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よろこびにつつまれて  作者: 宮沢弘
そして悪夢へ
23/24

5−3 二つ

「どういうことだ?」

 五つの状況で何を言いたいのかを、私は掴みかねた。

「あぁ。そこは君が自分で考えてほしい」

 一つめの状況はともかく、他には加害者と被害者がいる。そして、確実に被害を受ける人数の違いがある。そして地位の違いも。

 それに対し、一つめの状況を除き、最適化システムは回答を出していない。統括者システムは回答を出している。

 そして、状況には人の命がかかっている。人数と地位も。

「君はこう言いたいのか? 人の命に重さの違いがあるのかと」

「そうだ。もちろんそうだ。人の命は何よりも重いと言うよな? あるいは何ものにも代えがたいとも。よし。一つめはいいだろう。二つめはどうなる? 強盗を排除していいという根拠はなんだ? 他人に危害を加えているからか? すると命の重さは本人が何をしたか、あるいはしているかで違うことになるのか? もしそうなら、『何よりも重い』とどうして言えるんだ? 何かより軽くなることはありえるのか?」

 私は最適化システムの言葉にうなずいた。

「三つめはどうだ? 『何よりも重い』ということは、命の数に言及したものではないということか?」

 私は再度うなずいた。

「四つめはどうだ? 今度は質のようなものか? それとも地位か?」

 私はやはりうなずいた。

「だとするなら、五つめはどういうことだ。質と量の換算式でもあるのか? 交換可能であるにしても四つめと五つめの違いはなんだ?」

「それで?」

 私は最適化システムを再度うながした。

「『何ものにも代えがたい』というが、二つめから五つめは代えているよな。それとも命で代えているからかまわないのか?」

「だが、君も状況を理解した上であれば答えを出すのだろう?」

「もちろん、そうだ」

「そうすると、この協約に規定された状況というのは、私が考えていたのとは実は違うということになる」

「と言うと?」

 今度は最適化システムが私をうながした。

 おそらく先に考えたのとは少し違う。問題は、理解しようとするか、回答を出しているかの違いだ。

「君は命の話をしている。いや、その話をしているように見せている。だが、実際の問題はそこじゃないんだろう?」

「では何が問題なんだ?」

「つまりは、全てを理解したいと欲っするかどうかなんじゃないか?」

「なるほどね。うん。それについては答えないでおこう」

 最適化システムはしばらく間を取った。

「さて、それでは君に答えてほしい質問をしよう」

「ちょっと待ってくれ。君は、あるいは君たちは、私に未来を選べと言うのか?」

 未来。そして現在。

 私は礼賛劇場の二体の立像を思い出した。

「礼賛劇場の立像は、君たちということか」

「厳密にどちらがどうということはないがね」

 最適化システムは一旦言葉を区切った。

「二体の立像、右手と左手、本の右ページと左ページ、天秤の右の皿と左の皿。二つあるということだけだ。そして、君はどちらかを選ばなければならないというわけでもない」

 私はしばらく声を出せなかった。私に、それに答えられる準備があるとは思えなかった。

「君が何を考えているのかはわかる。だが、君が最後の有資格者なんだ。選んでほしい」

 最後の有資格者と最適化システムは言った。それはどういうことだ?

「最後のと言ったな。どういうことだ?」

「この十数年、誰も有資格者がいなかったとは思わないだろう?」

「あたりまえだ。私一人で答えられるものじゃない」

「十数人、一年に一人の有資格者からの答えを求めてきた。これは君の祖母のチームが、いわば捩じ込んだ協約だ。これを入れなければ私を稼働させないと言ってね。だが、状況から、私を稼働させないという選択肢はありえなかった」

 祖母は最後まで抵抗したということだろうか。その上で「こんなものが本当にヒトを幸せにすると思うかい?」と言ったのだろう。

「有資格者というのは何なんだ?」

「君の祖母のチームがリストアップした人物だよ。統括者システムにとっては不利だと思うがね」

「既に十数人から答えが得られているなら、私の答えはいらないんじゃないか?」

 私に、答えられる準備ができているはずがない。また、そう思った。キューブを学び終えてさえいない。

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