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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第八章 華帝国
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【閑話】竜之国1

同時に投稿しております『8-4 冊封・回賜』の裏話みたいなものです。


Q,なぜタイトルに『1』とついているのか?

 



 ーーーチュ・ミンスーーー


 朕はチュ・ミンス。世界の中心である華帝国の皇帝だ。天帝の子であり、この世を治めることを使命とする。朕は地上世界をすべて天帝の支配に服させるべく、野蛮人どもを服従させなければならない。朕の祖先もその一大事業に奔走してきた。もちろん朕もだ。即位してからというもの、先帝(父)から続けてきた征西事業の仕上げにかかりきりであった。それが完了したのがつい先日。ようやく西の蛮族が降り、凱旋することができた。


「長かったな」


「はっ。しかし、これで陛下のご威光はますます高まったでしょう」


 腹心の部下に言うと、なかなか嬉しい言葉が返ってきた。世辞だとわかってはいるが、それでも愉快だ。

 だがこの遠征は本当に長かった。敵は南北の異民族からの援軍を受け、野戦で我が軍を大いに苦しめた。こちらは百万、相手は数万。兵力ではこちらが優っているにもかかわらず、敵の主力である異民族に苦しめられた。一年かけても倒せないのだ。だが朕は諦めなかった。その程度で先帝の悲願を諦めることはできない。異民族を懐柔し、撤退させることに成功する。

 ところが、今度はさらに西方の異民族を引き入れた。数は大したことなかったが、亀のような堅陣で我が軍を阻んだ。こちらとの交渉は難航し、撤退させるのに三年を要した。

 ようやく敵と対峙したが、今度は都の防備が立ちはだかる。これが最後だと一気呵成に攻めかかったが、敵も後がないとわかっているから頑強に抵抗した。一回の攻撃で数万の兵が失われた。このような調子で何度も攻撃するうちに兵が十万も死に、朕は決断した。ここまで苦しめた輩を生かしておかん、と思っていたが仕方ない。人質を出し、都護府の指揮下に入るという条件で講和を結んだ。朕は敗れたわけではない。当初の目的通り、朕の支配下に置くことに成功したのだ。

 凱旋した朕はしばらく宮殿に籠もることにする。長らく戦地に留まっていた疲れを癒すためだ。それは部下たちも同じ。朕は名君だからな。奴らには一年ほど役の免除を言い渡したが、朕は数日で復帰する。朕の仕事は代わりが利かぬからな。

 まず役人を召し出し、何か変わったことがなかったかを聞く。するとひとりがおずおずと前に進み出た。


「申し上げます。陛下が御親征されているなか、東方の商人から献上品がありました。その品々が大層珍しく、ご報告いたしました」


「ほう。珍品か。見てみたいものだ」


「ご用意してあります」


 そうして運ばれてきたのは見たことのない品々だった。刀剣だろうか。細身の刀身で反りがあり、力の限り振れば折れてしまいそうだ。朕はそれを手にしてあらゆる角度から眺めてみる。


「ほう。これは美しい。見事な品だ」


「陛下。そちらは大層美しい品ですが、それだけではないのです。傾国の美姫のごとく華奢で、今にも折れそうな見た目ですが、その切れ味は抜群」


「いかほどだ?」


「我が軍で使われる剣が二つに」


「……なに?」


 朕は驚く。この華奢な剣にそれほどの威力があろうとは。


「それは素晴らしい。早速佩用することにしよう。その商人を召し出し、この剣をもっと輸入するように命じよ。すべて買い上げる」


 これは見た目も美しいが、実用性も抜群だ。専売とし、褒美の品とすれば朕の権威は一層高まることだろう。今は他国から買うしかないが、この品を自国で作れるようになれば我が国はもっと強くなる。もちろん後日、臣下たちの前で切れ味を披露することも忘れない。朕が佩用し、切れ味も鋭い。これほどの価値があるだろうか。

