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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第八章 華帝国
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【閑話】新生・ナッシュ大王国

『令和』元年初投稿です!

 



 ーーーレノスーーー


 ボクは王都を脱出して南部へ急いだ。ここにはまだ帝国の手は及んでいない。木々が生い茂る密林地帯はまさしく天然の要害。そこで活動する者たちは慣れているので苦にしないが、他所者は悪戦苦闘するだろう。

 ……それはボクたちも同じだが。


「ゼェ、ゼェ……。おい、あとどれくらいだ?」


「ヒィ、ヒィ……。わかりません。でも、きっとすぐに村が見えるはず……」


 ボクたちは南部の密林に苦戦しつつ、その奥地へと進んでいた。この地方は山が連なり、特に高い山の頂では雪が一年中降るという。植物も生えない死の世界なのだそうだ。

 ボクたちの祖先はこの地で生活していた。幼いうちは迷ってしまうので、そのときは『川に沿って歩けばいい。そうすればどこかの村に着き、大人に自分の名前を言えば送り届けてくれる』という言い伝えが今もある。ボクたちもそれに従って川に沿って歩いていた。

 それからどれだけ歩いたのかはわからない。歩いているうちに何度も日が暮れた。持っていた食料も底をつき、川から獲れる魚や森の草や果実を食べて過ごした。服も枝葉に破かれてボロボロだ。それでもボクたちは歩き続け、ようやく村を見つけた。


「つ、着いた……」


「よかった……」


 ボクたちは思わず安堵の声を漏らす。それだけ嬉しかった。


「おや、今どき迷子なんて珍しい」


「見慣れない服装だねぇ」


「坊やたち、どこから来たんだい?」


 村にいたジジイやババアどもが声をかけてきた。


「ボクはレノス。レノス・ナッシュだ! ナッシュ大王国の正統なる王である!」


 さあ、ボクの威光の前にひれ伏すがいい!


「ああ! あのナッシュの一族か!」


「昔、ここを出て行ったんじゃなかったかい?」


「最近は若い衆も連れて行ったしな」


「うるさい、うるさい、うるさーいッ! 黙ってボクの言うことを聞けー!」


 ジジイとババアを黙らせて、ボクはこの村の長のところへ案内するように命じた。そして案内された先は、他の家より少し大きな家。ここが村長の家らしい。


「ようこそ、我が村へ。レノス殿、歓迎ーー」


 村長はそれ以上何も言えなかった。ボクが止めたのだ。剣を抜いて。


「黙れ、下郎が。貴様のような下賤の輩がボクの名前を気安く呼ぶな! しかも『殿』だと? ふざけるな! ボクのことは大王様と呼べ!」


「これは失礼いたしました。大王様ぁっ!」


「頭が高い。ボクのような高貴な者に対してはこのように頭を床につけて謝罪するものだ」


 そう言いながら剣の腹で村長の頭を押さえつける。まったく、この程度の礼儀もできないとは。これだから田舎の者は困るのだ。


「……申し訳、ございませんでした……大王様……」


「ふん。それでいいのだ」


 村長は言われた通り、頭を床につけて謝罪する。ようやく理解したようだな。


「ボクはとても寛大だからね。謝罪を受け入れよう。二度とこのような無礼を働くんじゃないぞ」


「……肝に銘じます」


「なら村長。早速だが、ボクたちは長旅で疲れている。宿を提供してほしいのだが?」


「……承知いたしました。この母屋を提供いたしましょう」


「この村で一番広いようだし、悪くはないか。よし、それでいい。粗末な家だが、寛大なボクはそれで許そう」


「……ありがとうございます」


「腹も減ったな。すぐに食事を用意してくれ。もちろん、豪華なものをな」


「……はい」


「ああ、それと周りの村に使者を出せ。『ナッシュ大王国の正統なる王が来たので挨拶に来い』とね」


「……至急、手配いたします」


「よし、なら下がっていいぞ」


 ボクは村長を下がらせた。下賤な輩にしては物わかりがいいじゃないか。帝国を降した暁には、どこかの領主に取り立ててやってもいいかもしれない。功績に報いるのは当然のことだ。ボクは大王だからね。


「大王様。お見事です」


「ありがとう、フェラー侯爵」


「ありがたいお言葉です。大王様を見て確信しました。必ずや、帝国を討ち果たすことができると!」


「そうだな。貴公はリース伯と違い、ボクにずっと従ってくれた。いずれは貴公の継嗣にボクの娘を嫁がせ、望みの地に領地を与えよう」


「感謝の極み! わたしの父は、帝国に討たれました。必ずや、その無念を晴らしたく思っております。陛下に協力するのは当然のこと」


「その忠節にこれからも期待する」


「ははっ! 必ずや!」


 それからボクたちはこれからの方針について話し合う。帝国に対抗するためには、南部にあるすべての村を支配下に置かなければならない。まずは集まるように呼びかけ、逆らうなら攻めればいいーーというような結論になった。

