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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第九章 パクス・ドラゴニア
118/140

9-4 ナッシュ姉弟対決

少し短いです。

 



 ーーーリアナーーー


 わたしたちとレノスとの戦争は早々に最終段階ーー敵首都での攻防に移行していました。これもシェスカさんたちが人質の救出を成し遂げたためです。おかげでほとんどの村が味方しました。首都までの道中、わたしたちを阻む者はいません。

 現在、わたしたちは敵首都を包囲しています。北、東、西の三方にそれぞれ一個師団。南側は開けていますが、海岸線を海軍艦艇が見張っています。逃げ道はありません。


「報告! 敵兵五百あまりが南側から脱出しました!」


 伝令がレノスの動向を伝えてくれます。わたしはご苦労様です、と労いの言葉をかけました。キャンベル大将はその報告を聞いて笑っています。


「リアナ様の仰る通りになりましたな」


「はい。よかったです」


 この配置を進言したのはわたしなので、狙い通りになって安心しました。レノスたちの狙いは、アクロイド王国への亡命と考えていいでしょう。孤立無援では長くは保ちませんから。

 逃げることはわかっているので、そのための対策を施しています。南側には海軍がいて、海路で逃げることはできません。陸路にも哨戒線を張っていて、発見次第、待機している騎兵旅団が急襲。部隊を壊滅させ、国境を見張る歩兵師団(第一軍所属)が残兵を掃討するという計画です。


「敵首都の接収に入る。全隊、事前の計画に従い行動せよ。掠奪や暴行、強姦などを行った者は厳罰に処す」


 レイモンド大将の命令が各師団に伝わり、各隊は三方向から侵入。占領しました。彼の命令はそれだけではありません。


「リアナ様。逃走する敵軍を追撃しようと思うのだが、西の第一〇一師団(ナッシュ王国軍)に任せてもいいだろうか?」


「わかりました。独立混成旅団を編制し、向かわせます。ただ、適当な指揮官がいないので……」


「リアナ様に任せたい」


「了解です」


 わたしはその要請を快諾し、第二軍参謀長兼臨時編成の独立混成旅団長になりました。率いる旅団の内訳は二個歩兵大隊、一個騎兵大隊です。

 西へ向かう道は丘陵地帯を通っています。複雑な地形のため伏兵がいるかもしれません。レノスよりも兵力は多いですが、奇襲を受ければどうなるかはわかりません。騎兵を先行させ索敵に努めます。すると、


「この先に敵が潜んでおります」


 との報告がありました。


「やはりそうですか」


「女王陛下のご慧眼、恐れ入ります」


「いえ。このくらい、士官学校を出ていれば誰でも考えつきます」


 大隊長がわたしの機嫌をとるべく褒めますが、予想していた当たり前のことだけに素直には喜べません。


「歩兵大隊はこのまま直進。敢えて奇襲を受けます。全員にそのことを周知させてください。騎兵大隊は集合し、奇襲をかけてきた敵軍の横合いから突撃。敵を分断するように」


「そんなことをせずとも、逆に攻撃を仕掛ければいいのでは? こちらは千五百、敵は五百。数の差は歴然です」


「わたしたちが奇襲を仕掛けることは難しいでしょう。敵は丘の陰に隠れているということですが、周辺は見張らせているはずです。こちらから近づけば、敵に逃げられてしまいます。それよりも作戦が上手くいくと思わせ、わたしたちがいる場所に出てきてくれた方が撃破しやすいと考えました」


「なるほど」


 奇襲に対して奇襲返しをする理由を話すと、納得してもらえたようでした。わたしは騎兵大隊を分離。残りの歩兵大隊のみを率いて街道を移動します。


「女王陛下! 敵です!」


「来ましたか……。全軍、防御に徹しなさい! 無闇な反撃は厳禁とします!」


 右手から敵が突撃してきました。わたしたちは密集隊形ファランクスをとります。防御に徹し、敵に出血を強いる形です。彼我の距離は縮まり、激突。剣戟の音、怒号、断末魔……。様々な音が戦場を満たし、辺りを血の匂いが覆いました。

 前線で指揮を執っていると、戦場の喧騒に紛れて声がします。それは敵のものでした。


「あいつだ! あいつが偽王リアナだ! あいつを捕らえろ! 捕らえた者は貴族にするぞ!」


 興奮して調子が外れていますが、忘れるはずのない声……レノスのものです。貴族になれると聞いた敵兵の士気が上がり、攻勢が強まります。ですが、わたしたちを圧倒するほどではありません。


「負傷者は下がらせて。空いた穴を確実に埋めなさい」


 冷静に、的確に指揮をすれば数の差もあって破られることはありません。人間、目標が達成できないときの行動は概ね二つ。目標を達成するまでやり続けるか、潔く諦めるか。レノスは前者の人間です。