 そうしてしばらく経った後、臣下のひとりが謁見を申し出てきた。チャン・ボンギルーー近衛の一軍を預かる将軍であり、朕の妹を妻としている。つまり義弟だ。


「拝謁の栄誉を賜り、恐悦至極にございます」


「先の戦では見事な働きであった。それで、いかがいたした?」


「はっ。本日はひとつご提案があってまかり越した次第でございます」


「提案? 聞こうか」


「先日、陛下がご披露なさった剣のことなのですがーー」


「うむ。あれは見事であろう?」


「実に。ですが我々はあれがどのようにして作られているのかわかりません」


「それよなぁ」


 そこが朕の悩みであった。武器を他国からの輸入で賄うなど愚策。ゆえに御用職人に命じて同じものを作らせようとしたのだが、製法がまったくわからなかったのだ。どうにかして製法を知りたいところだが……。


「つきましてはあの技術を手に入れてはと思うのです」


「……戦争か」


「はい」


 それは朕も考えた。だが諦めた。前回の遠征は我が国を挙げてのものだった。国内は疲弊している。さらに、この剣をもたらした国ーー竜之国は東の海上にあるという。そのためには海を渡らなければならない。数万の兵を送るには大量の船が要るが、造るにも時間がかかってしまう。そのために断念した。職人を招聘しようと問い合わせたが、作っているのは国が抱えている職人で、接触はできないという。


「では服属を要求してみては? その間に造船を進め、威圧しましょう」


「それはよい考えだ。よし、そうしよう」


「使者には弟が適任かと」


「そういえばそなたの弟は文官だったな。わかった」


 朕はチャンの弟を使者に立て、竜之国へと送った。一方で各地の船大工を動員して船を整えさせる。目標は千隻だ。一隻につき百人が乗るとして十万人。操船の要員を差し引いて五万程度が戦闘できる。建造と訓練が完了するには三年かかるという。とにかく急ぐように命じた。


 ーーーーーー


 それからおよそ半年。送った使者たちが帰国した。彼らは竜之国の使者を伴っていた。朕は喜んで彼らを迎えた。竜之国とはどのような国なのか。商人たちから話を聞いてはいるが、やはり直接聞く方がより多くのことを知れるというものだ。


「皇帝陛下。本日はお目通りが叶いましたこと嬉しく思います」


「うむ。遠路はるばるご苦労。して、此度はいかがいたした?」


「皇帝陛下より、我が国の立場を説明してご理解を賜るよう命令を受けて参りました」


 ふむふむ。この者たちを通して我が国の力を知り、どう付き合うべきかを測るつもりか。まあよいだろう。


「了解した。なるべく便宜を図ろう」


「ありがとうございます」


「ところで貴殿らに訊ねたいことがあるのだが、竜之国はどのような国なのだ?」


「竜帝国はフィラノ王国の後継国であり、オリオン様が興された国です。内乱を鎮め、教国を併合し、西のアクロイド王国を討ち、東のナッシュ大王国を降しました。国内はオリオン様の下に治められ、軍は精強。優れた文物も豊富にあります」


「なるほど」


 悪路異奴アクロイド王国についてはよく知っておるが、あれを破るか。その他多くの国を破っていることからも、軍は強いのだろう。それにあの剣もあるしな。それに代表される優れた文物もあるか……。一筋縄ではいかなさそうだ。ここは丁重に扱うべきだろう。そんなことを考えつつ、朕は思いつく限りの質問を使者にぶつけた。

 使者の滞在中は言葉通りなるべく便宜を図った。その間、悩んでいたのは国書について。朕以外、この世に皇帝がいるはずがない。だから『帝国』や『皇帝』の名乗りは許さないことは書くべきだろう。服属せよ、とも。だが、聞けば強力な軍隊を保有しているようだ。なるべく戦争は避けたい。だから丁重に扱うべきだろう。


「う〜む」


「陛下」


 悩む朕に声をかけてきたのはチャン・ヨンス。朕の妃のひとりであり、ボンギルの妹だ。そこそこの美姫だが、所詮は『そこそこ』。『二人といない』といえる美しさはない。これだけならとても後宮に入ることはできない。だが、彼女は非常に優秀な魔法高いだ。皇帝と同年代の娘のうち一番の魔法使いを嫁がせるのが慣わしであり、それか彼女だったのだ。


