3章 1節〜騒がしい朝〜
朝は、騒音で始まる。
金属がぶつかる乾いた音。
油圧のうなり。
どこかで誰かが怒鳴り、すぐ近くで別の誰かが笑う。
俺はそれを聞きながら、仮設通路を歩いていた。
足元はまだ完全に固まっていない。
一歩ごとに微妙な感触の違いがあって、気を抜くと躓く。
「おはようございます!」
頭上から声が降ってくる。
足場の上で溶接をしていた若い作業者が、ヘルメット越しに手を振っていた。
「おう。火花、下に落とすなよ。昨日も焦げ跡、増えてたぞ」
「すみません! 今日こそは完璧にやってやります!」
「あはは、無理はするなよ。ご安全に」
「はい!ご安全に!」
俺は苦笑して、そのまま歩く。
この街は、いつもこんな調子だ。
静かになる瞬間がない。
それを不快だと思ったことは、一度もなかった。
端末を開く。
今日の進捗予定、資材搬入、区画ごとの人員配置。
数字は多いが、どれも大雑把でいい。
現場は、数字通りには動かない。
「主任! あのクレーン、また挙動おかしくないですか?」
別の区画から声が飛ぶ。
「ああ、あれか。昨日のログ見た。誤差は許容内だ」
「ほんとですか?」
「ほんとだ。……ただし、信用はするな。昼まで様子見」
「了解です!」
即答が返ってくる。
こういうやり取りが、嫌いじゃない。
機械のことは、全部分かってるわけじゃない。
人のことも、同じだ。
でも、壊れそうかどうか、無理してるかどうかは、だいたい分かる。
それで十分だと思っている。
通路を抜けると、街の中央部が見える。
まだ骨組みだけの高層区画。
クレーンが何本も伸びて、空を引っ掻いている。
「完成したら、すげえ街になるんでしょうね」
隣を歩いていたベテラン作業者が、煙草をくわえながら言った。
「だろうな。完成したら、だけど。
……それと、俺以外の管理者の前で歩きタバコするなよ?」
「はは、すいやせん。この事は上には内密に」
そう言って、彼は作業場へ戻っていく。
その背中を見送りながら、俺は少しだけ空を見上げた。
未完成の空だ。
配線も、骨組みも、そのまま露出している。
嫌いじゃない。
端末の片隅に、見慣れない文字が一瞬だけ表示される。
――極致計画。
すぐに別の通知に押し流される。
資材遅延。
人員調整。
よくある話だ。
俺はその言葉を、深く考えなかった。
考えるほどの材料が、まだない。
「よし、今日も一日やり切るか」
独り言を言って、歩き出す。
誰かがそれに反応して、笑った。
この街は、まだうるさい。
まだ、人が必要だ。
まだ、俺の仕事もある。
それでいい。
少なくとも、今は




