。既にモルゴ、イディアはタートで講和を結んでいた。俺たちだけでブレストでやるのは、政治的なパフォーマンスである。勝者と敗者を鮮明にするために。


「これが我が方の講和条約案です」


 そう言ってオーレリアやレオノール(外務省)、ソフィーナ(財務省)たちがまとめた講和案を示す。主な内容は、


 一、竜帝国と華帝国の戦争状態はこの条約締結を以って終結する


 二、華帝国は竜帝国を承認する


 三、華帝国は竜帝国に対して、今回の戦争でかかった費用の倍額を支払う(支払額、方法については別途規定)


 四、華帝国な竜帝国に対して、今回の戦争で得た捕虜を返還する


 五、竜帝国は華帝国に対して、今回の戦争で得た捕虜を返還する


 六、華帝国は竜帝国に対して、ミーポー周辺地域を割譲する


 といったものだ。いくつか追加されたものはあるが、多くが事前に報せてあった内容だ。ボンギルも特に否はないらしく、これで進めようとの話になった。とはいえ完敗だった華帝国に何かを言える力はなく、また受け入れられない話でもなかったため、提案された条約案がそのまま通った。そして署名をした段階で、俺は仕掛ける。


「では賠償金の話に移りましょう。……これがその条件です」


 俺は用意していた賠償金の請求額を書いた紙を渡す。穏やかな表情でそれを見たボンギルは、直後に目を大きく見開く。


「こ、これは!?」


 本気か? と俺を見る。それに鷹揚に頷いた。

 紙に書かれている請求額は、金貨にしておよそ二億枚。かかった戦費を単純に二倍にしてあるだけだ。普通の国がまず払える額ではない。一応、十年での分割払いにはしてあった。


「無理だ。こんな額、払えるわけがない」


「いや、払ってもらわないと困るのですが?」


 戦争のおかげで財政はカツカツである。不当に要求を釣り上げているわけでもないので、耳を揃えて払ってほしい。


「だ、だが、こんな額、たとえあらゆる金を使っても払えん」


 だろうな。帝国もそんなには持っていない。国債なんかで実態より増えているだけだ。


「ならばこうしましょう。あなたがたは我が国が使用した戦費金貨一億枚を十年分割で払う。残りについては、帝国に鉱山の採掘権を相当額程度譲り渡すということで」


「それは……呑めない。そんなことになれば、我が国は力を失うことになる」


 俺の妥協案も、ボンギルは蹴った。


「はぁ……」


 思わずため息が出た。


「あれはできない、これは無理……。そんな子どもの言い訳がいつまでも通用すると思っているのですか!?」


「っ!?」


 声を荒らげると、ボンギルが驚いた。これまでこんな風に怒ることはなかったからな。

 急に声を荒らげたあとは、また急に静かになる。そしてぽつぽつと独白するように囁いた。


「まあ、応じないというならそれでもいいのです。そのときは条約不履行と見なし、再び攻め入って財貨を強制徴収すればいいのですから」


「そ、それは困る!」


「ならば、この内容を受けてもらいたい。それが唯一の解決策です」

 

 タート陥落前に既に一度チャンスを与えている。今回で二度目だ。さすがに三度目はない。

 ボンギルがーーいや、華帝国が選べる選択肢は二つ。講和せずに徹底抗戦を行い、国土ごと灰燼に帰すか、厳しい条件であれ和睦するか。彼らの答えは、


「わかった。その条件を呑もう」


 後者であった。


「英断です」


 なんて言いつつ、戦争が続かなかったことに安堵する。これ以上やれば、ソフィーナに何を言われるかわかったもんじゃない。あー、よかったよかった。




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