「どうした?」


「陛下がお悩みだとお兄様から伺いまして」


「ボンギルから言われたか……」


 あの武辺者にまで悟られるとは。朕もまだまだだな。女が政治に口を出すなどとんでもないが、話すくらいはいいだろう。


「そなたも会ったであろう。あの使者たちのことだーー」


 それから朕は懸案事項を話した。いささか話しすぎた気もするが、それだけ気に病んでたということだろう。ヨンスは朕の話を相槌を打ちながら聴いていた。


「なるほど。わたくしはあの者たちは無礼に思いました。この世を統べるのは陛下ただおひとり。にもかかわらず、他の者を『皇帝陛下』と呼ぶなど無礼すぎます。配慮するにしても、あまりおもねる必要はありますまい」


「うむ。そうだな」


 ヨンスの申す通りだ。朕は竜之国に一定の配慮をしつつ、こちらが上位であるということを高圧的に書いた国書を帰国していく使者たちに渡したのだった。


 ーーーチャン・ヨンスーーー


 わたくしは皇帝陛下にお会いした翌日、ボンギル兄上と弟のボンチャンを呼びました。表向きは家族との面会となっていますが、実際は違います。


「陛下は予定通り、竜之国へ高圧的な国書を送りましたわ」


「でかしたぞ、ヨンス」


「さすがは姉上。当代一の魔法使いです」


 二人がわたくしを褒めます。ですが、この程度のことは造作もありません。わたくしは魔法のうち風魔法が最も得意です。それで気づかれない程度にそよ風を生み、持参した香袋に仕込んだ催眠効果のある香りを吸い込ませます。これで陛下を誘導しました。


「これでまず第一歩ですね」


「ああ。この機を逃すわけにはいかないからな」


 わたくしの言葉にボンギル兄上が頷きました。わたくしたちの家は零細貴族。父も片田舎の小役人で、明日の食事にも事欠く有様でした。

 しかし、わたくしが陛下と近い年ごろの娘のなかで最も優れた魔法使いであったことで状況は一変します。慣わしによりわたくしは陛下に妃として迎えられ、一族も中央のそれなりの地位を与えられました。わたくしに近づこうと、色々なところからわたくし自身や実家に贈り物が大量に届き、名家から一族に縁談が持ちかけられることもありました。

 特にボンギル兄上は西方遠征で近衛の一部隊の隊長として従軍し、活躍されました。それが先帝陛下の目に留まり、出自を訊ねられ、わたくしの兄だとわかるや将軍に取り立てて末子の皇女を降嫁させられたのです。

 弟のボンチャンもわたくしや兄の境遇から上司に気に入られ、次々と官位を上げていました。

 このように順風満帆といえる一族ですが、必ずしも安泰というわけではありません。この権勢も、すべてはわたくしが皇妃という地位にあるから。それが失われれば、わたくしたちはすぐさま元の生活に逆戻りでしょう。そんなのは嫌です。ですから、わたくしたちはこの権勢を揺るぎないものにするのに奔走しました。そこで目をつけたのが竜之国です。この国と戦争を起こし、ボンギル兄上が屈服させ、その功を以ってより高官に就く。そして有力貴族にも負けない力を手にするのです。


「問題は竜之国がどう出るかだが、ボンチャンはどう見る?」


「動くでしょう。使者として赴いた際、彼の国の歴史について調べました。そしてわかったのは、売られた喧嘩は最終的に買っている、ということです。挑発的な内容なら戦争に打って出るでしょう。僕自身、あちらでかなり好き勝手にやりましたし」


「役得ね」


「ええ。近く兄上も、あちらでの楽しみ方をお教えいたしますよ」


「それは楽しみだ」


「わたくしのことも忘れないでくださいね」


「もちろんだ」


「姉上にも様々な珍品をお送りいたしますよ。あの国はフロンティアだ」


 わたくしたちは笑いあいました。




A,同じタイトルが後々使われるから

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