表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の呼吸  作者: ユウ
8/9

3章 1節〜騒がしい朝〜


朝は、騒音で始まる。

金属がぶつかる乾いた音。

油圧のうなり。

どこかで誰かが怒鳴り、すぐ近くで別の誰かが笑う。

俺はそれを聞きながら、仮設通路を歩いていた。

足元はまだ完全に固まっていない。

一歩ごとに微妙な感触の違いがあって、気を抜くと躓く。

「おはようございます!」

頭上から声が降ってくる。

足場の上で溶接をしていた若い作業者が、ヘルメット越しに手を振っていた。

「おう。火花、下に落とすなよ。昨日も焦げ跡、増えてたぞ」

「すみません! 今日こそは完璧にやってやります!」

「あはは、無理はするなよ。ご安全に」

「はい!ご安全に!」

俺は苦笑して、そのまま歩く。

この街は、いつもこんな調子だ。

静かになる瞬間がない。

それを不快だと思ったことは、一度もなかった。

端末を開く。

今日の進捗予定、資材搬入、区画ごとの人員配置。

数字は多いが、どれも大雑把でいい。

現場は、数字通りには動かない。

「主任! あのクレーン、また挙動おかしくないですか?」

別の区画から声が飛ぶ。

「ああ、あれか。昨日のログ見た。誤差は許容内だ」

「ほんとですか?」

「ほんとだ。……ただし、信用はするな。昼まで様子見」

「了解です!」

即答が返ってくる。

こういうやり取りが、嫌いじゃない。

機械のことは、全部分かってるわけじゃない。

人のことも、同じだ。

でも、壊れそうかどうか、無理してるかどうかは、だいたい分かる。

それで十分だと思っている。

通路を抜けると、街の中央部が見える。

まだ骨組みだけの高層区画。

クレーンが何本も伸びて、空を引っ掻いている。

「完成したら、すげえ街になるんでしょうね」

隣を歩いていたベテラン作業者が、煙草をくわえながら言った。

「だろうな。完成したら、だけど。

……それと、俺以外の管理者の前で歩きタバコするなよ?」

「はは、すいやせん。この事は上には内密に」

そう言って、彼は作業場へ戻っていく。

その背中を見送りながら、俺は少しだけ空を見上げた。

未完成の空だ。

配線も、骨組みも、そのまま露出している。

嫌いじゃない。

端末の片隅に、見慣れない文字が一瞬だけ表示される。

――極致計画。

すぐに別の通知に押し流される。

資材遅延。

人員調整。

よくある話だ。

俺はその言葉を、深く考えなかった。

考えるほどの材料が、まだない。

「よし、今日も一日やり切るか」

独り言を言って、歩き出す。

誰かがそれに反応して、笑った。

この街は、まだうるさい。

まだ、人が必要だ。

まだ、俺の仕事もある。

それでいい。

少なくとも、今は

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