 そんな話をしていると、食事の用意ができたと村長が報せに来た。ボクは早速、運び入れるように命じた。出された料理は大きな川魚をメインに様々な食材が使われている。腹が減っていたボクたちは早速それを口にした。


「王都の料理には劣るが、まあいいだろう。田舎にしてはよくやった」


「……ありがとうございます」


「ところで村長。酒がないぞ」


「そうだな。フェラー侯爵の言う通りだ。村長、酒を出せ」


「……はっ」


 ボクたちの求めに応じて酒が出された。盃に注ぐと濁っている。これが酒か……。ボクはもっと透き通ったものだと思っていたのだが、ここではどうも違うらしい。しかしこれだけでは美味くないな。


「手酌というのも面白くない。誰か酌をしろ」


「ではーー」


「馬鹿者! 誰がジジイに酌をされて嬉しいものか! 女を連れてこい! 若い女を!」


 ボクは村長を怒鳴りつけた。男の酌なんて嬉しくない。見目麗しい女がやるものだろうに。こんな田舎ではその程度の風流も理解できないのか。

 待っていると、女たちが入ってきた。見た目は若そうだが、あまり美しくないな。いや、ひとりいた。


「左の女、こっちへ来い。ボクに酌をしろ」


「は、はい」


 その女はおどおどしながらこっちに来た。ボクの高貴さにあてられているようだ。無理もない。王都の令嬢たちのように、王侯貴族を見慣れているというわけではないのだから。特に王の中の王であるボクに本能で遠慮するのは仕方がないさ。

 女は言われた通りに寄ってきて酌をする。フェラー侯以下、ボクについてきた者たちも思い思いの女を指名しては酌をさせていた。


「あっ、お貴族様、困ります……」


「はて、何のことかな?」


 フェラー侯は酌をさせている女の尻を触っていた。女は抗議するが、彼は素知らぬ顔をしている。全く違和感がない。女も騙されて気のせいかと思っている。その気が緩んだ一瞬を見逃さず、侯はまた女の尻を撫でた。他の者も概ね同じことをやっている。

 ところがボクに酌をする女は人ひとりが入れるくらい距離を開けていた。これでは悪戯ができない。


「もっと近くに寄れ」


「きゃっ!」


 ボクは女を抱き寄せる。その拍子に酒瓶が傾き、酒が溢れ、それがボクの服にかかった。


「あっ、申し訳ございません!」


 それに気づいた女は必死に頭を下げる。ボクは千載一遇の好機だと、口角が上がるのを抑えられなかった。


「なんてことをしてくれたんだ!」


 ボクはこれ見よがしに怒声を上げる。


「申し訳ございません! 申し訳ございません!」


 女は平謝りだ。


「許さん! お前みたいな奴はお仕置きだ!」


 そう言ってボクは女の服の襟を掴んだ。そこへ飛び込んできたのは村人のひとり。


「娘がご無礼をいたしました! ですが、ここは平に、平にご容赦を!」


「ダメだ! 功績には褒美を、失態には罰を与えなければ示しがつかない! 村長!」


「……はっ」


「湯浴みの用意をさせておけ。それと着替えもな。村で一番上等なものを持ってこい!」


「……かしこまりました」


「それと、空き部屋はあるか?」


「……案内いたします」


「よし。いいか、女。お前は罰として、ボクの側女になれ!」


「ひっ! そ、それだけはどうか!」


「うるさい!」


 ボクは女を引きずる。村長の後を追って。


「ご容赦を! 娘には婚約者がーー」


「くどい!」


「ぐはっ!」


「お父さん!?」


 ボクはしつこく追いすがる男を斬った。あくまでも追い払う程度で、傷は深くない。この程度のことで殺すつもりはなかった。程々に腹を満たしたボクはきっちり女に罰を与えたのだった。


 ーーーーーー


 数日が経ち、村長が各地の村に派遣していた使者が帰ってきたとの連絡があった。挨拶に訪れた他の村の村長もいるという。ボクは身を清めてその者たちと面会した。広間で平伏して待っている。ふん、最初からそうしているなんて殊勝な奴らじゃないか。


「レノス・ナッシュである」


「大王様のご来訪を我ら一同、心よりお喜び申し上げます」


「うむ。感謝する」


 口ではそう言っているが、ボクの内心は穏やかじゃない。当たり前だ。ボクはこんなど田舎に好きでやってきたのではなく、帝国に祖国を追われてきたのだから。でもボクはその言葉を呑み込んだ。大王だからね。


「ところで大王様。此度はどのようなご用件でしょうか?」


「我が国は敵の攻撃に晒され、窮地に陥っている。そこでお前たちの力を貸してもらう」


「承知いたしました」


 村長たちは一斉に頭を下げた。まったく、従順な奴らだな。ボクが上位者だとわかっているんだろう。とても気分がいい。

 その夜。ボクたちは今後の方針を話し合うために広間へ集まっていた。定期的にこうして話し合いの機会を設けている。ボクはついてきた者たちに様々な役職を与えていた。今回発言したのはそのうち軍務大臣に任命したガランテ伯爵だった。


