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生き様概論

掲載日:2026/05/09

俺は多中(たなか)。大学1年生だ。


俺が入学した大学には楽に単位がとれる授業がある。


とは言っても、ただの楽単授業ではない。その授業はなんと、テストが無く、毎回出席するだけで単位が貰える。

そして、貰える単位に注目だ。なんと40単位と、破格な量の単位を貰える。

さらに、その40単位を仮に必修の授業を落としたとしてもその単位で埋め合わせてカウントできるらしいので、まずこの授業を取ってしまえば留年は有り得ない。

そして1度授業を取ってしまえば4年生まで強制的に継続らしいので、楽に単位を取りまくって、全休作り放題。

勝ち組大学生活を送れること間違いなしだ。


しかし、美味い話には裏がある。この授業は人気のあまり抽選制で、定員が2人だそうだ。

さらに、抽選に当選し、履修できた生徒はこの授業を履修したことは他言禁止であり、授業をやった内容を他人に教えるのも禁止だそうだ。うん、怪しい匂いがプンプンする。


そこで、興味を持った俺はその授業の抽選を申し込もうと思った。


その授業の名は…『生き様概論』だそうだ。



数日後…

「お、なになに?抽選結果が出たらしいな。」


大学の生徒専用の公式サイトに抽選結果が発表されたそうだ。俺は自分の学籍番号が掲示されているかどうかを一目散に確認した。


「おいおい、マジかよ。冗談交じりに抽選申し込んだけど本当に当選するなんて…」


嬉しさのあまりその場でガッツポーズをしたが、その反面、不安も頭をよぎった。

「でも、履修していることは他言禁止で授業内容を友達や他人に話すのもダメなんだよな…怪しすぎるだろこれ。もしかしたらデスゲームが始まって最後に生き残った奴が単位貰えるとか…?うーん、でも、仮に殺し合いのデスゲームだとして2人で殺し合いをするにも4年もかからないよな。殺し合いってのは流石に無いな。」


ホッとした俺は新入生ガイダンス中に友達にバレないように生き様概論のシラバスを読んで一日を過ごし、帰宅した。




そして、生き様概論第1回目の授業日…


「ここか、教室は。って、暗いなオイ!」


指定された教室の中は薄暗く、気味が悪かった。もう1人の履修者が教室に入ってきたので俺は自己紹介をすることにした。


「俺は経済学部の多中だ。よ、よろしくな。


可愛らしい女の子だったので俺は少し緊張してしまった。

「よろしく!私は法学部の済華(さいか)っていいます!にしても、私たち運がいいね。こんな授業取っちゃえば1年から全休作り放題で、遊んだり、バイトしたり、免許取ったり、色々出来るね。」


「そうだな。でも、この授業を履修した人以外にこの授業の事を話すのは禁止らしいな。なんでだろう?」


「うーん、分からない。それに私口軽いからすぐ友達に言っちゃいそう。」


「言ってもバレないとは思うが、裏がありそうで怖いな。」


「それもそうだね。」


授業開始時間まで他愛もない話をしていると、謎の男が教室に入ってきた。


「初めまして!ワタクシ、この生き様概論を担当させていただく、鷲用(わしよう)と申します。以後お見知り置きを。」


変わった風貌をした鷲用という教師が生き様概論の担当教師らしい。


「この授業についての説明ですが、まあ、シラバスなどをご覧の通り、出席するだけで大量の単位をお2人にプレゼントしちゃいます!そして名前の通り、人間という生物の"生き様"について、とあるビデオを見てみんなで考えていくといった内容でございます。」


「ビデオ?」


「そうです。教材ビデオです!ふヒヒヒ!」


男は気味の悪い笑い声をあげた。

済華は少し怯えていたようだ。


「やだ、気味が悪い。」


「確かに気色悪いなコイツ。変な笑い声あげて。」


「多中クン、聞こえてますよ。ワタクシの悪口を言っているでしょう!」


「げ!」


「まあ、ワタクシのココロはとてつもないほど寛大ですので許してあげましょう!フヒッ!なんせ、毎回出席するだけでこんなに大量の単位をプレゼントしちゃう太っ腹っぷりですから。」


