第3話 さて、困ったことになりました。
さて、困ったことになりました。
SNSに投稿された問題の動画を盗撮した犯人を探すべく、俺は一度自分の教室に戻り、煌のスマホを借りて情報を収集していたのだが、やはり一筋縄ではいかないらしい。
皆さんご存知の通り、SNSに投稿するにはアカウントが必要だ。
だから、アカウント名から盗撮犯の情報なんて簡単に得られるだろう。……なんて呑気に構えていたわけだが、その希望は儚く砕け散った。
『Silver Cat』——————人名じゃなかったのだ。
要約すると『銀色の猫』。もちろん銀色の猫を名乗る知り合いはいない。
対面に座った煌が溜息交じりに言葉を放つ。
「見たところ、情報はこれだけのようだね。この情報だけで犯人を突き止めるのは難しいだろうね」
「というか、煌は何でこの人をフォローしたんだ? 知らない人なんだよな?」
「フォローリクエストされたんだよ。わざわざフォローしてくれたのに無碍にはできないだろ?」
「煌ってそういうところ律儀だよな。そのうち、どっかの誰かに騙されそうで俺は怖いよ」
「怖いこと言わないでくれよ。それに日出だって、僕と同じ境遇に立てば同じようにすると思うよ」
「それはどうかな……」
俺の幼馴染は、とっても優しいのだ。
その優しさが俺と同等かと問われれば、はっきり違うと断言できる。
俺は煌が思うほど、優しい人間じゃないんだよ……。
「そんなことより、まずは犯人を突き止めないと! でないと、俺の未来が危ない」
「解決できなかったら、七ノ宮さんと付き合うんだっけ? むしろ解決できない方がご褒美だと思うんだけど……」
「色々とおかしいんだよ、七ノ宮さんは……」
言った直後、ふわっと良い匂いが鼻腔をくすぐる。
「ねぇ、誰がおかしいって?」
「おわぁっ!? し、七ノ宮さん!? クラスの友達に情報収集しに行ってたんじゃ……」
「そんなのフェイクに決まってるじゃない。だって、あなたを手伝ったところで私にメリットないじゃない。むしろ失敗させた方が私にはメリットがあるもの」
「ついに、はっきり言いやがったよ……」
やっぱり邪魔する気だったんだな……てか、どう考えても彼女にとっては失敗する方がメリットあるもんな。
だって、従順な奴隷ができるわけだし……。
そんな俺のツッコミを無視して、彼女が俺の頬を押さえてグイッと顔を寄せてくる。
「ねぇ、誰がおかしいって?」
「近い近い近い! とりあえず一旦離れて!」
「ふふっ、顔赤くしちゃって。今すぐにでも食べちゃいたいわ」
「不味いから食べないで!? てか、こんなことされたら誰だって赤くなるって!」
被害者でない煌だって、顔赤くしてるんだから間違いない。
両手で顔を覆って、指の隙間からこちらの様子を静かに伺っている。
……見てないで助けてくれ!
「このまま、唇いただいちゃいましょうか?」
「やめて! 俺の初めて奪わないで!?」
「間違えた。美味しそうな鱈子……、いただきます」
「本当間違えてる! 間違えまくってるよ!?」
そして彼女の顔がゆっくりと近づいた、その時——————
——————ピロンッ。
彼女のスマホと煌のスマホが短く鳴った。
煌はすぐさまスマホの画面を確認し、青ざめた表情を浮かべながら俺にスマホの画面を見せてきた。
「日出……。大変なことになったよ……」
それから画面を確認した俺も、煌と同様に全身から血の気が引いていった。
【拡散希望】
諦めの悪いド淫乱お嬢様。
こんな紙上先輩、見たくなかった……。
#淫乱 #灰色の青春 #失恋
写真まで付いてる。しかも、今し方の写真だ。
写真の角度からして真正面。
だけど、真正面に人の姿なんてない……。
「日出、これは流石に……」
「あぁ、普通に怪奇現象だな……」
「いや、確かに怖いけれども! もうここまで来たら、学校に相談すべき案件なんじゃないかな……」
「……それもそうだな」
俺としては問題が解決さえすれば良いのだ。
そしたらあとは学校側にお任せして……。
「それだけは絶対にダメ!」
彼女の言葉と同時に、頬を押さえていただけの手がムチに変わる。
「痛い痛い! つねるのやめて!」
「……あなたたちが変なこと言うからでしょ?」
そう言ってから、彼女はパッと俺の頬から手を離す。
痛かったぁ……。頬がもぎ取れるかと思ったわ……。
「別に変なことじゃないと思うよ? このままだと日出と七ノ宮さん、大変なことに巻き込まれちゃうかもしれないんだよ?」
「私にとっては、学校にバラされる方が大変なことなの……」
悲痛な表情を浮かべながら、彼女は後に言葉を続けた。
「この学校と先生方は七ノ宮家の傀儡なの……。だから、バラされると七ノ宮家の立場がなくなる可能性がある……」
なんか、しれっと物凄いことを暴露した気がするけど、これはオフレコってことで良いのかな?
煌の方に目をやると、彼は何も言わずに黙ってコクンッと一回頷いた。
やっぱり、持つべきものは空気の読める幼馴染だな。
「とりあえず事情は分かったよ。尚更、手遅れになる前に何とか問題を片付けないとな」
「そうだね。『Silver Cat』……一体誰なんだろう」
「分からないものは分からないわ! 紙上くん。私と付き合いなさい! これで万事解決よ!」
「……え、ごめん。今なんて?」
「聞こえなかったかしら? 紙上くんって言ったのよ。 あなた、紙上くんって言うんでしょ?」
そう言って、彼女は投稿画面の『紙上先輩』のところを指差す。
……まあ、そういうところだよな。
そして俺は、大きく息を吸い込み——————
「相手の名前を覚えてから告白してこいやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
雄叫びを上げながら、この場から走り去った。
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