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異世界最強の自宅警備員  作者: 親交の日
第一章 成長
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プロローグ




ーーーオリオンーーー


 目を覚ますとそこは知らない部屋だった。……どこからか『トンネル』と『雪国』のフレーズはどこへいった、とツッコミが飛んできそうだが、うん、似ているけど違うのだよ。

 俺は仰向けになっているようで天井と窓枠の一部しか見ることはできない。しかしそれだけでもここが知らない部屋であるというのは分かる。俺が住んでいる家賃一万円の格安ボロアパートにお洒落なシャンデリアなんて存在しないし、木の温もりを感じさせてくれる内装なんてありえない。鉄筋コンクリート剥き出しである。

 ならばと記憶を遡ってみてもこんな内装の部屋に覚えはない。強いて挙げるなら祖父母の家だが、あれは純粋な日本家屋で、西洋風の『せ』の字すらない。

 記憶は急な頭痛で倒れたところで途切れている。まさか病院なんてことはないだろう。独特の薬の匂いはしないし、何より俺の家族がこんか豪華な病室を用意してくれるはずがない。三年も引き篭もっていた人間にこんな好待遇施す必要性がないからだ。

 というわけでここが病院という可能性も消えた。ならばここはどこなのか。それを確かめるにはもっと情報を集める必要があるだろう。

 そう思って起き上がろうとしてーーできない。力を込めても頭が鉛のように重くて持ち上がらないのだ。

 俺は慌てた。倒れたショックで半身不随なんてシャレにならない。ツイッターで『転倒したショックで半身不随www』などと面白おかしく呟けるレベルではなかった。

 やばい。やばい。やばい。

 俺の人生過去最大級に焦る。


「あうあう」


 ……は?

 あ、あれー。聞き間違いかな〜? なんか、赤ん坊の声が聞こえたんだけどな〜。

 …………まさか、ねえ?

 だがしかし。いや、まだ決まったわけじゃない。まずは検証だ。まずは基本。あいうえおの『あ』!


「んま」


 き、気のせい気のせい。まさか『あ』とまともに発音できないなんて……次!


「んい」


 次だ!


「んう」


 ……。

 とまあそんな調子で五十音を最後の『ん』まで発音してみた俺は、


「んまぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」


 絶叫した。

 うん。認めるよ。俺は赤ん坊になったんだ。さっきの赤ちゃんボイスは俺のものだったんだよ、ちくしょう! 俗にいう転生かな。ならここは異世界ですか? つまり俺は元の世界で死んだってことですよね? 神様。転生できたのは素直に嬉しいですけど、せめて十五歳くらいの少年の方がよかったです。

 なんてことを心の中で喚きながら手足をジタバタさせて暴れる。ただ心の赴くままに。

しばらくそうしていると不意に背中から地面の感覚が消えた。途端に襲いくる、ジェットコースターが落下する直前の、あの独特の浮遊感。背筋に冷たいものが走った。非力な赤ん坊でしかない俺が落下すれば大事になることは間違いない。下手をしたらーーというかほぼ確実にーー死ぬ。

 あーあ。人生終わったわー。短かったな人生(数分)。次に生まれ変わったら赤ん坊でも化け物でも落ち着いて対処しようと心に誓う。

 いよいよフリーフォールに突入というところで体がさらに浮き上がった。背中には優しくもしっかり支えようという二本の腕の感触が伝わってくる。さらに布が頬に触れる。生地はあまりいいものでないのか少し肌触りがザラザラしていたが。

 視界には茶髪の整った顔立ちの女の人が映る。胸元から上しか見えないが、かなり可愛い。メイド服を着ているのでプラス補正がかかる。

 ーーが、それと同時に暗い思い出がフラッシュバックした。ボロボロの鞄。落書きまみれの机。真っ黒に塗りつぶされたノート。たっぷり水を含んで肌にまとわりつく服。クラスメイトと教師の嘲笑……。それらが一気に思い出されたことでおれは身を強張らせ、ついに意識を失った。


ーーーーーー


 ショッキングな出来事から半年が経った。俺は赤ん坊らしくすくすくと成長し、自分の現状についてがつがつ学習していった。おかげで言語はまだ喋れないものの理解はできるようになり、ある程度の現状は把握している。

 まず初日に俺を気絶に追いやった(?)女性はミリエラという。背丈、容姿はどう見ても十四、五歳の少女なのだが、驚くべきことに彼女は俺の母親だ。え? 言葉の解釈が間違ってるんじゃないかって? はっはっは。その可能性も考えたさ。でも、でもさ。


 ーー母乳を飲ませてくれる相手が母親以外の何者だというのか。


 もちろんロリババアという線もなくはない。でも直に触れて分かった。あのツヤとハリーー本物だ。

 ええ。毎日堪能しましたとも。最初こそ気絶したが、部屋にくる度に向けられるあの優しい笑みは身内として受け入れるには十分な理由だった。父親もいるはずだが姿を見ないため、現状な彼女がこの世界で唯一の俺の肉親である。

 ちなみにここが日本と違う世界であることは確認済みだ。顔を横へ向けると高さの関係から窓の外が見えるんだけど、そこから俺は見た。今時日本やアメリカはもちろん、アフリカの未開の部族でさえも腰に剣を帯びて歩いている人間はいない。まして、手のひらから水を出して庭の花に水やりする母親ってなんだよ。

 要するにここは剣と魔法の異世界。ラノベなんかで主人公が活躍している舞台がそこにある!

 ……面白くなってきた〜ッ!