「そ、それもそうだな。楽に卒業できるもんな。1年生の頃なんか、本当にやりたい分野の講義以外にも意味の分からない関係のない教科ばっかり取らされてその度にレポートに頭を抱えるのは御免だからな。本当にありがたいよ。」


そんな中、済華は一番気になるであろう質問をした。


「鷲用先生、質問なんですが、なぜ他言禁止なのですか?」

「フヒヒ!まあ、あなた方がこの授業を受けて慣れてくるころには分かるでしょう!」


「え〜、気になるのに!教えてくれないんですか?」


「何か裏があるんじゃないのか?」


「フヒッ!さあ…どうでしょうかね…?そんな事より、タイムイズマネー!時間が勿体ないのでさっそく授業に入っていきましょうか!ではまず、皆さんにこちらのビデオを見てもらいます!ヒヒッ!」


鷲用はとあるDVDをビデオプレーヤーに入れ、再生し始めた。


そこには女子高生が映っていた。




「そこのお姉さん。少し占いしてかないかい?」


女子高生は黒いコートを身にまとった怪しい占い師に声をかけられていた。


「え、いいです。私時間ないので。」


女子高生はその場を立ち去ろうとしたが、その瞬間、占い師にガシッと腕を掴まれた。


「いいや…ダメだね…占いをしていきなさい!」

「ちょっと!イヤ!離して!」


必死に抵抗するも、無理矢理水晶玉を触らされる。


「やっぱりだ…落ち着いて聞いてくれ。お姉さんは1週間後、死ぬでしょう。」


「は、はあ?そんな訳ないでしょ。ていうかあなた失礼すぎませんか?無理矢理占っといてあなた死にますよって!!いくらなんでもそれは酷い!」


「そういう職業ですから。」


「で?なんか対策とかラッキーアイテムは?占い師ならそれくらい教えられるよね?」


「残念ながら…お姉さん、この運命は避けようがありません。」


「は?ふざけてんの??」


「この一週間を悔いが残らないように過ごしてください。いいですね?」


「はっ、しょうもない。あっ!もうすぐ学校の時間だ!早く行かなきゃ!」


女子高生はその占い師の胡散臭さ、言ってる事のしょうもなさに呆れつつ、学校へ向かったようだ。

授業中も、昼食中も、学校帰りも、全く気にしていないようだった。


そこで一旦ビデオを一時停止し、鷲用は口を開いた。


「では、皆さん!ここで授業の本題、『1週間後に死ぬと言われた女子高生はどんな生き様をするのか?』についてビデオを見て考えていきましょう!」


「見ての通り、呆れてるじゃないか。この占い師も胡散臭いことしか言ってないし、あんまり信じてないんじゃないのか?そもそも本当に死ぬのかもわかんねえし。」


「へぇ、多中クンはそう思うんですか。済華さんは?何か感じたことはありますか?」


「多中くんと同じで、最後の最後まで本気にしてないと思うかな。なんか、非現実的だし」


「そうですか!!この女子高生が死んでしまうのか、或いは生きているのかそれは最後まで見てからのお楽しみデス^^では、改めて、ビデオを再生してみましょうか。」


ビデオは再び再生された。

その日の夕方、女子高生は帰り道にまたあの占い師を目撃した。


「あっ!あの占い師また変なことやってる!しかもあの子知ってる!向かいの家の男の子だ!」


女子高生はその占い師の元へ行き、占い師に注意をした。


「ちょっと!このボケ占い師!何してんの!」


「この少年も…明日死ぬ…。本当のことだ。」


「行くよ。こんなの信じちゃダメだからね。」


女子高生は少年の手を引っ張り、その場を離れた。

