3章 2節〜噂話〜
昼を過ぎると、現場の熱が一段落する。
危険度の高い工程が一区切りつき、
代わりに確認作業と微調整が増える時間帯だ。
人の手が止まると、口が動き出す。
俺は仮設休憩所の前で立ち止まり、
端末の進捗をざっと確認していた。
予定通り。
遅れなし。
表向きの問題もない。
「主任、ちょっといいですか」
声をかけてきたのは、資材班の中堅だった。
腕は確かで、無駄なことはあまり言わない男だ。
「最近、人の引き抜き多くないですか?」
「そうか?」
「ええ。区画間の調整だけじゃなくて、
街ごと移るやつも増えてます」
俺は端末を閉じた。
「工事は同時進行だ。珍しい話じゃない」
「……ですよね」
納得したような返事だったが、
視線はわずかに揺れている。
「それと……極致計画って、知ってます?」
その言葉で、周囲の音が一瞬だけ遠のいた。
極致計画。
この街の管理者に、
すべてが降りてくるわけじゃない。
だが、完全な部外者でもない。
それが単なる完成形ではないこと。
効率化の延長では終わらないこと。
街単位での再編が前提にあること。
人の手を減らし、
判断をまとめ、
役割の境界を曖昧にする。
その先に何があるのか。
そこまでは、まだ書かれていない。
少なくとも、俺の端末には。
知っているのは、七割ほど。
だが――
七割あれば、十分すぎる。
「噂が先行しすぎてる」
俺はそう言って、話を切った。
「決まってから動けばいい。
今は、目の前の工事を優先しろ」
「……了解です」
彼はそれ以上何も言わず、
静かに現場へ戻っていった。
その背中を見送りながら、
俺は自分の判断が正しいかどうか、少しだけ考える。
隠しているわけじゃない。
ただ、伝えるには早すぎる。
この街は、まだ未完成だ。
未完成のものは、止める理由がない。
別の場所では、笑い声が上がっていた。
「人がいらなくなる街とか、SFだろ」
「だったら俺ら、今ごろ消えてるって」
誰かが冗談めかして言い、
周囲がそれに乗る。
俺も、口元だけで笑った。
機械は今日も素直に動いている。
人も、まだ必要とされている。
だが、管理者としての俺には分かる。
計画はすでに、
引き返せない段階に入っている。
進捗率は知らされていない。
それでも、七割は超えている。
それだけで、十分だった。
「……騒がしいのは、今のうちか」
誰にも届かない声で、そう呟く。
金属音。
油圧のうなり。
怒号と笑い声。
この雑音が、いつまで続くのか。
俺には、もう予想がつき始めていた。
それでも――
今日の工程表は、予定通り進める。
管理者の仕事は、
未来を決めることじゃない。
今を、回し続けることだ。




