第1話 ラブコメの始まり。青春の終わり。
カクヨムですでに投稿済みですが、小説家になろうでは初めての投稿です!
楽しんで読んでいただけると幸いです!
「——————あなた、私と付き合いなさい」
いつものようにやってきて、いつものように去っていく昼下がり。
校舎裏に呼び出された俺——————紙上日出は人生で初めて告白をされた。
しかも、相手は学校でも可愛いと噂されている同じ学年の美少女——————七ノ宮やしろさん。
ダークブラウンの長髪をハーフアップに結っており、結い目にはティアラ風の宝飾バレッタを使用している。
さながらどこかの国のお嬢様みたい……というか、実際この国のお嬢様なんだよね。
七ノ宮家といえば、この国でも指折りの財閥の一つだ。
主に教育部門に力を入れており、その家名を知らない人間は恐らくいないだろう。
ちなみに七ノ宮やしろさんは、七ノ宮家の長女。もう他に説明することはあるまい。
兎にも角にも、彼女いない歴=年齢の高校生男児ならまさに夢のような申し出であることに間違いないだろう。
だから俺は、その申し出にこう答えた。
「ごめん、無理」
彼女の瞳には直角姿勢で頭を下げる俺の姿は、まさに誠意の権化のように映っていることだろう。
俺と彼女の間に、しばらくの沈黙が流れる。
次に俺が頭を上げることになるのは、それから間もなくのことだった。
「どうして……。どうして、私からの申し出を断るの……?」
「……本当に分からない?」
「分からないよ! だって、あなたはあの日、私のハンカチを拾ってくれたじゃない! あの気持ちは嘘だったの!!」
「そう、それそれ! ハンカチを拾ったからって交際ってことにはならんでしょうよ!?」
「じゃあ、あなたはなんで私のハンカチを拾ってくれたの!」
「いや、俺の前にハンカチが降ってきたからだけど……」
「それじゃあ、あなたはハンカチと一緒に私の気持ちを踏みにじるというのね……」
「ハンカチは踏んでないけどね」
身に覚えのない罪を擦り付けられそうになったので、そこは改めて訂正しておく。
にしても、ハンカチを拾っただけで交際って……上級社会に生きる人たちの考えが全く理解できない。
いや、それとも彼女が箱入り娘だからなのか……。
「本当に、私のことを振るの……?」
彼女が震える声で呟く。
かなり心が痛ましいけど、それでも俺の応えは決まっていた。
「うん……。ごめん……」
「ハンカチのことを抜きにして、私があなたを好きだと言っても……?」
「うん……。ごめん……」
だって俺は、彼女の――――――七ノ宮やしろの〝本性〟を知っているから。
それを知っているからこそ、俺は彼女の告白を受け入れられない。
「これ、嘘告白とかじゃないよ? 本当の、私の気持ちよ……?」
「うん……。ごめん……」
「私と交際してくれるなら、私が何でも命令してあげるのよ……?」
「うん、ごめん。そういうとこ」
そう、七ノ宮やしろの本性は〝傍若無人〟。
自己中心を思想としており、自分のやることなすこと全てがみんなの幸せになっていると勝手に思い込んでいるのである。
もし仮に彼女と付き合うことになれば、それはリア充ライフもとい奴隷ライフの幕開けになるだろう。
そんなアブノーマルな関係を、俺は求めていない。
どこにでもある、至極普通の、世間が思い描く普通の恋愛がしたいのだ。
だからこそ、何を言われようと彼女のイケナイ関係の申し出に対して首を縦に振ることは絶対にない。
「私って結構着やせするタイプよ? こう見えて結構……」
「ゴクンッ。おぉ……」
彼女のいやらしいポージングに、思わず感嘆の声が漏れる。
その様子を目にした彼女が、不敵に笑みを浮かべながら言葉を綴った。
「ふふ、あなたが変態なのはすでにリサーチ済みよ」
「それは絶対におかしい! 健全な高校生男児なら、みんな同じ反応をするはずだ!」
「あなたが望むなら、あなたの身体を好きにしてあげてもいいのよ?」
「身体を好きに……って、ん? あれ、今俺のって言った? 七ノ宮さんじゃなくて?」
「いやらしい! なんで私があなたに身体を捧げなきゃいけないのよ!!」
「いやらしいのはあんただよ!?」
危なかった、危うく彼女の魅惑の罠に引っかかるところだった。
そして彼女は、不服そうに頬を膨らませながら俺に問いかけてくる。
「もし交際するとしたら、あなたは私に何を求めるのかしら。 昼食のお遣い? 板書の代行? それとも移動教室の車役? 何でも言ってくれて構わないわよ?」
「完全に交際という名の奴隷契約じゃん! 大丈夫、永遠に何も求めないから」
「むぅ……。恋人関係ってそういうものじゃないの……」
拗ねた顔は本当に可愛いんだよな……って純粋に思えたらどんなに良かっただろうか。
こんな〝本性〟がなければ、すぐにでも交際をお願いしただろうにね……。
てか今更だけど、どうして彼女は俺に執着するのだろうか。
別にイケメンでもなければ、運動神経が良いわけでもない。勉強だってそこそこできるぐらいだ。
秀でている面は一つもないのに、どうして俺なんかに交際の申し出をしてきたのだろうか。
まずはそこから確かめる必要があるよな。
「ちなみに、俺に告白をした理由って聞いてもいいのかな?」
「言うつもりはなかったんだけど、あなたがそれを望むなら……」
頬を赤らめながらモジモジし始める七ノ宮さん。
鼓動が早くなる。掌から汗が噴き出る。
これってもしかして、イケメンでもない俺に一目惚れとか……。
「あなたが私を甘やかしてくれると思ったからよ!」
「言わせて本当にごめん。マジでごめん」
「食い気味になによ! 何もそこまで食い気味に言わなくたっていいじゃない……」
気を落とす彼女に多少の罪悪感を覚えたが、理由が理由なのでしょうがない。
あとは、そうだな……。ずっと気になってたことでも聞いてみるとするか。
「俺の勘違いだと思うんだけど、もちろん俺の名前って知ってるよね? ずっと〝あなた〟って言ってるのが気になってたんだけど……」
「……あっ。えっと、も、もちろん知ってるわよ! えぇ、もちろん!」
自信満々に胸を張る姿勢とは裏腹に、その表情には不安が残っている。
これは……。
「……ちなみに、名前を聞いても?」
「あ、あなた。もしかして、私の名前を知らないの? 自分に告白してくれた女の子の名前を知らないなんて、そんなの……」
「七ノ宮やしろさん。俺の在籍する二年B組の隣のクラスのA組に在籍」
「……ま、まあ? 私って有名だしね。当然かしら」
そうだね。良い意味でも、悪い意味でも。
「それで、俺の名前は?」
「えっと……。……てへっ」
「可愛いけど騙されないよ? もしかして、名前も知らない男に告白したの?」
「……ま、まあ。そういうことになる、のかしらね」
バツが悪そうにそっぽを向く七ノ宮さん。
もう、色々とアウト!
可愛いけど、色々とアウトすぎる!
「ごめん! 誠意が感じられないので交際の件はなしで!」
「あっ、ちょっと!」
何かを言いかけていたが、全てがもう遅い。
俺はアブノーマルから逃げるようにこの場から全力で立ち去った。
昼休みもそろそろ終わるし、ちょうどいいだろう。
でも、この選択が間違いだったと後悔することになるとは、この時の俺は微塵も思わなかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
今後とも、よろしくお願いいたします!