「大王様。正直なところ、我ら単独では帝国には敵わないだろう。守るだけならなんとかなるが、攻めるとなると難しい」


「どういうことだ?」


 彼はメンバーの中で帝国と戦ったこともある唯一の人物であり、ボクもこの方面においては頼りにしていた。

 ガランテ伯が言いたいのは、要はこういうことだ。祖国を奪回するためには森を出なければならない。ただ、南部の人口は少なく、適齢の男子を根こそぎ兵士にしても二万程度にしかならないという。それでは十万にも上る兵を動員する帝国軍には敵わない。ただ、防御なら地の利があるためボクたちが有利だと。


「なるほど。何か策はあるのか?」


「当たり前の話だが、他国と連携するしかない」


「となるとアクロイド王国か。あの国は北東部を失陥しただけで、王都への攻撃は退けたという。期待はできそうだな。よし、レプリ子爵」


「はっ」


「貴殿には王国への使者となってもらいたい。帝国を東西から挟撃しよう、と持ちかけるのだ」


「必ずや成功させて見せます!」


 レプリ子爵は弁の立つ男だ。必ず成功させてくれるだろう。


「では王国と連携して帝国を討つ。この方針に異議のある者はいるか?」


「「「……」」」


 誰も手を挙げなかった。よし、ならば決まりだ。


「誰か、村長を呼べ。海に近い村の者を使い、王国へ派遣するのだ」


 こうしてレプリ子爵は使者として王国へ赴いた。さらに数日が経つと、村人から喜ばしい報告があった。ボクを追ってきた大王国の民たちがいるというのだ。その数はおよそ一万。その多くは兵士だった。聞けば帝国のやり方について行けず、ボクが南に行ったという噂を頼りに追ってきたらしい。もちろんボクは暖かく迎えた。


「よく来てくれた。共に帝国を討とう」


「はっ! この命、我ら一同、陛下に捧げます!」


 こうしてボクは一万の兵士を手に入れた。よし、まずはこの力を背景に南部を統一しよう。ボクは早速、村長たちを呼び寄せた。


「諸君。ボクはこの地の王だ。よって諸君らはボクの臣下ということになる。このことに異議を唱える者はいるか?」


「「「……」」」


 誰も声を上げない。当たり前だ。ボクの左右と後ろには完全装備の兵や貴族たちがおり、会場の周囲にも兵士が配置されているのだから。


「ならこれからはボクの言うことに従うように!」


 そう言ってボクは村長たちを解散させた。その夜。


「大王様。やはり来ましたぞ」


「そうか。それでどうなった?」


「若干の被害は出ましたが、全員取り押さえてあります」


「よくやった!」


 ボクは小躍りした。ボクを害そうとした愚か者どもの顔を拝みに行く。するとこの村の村長をはじめとした面々がいた。


「ボクを暗殺しようなんて愚かなことを考えるものだね。これだから下民は……」


「黙れ、この疫病神め! 保護すれば好き勝手しおって。恥を知れ!」


「恥ぃ? どこが恥だというんだ。ここは大王であるボクのものだ! ボクが好き勝手しようとお前たちがとやかく言う権利はない!」


 憎々し気に睨みつけてくる村長に、ボクはそう言い返してやった。まったく。どこまで愚かなんだろう。


「おい、一族郎党を捕らえてこい」


「はっ。すぐにそういたします」


 ボクの命令を受けて、兵士たちは暗殺を企てたすべての者の村に向かった。そちらは距離があって時間がかかってしまうため、とりあえずこの村の村長一族を見せしめにする。ジジイとババアは処刑。働ける男は近くの鉱山に奴隷として送り込む。若い女については最も美しい女をボクの側女として残しーー生まれた子どもをこの村の支配者にするためーー他は兵士たちの慰み者にした。幼い子どもは将来の労働力/性奴隷として生かしておく。娘を目の前で犯された村長の顔は傑作だった。もちろんこの光景は他の村人にも公開する。逆らったらこうなるぞ、という警告だ。村長の姿をたっぷり堪能した後は、ノコギリで三日かけて処刑した。

 この様子を見ていた者たちはこぞって服属を申し出てきた。ボクは村長の娘あるいは孫娘を差し出させ、服属の証(人質)とした。これらの女たちについてはボクの妻としての待遇を与える。逆らった者の女については側女で十分だ。兵士たちの慰み者にならなかっただけでも感謝してほしいね。

 こうしてボクは支配域を広げていき、一年が経つころには南部をすべて併合した。王国とも連絡がつき、共に帝国と戦うことで一致した。待ってろよ帝国、皇帝オリオン。必ずや滅ぼしてやる!




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