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4−5 キューブ

 自室に戻るとキューブを起動した。

 8579との会話――それがそう呼べるなら――では、幾分気持が落ち着いたように思う。結局8579が誰なのかもわからず、なぜ総統が接触してきたのかもわからない。だとしても、二人とも言っていた。明日になればわかるのだろう。

 そして、そのためにもキューブを見なければならない。

 キューブには数学、物理、化学、生物、宇宙、歴史、工学、理学、文学、哲学と、多くのテキストが納められている。祖母は、祖母たちは、チームでキューブを編纂したのだろう。各々に元となったテキストがあったとしても。それを私一人で理解できるものなのだろうか。だが、それではあっても、知りたいという、全てを知りたいという欲求が私のどこからか湧いてくる。

 「協約」、「判断」、「決断」など、手がかりになりそうな言葉でキューブの中を探索してみた。だが、たった一つのファイルを除いて、関係しそうなものはなかった。その一つも、最後のタイムスタンプがある、READ.MEであったにすぎない。そこには祖母の――祖母だったとして――、「これを使うかどうかは自分で決めなさい」という言葉があるだけだった。8579とが言った協約や、8579と総統が言った「決める」とか「判断」というものに関係しているようには思えない。

 あるいは、祖母のその言葉が、結局は8579と総統が言ったことに通じているのだろうか。

 ただ、わからないということだけがわかった。


 キューブに納められている全て知識の、項目や部分ごとの関連のネットワークを映像端末に表示させた。私がつけたノートも合わせて表示させた。全体からすれば、それはほんの一部にすぎない。それに、キューブに納められている知識が、全てではないのだろうと思う。ではあっても、それは膨大であり、そのネットワークは複雑だ。既に学んだ事柄についても、表示されているように私の頭の中でネットワークが構築されているのかはわからない。ただ、私の理解は、量においても質においても充分ではない。


 総統も8579も「判断」と言い、「決める」と言った。キューブに納められている内容を基本にするとしても、そこに納められていない事柄がある。私の経験であり、私の考えだ。

 そこで気付いた。キューブには最適化システムがそもそもどういうものであるのかは書かれている。だが、ではそこからどうしてこの社会になったのか。それについては何も書かれていない。

 私は映像端末上で、知識のクラウドを上下左右に動かし、奥へ、手前へとも動かした。統括者という言葉を探索してもみた。

 だが、何もない。

 そんなことがあるだろうか。

 祖母たちは、あらゆるテキストをキューブに納めているように思える。にもかかわらず、今の社会に通じる過程についてのテキストがキューブに存在しない。

「こんなものが本当にヒトを幸せにすると思うかい?」

 祖母の声が蘇えった。

 そう言うのなら、その「こんなもの」についての記述が納められているのではないだろうか。

 ならば、「こんなもの」というのはやはり最適化システムだったのだろうか。それともキューブでは触れていない――おそらくはあえて――、何かなのだろうか。後者なのだとしたら、それについては私の経験で考えなければならないのだろう。そこからの答えがどういうものであるとしても。そして、そうであるのなら、祖母たちはそれを期待していたのだろう。あるいは、それは協約というものの一部であったのかもしれない。


 私は映像端末を終了し、グラスを外し、つなぎを脱ぎ、ベッドに入った。

 明日、何があるにせよ、最初に確認しなければならないことだけははっきりしていた。祖母は、実際に私の祖母だったのだろうか。そして、もし本当に祖母であったのなら、なぜ記録は、私の記憶と食い違っているのか。それを確認しようとだけは思った。

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