「お姉さん。僕は信じてないよ。」


「そう?良かった。不審者には気をつけるんだよ?いい?」


「はーい!」


女子高生は帰宅後も普通に家でいつも通りの生活を送っていた。まだ死を言い渡されてから初日。気にしている様子は無かった。


しかし、その翌日…そう。少年が死ぬと言われた日である。


朝、女子高生が学校へ行こうと歩いていた。すると、女子高生の家の方面に霊柩車が走っていった。


「え、え、れ、霊柩車?まさか、あの占いは…いや、そんな訳無い無い。まさか…ね。そんな訳ないか。たまたま…通りかかっただけだよね?」


女子高生は少し動揺していた。




済華はビデオを見ながら「え、やっぱりあの占い、本当なんじゃないの?」と疑い始めた。

俺も一瞬疑ったが、ある異変に気づいた。


「いや待て、違う。本当に死んだとしたなら霊柩車が来るのはもっと後だ。あの少年が今日死んだとしたならまず有り得ない。ふつう、霊柩車は葬儀とかが終わってから来るだろうな。」


「あ、確かに。じゃああの霊柩車ってなんだろ。」


「さあな。たまたま違う近所の人が亡くなっただけかもしれない。そして、それを本当だと思い込むことによってこの女子高生は日に日に焦っていくんじゃないのか?」


すると鷲用はビデオを止め、机を思いっきりバンッ!と叩きながら嬉しそうな顔で口を開く。


「多中クン!なかなかいい考えですね!じゃあ、仮説にはなりますが…」



「そのたまたま亡くなった人が、何日か前に占い師から女子高生や少年と同じように、"〇〇日後に死ぬ"と占われたと仮定すると、どうなるんでしょうかね…」


「ええっと、それは…」


俺は答えられずに黙り込んだ。確かに、そこまでは考えていなかった。


「まあ、君たちがこの占いが本当かどうか考えるのはどうでもいいことですが、問題はこの女子高生が周りで起こる様々な事を占いと何かしら関係があるのかもしれないと意識し始め、予言された1週間後までどう生きるか、という生き様を考えていくのがこの講義の内容ですね。ヒヒッ!では…ビデオの続きを見ましょう。」


その後…

学校に着いた女子高生は教室で友達と話していた。

「ねえ聞いてよ。最近めっちゃ変な占い師に話しかけられたんだけど。」


「またナンパ?」


「違う違う。1週間後に死ぬとか言われた。」


「え、なにそれ怖。」


「でしょ?しかもいきなり腕掴まれてさ。マジ最悪。」


友達は冗談っぽく笑った。


「でもさ、そういうの逆に当たったら面白くない?」


「やめてよ笑。普通に気分悪いんだけど。それに、近所の男の子も予言されたっぽくてさ。さらに、今日の朝学校行く途中に霊柩車まで見たんだよね。」


「マジ?超縁起悪いじゃん。」


「ははは、ま、まあ、あんな胡散臭いの、絶対嘘だよね。」



そう返しつつも、女子高生は少しだけ今朝の霊柩車、そして近所の男の子を思い出していた。


授業中。

ふと窓の外を見ると、校庭の隅に黒いコート姿の男が立っていた。


「あっ…」


あの占い師に似たような男がそこにいた気がした。

女子高生は思わず立ち上がる。


「え、どうしたの?」

友達は心配そうに女子高生に話しかけた。

「……いや。なんでもない…」

もう一度窓を見る。


しかし、そこには誰もいなかった。

「気のせい…?」

その瞬間。


ブブッ


スマホが震えた。

母親からのメッセージだった。


『今日帰り遅くなるからご飯温めて食べてね』

ただそれだけの内容。

なのに女子高生は妙な不安を覚えた。


"今日帰り遅くなるから"


