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よろこびにつつまれて  作者: 宮沢弘
そして悪夢へ
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5−1 対面

 フォーンという、まだ静かな、交代一時間半前のサイレンを聞きながら、私はベッドの中で目を覚ました。

 ベッドから起き、昨日着ていたつなぎを取り、部屋の入口近くの配送管の口へと行った。配送管の口を開くと、三着のつなぎが届いていた。そのつなぎを取り出し、手に持っていたつなぎを配送管の口に放り込んだ。

 ベッドの横に戻り、新しいつなぎをクローゼットにかける。

 淡い青色のつなぎ。左胸には濃い青色のラインが4本。その4本の線をまたぎ、スラッシュのように入る黒いライン。

 宿舎の食堂へ向かおうと、グラスを手に取り、かけた時、グラスが鳴った。グラスには学生からもらった紙に書いてあった番号、9392487253269665611が表示さていた。私は通話を承認した。

「ええと、はじめまして、なのかな。ちょっと通話を映像端末に回してくれないか?」

「食事の後、仕事ですが」

「そっちは気にしなくてかまわない。ちゃんと処理してあるし、それよりこっちの方が大事なんだ」

 そういうことならと、私はまた配送管のところへ行き、飲み物を頼んだ。配送管の口の奥で飲み物の缶が転がり出てくる音がした。それを取り出し、ソファーへと向かった。

「あなたは、誰なんですか? 私からのコールは受け付けないと8579は言っていた。だけど、私はあなたを知らない。あなたを知りもしない私が、あなたにコールするわけもない。なのに個人番号を知らせて来た」

「あぁ。そのあたりの説明もするから。通話を映像端末に回して欲しい」

 どういうことなのかを知りたければ、通話を映像端末に回すしかない。

 映像端末には、個人番号と、個人が使うアイコンが表示されていた。ただ、アイコンは通例の顔写真ではなく、ただのスマイリーで、結局は誰なのかはわからないが。

「さて、もう一つお願いがある。私を経由して、あと三人の通話も認めてほしい」

「認めなければ?」

 実際にはそんな選択肢はないのだろうと思いつつも訊ねた。

「そうなったら困るな。お願いとして、認めてほしい」

「一つ条件がある」せめてもの抵抗と考えた。「あなたは誰なんだ?」

「想像はついているんじゃないか、兄弟?」

 8579は「まったく人間は」と言っていた。人間でないとするなら、それは一つしかない。

「そうだとして。今、『兄弟』と言ったな。どういう意味なのか教えてほしいが」

「言葉どおりだよ。君の祖母が私を作り始めた。そして、君が一番最後に君の祖母から教えを受けている。いわば、君は一番末の弟のようなものだ」

 最適化システムから兄弟と言われようとは思ってもみなかった。基本的には疑いの対象だったのだから。その疑いそのものが疑いの対象ではあったとしても。

「別の言い方をしてみよう。私は君の祖母の教え子たちに実際には作られた。そういう意味では、私も彼女の孫だよ。それなら従兄弟なのかもしれないが、だとしても君を兄弟と呼んでもいいだろう?」

 私が答えられずにいたのをどう考えたのかはわからない。だが最適化システムは、あるいは最適化システムの人格は、そう続けた。

「あぁ。それを告げることは、8579が言っていた協約に違反しないのか?」

「触れるかもしれないな。だが、これは事実だ。それに、君の判断に大して影響しないだろう」

 判断と最適化システムは言った。何の判断なのか。8579は「すべてが決まる」とも言っていた。何のすべてなのだろう。

「さて、それで改めてお願いだが、あと三人の接続を認めてほしい」

 私はうなずき、映像端末への接続を承認した。

 映像は二つに割れ、左には9392487253269665611が、右には4748832014324498130という個人番号が表示された。ただ、アイコンはただ黒く、顔写真もスマイリーも表示されなかった。

 映像端末の左側には、小さい領域が取られ、そこに8876553114389288579という個人番号と、8579のアイコンが表示された。その下には「最適化システム側本人確認証人」と表示されていた。

 右側にも小さい領域が取られ、そこに3645583295353426476という個人番号と、6476のアイコンが表示された。その下には「統括者システム側本人確認証人」と表示されていた。

「最適化システム側本人確認証人、8876553114389288579。対象を6461622113721830818と記録および記憶から確認し、また有資格者と確認したことを証言します」

「統括者側本人確認証人、3645583295353426476。対象を6461622113721830818と記録、記憶、および反応から確認し、また有資格者と確認したことを証言します」

 8579と6476は、接続されるやいなやそう言った。

「ちょっと待ってくれ」

 私は二人の言葉を聞き、一瞬呆けていた。8579とは数日の、6476とは数年の付き合いだ。その長さとは別に、二人は何者なのか。あるいは何者だったのか。だが、それ以上に聞かなければならないことがあると気付いた。

「有資格者? 何のことを……」

「君が答えを述べる資格を有するということだよ」

 最適化システムが答えた。

「だから、それは……」

「それに答えるには、もう一人が誰であり、どういう存在なのかの説明から始めないとね」

 最適化システムは続けた。

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