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道はここに続いていた

長閑と祈城がガーデンの建物を目指すために、街道を歩いている。


相変わらず素っ気ないものの、以前に比べてみれば、祈城は会話をしてくれるようになっていた。


そんななか、長閑は先ほどの戦いで気付いたことを口にする。


「祈城って基本的に俺のこと“あなた”って呼ぶよな」


「? うん」


もう連行されていなくなった、先ほどのターゲットとの戦闘場所を長閑は指さす。


「あいつとかも“あなた”だよな」


「…うん」


「…言いたいことわかる?」


「わかった。長閑だね?」


「そう。さっきの戦いの時みたいに名前で呼ん…いでっ!」


照れ隠しなのかイラッとしたのかは不明だが、祈城が長閑の後頭部を叩く。


そのとき長閑は、あることに気が付いた。


長閑の身長は153cmと、16歳の男子の平均身長を下回っている。

この身長と童顔が彼のコンプレックスになっているのは置いておくとして。


いま並んで歩いている祈城の身長が、長閑よりかなり小さいことに気が付いた。


それは推定、130cm。



ガーデンに入れる年齢は、14歳である。

もちろん14歳で130cmの人はいる。



(それにしても………)



何かは分からないが、彼女に対して長閑は強い違和感を感じていた。



やっと建物の入り口に着くと、門に寄りかかる雪猪が見える。ふたりが雪猪の前にいくと、不機嫌そう言葉を発した。


「遅ぇよ」


「悪い。祈城がわがままで…」


「祈城?」


「ああ。この子のこと」 


長閑が雪猪に祈城を紹介している間、祈城は建物をじっと見つめていた。


「…」


「祈城? どうした?」


「…別に何でもない」







建物の中に入り、三人は所長室へと進んでいく。所長室に入ると、すでに報告を聞いていた所長が嬉しそうに待っていた。



「やあ追儺くん。よく来てくれた! …ってどうしたの?」



所長が不思議そうにしたため、長閑と雪猪が振り返ると、祈城は小刻みに震えていた。


その理由が分かりきっていた長閑は、祈城の代わりに代弁する。


「社長が部屋の温度10度に設定してるからですよ…」


「えー。普通じゃない?」


冗談交じりに笑う所長を、雪猪が低い声で制した。


「異常です」


寒さに耐えつつ、祈城は普通に会話を続ける三人を見た。


所長と呼ばれる人物は長袖の白衣に黒い長ズボンをはいているが、長閑と雪猪は半袖を着ている。

長閑にいたっては半ズボンであり、半袖にスカートの祈城とほぼ同じ条件である。


「…なんで長閑たちは平気なの」


「慣れ、かな?」


長閑たちだってもちろん寒いし、長時間は居られない。でもそんな所長と所長室に慣れてしまえば、大丈夫になる…ようだ。


祈城は長閑が予備としてロッカーに置いていた上着を貸してもらい、四人は話を続けた。


「それでだね追儺くん。君には秘鳥について教えてほしい。ついでに先ほど知ったんだが…秘鳥の力とやらの、長閑のコーチをしてほしい」


「お断りします」


「どうしてだい?」


「私は別の土地に所属しているガーデンの一員です。仕事ありますし」


長閑は考え込む。


「俺も祈城にコーチしてもらいたいのは山々なんだけど、さすがに祈城にも事情があるんじゃないですか?」


長閑の言葉に頷きながらも、所長が引き出しから名刺を取り出した。


「追儺くん。これを」


怪訝そうな顔で受け取った祈城は、その顔を一瞬にして変える。


「ガーデンのBランク…?!」


「そう。君はガーデンの一員だったかな? それなら、これは上司命令だ」


「…わかりました。三日間滞在しますので、そのあとはお任せします」


長閑が雪猪に聞いた。


「どういうこと?」


「Bランク以上は他所属のDランク以下の人員に三日間のヘルプを頼める。それ使ったんだろ」


「え。社長ってそんなに偉いの?」


「よくわからん」


ガーデンという、治安を守る組織。

その組織の仕組みをしっかりと把握していない二人を見て、祈城が社長に質問した。


「この会社に、まともな人は?」


「…いるよ。二人くらい」


痛いところを突かれた所長は、手を叩いて三人の注意を向ける。


「じゃあ今日はとりあえず解散。追儺くん、これからよろしくね」


長閑も笑顔で祈城のもとに行く。


「よろしくな、祈城」


祈城は溜め息をついたあと、少しだけ笑った。