 俺氏大興奮である。とはいえ今はまだ赤ん坊。冒険に出るにはまだ早い。なのでとりあえず、


「まう〜っ!(ママお乳)」


ーーーーーー


 三歳になった。

 これまでのことをざっくり説明する。

 一歳になると体をかなり自由に動かせるようになった。こうなんというか、体と精神が馴染んだというのが適当な表現か。まだ完全には同期していないようでたまに転んだりするが、赤ん坊だった時よりやれることは増えていた。二歳になる頃にはハイハイから歩行に移行している。だが頭が重いので歩きづらい。

 そして三歳では完璧に日常会話をマスターしたが、普段は年相応に三〜四語で話すように心がけている。子どもが急に流暢に言葉を話すようになれば驚くからね。自然が一番。それと文字も習っている。母が手紙を読んでいるところに声をかけると、予想通り興味があるかと訊かれたのである、と元気に答えると寝る前に文字を教えてくれるようになった。言語名をフィラノ語といい、俺がいる国(フィラノ王国)の公用語らしい。文体はアルファベットの筆記体に似てくねくね曲がっている。曲線が多くて書きづらい。それでも母は俺が何か聞く度にすごいすごいと褒めてくれるのでやる気になる。俺、褒められると伸びる系男子です(キメ顔)。

 子どもはすごい。覚えたことが直ぐに頭に入る。正直、勉強がとても楽しい。ガリ勉の気持ちが初めて理解できた。

 そして一時間程度のお勉強を終えると母と一緒に寝る。まだ三歳だからね。甘えたい盛りなのでたっぷり甘えて母の柔らかい感触とかいい匂いを堪能する。ああ、プニプニしていて気持ちいいなぁ……。


ーーーーーー


 四歳。

 日々の勉強で読み書きは完璧になった。ここからは教養の段階にシフトする。学ぶことは盛りだくさんだ。この世界の地理、歴史、法律、算術(数学)に古典や風俗など。この話を聞いて、俺は剣と魔法を教えてほしいとお願いした。冒険者を目指している身としては必須の技術だからだ。

 魔法の才能があることは生まれた時に判明しているらしい。魔法使いが胎児に魔力を流し、抵抗がなければ才能ナシ。抵抗が大きければ大きいほど才能があるそうだ。母が魔力を流し込む役もしたそうだが、少しも魔力が流れなかったそうだ。そのため正確な才能のほどはわからずにいた。

 母は魔法はともかく剣はやったこともないので教えられないという。そこで剣は家の警備をしてくれているアーロンさんに教えてもらうことになった。彼は元冒険者。しかもかなりの高ランクだったらしい。

 そんなわけで二人による教育が始まったーーのだか、剣術や魔法はともかく教養のレベルが低すぎた。地理や歴史、風俗などはそう難しいわけでもなく覚えた者勝ち。算術に至っては小学校低学年で習う四則計算がすべてであった。日本でより高度な教育を受けてきた俺にとってはあまりに簡単すぎた。俺が子どもだから内容に制限が加わっているのかと疑ったが、これが一般的な教育内容らしい。これ以上の内容となると上位の貴族を相手にした家庭教師を雇わなければならないらしい。幸い母には家庭教師とのツテがあるらしく、ダメ元で打診してみると引き受けてくれるそうだ。

 しかしそれまでには途方もない苦労があった。母の機嫌を取らなければならなかったのだ。教えることがないと知るとヘソを曲げたのだ。


「しくしく。ママはもう役立たずなのね。しくしく」


「そんなことないよ。ママは魔法を教えてくれるよ」


 彼女の長所を挙げてみるも、


「でも物覚えがよすぎるからもう魔法のレパートリーがないんだよね。それに同じ魔法でもオリオンの方が強力だし。才能が桁違いだからそうなると分かってたんだけどね……」


 などと自虐に走ってなかなか直らない。仕方がないので強硬手段に訴えた。それは、


「ぼくはママがだいすき!」


 恥ずかしいが、母に思いっきり甘えることだ。彼女に覆いかぶさり、耳元でそう囁く。効果は覿面覿面(てきめん)で、


「オリオン!」


「わっ!?」


 素早い身のこなしで母が俺を抱きしめる。遠慮のない力いっぱいの抱擁。かなり息苦しいが子どもの俺は抜け出せず寝苦しい夜を過ごした。でもそのおかげか翌日には機嫌を直してくれたから、俺としては万々歳だ。

 新しくきた家庭教師はメリッサさん。赤髪で切れ目が特徴のボーイッシュな麗人だ。俺も見た瞬間は中性的な美青年だと思った。しかし彼女は女性である。

 彼女は元男爵家の令嬢で、家が貴族の政争に巻き込まれて没落。やむなく家庭教師をして日々の生活費を稼いでいるそうだ。今回仕事を引き受けてくれたのは、母に昔、家から放り出されて途方に暮れていた彼女に食べ物と少しのお金をもらった恩を返すためらしい。そのため住み込みになる代わりに授業料はタダなんだそうだ。

 メリッサさんが教えてくれる算術は中学校レベルでやはり退屈だったが、貴族の礼儀作法なんかは新鮮で面白かった。

 朝はアーロンさんと剣の鍛錬。昼食までメリッサさんの授業を受けて、昼食後しばらくは自由時間。夕方に母から魔法の手ほどきを受ける。そんな生活サイクルが出来上がり、毎日がとても楽しい。日本に住んでいた時以上に。

 これから先、どんな未来が待っているのかとても楽しみだった。




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