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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第八章 華帝国
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8-1 副都建設事業

祝、百話!

 



 ーーーオリオンーーー


 俺は帝都へ凱旋した。とはいえ全軍ではない。ナッシュ王国には軍政官としてクレアを置き、ナッシュ王国駐屯部隊(第一軍の一部。司令官はエリザベス)を編制。彼女に預けている。アクロイド王国への軍事的圧力を強めるために第二軍、第三軍の将兵も抜けており、残るは王都で編制された第一師団と近衛師団、海兵師団など、本来の数からすれば少ない。


「「「皇帝陛下、万歳ッ!!!」」」


「「「竜帝国、万歳ッ!!!」」」


 住民たちには戦争に勝ったことが知れ渡っている。彼らは大歓声で迎えてくれた。沿道に集まった人々は俺や帝国を口々に讃える。その他、エリザベスやシルヴィア、クレアを讃える声、あるいは名もなき将兵に『よくやった』という声がかけられた。そんな彼らの声に応え、凱旋した者たちはーー俺も含めてーー手を振る。するとより大きな歓声が上がった。

 このように歓迎してくれるのはとても嬉しいことだが、できればこの気持ちをあの戦争を戦った全員に味あわせてあげたかった。

 とはいえ、誰もが賞賛しているわけではない。一部の人間はもっと賠償を得るべきだったという声もある。口さがない連中は、リアナを『売女』などと呼んでいた。彼女が身体を売る代わりに俺から様々な見返りを受けたというのだ。まったくバカバカしい。勝ちすぎはよくないというのに。この世界の話ではないが、莫大な賠償金を背負った挙句に暴走を始めた国もあるのだ。何事もやりすぎはよくない。とはいえ、ヴラドとレノスからは謝罪の言葉を引き出したがな。

 大王国の貴族か賠償金があまり得られないだろうことは最初からわかっていた。だからこそ敵対した貴族から財産を搾り取り、資源で手を打ったのだ。これから法で定めた戦時補償を行い、残った額が臨時歳入となる。

 この戦争で得たものは大きい。金はもちろんだが、一番は人材である。アクロイド王国からはカレンを引き抜いたが、ナッシュ王国からもリアナを引き抜いた。『千兵は得易く、一将は得難し』というが、今回はまさにそうだ。予想される大陸統一戦争のためにも、優秀な人材の確保・育成には努めなければならない。

 さて、この戦争で得られた賠償金の使い道に関してだが、実は既に考えてあった。額は多いが、しょせんはあぶく銭。計画的に使わなければならない。そこで俺はこの金を事業に投資することにした。

 戦争というものは実態はどうあれ、景気を加速させる。いわゆる戦争景気だが、それが終わってしまえば一気に冷え込む(戦後恐慌)。その落差を縮めるべく、大規模な公共事業を行うのだ。まず思いつくのは新たな領土のインフラ整備だが、こちらはそれぞれ担当する者に任せる。なので本国では副都と戦勝記念碑の建設に取り組むこととした。

 戦勝記念碑ーーわかりやすくいえばフランスのエトワール凱旋門を造る。戦争に勝利したことを祝うと同時に、参加した兵士たちを顕彰することが目的だ。これは今回の戦争だけでなく、侯爵時代から戦った兵士たちも対象である。ひとりひとりの名前を石に彫り、その面を内にして積み上げる。名前は当時の部隊名簿、戦死者名簿に残っていた。これがひとつ。

 一方の副都建設は、カチンに人口が偏っていることに起因する。ストロー現象によって地方から人が流入し、当初予定である百万人を超えてしまっていた。カチンの特性は百万人口が飢えないだけの生産力があり、何年でも籠城できる点だ。人口超過は、これを潰すことになる。

 そこで思いついたのが『副都』構想だった。カチンに比肩する大都市を建設し、そちらに人を向けるのである。副都にはカチンと同等か、それ以上の行政機構を整える予定だ。なお、ここにはカチンのように城壁を設けるつもりはない。それにより、人口が増えても街を広げて対応できるようになる。大都市ができれば人が集まることはわかっているのだ。あとは上手く分散するようにしてやればいい。


「ーーと思うんだが?」


「いいんじゃない?」


 俺の考えを話すと、ソフィーナはすんなりと賛成してくれた。素人考えたが、有効性は認めてくれたようだ。……戦争という散財行為をやっておいて、早々に別の散財行為を提案したから反対されるかな? と本音では思っていたことは墓まで持っていく秘密である。

 ここはソフィーナの私室(またの名を財務大臣室という)。安定期に入った彼女は滞りがちだった仕事をバリバリとこなしている。お腹も目立つようになり、ひと目で妊婦だとわかるので心配になる。度々言ってはいるのだが、仕事のペースは妊娠以前とあまり変わらないように見えた。使用人たちによると、これでもかなり控え目らしい。……早死にするなよ?