その文だけが、妙に頭に残る。

まるで、「今日は家にいない」と言われたような気がしたからだ。



ビデオを見ながら鷲用が嬉しそうに言った。


「お、いい反応ですねぇ。」


「今の、“何も起きていない”んですよ。」


「でも、なんか嫌な感じはしたな…」済華が腕をさすりながら呟く。


「それです。」鷲用はニタァと笑った。

「人間は一度“死”を意識すると、あらゆる情報を死と結びつけ始める。」

「霊柩車」「怪しげな服」「家族からの連絡」


「本来無関係なものに意味を見出し始めるのです。」


「確証バイアスってやつか。」

俺がそう言うと、鷲用は指を鳴らした。


「素晴らしいィッ!多中クン!」


「では逆に質問です。」

鷲用は急に真顔になった。


「もし、本当に“死ぬ運命”だった場合、その不安は、“気のせい”や、”ただの偶然"で片付けていいのでしょうか?」

教室が静まり返る。


ビデオプレーヤーの音だけが響いていた。


済華が小さく呟く。

「うええ、……なんか、この授業嫌かも。」

その時だった。


ブツッ


突然、教室の電気が消えた。


「うおっ!?」


「何!?」


真っ暗になった教室で、ビデオだけが青白く光っている。

画面の中では、女子高生がコンビニから出てくるところだった。


そして…

映像の奥。

電柱の陰に。

あの占い師が立っていた。


俺は違和感に気づく。


「……なあ、さっきまで、あんな奴映ってたか?」


済華は青ざめた顔でプルプルと震えながら首を横に振った。

「え、あ、ああ、あ、アタシ、し、ししし、し、知らない……。」


その瞬間。


映像の中の占い師が、

ゆっくりこちらを見た。


まるでビデオの向こう側から、俺たちを認識したかのように。


「ッ……!」

済華が小さく息を呑む。

その瞬間。


ガガガガガガッ!!


突然、ビデオ映像が激しく乱れ始めた。

画面いっぱいにノイズが走る。

『――――…あ……』

スピーカーから、ノイズ混じりの声が漏れた。


「おい、これ演出か!?」

俺が叫ぶと、鷲用は暗闇の中でニヤニヤと笑っていた。

「フヒ……ヒヒヒ……!いやぁ、実にいい反応ですねぇ。」


「先生!ふざけないで下さいよ!!」


次の瞬間。

パッ、と教室の電気が戻る。


「……え?」


何事もなかったかのように、教室は明るくなっていた。

ビデオも停止している。

画面には青い停止マークだけ。


済華は肩を震わせながら言った。

「ねえ……今の、絶対おかしかったよね……?」


「……まあ、ビデオの演出だろ。」冷静を装ってそう答えたものの、自分でも声が少し震えているのが分かった。


鷲用は満足そうに手を組んだ。

「では、時間なので本日の講義はここまでです。映像の続きは次回視聴しましょう。」


済華が戸惑う。

「こんな授業、4年間も受けれる自信ない…次回もこんなの見なきゃダメなの?」



「生き様概論において重要なのは“考えること”。」

鷲用はそう言うと、ニヤリと笑った。


「皆さんは帰宅後も、あの女子高生について考え続けるでしょう。彼女は本当に死ぬのか。」


「あるいは。」


「“死ぬと思い込むことで壊れていく"のか。」


その言葉を最後に、鷲用は教室から出ていった。

教室には俺と済華だけが残された。


「……ねえ。」

済華が不安そうに俺を見る。


「多中くん、あれ本当に演出だと思う?」


「……わからないな。」


そう言って席を立つ。


だが、教室を出る直前、俺は何気なくビデオプレーヤーを見た。停止していたはずの画面。


そこに一瞬だけ、


『次はお前たち』




と表示されていた。



「――――ッ!?」

思わず振り返る。


しかし画面は、ただの停止映像に戻っていた。


「どうしたの!?」


済華が駆け寄ってくる。


「……いや。なんでもない。」

言おうとして、口が止まる。

もし今のを話したら、

済華はもっと怖がるかもしれない。

……いや。


違う。

本当に怖かったのは、自分の方だった。

俺は無理やり笑った。


「なんでも無いよ。ああ、もうこんな時間だ。早く帰ろう。」


だがその帰り道。

駅へ向かう途中の交差点で、俺は思わず足を止めることになる。

歩道の向こう側。

黒いコート姿の男が、こちらを見て立っていた。






「ちょっと、そこの君。占いしていきませんか?」

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