「何やってるんだ! もっとやれ!」


 後ろで盛んに味方を叱咤しています。わたしを捕らえたら侯爵位をやる、と恩賞を釣り上げることで士気を上げています。それを聞いて欲望を刺激された敵兵の攻撃がより苛烈になりました。しかしこの攻撃がもはや奇襲ではない以上、いくら攻勢を強めても無駄です。

 わたしというエサに、敵はしっかりと食いつきました。そのタイミングを見計らって、味方騎兵が飛び出しました。それも丘の上から。凶悪な騎兵の突破力が、丘の上から駈け下ることでさらに強化されています。これを横から受けてはひとたまりもありません。さほど時間をかけず、敵は真一文字に蹂躙されました。騎兵隊が通った道にはもの言わぬ骸しか残りません。

 騎兵の攻撃に合わせ、わたしも総攻撃の命令を下します。分断された敵は脆く、すぐに瓦解しました。もちろん追撃します。


「降伏すれば助けます! 降伏する者は武器を捨て、手を挙げなさい!」


 わたしは馬上で投降を呼びかけます。敵とはいえ、無益な殺生はしなくていいのです。他の将兵も積極的に投降を呼びかけていました。これに応じた敵兵は多く、捕虜は三百ほど集まりました。それらの収容は歩兵大隊に任せ、わたしたちは追撃を続けます。

 視界にはレノスの姿を捉えています。周りには見覚えのある貴族たちも。彼らは馬で逃げていますが、馬術はわたしたちの方が上手く、距離は少しずつ縮まります。


「……止まった?」


 一緒に追いかけていた兵士が呟きました。レノスたちが馬を止めたからです。どういうことでしょう?


「まさか、伏兵?」


 わたしはひとつ思いつきました。付近に協力者がいて、襲いかかってきたら……わたしたちは足の速い騎兵のみ。数は本来よりかなり少なくなっています。最悪の可能性が脳裏をよぎりました。


「すぐに周囲を探ってください!」


「はっ! おい、お前たちーー」


「お待ちください。敵がこっちにやって来ます」


 士官のひとりが、慌しく指示を出すわたしに声をかけてきました。言う通りに敵を見ると、数人が馬に乗って近づいてきます。


「あれは……レノス?」


 その先頭にいたのがレノスでした。


「リアナはいるか!?」


「わたしはここです」


 呼ばれたからには出て行かなければなりません。わたしは前に出てレノスと対峙します。


「ボクと一騎討ちをしろ」


「はい?」


 あまりに唐突なので、わたしは意味がわかりません。なぜ勝っているのに、わざわざ一騎討ちなどしなければならないのでしょう? そう思うのですが、レノスは違ったようです。


「やはり愚鈍だな。ボクの言葉がわからないらしい」


 言葉はわかりますが、意図がわかりません。訂正したいところですが、話の腰を折りそうなので自重します。


「もう一度言う。ボクと一騎討ちをしろ。これで勝った方が真の大王だ! 国を、お前みたいな愚鈍な王には任せられない! 行くぞ!」


 勝手に盛り上がったレノスが槍を手に突っ込んできます。言葉は不要、ということなのでしょうか? 彼の考え方はやっぱり理解できません。


「はぁ……」


 聞き分けのなさに辟易しつつ、わたしも槍を構えます。気乗りしませんが、死にたくないですから。


「はあっ!」


 レノスの刺突は美しいものでした。そういえば稽古で、トドリスは力強く荒々しい動きをしていたのに対し、レノスは美しく流麗な動きをしていたことを思い出します。


「やっ……はっ!」


 次々と繰り出される突き、払い。わたしはそれらすべてを受け流します。


「はははっ! 防御ばかりじゃ勝てないぞ!」


 何が面白いのか、レノスは笑っています。勝利を確信しているようでした。その未来を手繰り寄せようと、攻撃はより苛烈になります。本当、型通りで美しい槍術です。だからこそ、


「予測もしやすくなります!」


 次に繰り出される技を予測し、カウンターを繰り出します。技を使って生まれたわずかな隙につけ入り、レノスの肩をわたしの槍の穂先が突きました。


「ぐわっ! か、肩がぁぁぁッ!? 痛いィィィ!」


 落馬して痛みに呻くレノス。


「勝負あり、ですね。残りの者も降伏しなさい。大人しくすれば、命はとりません」


 そう言うと、多くの者が武器を捨てました。一部抵抗した者もいましたが、鎮圧して拘束します。レノスも同様です。


「では帰還しましょう」


 レイモンド大将に合流するため、来た道を引き返しました。首都を占領したレイモンド大将の元には、第二軍への司令が届いていました。内容は、わたしたちに帝都へ来るようにという召還命令です。この地には第一〇一師団が残って軍政を敷くことになりますが、わたしは軍司令部の所属なので帝都に戻りました。