「公共事業なら見積もりと決裁が要るわね。案は作らせるけど、具体的にどうするつもりなの?」


「建設する街は三つ。ひとつはカチンの代わりになるような本格的な街だ」


「残り二つは?」


「俺たちの街だよ」


「?」


 これだけでは意味不明なので、さしものソフィーナも頭上に疑問符を浮かべる。まあ、いくら気心知れた仲だといってもこれでわかったらいささか恐怖を覚える。仕事をやってもらうのはこちらなので、勿体ぶらずに開陳した。


「街は二つと言ったけど、正確には二つでひとつといったところだな。人工的に造る双子都市といった方が正しいか。ひとつの街を、別の街に呑み込ませる。そしてそこに俺たちの名前を冠するんだ。『建国記念の街』なんてな」


「なるほど。それはいいわね! 通りの名前を売ってもいいかもしれないわ。記念の街だもの。きっとたくさん集まるわ。少しかもしれないけど、戦費の補填の足しになるでしょ」


 うおっ! 一瞬にしてその手法を考えつくとは、さすが天才。頭の構造が違う。


「わかったわ。それでいきましょう」


 こうして俺はソフィーナの了承ーーというより全面的なバックアップを受けることになった。


 ーーーーーー


 戦争が終わって平時に戻った。出征していた兵士たちの復員も始まっている。無事の帰還を喜ぶ者、労わる者、悲嘆に暮れる者……と、その反応は実に様々である。

 帝国の版図はこの戦争で爆発的に拡大した。だがそれは必ずしも嬉しいことではない。俺がとる近代国家的な統治体制は、整うまでにかなりの時間がかかる。高度な知識を持つエリートも不可欠だ。しかしこの時代、そのようなレベルの学力を身につけているのは王侯貴族や裕福な商人、若干の豪農である。そのような格差を埋めるために施されるのが義務教育なのだが、学校を建て教師を集めーーということにも苦労する。そこで期限を予め定めた状態で貴族領を設けることにした。結果……俺のところに陳情が殺到してしまう。


「陛下! どうか我が家に領地を賜りますよう……っ!」


「我が家は旧大王国貴族のご令嬢を愚息の妻に迎える予定でして……」


「彼の地は代々我が家が治めてきた土地。円滑に統治できましょう。つきましては是非我が家を!」


 などと面会する相手が口々に自分たちを指名するように言ってくる。さて、誰にしようかな? ーーなどと適当に決めるつもりはない。円滑に支配するために設置するのだから、適任者を選ぶ。旧領を与えるというのもアリだろう。強引に縁戚になったところはナシだ。

 そもそも貴族領というが、実際はほぼお飾りである。彼らが担うのは徴税のみ。軍事その他の権限は旧大王国ならクレア、旧教国ならアナスタシアにすべて集まっている。よからぬことを考えても無駄だということだ。

 陳情にきた貴族たちには『善処する』『考えておく』などと角が立たない返事をしておく。俺の返答は貴族の間で共有されて指名は濃厚だなんだと議論がなされていた。いや、意味ないからね?