「わかった。長閑も頼んだよ…色々と」


なんとなく四人が良い雰囲気になったときに、雪猪の携帯電話がなった。

所長に目線で「ここででていいですか?」を質問をしてから、その電話をとる。


「はい、こちら雪猪。ああ、お疲れ。良い所に電話してくれた」


その後、色々な話しをしたあとに電話をきった雪猪は、三人の方を見た。


「ちょうど良い案内人を捕まえた。俺たちじゃできねぇから、女子寮の案内をしてくれるそうだ」


「女子寮?」


祈城が首を傾げると、長閑が補足をする。


「このザートラ市のガーデンの俺たちは、基本的に寮で寝泊まりしてるんだ」


「そうなんだ…」


そのとき、遠くの方からドタバタと何者かが走ってくる音がした。


その足音は段々と大きくなり…と思いきや、途中でカシャン、という音を立てて止まった。


不思議に思った四人が顔を見合わせていると、所長室の扉が開く。


「失礼します! …あ! あなたが!」


うれしそうな顔で入ってきた少女は、祈城を見て目を輝かせた。笑顔を満開にさせた少女のピンク色の短い髪が、彼女の明るさを際立たせている。


「初めまして、私は相模綺女(さがみあやめ)。あなたが祈城ちゃんね?」


あまりの勢いに圧倒された祈城が、かろうじて頷く。すると綺女は祈城の手を取り、早足で駆けていった。


「じゃ、女子寮に案内するわ!」


「え、あ、ちょっと…。の、長閑…?!」


唐突すぎる展開に、手を引かれながら祈城は長閑の方をちらりと見る。


そんな祈城に長閑は「悪いやつじゃないから、許してやってくれ!」という苦笑いを見せた。


(女子の仲間が増えたからって、喜び過ぎだろ…あいつ)


冷や汗を流しつつ、祈城が逃げないことを祈る。



すると意外にも祈城は小さく頷き、綺女の速さに合わせて素直に駆けだした。



嵐が去ったあとの所長室は、謎の沈黙に包まれる。


「…とりあえず、祈城は長閑には少し懐いてるみたいだな」


何とも言えない雰囲気を、雪猪が破る。


「うーん、そうだと嬉しいんだけどね」


苦笑いのまま、長閑は答える。


「はは…。とにかく二人ともお疲れだろう。今日はもう戻った方が良いね」


優しい声で所長に促され、二人は所長室を出た。



色の濃いこの一日を振り返りながら、たわいない話しを繰り返し、ガーデンの廊下を歩いていく。


そこで話しを切り出したのは、長閑だった。


「そういえばさ…“あの情報”入った?」


「ん? ああ…“赤い髪の少年”の情報か? …何もなかった」


「そっか…」


長閑は「残念だなー」というように、無理するような笑いを見せる。



しかし雪猪は知っていた。



赤い髪の少年の話をするとき、長閑の元気な瞳から光が消えてしまうことを。




「…あ、やべ。オペレーター室に明日の資料片付けんの忘れた」


唐突に、雪猪は話を切る。

すると隣にいる長閑は、いつもの長閑に戻った。


「雪猪が忘れごと? 珍しいな!」


「そうでもねぇよ。片付けに行くから、先に寮に行っててくれ」


長閑と別れ、ひとりオペレーター室に向かう。





小さい頃から憧れた『オペレーター』という仕事。

長閑や綺女のように、現場で動く『逮捕官』のサポートをする役割。


それをこなすのが、現在ザートラ市で唯一のオペレーター、雪猪だった。



オペレーター室の明かりを付け、一つしか無い椅子に向かう。

その机の上に置かれた資料は、盗まれたら大変なことになるもの。何かが起きる前に、迅速に片付けた。



「雪猪、お疲れさま」



突然、雪猪に対する労いの言葉がかかる。


足音や気配をここまでなくし、オペレーター室に来られるのは一人しかいない。



雪猪は片付けの手を止め、その人物へと体を向けた。











「…」


そのころ祈城は、綺女に案内された寮のベットの上で横になっていた。


(どうしよう…あんな社長の言うことなんて無視して帰ろうかな…)


体を起こし、なんとなく窓の外を見る。

そこにはザートラ市が誇る、青く大きな海が広がっていた。


その海は祈城がこの街に来たときにも、長閑に秘鳥を渡したときにも側にいてくれた。


(なんか今日は疲れたな…どうしてだろう…)


「…あ」


祈城はやっと、長閑から借りた上着を着たままということに気付く。


(早く洗って返さないと…)


しかし祈城の意識は遠のき、そのまま眠りに落ちてしまった。

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