 ーーーオリオンーーー


 リアナがレノスを連れて帝都に帰還した。俺たちはレノスが建てた国を便宜上『国』と称していたが、公式には国と認めていない。だから今回も戦争ではなく、戦争に関連して発生した『反乱』の鎮圧という建前だった。


「レイモンド、リアナ。ご苦労だった」


「勿体ないお言葉」


 労いの言葉に、代表してレイモンドが応えた。帰還の挨拶を終えると、俺はリアナを伴って裁判所へと足を運ぶ。そこではレノスの裁判が行われていた。罪状は、反乱行為である。


「父上……」


「リアナか」


 廷内にはナッシュ大王国の先代王、ヴラドがいた。この親娘関係は非常にドライだ。まあ、自分が実質的な性奴隷にされることを承知で嫁がせようとした親に、親愛の情を抱けという方が無理な話だ。リアナは血のつながらないレイチェルを、実の母親のように慕っていた。


「子どものことが気になるか?」


「……まあ、な」


 歯切れが悪い。ここで明確に肯定しようものなら、じゃあリアナの扱いはどうだったんだ? とツッコミが入るのがわかっているからだ。だからどうだというつもりはない。俺は違うが、為政者には妻が産んだか妾が産んだかで子どもの扱いに差をつけることは珍しくないからだ。

 話をレノスに戻すが、彼を含めた貴族は大逆罪での死刑が(事実上)確定している。大逆罪でも三審制をとっているので控訴、上告するのは彼の自由だが、ダンの例を引くまでもなく死刑になるのは間違いない。そのことはヴラドやレイチェル姉さんにも説明済みだ。

 裁判はつつがなく進行する。検察官は意気揚々と発言し、弁護士は沈黙している。趨勢は明らかであった。そして判決のとき。


「ーー主文、被告人を死刑に処す」


 裁判長が判決を下した。ヴラドは項垂れる。リアナは判決を聞くと立ち上がった。


「もういいのか?」


「はい。ご配慮、ありがとうございました」


 リアナはペコリと頭を下げた。律儀だなぁ。

 裁判所のあとはまた城に戻る。頑張った子どもたちにご褒美をあげないといけない。


「フランシェスカ、ヘーゼル、スペンサー。三人ともよく頑張ったな」


「偉いですよ」


「やるじゃない」


「「「ありがとうございます」」」


 俺、フィオナ、ソフィーナの三人が褒めると、子どもたちは嬉しそうに返事をした。皇帝として彼ら彼女らを褒めるのは戦争が終わってからになるが、私人として褒める分にはまったく問題ない。だから褒める。遠慮なく。


「今日はご褒美に、お前たちが好きなものを作ったからな」


 そう、作ったのだ。俺が! カレーやステーキ、寿司や刺身などなど。どれも腕によりをかけて作った自信作だ。


「父様の料理は久しぶりね!」


「うん。何年ぶりかな、お姉ちゃん?」


「二年くらいじゃない?」


 フランシェスカとヘーゼルの姉妹仲は良好なようだ。一方のスペンサーは、


「俺はお婆様ミリエラが作ったやつがよかったな」


 と言っている。そうか。母さんの方がよかったか……(しゅん)。


「ちょっとスペンサー、何言ってんのよ!」


「父様に失礼でしょ」


「今のはダメだよ、スペンサー」


 俺が息子の発言に傷ついていると、フィオナを除く女性陣に怒られる。集中砲火を受けたスペンサーはうな垂れた。


「ありがとう、三人とも」


 その優しさが身に染みる。感動して何かできることはないかと訊ねると、


「なら、頭を撫でて!」


 とフランシェスカからオーダー。希望通りに頭を撫でる。優しく髪を梳くように。フランシェスカは気持ちよさそうに目を細めている。


「食べさせて〜」


 とヘーゼル。断る理由はなく、スープやサラダ、寿司など指定された料理を口に運ぶ。


「美味しいか?」


「うん! どれも美味しい!」


 ヤバイ。超可愛い。気をよくした俺はオマケでヘーゼルの頭を撫でた。


「あっ、ずるい!」


「ずるくないよ〜。頭撫でてなんて言ってないもん。サービスしてくれた〜」


 キャー、とはしゃぐヘーゼル。明らかに姉を煽っていた。フランシェスカは妹に文句を言う。ああ、仲良かった姉妹が喧嘩をしている。やめて! 俺のために争わないで!


「こらこら」


 フィオナはちょっとたしなめるだけ。ソフィーナはスペンサーを怒っている。この日の食事は騒がしく過ぎていった。たまにはこういうのもいいな。




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