「はぁ。まったく……」


「お疲れ様です」


 面会ラッシュが終わって溜息を吐く俺。シルヴィが横からそっとお茶を出してくれた。ありがたく飲む。


「美味いな」


「ありがとうございます」


 今や超大国の君主と妃になった身だが、心は未だ普通の夫婦である。互いに小市民なので偉くなっても他人に任せる気にはなれない。だから自分でできることはーー必要でなければーー自分でやる。使用人たちもその辺りはよく心得ていた。

 シルヴィの淹れるお茶はお世辞抜きに美味い。俺が仕込んだわけたが、今では逆に俺が習いたいくらいだ。もちろん使用人が淹れるものも美味いが、彼女のそれは優しさを感じさせる。


「それで、アリスたちの様子はどうだ?」


「アリスさんは帰ってきてすぐに寝込みました。やはりきつかったようです」


「まったく。言わんこっちゃない」


 既に触れたが、カチンに以前の世紀末的な村のような雰囲気はない。誰が見ても立派な大都市である。人口も百万を超えた。むしろ、十年ほど前は寂れた村だったといわれて信じる者は少ないだろう。そんな風景を姉に見せたい、と言ってアリスは馬車に揺られて旧王都からカチンまで帰ってきたのだ。レイチェル姉さんの前ではやせ我慢していたが、やはり疲れたようで寝込んでしまったようである。妊娠しているのだから、身体を大事にしてほしい。


「レオノールさんは元気なんですけどね」


「まあ体質があるからな」


 人体とは不思議である。


「最近のオリオン様はなんだか柔らかくなられた気がします」


 不意にシルヴィがそんなことを言った。


「そうか?」


「はい。今まではいつも緊張されている様子でした」


「ああ。言われてみればそうかもな。今まではずっと気を張っていた」


 帝国は建国したばかりでまだ安定していなかった。アリスたち旧王国の後ろ盾はあったものの、以前の制度をほぼ無視した政策ばかり打ち出していたからな。政情は安定しているように見えて、実は不安定だった。俺がいなくなれば崩壊してしまうような。だが、


「周りは全部叩いて、今や大陸の覇権国家だ。中も安定してきたし、やることはほとんどなくなったな」


 肩の荷が下りたーーその表現が適当だろう。


「で、ではオリオン様……」


 シルヴィがもじもじしている。視線を投げるとサッと逸らした。しかしすぐにこちらを見る。また逸らす。


「……どうした?」


「あ、その……みなさん兄弟がいるなかひとりなのはエリザベスも寂しいかな〜と」


 そういうことか。最近は戦争続きでそんな暇なかったからな。あちこちへ遠征していたシルヴィは特に。もちろん俺は快諾した。


 ーーーーーー


 一ヶ月後。俺肝煎りの事業が始動した。副都建設事業については都市のみならず、そこへと至るインフラ整備も含めた一大事業だ。帝国が得た賠償金のほぼすべてが注ぎ込まれている。

 凱旋門については一年足らずで完成する予定である。これは戦没者慰霊碑のように使うことも考えられており、以降の戦没者については行政府に残される記録だけでなく、石版にその名を記して門の地下に安置することになっていた。

 副都については防衛を一切考えず、ひたすら利便性を追求した場所の選定となった。建設地は大陸東部、旧大王国領である。大陸でも随一の大きさを誇る大河が流れているためだ。人家はなく、また平地になっていることも大きい。大河は大都市の人口を支えるのに不可欠な水運に使えるのはもちろん、引き込んで生活用水にもできる。本当は完全な無防備都市にするつもりだったのだが、それはさすがに反対に遭った。折衷案として、城のみを掘で囲むことにした。城の正門近くにドラゴンの像を置き、そこから扇状に通りを走らせる。この街はドラゴニア、と名づけられることになった。

 もうひとつ。俺たちの名前を冠した街については湖の畔に造られることになった。場所は帝国中部。洞爺湖のように中央部に島がある。完全な火山湖なのだが、その活動が停止していることは確認済みだ。しかしその関係上、双子都市にする計画は中止。俺が中心にいて、妃たちが周辺を守っているというような構図にした。山は巨大な御神体にする予定だ。あそこには母なるドラゴンが眠っているーーなんていう伝承をフィオナには作ってもらおう。

 なお、一連の造営事業についてはこれまでのように俺の能力を使わない。市場に金を落とすことが目的なのだから、それをやってしまえば本末転倒である。その代わり、完成には五十年ほどかかる見込みだが。……俺、生きてるかな?




冒頭でも書きましたが、今回の投稿がこの物語における百話目となります。ここまで書き進められたのも、皆様が見てくださるからこそです。物語も終盤に差し掛かってきました。よりよい物語を提供していけますよう頑張りますので、これからも応援、よろしくお願いいたします!


次回は閑話も投稿いたします。

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